召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第五章 空は近く、望は遠く

おもいがけずにえたことは

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「母上が吹き飛ばした山で温泉をみつけたんです!」
「そうかえ」

 クローヴィスは楽しそうに報告した。
 報告をうけたテストゥネル様は、なんでもないように応じる。
 温泉?
 どんな温泉なのだろうか。入ってくつろげる温泉だったらいいな。
 あとでノアに案内してもらおう。

「さて、そろそろ帰ろうかの……ジタリア、そこの魔法陣を広げよ」

 テストゥネル様に命じられた赤い髪のジタリアさんは、部屋の隅に置いてあった逆召喚の魔法陣が描かれた布を丁寧に広げた。
 それから触媒となる木製のナイフを拾い上げ、献上するかのように差し出した。

「これを」
「うむ。ではクローヴィスもきやれ」

 クローヴィスは、チラチラとノアを見ながらテストゥネル様にゆっくり近寄っていく。
 そうだよな。
 もう要件は済んだのだから帰るのだろう。

「さようなら、クローヴィス様」

 カガミが最初にお別れの言葉を言う。

「其方らがクローヴィスに敬称を使う必要はない。其方らにとって、こやつは、ただのクローヴィスじゃ」

 プレインがカガミに続いてお別れの言葉を発しようとした時、テストゥネル様の発言にプレインの言葉は遮られた。
 そのままノアに歩み寄り、胸元から三角錐の装飾品を取り出した。

「これは?」
「そこにいるクローヴィスの角で作った角笛じゃ。妾にとって変え難き宝じゃが、そなたにやろう。これを触媒に、召喚魔法を使うがよい」
「あのお母さん?」

 クローヴィスは、嬉しそうに母親であるテストゥネル様に問いかける。

「そうさな。たまになら、ここに来て遊ぶくらいはよかろう」
「ありがとう。テストゥネル様」

 笑顔でノアは角笛を受け取る。

「ありがとうお母さん。またね、ノア」

 しばらくして、クローヴィスが別れの挨拶をした。
 これから帰るのだろう。オレ達の描いた逆召喚の魔法陣を起動させ、触媒の短剣が赤い光を帯びる。

『そなたは、自分の事は後回しなのじゃな』

 唐突に、頭に声が響く。テストゥネル様だ。

『この世界に止まり続けるのが望みであろ?』

 そうか、オレの思考を読んで……聞きそびれた望みを拾ったのか。

『妾もその答えを知らぬ。考えたこともなかったからの。ただし、思い当たることはある』

 召喚された先に自主的に残ろうなんてマイナーな考えなのか。
 みんな考えるようなことだと思っていたのに……ちょっとガッカリした。
 そんなオレの思いには反応はなく、ただ声は続く。

『その望みを叶えたくば、語られぬ唯一の国を調べるがよいであろ。遙かな昔、この世の全てを手に入れようとした王朝をな』

 王朝? あぁ……オレの目的を果たすためのヒントか。

『ただし、気を付けよ。かの国を知ろうとする者は、すべからく命を落とす。それは茨の道じゃ』

 頭に響く声は、それで終わった。
 それから、赤い髪のジタリアさんが消え、テストゥネル様が消え、最後に笑顔のクローヴィスが消えた。
 そう、銀竜クローヴィスと、龍神テストゥネルは帰ったのだ。

「おわった」

 ほっとしたら、疲労感がどっと押し寄せてくる。
 他の同僚もそうだったようだ。
 皆が疲れた顔で椅子にへたり込んだ。特に、睡眠時間をけずって逆召喚の魔法を研究していたカガミがしんどそうだった。
 さっさと今日は寝よう。
 そんなオレ達に背を向けて、ノアはクローヴィスが消えた魔法陣をジッとみていた。
 クローヴィスがいなくなって寂しいのだろう。

「なんだか疲れたんで少し休むっス」

 プレインがそんなことを言ったのを皮切りに、ミズキ、カガミと続けて広間から出て行く。
 オレはそんな皆が出て行くのを眺め、しばらく部屋に残ることにした。
 部屋は静かだった。ノアは先ほどから動いていない。
 チッキーは隣室で片付けをしているようだ。
 ほんの小さな音だが、カチャカチャと食器を片付ける音がしている。
 しばらくして、ボーッとギリアの絵を見ている自分に気がつく。
 山々に囲まれた泉が描かれている。
 泉には、周りの山々と共に何かが写っている。それが何なのかはわからない。
 あの絵に描かれていない空に何かが浮いていて、それが湖に反射しているのか……。
 一体……何が浮いて……。

「リーダ」

 いつの間にか、そばにいたノアに足を揺すられていた。
 絵を見ているうちに寝ていたようだ。

「あれ、ノア?」
「あのね。もうすぐ夕方だよ」

 わりと長い間寝ていたらしい。グゥとお腹がなる。

「なんだかお腹すいちゃった」
「うん。私もね、お腹がすいてたからカロメー作ったの」

 見るとテーブルの上に山盛りのカロメーが装われていた。
 あんなに大量のカロメーを見るのは久しぶりだ。
 オレがテーブルの上をみて微笑むと、ノアがオレの手をとり、自分の頭にのせた。

「ありがとうノア」

 微笑みは笑いに変わり、そのままノアの頭をガシガシと撫でる。

「えへへ」

 ノアも嬉しそうに笑った。

「リーダ様。お目覚めでちね」

 チッキーがカチャカチャ音をさせながら、ティーポットをトレイにいれて持ってきた。
 お茶のいい匂いが部屋に広がって、なんとなく落ち着いた。
 つづいてテーブルにコップを並べていると、はかったように同僚が広間へと戻ってきていた。

「ロンロ氏に呼ばれてきたぞ」
「ちょうどお腹すいてたっス」
「久しぶりにカロメー山盛りですね。こういうのもいいと思います。思いません?」
「カロメーパーティだね」

 皆で集まっての夕ご飯。
 メニューはシンプルにカロメーと紅茶。
 紅茶は意外なほどにカロメーに合っていた。久しぶりにお腹いっぱいカロメーを食べる。

「とりあえず、明日はゴロゴロしよう」
「ゴロゴロするの?」
「そうだな。ゴロゴロして、それから、ダラダラしよう」
「ねぇねぇ。ノアノアが見つけた温泉みにいかない?」
「いいっスね」

 夕食後、これからについて話し合う。
 とりとめのない話がほとんどだ。
 一番盛り上がったのは、ハロルドが向かってきているという話だ。
 ノアが無邪気に喜んでいた。
 テストゥネル様の来襲にかかる一件は大変だったが、得るものは大きかった。
 さて、明日も頑張ろう。ほどほどに。
 ヘトヘトになるのはこりごりだ。
 しばらくは無理のないゴロゴロ昼寝ができる範囲で、頑張ろう。
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