召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第七章 雪にまみれて刃を研いで

ものたずねのまほう

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 物尋ねの魔法を試すことにした。
 毎朝、読書のお供にとノアが作ってくれるカロメーに使ってみる。
 触媒は……何でもいいらしい。それなら飛翔魔法用に集めた鳥の羽を使うことにしよう。
 本に描いてある魔法陣に右手を乗せて詠唱する。触媒用に魔法陣に置いた鳥の羽は消えて無くなり、魔法陣に触れていた右手がほんのりと青く光る。
 これで対象に触れれば発動するそうだ。
 そっと、カロメーに触れる。

『食料。魔法食。次の朝日と共に消滅』

 目の前に半透明な板が現れ、文字が表示される。看破と同じだ。

「あれ、同じだ」
「同じ?」
「看破と同じなんだよ。まるっきり」
「それだったら看破でもいいっスよね」

 プレインの言うとおりだ。わざわざ、物尋ねの魔法を使うまでもない。体感的には看破よりよほど魔力も使うし、触媒も必要だ。効率が悪い。
 そういえば、黄昏の者スライフは条件をつけていたな。
 あいつは触媒に、看破で”遺物”と表示されるものを使えと言っていた。触媒を指定していたんだった。
 後……古い建物というのも指定していたな。
 古い建物か……。

「ロンロ、古い建物ってこの辺りだと何処にあるか知ってる?」
「ここも古いわぁ。特に一番古そうなのはぁ、地下室かしらぁ」

 言われてみると確かにそうだ。この建物自体が相当に古い。
 だったら地下室で試してみるか。
 ドーナツをじっくり堪能した後で、地下室へと向かう。
 触媒は何にしようか。
 遺物で、触媒に使用しても後悔しなさそうなのは……財布の中身か。
 1円玉が……進化した遺物だったはずだ。コレで駄目だったらエリクサーを使うことにしよう。

「面白そうだな」

 そんなことを言いながらサムソンがついてくる。少し遅れて他の皆もゾロゾロとついてきた。地下室に集合した皆の前でもの尋ねの魔法を使う。
 詠唱が終わると1円玉は光り輝きパッと消えた。
 そして辺り一面に光の粒が浮き上がり、やがてそれは物体を形作った。まるで立体映像だ。

「わぁ」

 その様子に、カガミが感嘆の声をあげる。
 あたり一面に、触ることができない大量の人が現れた。古い映画のように白黒の立体映像だ。全員が地下室に描かれている魔法陣を調べている。やがて、白黒の人達の内一人が地下室の一点を見やった。つられるように全員が同じ方向をみる。オレもまた同じように見る。

 階段状の祭壇を全員がみていた。

 そんな中、急に何かが祭壇に出現した。人の足だ。階段状になっていた祭壇を、まさしく階段として利用し誰かが降りてきた。
 現れたのは狼の頭をした獣人だった。
 この獣人も白黒。物尋ねの魔法により再生されている景色の一部なのだろう。獣人は、ローブをきて杖を左手に持っている。杖は、はてなマークを縦に伸ばしたような形をしていた。
 狼の獣人はあたりをゆっくり見回したかと思うと、杖をサッと振る。すると一冊の大きな本が出現した。それからパラプラと本は勝手にめくれ、やがて止まった。
 続けて狼の獣人が本を手で叩くと、矢が複数出現し放たれた。
 それを合図に、さきほどまで魔法陣を調べていた人達が、次々と狼の獣人へと襲いかかる。狼の獣人は次々と襲いかかってきた者を打ち倒していく。強い。
 杖を振り回し殴りつけたり、魔法によって倒したり、噛みついたりと、多彩な攻撃を繰り出す姿に見とれる。
 本当は陰惨な風景なのだろうが、白黒で音がないため現実感がない。
 そして、唐突に立体映像のような白黒の人物達は消えた。狼の獣人も消えた。
 後に残ったのは魔法を使う前と同じように、静かな地下室だけだった。

「大迫力だったな」
「もう一回みてみたいっスね」
「あの祭壇から……降りてきたように見えました」

 カガミに軽く頷き、あの狼の獣人が現れた場所を調べることにする。
 同じように祭壇を階段のように使ってみる。
 ただし進む方向は逆、登っていく。祭壇の段をさらに越え、歩みをすすめるとフッと周りの景色が変わる。
 まるで屋敷の地下室へと移動するときのように、唐突に景色が変わった。

「後ろには、柱だけ。柱には絵が掛かってるっス……まるで地下室の入り口みたいっスね」

 オレの後をついて祭壇を上ってきたプレインから報告をうける。
 なるほど。地下室と同じか。
 ただし、たどりついたのは屋敷ではない。
 円形の部屋がそこにはあった。肌に感じる寒さと、吹き込む冷たい風から、ここが外だと感じた。
 吐き出す息が白くなる。その部屋の中央には杖を持ったローブ姿の人影があった。
 ゆっくりと近づき、小さく声を掛けると、ドサッと音をたててローブの人影は倒れた。

「うわぁ。大丈夫っスか?」
「あぁ。ずいぶん昔に……亡くなったようだ」

 もう遙か昔に死んでいたのだろう、それはすでに白骨化していた。骨は倒れただけで砕け、サラサラと白い粉になって、風に吹かれて消えていく。
 辿り着いた部屋は、どこかで見たような気がする。
 この場所に来たとき、人影が持っていた杖は、倒れずに部屋の中央に刺さったままだ。

「あの立体映像で、獣人が持っていた杖にそっくりっスね」
「あぁ」

 プレインの言葉に軽く頷き、床に筒刺さった杖を手に取ると、ガガガと部屋全体が鳴り響き、揺れ出した。
 パラパラと天井から落ちる建物破片や、砂を浴びて、部屋が倒壊する可能性を感じた。

「まずい」

 足早に来た道を戻る。
 地下室へと戻ってきたとき、オレの手には一本の杖が握られていた。
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