召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十章 雨の激しい嵐の晩に

ハロルドのさけび

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 このまま、ハロルドに黒騎士の相手してもらい、何とかなるかと思った。
 だが、相手はそんなに甘くなかった。
 黒騎士の体がジュクジュクと元に戻っていく。ハロルドの傷つけた頭も、ゆっくり回復していく。身につけていた兜すら、姿を変える。

「何? アイツらなんか変わってない?」
「えぇ……なんだか、あれは、人間ではないように見えます」
「おいおい……マジか」

 黒騎士の1人が、ロープに掴まれたまま馬の死体に歩み寄る。グズグズと音を立て、黒騎士馬の死体とくっつき一体化した。
 まるで物語にでてくるケンタウロスのような半身半馬の姿になり、俺たちの方に近づいてきた。ハロルドがどんなに力を入れてロープを引っ張っても、4本の足でその引く力に抵抗する。そして、ハロルドの死角にまわり、そのまま思いっきり拳を振り、馬車の車輪を叩き壊す。
 チッキーが悲鳴を上げ、馬車から転げ落ちた。

「チッキー!」
「待ってろ、兄ちゃんが……」

 すかさずトッキーとピッキーが、チッキーに覆い被さり庇う。
 ハロルドが、綱引きで黒騎士の制御ができなくなり、オレ達も黒騎士の猛攻にさらされる。
 サムソン、ミズキが2人がかりで黒騎士一人をなんとかしのげる程度だ。動きが早く、力が強い。加えて、魔法が通じない。

「クソ。剣が効かなくなったでござる。泥を切っているようで、手ごたえが感じられなくなったでござる」

 魔法も効かない。魔法の矢も、電撃も、消されてしまう。
 何か手がないのか。
 そんな中、ハロルドは馬車から飛び降り、黒騎士の一方に体当たりし、もう一方の黒騎士に絡まったロープを引っ張った。
 先ほどとは違い、側面から引っ張られる形になった黒騎士は4本の足でも耐えきれず倒れた。
 そのまま、ずるずるとオレ達から距離をとる。

「何をしてるんだ、ハロルド」
「姫様達を守るには、拙者が距離を取って戦うしかないでござるよ。だが、このままではジリ貧。何とか手を考えて欲しいでござる」

 どうする。剣も魔法も効かない。
 本当に?
 ふと、馬車の中で聞いたテストゥネルの言葉が蘇る。

 ――お前のブレスではあやつらを焼き殺すことができぬ。力が足りぬ。

 クローヴィスの攻撃で焼き殺せない。
 焼き殺すことはできない、クローヴィスでは……。
 であれば、オレ達なら……できるのではないか?
 魔法は効かないかもしれない、だが今までの戦いの中で火の魔法は使っていない。
 そうだ、まだ手があるかもしれない。

「火球を試す。失敗したらロープが焼けて終わる……でも、試すべきだ」
「なるほどでござるな」

 すかさず、ロープを横側から引かれ、倒れているケンタウロス型の黒騎士に火球の魔法を唱える。
 直撃はできなかったが、かすらせることが出来た。火球による火は盾に防がれた。だが作り出された火の玉は黒騎士を包み込んだ。そして燃え広がった火は、火球が消えたあとも、まとわりつくように、黒騎士の体を這いずり回り、しばらく消えずに残った。
 そして、今回の戦闘で初めて黒騎士がもだえるような動きを見せる。
 手応えがあった。

「火だ! みんな火球の魔法だ、火球の魔法で奴を攻撃するんだ」

 だが、ずいぶんと盾により威力は削られているようだ。焼かれた傷ですら、剣による攻撃ほどの早さでないにしろ、ゆっくり回復しているように見える。
 何度も何度も直撃させて、回復を上回る速度で、焼き尽くさなくてはならない。
 ハロルドは、オレの言葉を聞き、思いっきりロープを引っ張り、2人の黒騎士を抱きつく。

「今でござる!」
「ハロルド?」

 黒騎士の攻撃を体中に受け、傷だらけになりながらも黒騎士を抱えたまま、後ろにズリズリと下がり、オレ達との距離をさらに広げる。

「拙者ごと! 火球の魔法をぶつけるでござる!」

 ハロルドが叫んだ。

「そんなことしたら……お前ごと……。お前も死んでしまう」
「拙者は火に強い。拙者の熱い魂は、いつも熱いでござるゆえに、ミランダの氷も拙者には効かぬ。炎の熱さも、拙者に効かぬ。ゆえに、リーダの火炎ごときでは死なぬ」

 さすがにそれはないだろう。あからさまな言い訳だ。
 オレ達のことを考えて、言っている。
 万が一のことがあっても、オレ達が言い訳できるように……。

「他の手を考える」
「大丈夫。拙者は覚悟ができているでござる。だから、黒騎士を拙者ごと火球の魔法で焼くでござる」

 皆が躊躇する。

「やれと言ってるのがわからんか!」

 ハロルドが再度叫ぶ。他に方法がなく、放置もできない、逃げることももはや無理だ。
 ここで、黒騎士を始末するしかない。
 オレは覚悟を決め、火球の魔法を唱える。
 ジュウと肉の焼ける音がした。

「まだまだぁ」

 ハロルドの声が聞こえる。

「みんな……オレがやる。オレが始末をつける」

 そう言ってオレは何度も何度も火球の魔法を唱え、黒騎士にぶち当てる。ハロルドごと……。
 ハロルドは火球の魔法を受ける度にまだまだと声をあげる。
 9回目の詠唱。
 オレの意識もだいぶ失われてきた頃に、ハロルドの声が聞こえなくなった。。
 ミズキが飛び出して、ハロルドを抱え戻ってくる。

「ハロルド飲んで!」

 エリクサーをハロルドに差し出す。
 黒騎士はジュクジュクと音を立て、這いずりながらこちらに近づいていた。

「オウ……オウ……ガ、タメ……ユルサ……」

 変な声で、呻きながら、何かを言いながら、黒騎士は近づいてくる。
 もう一度、火球を。

「あとは、私が……」

 オレが詠唱しようとするのをカガミが止めた。
 カガミが火球の魔法で、黒騎士に攻撃する。
 それに続き、プレインも攻撃する。ミズキも加わる。
 何度も何度も3人の火球の魔法がこだまする。
 しばらくそんな時間が続き、気が付けばそこには何も残ってはいなかった。
 なんとか倒せたようだ。
 ハロルドは?

「つかれたでござる」

 よかった。大丈夫だ。死んではいない。

「ありがとうハロルド」

 自らの身を挺してくれたハロルドに感謝しかない。

「森を無事出られたら、横になるでござる。少ししんどいでござるよ」

 オレ達は歩いて森を抜ける。
 ノアは、オレ達が必死に黒騎士と戦っている間、ひたすら魔法の矢を唱えていたそうだ。
 手探りで鞄から魔法陣の描いた紙を取り出し、ロンロに助けてもらい、何度も何度も。
 それで、途中からゴブリンが居なくなっていたのか……。
 ん?
 何か見落としているきがするが、酷く疲れた……考えるのは後にしよう。
 驚異は去って、落ち着いた森の中を進む。
 森はとても静かだった。あのような騒ぎがあったのに、生き物は青白い蝶々だけ。
 何も見えないと不安げにオレ達に捕まるチッキー達を誘導しながら森を進む。
 その間に、ハロルドは子犬の姿に戻り、ノアに抱え上げられ、森の中を進む。ノアは、片手でハロルドを抱え、もう一方の手でオレの手をにぎっていた。握る力が、強かったのは不安なためだろう。
 この空間……ノアにとっては、一面暗闇の世界は怖いにちがいない。
 たまにゴブリンと出会うことがあったが、それはミズキが軽く始末してくれた。
 どれだけ歩いただろうか……随分、歩いたところで開けた場所に出た。
 森を抜けたのだ。
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