召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十二章 秘密に迫り、秘密を隠し

だれもみつけられず

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 あれ、みんなどこだ。
 やばい、冷や汗が出る。
 どうやらオレは1人、皆とはぐれてしまったようだ。
 ミズキの高笑いが聞こえる。
 絶対あいつら今頃笑ってやがる。
 今日宿を出る時のことだ。

「絶対さ、リーダ、ひとりはぐれちゃうと思うんだよね」
「何を言ってるんだか」
「ノアノア。リーダが迷子にならないように……」
「おいおい、やめてくれよ。オレは1人でなんとかできるって」
「1人で何とかされると困ると思うんです」
「任せておけ。オレが先陣を切って、皆に最高の観光コースをレクチャーするよ」
「リーダ。お前、ここに来るのははじめてだろ」
「ほら、昨日もらったパンフレットを使ってさ」

 なんてことを朝に宣言したばかりだ。最初こそパンフレットを見ながら「あそこに食べ物屋があるな」「あそこは服を売ってるらしいよ」などと言っていた。
 だが、どんどんと皆が気ままに歩くようになり、そして今がある。
 オレは1人だ。
 いつものパターンだと、こういう時はロンロがオレを探し当ててくれる。
 よし、遭難した時は体力温存するのだ。下手に動き回らず、じっとしているのが良いだろう。
 適当な店で飯でも食うか。
 ちょうどお腹が空いていたので適当な食事処に入る。
 適当に椅子に座り、わからないまま、注文する。
 饅頭と、お湯のようなお酒がテーブルに並べられる。
 食事というよりも、飲み屋、居酒屋というた感じか。
 まぁいいや。出されるメニューを適当にパクつく。洋風中華まんといった感じだ。中には、果物を煮込んだ物が入っている。付け合わせの、野菜スティックと交互に食べると、いくらでも食べられそうだ。追加で二皿目を注文したあたりから、どんどんと人が増えてきた。
 なかなか繁盛しているらしい。
 確かに食べ物が美味しい。
 食べやすく美味しい饅頭と、お酒を飲み、まったりと過ごす。
 本当に、いくらでも食べられそうだな。
 そんなわけで、ちょこちょこと料理の追加を重ねて過ごす。

「お客さん、こっち相席いいっかな?」

 追加の饅頭をテーブルに置きながら、慣れた調子で店員が尋ねてくる。
 かまいませんよと言ったら1人身なりのいい男が向かい側に座った。
 こちらの生活が長くなってきたので、服装を見ればわかる。これはお金のかかっている旅装だ。この辺りの人ではない、どちらかといえばギリアで見る服装に近い。
 そこまで派手でもなく、刺繍も何か装飾品がついているわけでもない、こざっぱりとした格好の青年だ。
 腰にはやや短めの剣をさしている。白い羽飾りのついた帽子をかぶっていて、席に着くとその帽子を外す。短い金髪の男。
 ちょっとした立ち振る舞いも様になっている。なんというか、映画俳優のような感じだ。会ったことないけれど、映画俳優。
 軽く会釈をして食事再開。

「それ? 何ていう料理なんですか?」

 向かいに座った青年が聞いてくる。言葉遣いが案外気さくだ。

「知らないんです。私も、観光でここに来るのは初めてなもので……このお店の、おすすめらしいですよ」

 本当に、おすすめのヤツとしか言っていない。
 そんなことを伝えると、ああそうですねと、青年も少し笑う。

「聖地だけあって、観光にくる人が多いですものね」
「お兄さんは仕事なんですか?」
「ええ、まぁ」

 色々と話をしていく中で、案外話しやすい人だとわかった。
 彼は世界中を駆け回る商人のようなものらしい。

「私はずっとヨラン王国にあるギリアというところに居たので、今回がはじめての外国旅行なんですよ」
「ギリアですか……行ったことはないですが、知っていますよ。ストリギの近くですね」

 博識な青年だ。
 いろいろな事を知っている。子供の頃から、ひたすら勉強の日々だったそうだ。その甲斐あってか、若くして多くの部下を率いる立場だという。だが、家の人からはあまり期待されていないのが、寂しく。逆に、部下はとても期待してくれるのに、それに応えられない自分がもどかしいという。
 話をするうちに、愚痴が始まった。
 ただ、言葉遣いや言い回しから、奢った感じもなく、誰かに聞いてもらいたいような雰囲気が感じられたので、適当に相打ちを打ちながら話を聞く。
 無理難題を上から押し付けられて、右往左往しながらこなそうとしている姿に共感する。

「そうなんです。もう少し……上層部には過程も見て欲しいと思っているんです」

 いつの間にか、お互いに愚痴を言い合うような形になった。

「特に、状況がめちゃくちゃなのに締め切りが間近の時は苦しいよな。でもそういう時は顎を引いて、意識的に姿勢を正して、じっくり考えてみるようにしてるよ。それで、一つだけでも難しい案件が解決できたら嬉しいし、満足して進めると思っているよ」

 ついつい、そんな偉そうなことを口走ってしまった。
 しかも、元の世界の話を具体的に言うのも厳しいので、思いっきり抽象論だ。我ながら、薄っぺらい。

「なるほど、そして、それでもダメな時っていうのはどうされるんですか?」

 だけど、その青年は、酷く感心した様子で頷き質問を繰り返す。

「その時は、ダメだった要因を考えて、最悪の状況を覚悟する」
「それで?」
「覚悟して、開き直ったら、何度も、何度も、工夫を続けて挑戦するよ。避けられない締め切りまで、何度も、何度も。そのうち、うまくいかないことにも慣れるようになるさ」

 そんな偉そうな事を言った。
 目の前の青年は凄く感心したように、何度も何度も深く頷いた。

「いやいや、とても為になるお話ありがとうございます。私はそろそろ行かねばなりませんので」

 最後に、そう言って席を立った。
 店員にお金を支払い、立ち去り際に男は振り向き、再度声をかけてきた。

「そういえば……お名前を伺っていませんでした。もしよろしければ教えていただけませんか?」
「私はリーダと言います」
「リーダさん。いいお名前ですね。ではまたどこかで」

 やっぱりいいところの坊ちゃんなのだろうか、オレの分まで全部出してくれたようだ。

「多めに貰っているので、まだまだ大丈夫ですよ」

 上機嫌の店員は、オレのテーブルに追加の饅頭を置きながら言う。良い笑顔だ。
 まぁ、いっか。なんか役に立ったようだしな。
 ありがたく、ご馳走をいただく。
 それにしても、ロンロとか、誰も探しに来てくれないな。
 案外、皆バラバラに楽しんでいるのかもしれない。
 そろそろ一旦宿に戻ることにしようか。
 そう思った時に、ロンロを見かけた。
 オレに気がつかず、スウーッと店の外を通り過ぎていく。
 探しに来てくれたのに放置するわけにもいかないだろう。

「じゃあ、ごちそうさま」

 店員に挨拶し、急いで外に出る。

「ロンロ!」

 そして、声をかける。
 違った。
 振り向いたその女はロンロではなかった。
 ロンロに、そっくりの女性。
 宙に浮き、おぼろげな存在感の、その女性。
 声をかけられたその女性は大きく目を見開きオレを見た。
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