召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十二章 秘密に迫り、秘密を隠し

閑話 いつの間にか 後編(ケルワッル神官視点)

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 いつものように話をすればいい。
 そう自分に言い聞かせる。
 警戒すべきリーダという男を先頭に一行は入ってくる。
 すぐ後にはノアサリーナ、その側にカガミという名の女性と、トッキーとチッキーという獣人の子供。少し離れて、ミズキという女性とプレインという男性。最後にサムソンという男性が入ってきた。やや遅れて、ピッキーという獣人の子供が駆けてくる。ノアサリーナは子犬を抱いているが、犬も、そして本人も大人しい様子だ。
 これで全員のようだ。皆、とても身なりが整っていた。
 長い旅をしていたというのに、そうは思えない身なりの良さだ。高級な宿ですごしているかのような清められた出で立ちが、奇妙に思える。
 注意深く、観察する。彼らを見極めるためには、外見も、仕草も大事だ。
 うむ。この一行は女性優位のようだ。
 男性と女性では、女性の方が着ている服が立派だ。
 女性の中では、ミズキという女性は、立場が一段劣るようだ。古着を着ていた。だが、彼女の長髪をまとめる髪留めは立派なもので、着ている古着も、きちんと整えられたものだ。
 男性は皆古着を着ている。
 この地方独特のものなので、恐らくこの地域で買い揃えたのであろう。
 ノアサリーナは主人らしく一番立派な服装だ。そして、その横に立つカガミという女性も一行の中で衣装が立派だ。貴族の出で立ちに、肩ほどある髪をかき上げたときに装飾品が見えた。見慣れないが価値のある装飾品を身につけていることから、もしかしたらリーダよりも、カガミという女性の方が上位にある存在なのかもしれない。
 何度も何度も言い慣れたケルワッル神の素晴らしさを伝える言葉を語る。もちろん、この聖地におけるケルワッル神の惜しみのない慈悲の心を伝えることも忘れない。
 今のところ私はうまくやっていると思った。
 え?
 ところが、上手く言っているという私は間違っていたようだ。
 何ということだろうか、主人であるノアサリーナを放って、従者達はバラバラに行動を始めた。
 サムソンという男にいたっては、一行から大きく離れ、販売の品々を見て回っている。
 私の言葉を聞く気すらないようだ。
 すぐさま手で合図し、バラバラに行動する従者のそれぞれに神官をつける。
 内心の動揺を悟られないように、高鳴る心臓をおさえつつ、会話を進める。
 そして奥の手である特注の信徒契約を説明する装飾された板をとりだす。最高級のクロニトチ地方産出の木材を削り出した板に、最高級の塗料、南方でも有名な職人により彫り込まれた芸術的な説明書きだ。
 私の奥の手は功を奏したようで、従者達も集まってきた。
 ここぞとばかりに信徒となる素晴らしさをまくしたてる。丁寧に、穏やかに。
 ミズキという女性が、信徒になると言ってくれた。
 やった!
 ところがお金が足りないという……一ヶ月程度であれば、彼らの身なりからして、高額とはいえない金額のはずだ。やはり、ミズキという女性は、従者として立場が下の者なのかもしれない。
 次に声を上げたのは意外な人物だった。
 獣人の子供。トッキーという名だ。
 しかも、子供達3人がお金を出し合っている。

「はい。ご主人様達、皆さん魔法使いです。すごい魔法使いです。信徒になるのはご主人様達にとって辛い決断になると思うのです。だからオイラがこれで……」

 続く言葉に心を打たれる。
 なんということだ。この子供達は、ケルワッル神の教えを体現している。他が為に財を使いなさいという教えを。
 主を置いて好き勝手に動き回る従者とは、雲泥の差ではないか。
 その当の主は穏やかに微笑み、チラリとリーダを見ただけだ。
 どういうつもりなのだろうかと不思議に感じる。

「いえ、彼ら3人の信徒契約に必要なお金は全部私どもが払います」

 後に続くリーダの言葉で、さきほどの微笑みの意味がわかる。
 元々、ノアサリーナ自らが、支払うつもりだったのか。
 くわえて、獣人3人分にかかる年間契約を申し込むという。3人分の年間契約となれば、かなり高額になる。
 おそらく、先ほどの獣人達の想いに答える褒美という意味合いなのだろう。

「素晴らしい! なんて、皆さん信心深いのでしょう」

 ここに居る全員が、ケルワッル神の教えを体現している!
 溢れる思いがついつい言葉になる。
 だが、後悔などしない。これは本心なのだ。本心を偽ることなかれと、神の教えにもあるではないか。
 そこから先は、気を利かせて手助けをしてくれた仲間の神官と一緒に、うまくもてなせたと思う。
 彼らは、長期に滞在する予定はないこともわかった。
 ケルワテで見て欲しい物、口に入れて欲しい物を一通り説明する。
 その間、ノアサリーナと子供達は、皆が熱心に絵本による神話の説明に聞き入っていた。
 こうしてみると、呪い子ノアサリーナは年相応の女の子だ。醸し出す威圧的な雰囲気がなければ、もっと別の人生が送れたのかもしれない。
 呪い子は、常に忌避される。今回も、もし従者達がいなければこのような待遇は得られなかっただろう。
 彼らを中層まで送り、一日の出来事を大神官へと報告にあがる。
 予想外の収穫もあった。
 彼らの出自についてのヒントも得ることができたのだ。
 それは、踊るつぼみを気球と評し、落下の危険性を示唆したことからだ。
 かの魔法王国グラムバウムは、我々とは違う方法でつぼみを浮かす。踊るつぼみを、気球と呼ぶのはグラムバウムくらいだ。気球には、つぼみとは違い、落下の危険があるのかもしれない。
 よって、彼らの出自にグラムバウムが関わる可能性は高いと思う。
 同行の従者と年間契約に至ったこと。長期滞在はしないと判明したこと。加えて、彼らの出自。
 良い報告ができることに満足し、仲間の神官と語り合う。

「うまくいきました」
「えぇ」
「あとは、穏やかに滞在し、聖地にふれケルワッル神の偉大さを知って頂けれることを望むばかりです」

 上層へと上る、つぼみの中で外を眺める。ようやく、緊張を緩めることができた。
 だが、この時の私は知らなかった。
 すでに、ノアサリーナとは別の呪い子がこの地を訪れていたことを。
 二つ名持ちの呪い子が聖地である都市ケルワテに滞在していたことを。
 いつの間にか、都市ケルワテは2人の呪い子を抱えることになっていたことを。
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