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第十三章 肉が離れて実が来る
おねえちゃんにまかせとけ
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ここは森の中だ。
だが、普通の森ではない。
月明かりと、星明かり、真夜中にもかかわらず輝くそれらに照らされた風景は予想外のものだった。
右手側は、生い茂った森。左手側は星空。星空はどこまでも広がり、地面は見えない。
空中にある森?
そんな思考を邪魔するように、オレの足下に矢が放たれた。
タンッと小気味よい音を立てて、海亀の背に据えられた床板へ矢が刺さる。
「お前達は何者だ? なぜ、この地に呪い子を連れてきた」
森の奥から声が響く。
「リーダ……」
ノアが弱々しい声をあげ、オレの手を掴む。
「大丈夫」
ニコリと笑い、ノアに返事する。
さて、どう答えたものだろうか。
何者と尋ねられても困る。正直にいえば旅の者だ。しかし、そんな答えでいいのだろうか。空飛ぶ家に乗って、この森に突っ込んだのだ。普通の旅人は空飛ぶ家には乗らない。
「私達は、旅の者です。意図しない事故にあって、この家にさらわれてしまっていたのです。ところが、降りる方法もなく途方にくれていたら光り輝く鎖につかまって、この森に墜落してしまったようなのです」
とりあえず声のした方へ返答する。
うまい言い訳もないので、正確に嘘をつかず。
これで様子を見ることにした。
静かな時が過ぎる。
ユラユラと地面が揺れている。真夜中の冷たい風が、木々の香りを運んでくる。
深い森特有の匂いだ。土の匂いがしない、木と森の匂いだけ。爽やかな空間で、この場にいるだけでリラックスできる。囲まれて、弓矢を向けられているのに、不思議な感じだ。
空気。そう、空気が美味しいとはこういうことかと思う。
「それでは、なぜ、こちらに向かってきた。我々は、拘束し、朝日と共にそちらに参る予定であった。逃げ切れぬと察し、反撃にでたのではないのか?」
あの光り輝く鎖は、こいつらの仕業だったのか。
というか、何者って……オレ達の方が言いたいよ。
「つか、お前らが拘束しなきゃこんなことにならなかったんじゃ……」
サムソンがボソリと呟く。オレも同意見だ。
「あの、誤解が……」
「動くな! お前達は何者だ?」
前に進みつつ、言葉を発した次の瞬間、矢が放たれた。
何者だって? 先ほど言っただろうが。
風切り音がして、矢が頬をかすったことを感じる。真っ暗というわけではないが、暗がりの中で矢を撃つなといいたい。もしかしたら、相手にはよく見えているのか。
「うぅ」
カガミの呻き声がする。バッと後をみると頬を押さえてカガミが座り込んでいた。
「大丈夫か?」
「なんとか、かすっただけ……だけど」
カガミに声をかけたが、答えたのはミズキだ。困惑したように、カガミを見下ろしている。
不味いな。
どうにも対応しきれない。まだ、相手の情報が分からなさすぎる。少なくとも、囲まれていること、この暗がりで頬をかすらせるような正確な矢を射ることができること。
2点が分かっている。
ハロルドもいるし、魔法の矢による追尾性能はなかなかのものだ。
だが、無事では済まないことも確かだ。
満足に話し合いもさせてくれない。
とりあえず、意表を突くか。
「ハロルド」
小声でハロルドを呼ぶ。
「なんでござるか」
「オレとサムソン以外を守り切れるか?」
「我が身を盾にすれば……威嚇程度の攻撃なら楽勝でござるな」
「お前が死ぬとこまるんだが」
「死ぬわけ無いでござろう。せいぜい、怪我する程度、安心するでござる。ところでどのくらいの時間、しのげばいいでござる?」
「オレ達が魔法を詠唱する時間」
「心得た」
ハロルドが守りを請け負ってくれる。これで、少しは動けそうだ。
やたら警戒されていて、満足に話し合いができないのだ。多少手荒でも行動を起こすしかない。というより、警戒しすぎで、何も進められないじゃないか。矢を射ってくるやつらは話をする気があるのかと思う。
「サムソン、あのゴーレムの手をつくる石って、いくつある?」
「10個くらいだな」
「プレインと、ミズキ、それにカガミに渡してもらえる?」
「どうするんだ?」
「可能であれば、こうやって……」
手の指を絡めるように重ねて、手でドーム状を表現しつつ言葉を続ける。
「オレ達を囲む空間を作って欲しいんだ」
「なるほど、だが、さすがに無理だな。こうやって、盾のようにはできるぞ」
サムソンが手のひらを縦にして、盾のようにつかうことを提案する。
「じゃ、それで。カガミもいけそう?」
カガミはオレの問いかけに対して、うつむきながらもコクコクと返事する。
ハロルドも、同僚達も、いけそうだ。
「ウィルオーウィスプ、いたら小さく返事してくれ」
オレの呼びかけに、足下がチカチカと小さく光る。
問題なさそうだ。
「どうするっスか?」
「オレが叫んだら、ゴーレムの手を作ってくれ。それから、相手の隙をついて、あの家に逃げ込んで欲しい」
「隙?」
プレインの質問に答えようとしたとき、再び矢が放たれた。
『タンッ』
先ほどと同じように矢がオレの足下に突き刺さる。
「いつまで、相談している。質問に答えよ」
「ですから、旅人だと」
「あれほどの、飛行島に乗って、ドレス姿の旅人がいるわけないだろう!」
やや大きめの声が、あたりに響く。
勢い余った身を乗り出したためか、相手の姿がチラリと見えた。キラキラと輝く金髪で長髪の男だ。どこか神秘的な印象をうける。
質素だが、とても立派で汚れのない旅装をしている。
もっとも、相手をするのはまだ先だ。
この調子だと落ちついて話もできない。
だから、一旦引く。
「時間が無い。下を向いて待機してくれ。下だ。下だぞ。それで、オレが叫んだら、ゴーレムの手をつくって、それを盾にして、家へと逃げ込んでくれ」
オレの言葉に、皆が頷く。細かい打ち合わせもしたかったがしょうがない。
行動に移ることにする。
「ウィルオーウィスプ! 空を強く照らせ! 豪快に!」
大きな声でウィルオーウィスプにお願いする。作戦の実行だ。
夜目が利いているのは間違いない。ついさっきも服装について言及したばかりだ。
それなら、逆に一気に明るくして目潰ししてしまえばいい。
向こうは冷静さに欠けている。何に警戒しているのかはわからないが、警戒しすぎなのだ。
そこで一旦冷却時間をおく。
そのための撤退。
「うぅ、何が起こった!」
「見えぬ」
「これは……精霊! ウィルオーウィスプの輝き」
「孤高のウィルオーウィスプが、まさか!」
困惑と、驚きの声が森から聞こえる。
思った以上に効果があったようだ。
一気に家へなだれこむように逃げる。
だが、家の扉へと先頭のトッキーがたどりつく直前。
森の中から10本を超える大量の蔓が伸びて、家の扉を塞いでしまった。
そのうち一本に、腰掛け滑り降り、人影が立ち塞がる。
顔立ちの整った女性……やや、幼さが残る女性だ。キラキラと薄く青白い髪をした女性。ツインテールだっけかな。アニメで見るような髪型をしている。手には短い杖を持っていて、こちらへと向けている。
「逃げては駄目ですよ」
「そうですとも。お姉様の言うとおりです」
さらに、もう1人、別の蔓から滑り降りてきた。2人は、ほぼ見た目が同じ、うり二つだ。違いと言えば髪の色。やや濃いめオレンジ色に薄く輝いている。
「ちっ!」
ミズキが舌打ちして、2人へと飛びかかる。ハロルドも援護するようだ。
「まった!」
ところがその出鼻をくじくように声が響く。
声がした方をみると、オレと、最初に矢をいった人がいるちょうど中間のあたりにモペアが立っていた。
「お姉ちゃん……」
「こいつら、ハイエルフなんだよ。まったく、世界樹を荒らされたと思っていきり立ってるんだ。どうしようもない。自分達で呼び込んだってのに」
困ったように、だが、周りに聞かせるように言葉を発し、余裕の表情で家から離れるように歩き出す。
モペアの言葉で気がつく。ここは森の中ではない。
地面が見えない。この家からはずれると、下には何もない。ただ生い茂る木の枝があるだけだ。さらに先には、雲と夜の闇が広がっている。だからこそ、空中にある森だと判断した。
だが、違う。
この家は右手側から伸びた巨大な枝に引っかかっているだけなのだ。森ではなく、一本の木。
つまりここは巨大な木の上。先ほどのモペアの言葉から察するに、世界樹の上ということになる。
「うっ、動くな!」
再び矢が放たれる。それはいままでとは違い。
モペアの胸に突き刺さる。
「しまっ……」
直後、森から声が聞こえる。当てるつもりはなかったようだ。
「お姉ちゃん!」
ノアの悲痛な叫びが森に響く。
「大丈夫だよ。ノア」
オレ達の方をみて、モペアが笑い、胸から矢を引き抜く。
「モペア……」
「大丈夫だって。この矢は、矢じりも含めて全部木製なんだ。森で生まれた物に、あたしは傷つかない。それに……」
『パチン』
引き抜いた矢を足下に捨て、ツインテールの2人に向かって手を伸ばし指を鳴らす。
すると、家の扉を塞いでいた蔓はほどけ、逆に2人のツインテールに絡みついた。
「どうして?」
「どうしてって……、世界樹の上、そこに寄り添う森の草花。ここまであたしにとって最高の舞台で、このドライアドであるモペア様が、ハイエルフごときに遅れをとるわけないだろう」
「すごい」
「まったく、頑固者のハイエルフときたら……それに引き換えリーダ達は、どれだけ矢を射られ脅されても、ギリギリまで決して話し合いを止めようとしなかった。あたしは、皆のそういうところが好きなんだ」
過大評価されている気もするが、とても強力な援軍にホッとする。
数では圧倒的に不利だが、ずいぶんと気楽になった。
「助かったよモペア」
「お姉ちゃん!」
「へーき、へーき。だからさ、ノア。ここは、お姉ちゃんにまかせとけ」
だが、普通の森ではない。
月明かりと、星明かり、真夜中にもかかわらず輝くそれらに照らされた風景は予想外のものだった。
右手側は、生い茂った森。左手側は星空。星空はどこまでも広がり、地面は見えない。
空中にある森?
そんな思考を邪魔するように、オレの足下に矢が放たれた。
タンッと小気味よい音を立てて、海亀の背に据えられた床板へ矢が刺さる。
「お前達は何者だ? なぜ、この地に呪い子を連れてきた」
森の奥から声が響く。
「リーダ……」
ノアが弱々しい声をあげ、オレの手を掴む。
「大丈夫」
ニコリと笑い、ノアに返事する。
さて、どう答えたものだろうか。
何者と尋ねられても困る。正直にいえば旅の者だ。しかし、そんな答えでいいのだろうか。空飛ぶ家に乗って、この森に突っ込んだのだ。普通の旅人は空飛ぶ家には乗らない。
「私達は、旅の者です。意図しない事故にあって、この家にさらわれてしまっていたのです。ところが、降りる方法もなく途方にくれていたら光り輝く鎖につかまって、この森に墜落してしまったようなのです」
とりあえず声のした方へ返答する。
うまい言い訳もないので、正確に嘘をつかず。
これで様子を見ることにした。
静かな時が過ぎる。
ユラユラと地面が揺れている。真夜中の冷たい風が、木々の香りを運んでくる。
深い森特有の匂いだ。土の匂いがしない、木と森の匂いだけ。爽やかな空間で、この場にいるだけでリラックスできる。囲まれて、弓矢を向けられているのに、不思議な感じだ。
空気。そう、空気が美味しいとはこういうことかと思う。
「それでは、なぜ、こちらに向かってきた。我々は、拘束し、朝日と共にそちらに参る予定であった。逃げ切れぬと察し、反撃にでたのではないのか?」
あの光り輝く鎖は、こいつらの仕業だったのか。
というか、何者って……オレ達の方が言いたいよ。
「つか、お前らが拘束しなきゃこんなことにならなかったんじゃ……」
サムソンがボソリと呟く。オレも同意見だ。
「あの、誤解が……」
「動くな! お前達は何者だ?」
前に進みつつ、言葉を発した次の瞬間、矢が放たれた。
何者だって? 先ほど言っただろうが。
風切り音がして、矢が頬をかすったことを感じる。真っ暗というわけではないが、暗がりの中で矢を撃つなといいたい。もしかしたら、相手にはよく見えているのか。
「うぅ」
カガミの呻き声がする。バッと後をみると頬を押さえてカガミが座り込んでいた。
「大丈夫か?」
「なんとか、かすっただけ……だけど」
カガミに声をかけたが、答えたのはミズキだ。困惑したように、カガミを見下ろしている。
不味いな。
どうにも対応しきれない。まだ、相手の情報が分からなさすぎる。少なくとも、囲まれていること、この暗がりで頬をかすらせるような正確な矢を射ることができること。
2点が分かっている。
ハロルドもいるし、魔法の矢による追尾性能はなかなかのものだ。
だが、無事では済まないことも確かだ。
満足に話し合いもさせてくれない。
とりあえず、意表を突くか。
「ハロルド」
小声でハロルドを呼ぶ。
「なんでござるか」
「オレとサムソン以外を守り切れるか?」
「我が身を盾にすれば……威嚇程度の攻撃なら楽勝でござるな」
「お前が死ぬとこまるんだが」
「死ぬわけ無いでござろう。せいぜい、怪我する程度、安心するでござる。ところでどのくらいの時間、しのげばいいでござる?」
「オレ達が魔法を詠唱する時間」
「心得た」
ハロルドが守りを請け負ってくれる。これで、少しは動けそうだ。
やたら警戒されていて、満足に話し合いができないのだ。多少手荒でも行動を起こすしかない。というより、警戒しすぎで、何も進められないじゃないか。矢を射ってくるやつらは話をする気があるのかと思う。
「サムソン、あのゴーレムの手をつくる石って、いくつある?」
「10個くらいだな」
「プレインと、ミズキ、それにカガミに渡してもらえる?」
「どうするんだ?」
「可能であれば、こうやって……」
手の指を絡めるように重ねて、手でドーム状を表現しつつ言葉を続ける。
「オレ達を囲む空間を作って欲しいんだ」
「なるほど、だが、さすがに無理だな。こうやって、盾のようにはできるぞ」
サムソンが手のひらを縦にして、盾のようにつかうことを提案する。
「じゃ、それで。カガミもいけそう?」
カガミはオレの問いかけに対して、うつむきながらもコクコクと返事する。
ハロルドも、同僚達も、いけそうだ。
「ウィルオーウィスプ、いたら小さく返事してくれ」
オレの呼びかけに、足下がチカチカと小さく光る。
問題なさそうだ。
「どうするっスか?」
「オレが叫んだら、ゴーレムの手を作ってくれ。それから、相手の隙をついて、あの家に逃げ込んで欲しい」
「隙?」
プレインの質問に答えようとしたとき、再び矢が放たれた。
『タンッ』
先ほどと同じように矢がオレの足下に突き刺さる。
「いつまで、相談している。質問に答えよ」
「ですから、旅人だと」
「あれほどの、飛行島に乗って、ドレス姿の旅人がいるわけないだろう!」
やや大きめの声が、あたりに響く。
勢い余った身を乗り出したためか、相手の姿がチラリと見えた。キラキラと輝く金髪で長髪の男だ。どこか神秘的な印象をうける。
質素だが、とても立派で汚れのない旅装をしている。
もっとも、相手をするのはまだ先だ。
この調子だと落ちついて話もできない。
だから、一旦引く。
「時間が無い。下を向いて待機してくれ。下だ。下だぞ。それで、オレが叫んだら、ゴーレムの手をつくって、それを盾にして、家へと逃げ込んでくれ」
オレの言葉に、皆が頷く。細かい打ち合わせもしたかったがしょうがない。
行動に移ることにする。
「ウィルオーウィスプ! 空を強く照らせ! 豪快に!」
大きな声でウィルオーウィスプにお願いする。作戦の実行だ。
夜目が利いているのは間違いない。ついさっきも服装について言及したばかりだ。
それなら、逆に一気に明るくして目潰ししてしまえばいい。
向こうは冷静さに欠けている。何に警戒しているのかはわからないが、警戒しすぎなのだ。
そこで一旦冷却時間をおく。
そのための撤退。
「うぅ、何が起こった!」
「見えぬ」
「これは……精霊! ウィルオーウィスプの輝き」
「孤高のウィルオーウィスプが、まさか!」
困惑と、驚きの声が森から聞こえる。
思った以上に効果があったようだ。
一気に家へなだれこむように逃げる。
だが、家の扉へと先頭のトッキーがたどりつく直前。
森の中から10本を超える大量の蔓が伸びて、家の扉を塞いでしまった。
そのうち一本に、腰掛け滑り降り、人影が立ち塞がる。
顔立ちの整った女性……やや、幼さが残る女性だ。キラキラと薄く青白い髪をした女性。ツインテールだっけかな。アニメで見るような髪型をしている。手には短い杖を持っていて、こちらへと向けている。
「逃げては駄目ですよ」
「そうですとも。お姉様の言うとおりです」
さらに、もう1人、別の蔓から滑り降りてきた。2人は、ほぼ見た目が同じ、うり二つだ。違いと言えば髪の色。やや濃いめオレンジ色に薄く輝いている。
「ちっ!」
ミズキが舌打ちして、2人へと飛びかかる。ハロルドも援護するようだ。
「まった!」
ところがその出鼻をくじくように声が響く。
声がした方をみると、オレと、最初に矢をいった人がいるちょうど中間のあたりにモペアが立っていた。
「お姉ちゃん……」
「こいつら、ハイエルフなんだよ。まったく、世界樹を荒らされたと思っていきり立ってるんだ。どうしようもない。自分達で呼び込んだってのに」
困ったように、だが、周りに聞かせるように言葉を発し、余裕の表情で家から離れるように歩き出す。
モペアの言葉で気がつく。ここは森の中ではない。
地面が見えない。この家からはずれると、下には何もない。ただ生い茂る木の枝があるだけだ。さらに先には、雲と夜の闇が広がっている。だからこそ、空中にある森だと判断した。
だが、違う。
この家は右手側から伸びた巨大な枝に引っかかっているだけなのだ。森ではなく、一本の木。
つまりここは巨大な木の上。先ほどのモペアの言葉から察するに、世界樹の上ということになる。
「うっ、動くな!」
再び矢が放たれる。それはいままでとは違い。
モペアの胸に突き刺さる。
「しまっ……」
直後、森から声が聞こえる。当てるつもりはなかったようだ。
「お姉ちゃん!」
ノアの悲痛な叫びが森に響く。
「大丈夫だよ。ノア」
オレ達の方をみて、モペアが笑い、胸から矢を引き抜く。
「モペア……」
「大丈夫だって。この矢は、矢じりも含めて全部木製なんだ。森で生まれた物に、あたしは傷つかない。それに……」
『パチン』
引き抜いた矢を足下に捨て、ツインテールの2人に向かって手を伸ばし指を鳴らす。
すると、家の扉を塞いでいた蔓はほどけ、逆に2人のツインテールに絡みついた。
「どうして?」
「どうしてって……、世界樹の上、そこに寄り添う森の草花。ここまであたしにとって最高の舞台で、このドライアドであるモペア様が、ハイエルフごときに遅れをとるわけないだろう」
「すごい」
「まったく、頑固者のハイエルフときたら……それに引き換えリーダ達は、どれだけ矢を射られ脅されても、ギリギリまで決して話し合いを止めようとしなかった。あたしは、皆のそういうところが好きなんだ」
過大評価されている気もするが、とても強力な援軍にホッとする。
数では圧倒的に不利だが、ずいぶんと気楽になった。
「助かったよモペア」
「お姉ちゃん!」
「へーき、へーき。だからさ、ノア。ここは、お姉ちゃんにまかせとけ」
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