召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十三章 肉が離れて実が来る

ひかりかがやくくさり

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 行く当てのない空の旅。
 飛び続けるこの家を制御する方法は、いまだ見つからない。
 翌日、寝不足気味のサムソンも、特に何かを見つけたわけではなかった。

「読み取れなかった部分……つまり、欠けた部分が何をやっていたのか、読める部分から推測してみようかと思ってるんだが……難しい」

 それだけいうと部屋に引っ込んでしまった。
 オレとプレインで、2階を調べる。
 円形の部屋にかけられた絵の裏にある4つの言葉。

『起こす……』『眠る……』『……次な……』『息を……』

 一応全部試してみる。
 最初の2つは、昨日試したときと結果は変わりが無かった。
 なんとなく、2行目をなぞったときに、家のスピードが弱まった感じがするが、大きな変化はなかった。
 下が海面なので、いまいちスピードがわかりにくい。
 3行目は、なぞった後で音が鳴り響いた。
 プレインが言うには、テルミンとかいう楽器の音に似ているという。
 ホワンホワンという怪しい音にしか聞こえないが、何の意味があるのかわからない。
 4行目は、うまく光らなかった。
 チリチリという音をたてて、すぐに反応がなくなる。
 メモを取りながら、2階で作業をしていると、外が急に騒がしくなった。

「何かあったんスか?」

 窓から身を乗り出しプレインが叫ぶように言う。

「海亀が落ちそう!」
「綱引きしてます!」

 やばいと考えてすぐに降りる。ところが、オレとプレインが下に降りた頃には片付いていた。

「ハロルド様が、フンってやったでち」

 チッキーが身振りで示してくれる。
 呪いを解除し、オークの大男になったハロルドが一気にひっぱりあげたようだ。

「この家は北に向かっているようでござるな」

 オレを見るなりハロルドが言う。

「方角がわかるのか?」
「太陽の位置から推測したでござるよ」
「なるほど」

 カガミが感心したように声をあげる。
 たしかに、太陽の位置から方角を推測するとは考えなかった。言われてみれば確かに推測できるのだろう。
 この世界の太陽の動きは、元の世界に似ている。日の出以降の太陽の動きを見ていれば推測できるわけだ。

「ケルワテから北って何があるっスか?」
「大平原、中央山脈……その先はヨラン王国でござるな」
「え? ギリアに戻るってこと?」
「北ということが分かるだけで、詳細な位置までわからんでござるよ」
「そりゃ、そうっスよね」

 それでも、北に向かっているということ、大平原に、中央山脈と何があるのかわかるだけでも収穫だ。この家の制御が無理なら大平原あたりで降りれば良い。
「陸地が見えたら降りるのもいいかもね」
「どうやって? 結構高いっぽいよ」

 ミズキに言われて、陸地の端から下を見る。
 は?
 予想以上に高いところを飛んでいるようだ。
 この家の影が見えない。
 つまり、海面に映った影が見えないくらい高い場所を飛んでいるということだ。

「たまたま、影が見えない……のかな」
「あのね、すっごく高いよ。さっきクローヴィスと下に降りたの」

 ノアが背伸びをして高さをアピールする。

「ボクは、もうちょっとだけ高く飛べるよ」

 クローヴィスのもうちょっとだけという一言と、ノアのジェスチャーで、相当な高さを飛んでいることを実感した。
 これは、快適に降りるためには、この家の制御が必要なるな。
 もしくは中央山脈の高さに期待するか……。

「まぁ、なんとかなるだろ」

 とりあえず、現実逃避。
 前向きな一言で場をなごませることにする。

「さっすが」
「そうですね、別に取って食われるわけでもないですし」

 ミズキとカガミの言葉を先頭に、皆が楽観的な態度を示す。オレの一言は、結構苦し紛れだったわけだが、皆はタフだなと思った。
 それからは、サムソンの成果に期待しつつ、この家を調べていく。
 トッキーとピッキーは、海亀の上に載せる小屋を修繕していく。ミズキは、海亀の世話をする。
 なんでも、海亀のつかう飛翔魔法の特訓をするそうだ。
 ちなみに、先日の海亀が落下する危機は、そんな特訓の最中に起こった。あれから懲りて、一応ロープを結び、いざとなったらハロルドに引き上げて貰う体勢で特訓することになった。
 チッキーとノアはそんな皆の世話。
 カガミは、オレやプレインと一緒に家の調査をしたり、ノア達に勉強を教えたりとオールマイティに活躍する。
 ロンロは念の為の見張り。びっくりするくらい何もないそうだ。

「すごいでち、飛んでいる鳥さんより上を飛んでるでち」
「あれ、きっと大鯨だ!」
「巨人さんが泳いでるかも」

 落下防止の柵を作ったところ、皆が休憩がてら地面の端から下をみることが多くなった。
 上空から周りをみるのは、慣れると面白い。
 下を鳥が飛んでいたり、渡り鳥が家を併走するように飛んでいたり。
 たまに遙か下に小さな島が見えることもあった。
 海での漂流のように、魚が捕れるわけでもないが、オレの影の中には大量の食料も備蓄してあるため、食べる物には困らない。
 いつものように気軽な旅行だ。やや肌寒いが、上着を着ればどうってことはない。ケルワテで服を買っておいてよかったと思う。
 それからも穏やかな日が続き、海亀に乗せる小屋も輪郭が分かるようになる。
 いままでの馬車を増築したものと違い、1から作る小屋だ。
 クイットパースなど、旅の先々で購入した木材などを使用し、作ったものだ。
 こうしてみるとトッキーとピッキーは、どんどん大工仕事が上達している。これは完成が楽しみだ。
 サムソンも、かなり魔法陣の解析が進んだようだ。

「案外、早い内にこの家を制御できるかもしれんぞ」

 なんてことを言っていた。
 何にせよ、順調にいろいろな事が進んでいた空の旅。

「大変、大変、大変」

 それは真夜中のことだった。
 久しぶりの満月の夜。呪いが解けたハロルドと広間で晩酌をしていたときのこと。
 ロンロが大慌てで広間へと入ってくる。

「どうしたんだ?」
「何だか光り輝く鎖でこの家自体が捕まってるの!」
「鎖?」
「どうしたでござるか? ロンロ殿でござるか?」

 ロンロを見ることができないハロルドに、ロンロの言葉を伝える。

「ホントだ! 何コレ……ちょっとカガミ呼んでくる」

 オレがハロルドへ説明している間に、窓から外の様子を一瞥したミズキは驚いた声をあげ、カガミの寝ている部屋をノックし駆け込んでいく。

「プレイン、サムソン、起きろ!」

 オレも、もう一つの部屋へと続く扉を大きくノックし、すぐさま外へと出る。

「これは、なんというか、何者かにつかまったようでござるな」

 一足先に外へと出ていたハロルドが上を見上げて声を上げる。
 光輝く鎖で、空飛ぶ家自体ががんじがらめになっている。

「マジか。どうなってるんだ? リーダ」
「知ってるわけ無いだろう」

 いつの間にか家の屋根に上っていたサムソンが、真上を見上げていながらオレに声をかけてくる。オレの方が聞きたい。

「リーダ。どうしよう。大きな部屋が光り出したの」

 部屋が光る?
 ノアも起きたようだ。オレの側に来て心配そうに言う。
 チッキーが少し遅れて家からでてくる。

「大変でち、大きな部屋のテーブル下が光ってるでち」

 あの床板の下にあった魔法陣か。

「ご主人様」

 後でトッキーの声がする。
 振り向いたとき、ちょうど両手にハンマーをもったトッキーがこけていた。
 みるとピッキーと2人で、兜をかぶって、ハンマーをもって武装している。
 慌てて駆けつけたので、勢い余ってこけてしまったようだ。

「2人とも、焦らなくていいっスよ。さすがに、どうにもならないっス」
「綺麗な鎖だよね」
「見た目はな。どう考えても、これ、オレ達を捕らえるための鎖だよな」

 オレ達が、家の敷地を球状にくるむように巻き付いている輝く鎖を呆然と見ている間。当の家は地鳴りのような音を響かせる。

『ゴォン……ゴォォン……』

 最初、小さかった音は、どんどん大きくなっている。その音が大きくなるのと併せて、オレ達の立っている場所も揺れ始める。

「遅れました。ごめんなさい。広間の床全体が強く光っています。少し警戒した方がいいと思います」

 やや遅れて家からカガミが出てきて、広間の異常を報告する。
 やばそうだ。

「とりあえず、海亀の上に行こう。それからカガミ。海亀の周りを魔法の壁で覆ってくれ」
「えぇ、えぇ。了解」
「あのリーダ様……海亀の家は仮組みです」
「時間が無かったんだ。しょうが無い。とりあえずの避難だよ」

 恐縮するピッキーに笑いながら答え、みんなで海亀の背へと避難する。多分、大丈夫だろうが、この家が墜落したり、爆発したときのことを考えての避難だ。
 海亀は、飛翔魔法を少しだけ使える。この空飛ぶ環境にきてから特訓しているのだ。頼りになるかもしれない。
 それからしばらくの間、地鳴りのような音が響き、家が地面ごと揺れる状況が続いた。

『ゴォォ…………ォン……』

 だが、何の前触れもなく音が止む。

「終わったっスかね?」

 安堵した声をプレインがあげる。だが、輝く鎖は、辺りを囲むように巻き付いたまま。
 そして、プレインの言葉の直後、急に動き出した。
 とんでもないスピードだ。
 いままではどんなに早くても、立っていられたが、その余裕がない。
 Gを感じるとでもいえばいいのか、急加速する車にでも乗っているかのように、圧力を感じる。

「しゃがめ! 吹っ飛ばされるぞ!」

 オレの声とほぼ同時に、みんながしゃがみこむ。そもそも立っていられない。
 海亀も異常事態を感じ取ったのか、凄い勢いで手足を引っ込め、やや遅れて頭を引っ込める。帽子だけが甲羅の外に残り、紐で繋がれた帽子は、甲羅の端にあたり乾いた音をたてた。
 その後は、よく分からない時間が過ぎた。
 ひたすら大きく上下する家から投げ飛ばされないように、亀の甲羅の上でやり過ごす。
 その間に、仮組みした小屋の柱は吹っ飛ばされ、嘆くトッキーにかまう余裕もなく、ひたすら加速の重力に耐える。
 どれくらい耐えたのかわからない。やがて、上下の揺れも、加速の重力も、無くなり、光り輝く鎖も、一本、また一本と数が減っていく。

『バキッ……バキバキ』

 木が折れる音がして、木の葉や、木の枝が降り注ぐ。
 中にはオレの背丈ほどもある大きな葉っぱもある。
 それからやや遅れて、小動物が飛び込んできた。リスや、鳥。
 加えて、どんぐりなどの小さな木の実。
 ちぎれた木の蔓なども落ちてくる。辺りが暗いのでわからないが、どうやら深い森の中に墜落したようだ。
 そして、家は止まる。
 やや斜めになった状態でとまった。なんとか皆、無事なようだ。

「囲まれているでござる」

 ハロルドが剣を構え静かに言う。
 舞い散る木の葉や、木の枝が落ち着き、オレ達も辺りの状況を確認する余裕が出てくる。
 まだ真夜中だが。今日は満月。暗い中でも、月の光に照らされ辺りをうかがい知ることができる。
 そんな月明かりに照らされた周囲を見て、オレは自分の勘違いに気がついた。
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