召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十一章 不思議な旅行者達

まどうぐとぞうせんじょ

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 先日の騒ぎがあったからか、瞬く間に人を集めることができた。
 次の日には、亀の甲羅に細工をする作業が始まる。鍛冶職人は金具を作り、木工職人は土台となる木枠を組み立てる。
 造船所の二階にあるスペースを借り、興味津々にその様子を見る。
 テキパキと動く職人達の姿を見ているだけだが、飽きずにずっと見ていられた。
 亀の甲羅に小さな穴を開け、金具を取り付け、その上に木枠をつける。10日近い期間をかけて行った、これらの細工で、亀の丸い甲羅の上に平らな板の床を作ることができるようになった。
 平らな板といっても、亀の側にくる面は、窪みのある船のような形をしている。つまりは亀に乗せられる幅広の船だ。
 その上に、馬車を載せたり、人によっては家を建てたりするらしい。

「亀が潜ったらどうするんスか?」
「海亀の背中ある木枠はともかく、さらにその上に乗っける床板は筏みたいなもんだ。亀が沈めば床板だけが浮かぶっつう寸法さ。加えて、巻き取り式の鎖で床板と甲羅は繋がっている。少し位なら離れていても大丈夫ってわけだな」
「えぇ。とても興味深い仕組みだと思います」

 ついでにサムソンのアイデアで、木枠の隅に乗せた床板に魔法陣を描く。
 魔法陣に触ると、ほんの少しだけ魔力が取られる。
 どんなに荷物を乗せても重くならない馬車の応用だ。これで亀の甲羅の上にどんな荷物を置いても重さは変わらない。
 海亀の甲羅に加工する間、大人しく、ときたま欠伸していた様子からリラックスしているのが見て取れた。
 造船所の見学や、クイットパースの散策、他には魔導具作りだ。
 屋敷にあった本を適当にパラパラとめくって、魔道具の作り方を見つける度に作ってみる。
 そんな風に、魔導具を適当に作っているうち、偶然にもすごい発見をした。
 きっかけは、ミズキがジョークグッズとして作った、空飛ぶ帽子だ。
 外見はシルクハット。かぶって魔力を通すと、初級の飛翔魔法が使える。詠唱とちがって、魔力を流している間、ずっと飛んでいられる。
 詠唱による飛翔魔法とは違うのは、他の魔法との同時使用ができないことだ。
 魔法の鎧を使うと、魔導具の動作は止まる。
 クイットパース領による制限なのか、高度も出ない。せいぜいオレの背丈半分くらいしか高度がでない。
 これだけだと、数ある思いつきで作った魔導具なのだが、とんでもない利用法があった。
 海亀が、この魔導具を使えたのだ。
 適当に海亀へ帽子をかぶせたときに、気がついた。
 ふわりと海亀が浮き上がった。
 そのままスィーっとスムーズに飛び進んだ。歩くより速いスピードだ。

「マジか?」

 初めてそれを見たとき、サムソンが驚愕のあまり裏返った声で叫んでいた。
 もともと泳ぐのが得意なせいか、飛翔魔法の使いこなしっぷりも堂に入ったものだ。確実に歩くより速く、遅めの馬車くらいのスピードがでいている。

「なんだか、これでいろんな問題が解決しちゃっスね」
「あとは、どれくらいの間、飛んでいられるか……ついでに魔力が尽きたらどうなるのか」
「いろいろと検証することが多いと思いますが、とても良いことだと思います」

 考えてみれば、ロバだって魔法を行使できた。海亀ができない道理はなかったのだ。
 人間以外用の魔導具も考えていこうという話になった。
 まずは海亀用だ。
 海亀の件もあって意外と長い間、クイットパースに滞在している。
 ついでに、クイットパースから出る船を探すことも平行して続けている。
 誰でも乗せてくれる船は、そんなに頻繁には出ていないらしい。
 あんまり一カ所に長居するのはリスクが高いという意見もあったので、早く出航する船を探す。
 いろいろなことをギルドへと依頼したが、ギルドの人達はとても親切だった。
 アドバイスもこまめにしてくれる。

「ロウス法国への船は、しばらく出航しないですね。もし特に目的地がないのであれば、一度南方に行ってみては?」
「南方ですか?」
「頼めば載せてくれそうな船がありますし……、来月には出航しますよ」

 ハロルドの大事なものは南にあると言っていたな。ロウス法国へ行ってもよかったけれど、早く移動できたほうがいいかな。
 皆に相談し、とりあえず南方へいく船に乗ることにする。

「いきあたりばったりっスね」
「そりゃ、気楽な旅行だからな」

 そうして港へ南へ行く船の手配も、海亀の甲羅の手配も済んだ。
 後は出航までのんびり待つだけ。
 港町クイットパースは、いろいろな物があって、散策するだけでも飽きない。
 先日は、船乗り用の服を作った。
 体にフィットしたウエットスーツに似た服だ。ゴムの様に伸び縮みして、体のラインに合わせて作られた服だ。
 どうやって作るのだろうと皆で話をしていたら、職人を紹介してもらえた。
 作り方がすごかった。
 タコに似た生き物の墨でできていた。すっぱだかになって、墨を吹きかけられ、固まったところを、加工する。二度とこんな機会はないだろうと、金貨5枚を払い、職人さんに1日つきっきりで全員分をつくってもらった。着やすいようにホックや紐をつけたり、切り絵のような装飾をしてくれるということだ。
 今からできあがりが楽しみだ。

「まだまだ見るところ一杯あるね」
「うん。あのね、今日食べたお魚美味しかったね」

 潮の香りがするクイットパースでは、ギリア以上に魚料理がいっぱいだ。加えてやたらと生魚を食べる。調理魔法や加護のおかげで、毒や寄生虫類を簡単に取り除けるので、生魚が安全に食べられるそうだ。ちなみに刺身も普通に酒場で出る。大抵は塩をかけて食べる。醤油がないのは残念だが、塩だけで食べる刺身は、結構おいしい。

「そうだね、まだまだしばらくはクイットパースに居るだろうから、沢山食べよう」
「リーダ、商業ギルドから使いの人が来てる」

 出航まで時間があるから、ダラダラ過ごそう……と思っていたが、事態はいきなり慌ただしくなった。
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