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第五章 空は近く、望は遠く
閑話 隠れ家亭の夜
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真新しい部屋にあるテーブルに、一人の女性がついている。
結い上げた髪には真新しい髪飾り。
彼女が書いている帳簿も新しい。この部屋にあるものは全てが真新しい。
「ふー疲れた」
「うふふ、お疲れ様」
そこへ、箒を持った女性が入った来た。
質素な服装をした村娘といった風貌であったが、部屋にいる女性とよく似た顔立ちだ。
疲れた風ではあったが、とても楽しそうな笑顔から充実した様子が見て取れた。
「デッティリア、旦那様は?」
「もう寝てしまったわ」
「慣れない貴族様の応対はずいぶん疲れるそうよ」
「そうよ……って、デッティリアは貴族様の対応を、ずっと旦那様に任せるの?」
「まさか。近いうちに私だって応対するわ。こんなことなら、前のご主人様達の振るまいを見ておくべきだったわ」
「まーね。でもさ、でも、半年前の自分に、今の状況伝えてもさ、夢でもみてるって言われたと思うよ」
「わかってるわ、そんなこと」
いたずらっぽく笑った村娘風の女性に対し、髪飾りをつけた女性……デッティリアは、椅子の背もたれに寄りかかり伸びをしつつ答える。
「今日は貴族様がすごいこと話してるの聞いちゃった」
「もう、盗み聞きしてたの?」
「まぁまぁ。この温泉って、外国の偉い貴族様が呪い子に対して褒美として与えたものらしいよ」
「私は呪い子の従者が見つけたって聞いたわ」
「きっとそれは表向きの理由よ。だから、こんなに立派な温泉を呪い子の従者に一任したんだって」
「うちの旦那様は、さらにそれを任されたのね」
「あたし、絶対、裏があると思ってたの」
「もう、本当にそういう噂話すきね」
「デッティリアだって好きじゃない」
「……お水くんでくる」
頭をふりながら、デッティリアは立ち上がり部屋から出て行った。
手持ち無沙汰になったのか、村娘風の女性は部屋をウロウロとして、壁にかけてある大きな骨の前でとまる。
それは大きな魔物の頭蓋骨だった。
「お菓子も持ってきたわ」
「デッティリア、これも旦那様がしとめたの?」
「そうらしいわ。呪い子の従者達と一緒に仕留めたらしいわ。魔物よけになるそうよ」
「らしいって……みてなかったんだ」
「最初に呪い子の従者が、空を飛んでいたあいつを叩き落としたのは見てたわ。でも、急に起き上がって吠えた声が……酷く恐ろしくて気を失ってたのよ」
軽く首を振りながらデッティリアは答える。
「残念。旦那様の雄姿がみられなかったなんて」
それを受けておどけたように村娘風の女性が笑顔で答えた。
「べつにいいわ。私は今が幸せだから」
「それはそれは、ごちそうさま。えっと、こういうときは爆発しろっていうんだっけ?」
「なにそれ?」
「デッティリアが今朝言ってたんじゃない。呪い子の従者に会って、何か言われても気にしちゃ駄目だって。彼らの故郷では、爆発しろっていうのがお祝いの言葉だったり……いろいろ違うからって」
「あぁ、その話。わたし、初めてきいたときに本当に怖かったんだから」
「あはは」
「笑い事じゃ無いのよ」
「ごめんごめん、デッティリア。あっ、雪」
冗談にムキになって反応したデッティリアに気圧されて、村娘風の女性はそっぽを向くように窓をみて言葉を発した。
窓越しに、雪が降っているのがわかる。
「本当に……ギリギリ間に合ってよかったわ」
「いつもより遅い雪に感謝ね、明日は早いんだっけ?」
「いいえ、明日は予約がないの。お手伝いの皆も帰ってるでしょ。お掃除の日よ」
「それじゃ、明日はお掃除がんばって、少しだけ温泉入ろうかな……っと、おやすみ」
村娘風の女性はおどけたような口調でそう言った後、席を立ち部屋から出て行った。
こうして、ギリアの町近くに新しく作られた宿『隠れ家亭』の夜は過ぎていった。
明日は休み……そのつもりだった隠れ家亭の3人は、翌日の朝、急に領主が訪れるという連絡を受け取り、慌てふためくことになるのだが、それは別のお話。
結い上げた髪には真新しい髪飾り。
彼女が書いている帳簿も新しい。この部屋にあるものは全てが真新しい。
「ふー疲れた」
「うふふ、お疲れ様」
そこへ、箒を持った女性が入った来た。
質素な服装をした村娘といった風貌であったが、部屋にいる女性とよく似た顔立ちだ。
疲れた風ではあったが、とても楽しそうな笑顔から充実した様子が見て取れた。
「デッティリア、旦那様は?」
「もう寝てしまったわ」
「慣れない貴族様の応対はずいぶん疲れるそうよ」
「そうよ……って、デッティリアは貴族様の対応を、ずっと旦那様に任せるの?」
「まさか。近いうちに私だって応対するわ。こんなことなら、前のご主人様達の振るまいを見ておくべきだったわ」
「まーね。でもさ、でも、半年前の自分に、今の状況伝えてもさ、夢でもみてるって言われたと思うよ」
「わかってるわ、そんなこと」
いたずらっぽく笑った村娘風の女性に対し、髪飾りをつけた女性……デッティリアは、椅子の背もたれに寄りかかり伸びをしつつ答える。
「今日は貴族様がすごいこと話してるの聞いちゃった」
「もう、盗み聞きしてたの?」
「まぁまぁ。この温泉って、外国の偉い貴族様が呪い子に対して褒美として与えたものらしいよ」
「私は呪い子の従者が見つけたって聞いたわ」
「きっとそれは表向きの理由よ。だから、こんなに立派な温泉を呪い子の従者に一任したんだって」
「うちの旦那様は、さらにそれを任されたのね」
「あたし、絶対、裏があると思ってたの」
「もう、本当にそういう噂話すきね」
「デッティリアだって好きじゃない」
「……お水くんでくる」
頭をふりながら、デッティリアは立ち上がり部屋から出て行った。
手持ち無沙汰になったのか、村娘風の女性は部屋をウロウロとして、壁にかけてある大きな骨の前でとまる。
それは大きな魔物の頭蓋骨だった。
「お菓子も持ってきたわ」
「デッティリア、これも旦那様がしとめたの?」
「そうらしいわ。呪い子の従者達と一緒に仕留めたらしいわ。魔物よけになるそうよ」
「らしいって……みてなかったんだ」
「最初に呪い子の従者が、空を飛んでいたあいつを叩き落としたのは見てたわ。でも、急に起き上がって吠えた声が……酷く恐ろしくて気を失ってたのよ」
軽く首を振りながらデッティリアは答える。
「残念。旦那様の雄姿がみられなかったなんて」
それを受けておどけたように村娘風の女性が笑顔で答えた。
「べつにいいわ。私は今が幸せだから」
「それはそれは、ごちそうさま。えっと、こういうときは爆発しろっていうんだっけ?」
「なにそれ?」
「デッティリアが今朝言ってたんじゃない。呪い子の従者に会って、何か言われても気にしちゃ駄目だって。彼らの故郷では、爆発しろっていうのがお祝いの言葉だったり……いろいろ違うからって」
「あぁ、その話。わたし、初めてきいたときに本当に怖かったんだから」
「あはは」
「笑い事じゃ無いのよ」
「ごめんごめん、デッティリア。あっ、雪」
冗談にムキになって反応したデッティリアに気圧されて、村娘風の女性はそっぽを向くように窓をみて言葉を発した。
窓越しに、雪が降っているのがわかる。
「本当に……ギリギリ間に合ってよかったわ」
「いつもより遅い雪に感謝ね、明日は早いんだっけ?」
「いいえ、明日は予約がないの。お手伝いの皆も帰ってるでしょ。お掃除の日よ」
「それじゃ、明日はお掃除がんばって、少しだけ温泉入ろうかな……っと、おやすみ」
村娘風の女性はおどけたような口調でそう言った後、席を立ち部屋から出て行った。
こうして、ギリアの町近くに新しく作られた宿『隠れ家亭』の夜は過ぎていった。
明日は休み……そのつもりだった隠れ家亭の3人は、翌日の朝、急に領主が訪れるという連絡を受け取り、慌てふためくことになるのだが、それは別のお話。
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