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第八章 冷たい春に出会うのは
おねえちゃん
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とても嫌な感覚だ。
何かを見落としている気がする。
そういえば、いつもなら姫様ーとか言って、駆け寄りそうなハロルドが困惑している。
「なにか気になるのか?」
ハロルドに問う。
「あれはドライアドらしくないでござる」
「らしくない?」
「ドライアドは、その気になれば毒の粉や、草木の破片、蔓の力を使うはず。それを行使しなかった……その気配すら感じぬでござる」
なるほど、戦い方か。
ハロルドの話を聞く限り、拳で殴る直接的な戦い方というより、植物を操る間接的な戦い方をするようだ。たしかにらしくない。
つまり、ドライアドは本気でなかった。
やられたのは、わざと……。しかし、それであれば、あんなに悔しがるだろうか。
両腕で顔を覆って。あの様子は、芝居とは思えない。
釈然としないことばかりだ。
なぜ、言葉の翻訳が切れた?
あの時、ノアとドライアドは何を話していた?
ノアはなぜ喜んでいない?
そうだ……あのドライアドをお姉ちゃんと言っていたのはどういうことだ?
疑問ばかりだ。
ただし、はっきり分かることは、ノアは喜んでいないということ。
さっきの争いは、ただの喧嘩ではない。どちらかが勝って終わりという話ではない。
きっと、何かある。
このまま放置してはいけない。
「……いつもだ……」
誰かの声が聞こえた。小さい、小さい声だ。
まるで耳元で囁かれるように聞こえる。
「ノアサリーナばかり。いつも……」
しばらくして、再び声が聞こえる。
ふとみると、両腕で顔を覆っているドライアドの口が動いている。
両腕の隙間から、動く口元がみえた。
あれは、ドライアドの声か?
声の聞こえる方向はまるで違うが、ドライアドの声だと確信できた。
「……あたしが……お姉ちゃんな……のに」
――弟がいていいよね
――いつも、お兄ちゃんだから我慢しなさいってさ
――兄弟も大変なんだね
ふと小さい頃、近所の友達とした話を思い出す。
あの時は、大変だなとしか思わなかった。
そうか。
そういうことか。
思いつきだが確信をもって、ドライアドの方へと歩み寄る。
一人、ポツンと、両腕で顔を覆っているドライアドを見下ろす。
腕の隙間から、オレをみていた。目が合う。
「なによ」
「立てるか?」
「……なんで?」
涙声のドライアドはオレをじっと見ていた。
「負けっぱなしでいいのか? お姉ちゃんなんだろ?」
言葉を掛けながら手を差し出す。
ドライアドは泣くのを我慢する表情で、オレの手をとった。
ひょいと手をひいてドライアドを立たせる。
「リーダ……どうして?」
ノアはその時、はじめてオレがドライアドの近くにいたことに気がついたようだ。困惑した声を上げる。
今は、みんながノアの味方だった。
皆の声援をうけて、ノアは勝った。
でも、きっと、ノアの望みはそうじゃない。
そうであれば今は、少しだけノアの敵。
なぜなら、ノアの望みは……。
「どうして? ノアは何か勘違いしていないか?」
大きな声でノアへ言葉をかける。
その芝居がかった様子に、同僚達、チッキーにハロルドはポカンとしていた。
「まだ我が陣営は1敗しかしていない。3回勝負だ! あと2連勝で我らが陣営が勝つのだ!」
「なるほど、そうでござったか」
最初に乗ったのはハロルドだった。
「そういうことっスか」
「そっか。それなら私、リーダ陣営につくね、ごめんねノアちゃん」
「カガミは敵にまわったよ。しょうがない。私はノアノアにつくよ」
「拙者は、もちろん姫様の味方でござる」
オレの意図に気がついてくれたようだ。次々とチーム分けがすすむ。
そうだ。
ノアは争いたいわけじゃない。仲直りがしたかったのだ。
ドライアド……お姉ちゃんと。
でも、どうすればいいかわからなくて喧嘩になってしまった。
オレもどうすればいいかわからないが、とりあえず皆で遊べばなんとなると思う。一方的な勝負でなくて、対等な勝負でだ。
さて。
二手に分かれて何をして遊ぼうか……と思ったとき。
「いくでござる」
ハロルドがそう言ったかと思うと、一瞬で目の前に移動して……。
『ガン!』
一気に気が遠くなった。
「……大丈夫?」
気がつけば寝っ転がっていた。
あいつ……ハロルドのヤツが、オレを殴りつけて、気をうしなっていたようだ。
頭がズキズキと痛む。
ノアとドライアドが、心配そうに見下ろしていた。
「イタタタ……」
笑おうとしたらホッペが痛くなった。
「もう、ハロルドがいきなり殴るからだよ!」
「そうだ。ノアが言うとおり。殴っちゃ駄目!」
「面目ないでござる。少しやりすぎたでござるよ」
少し離れたところに正座したハロルドがうなだれていた。
やれやれだ。
もっともハロルドが憎まれ役になってくれたから、喧嘩が上手い具合に収束したのだ。ある意味、ハロルドのお手柄だ。
「さて、それじゃ屋敷に戻ろう。正直いえば寒いよ」
「うん」
ノアとドライアドがかけていく。
仲直りした2人をみて、嬉しくなった。
何かを見落としている気がする。
そういえば、いつもなら姫様ーとか言って、駆け寄りそうなハロルドが困惑している。
「なにか気になるのか?」
ハロルドに問う。
「あれはドライアドらしくないでござる」
「らしくない?」
「ドライアドは、その気になれば毒の粉や、草木の破片、蔓の力を使うはず。それを行使しなかった……その気配すら感じぬでござる」
なるほど、戦い方か。
ハロルドの話を聞く限り、拳で殴る直接的な戦い方というより、植物を操る間接的な戦い方をするようだ。たしかにらしくない。
つまり、ドライアドは本気でなかった。
やられたのは、わざと……。しかし、それであれば、あんなに悔しがるだろうか。
両腕で顔を覆って。あの様子は、芝居とは思えない。
釈然としないことばかりだ。
なぜ、言葉の翻訳が切れた?
あの時、ノアとドライアドは何を話していた?
ノアはなぜ喜んでいない?
そうだ……あのドライアドをお姉ちゃんと言っていたのはどういうことだ?
疑問ばかりだ。
ただし、はっきり分かることは、ノアは喜んでいないということ。
さっきの争いは、ただの喧嘩ではない。どちらかが勝って終わりという話ではない。
きっと、何かある。
このまま放置してはいけない。
「……いつもだ……」
誰かの声が聞こえた。小さい、小さい声だ。
まるで耳元で囁かれるように聞こえる。
「ノアサリーナばかり。いつも……」
しばらくして、再び声が聞こえる。
ふとみると、両腕で顔を覆っているドライアドの口が動いている。
両腕の隙間から、動く口元がみえた。
あれは、ドライアドの声か?
声の聞こえる方向はまるで違うが、ドライアドの声だと確信できた。
「……あたしが……お姉ちゃんな……のに」
――弟がいていいよね
――いつも、お兄ちゃんだから我慢しなさいってさ
――兄弟も大変なんだね
ふと小さい頃、近所の友達とした話を思い出す。
あの時は、大変だなとしか思わなかった。
そうか。
そういうことか。
思いつきだが確信をもって、ドライアドの方へと歩み寄る。
一人、ポツンと、両腕で顔を覆っているドライアドを見下ろす。
腕の隙間から、オレをみていた。目が合う。
「なによ」
「立てるか?」
「……なんで?」
涙声のドライアドはオレをじっと見ていた。
「負けっぱなしでいいのか? お姉ちゃんなんだろ?」
言葉を掛けながら手を差し出す。
ドライアドは泣くのを我慢する表情で、オレの手をとった。
ひょいと手をひいてドライアドを立たせる。
「リーダ……どうして?」
ノアはその時、はじめてオレがドライアドの近くにいたことに気がついたようだ。困惑した声を上げる。
今は、みんながノアの味方だった。
皆の声援をうけて、ノアは勝った。
でも、きっと、ノアの望みはそうじゃない。
そうであれば今は、少しだけノアの敵。
なぜなら、ノアの望みは……。
「どうして? ノアは何か勘違いしていないか?」
大きな声でノアへ言葉をかける。
その芝居がかった様子に、同僚達、チッキーにハロルドはポカンとしていた。
「まだ我が陣営は1敗しかしていない。3回勝負だ! あと2連勝で我らが陣営が勝つのだ!」
「なるほど、そうでござったか」
最初に乗ったのはハロルドだった。
「そういうことっスか」
「そっか。それなら私、リーダ陣営につくね、ごめんねノアちゃん」
「カガミは敵にまわったよ。しょうがない。私はノアノアにつくよ」
「拙者は、もちろん姫様の味方でござる」
オレの意図に気がついてくれたようだ。次々とチーム分けがすすむ。
そうだ。
ノアは争いたいわけじゃない。仲直りがしたかったのだ。
ドライアド……お姉ちゃんと。
でも、どうすればいいかわからなくて喧嘩になってしまった。
オレもどうすればいいかわからないが、とりあえず皆で遊べばなんとなると思う。一方的な勝負でなくて、対等な勝負でだ。
さて。
二手に分かれて何をして遊ぼうか……と思ったとき。
「いくでござる」
ハロルドがそう言ったかと思うと、一瞬で目の前に移動して……。
『ガン!』
一気に気が遠くなった。
「……大丈夫?」
気がつけば寝っ転がっていた。
あいつ……ハロルドのヤツが、オレを殴りつけて、気をうしなっていたようだ。
頭がズキズキと痛む。
ノアとドライアドが、心配そうに見下ろしていた。
「イタタタ……」
笑おうとしたらホッペが痛くなった。
「もう、ハロルドがいきなり殴るからだよ!」
「そうだ。ノアが言うとおり。殴っちゃ駄目!」
「面目ないでござる。少しやりすぎたでござるよ」
少し離れたところに正座したハロルドがうなだれていた。
やれやれだ。
もっともハロルドが憎まれ役になってくれたから、喧嘩が上手い具合に収束したのだ。ある意味、ハロルドのお手柄だ。
「さて、それじゃ屋敷に戻ろう。正直いえば寒いよ」
「うん」
ノアとドライアドがかけていく。
仲直りした2人をみて、嬉しくなった。
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