召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
228 / 830
第十三章 肉が離れて実が来る

みえなかったのうき

しおりを挟む
 ノアが持っていた母親の物と思われる手帳。
 真っ赤な手帳に巻き付いた真っ赤なテープをカガミがそっと触れる。

「これは封印だと思います。思いません?」
「確かにカガミ氏の言う通りだ。厳重に封印がされている。そんな感じだぞ、これ」
「まぁ……この件もおいおい調べていこうか。ノア、これを借りてていい?」
「うん、いいよ」

 そんなわけで、手帳を開く方法の手がかりが何かないかと考えるが、ホイホイうまく思いつくわけもなく、日々が過ぎていった。
 魔石ノイタイエルについても、目録をあたるが見つからない。
 仕方ないので魔導具に関する本を読みあさり、ヒントだけでも探そうということになった。対して、仕事は着々と進み、魔法陣の修復、バックドアの改ざんも順調だ。
 夕食時の会話から、ノアや獣人達3人も日々を充実して過ごしていることが分かる。
 時間にも余裕があるゆったりとした時間。
 ノアは長老から魔法を習ったそうだ。
 それも、とんでもなく強力な魔法。

「星落とし?」
「うん。お空にある使われていない魔法陣を地上に落とす魔法なの」
「ノアサリーナが持つ魔力の色が、解放だからの。相性が良い魔法なんじゃよ」

 にこやかに長老が付け加える。
 なんか聞く限り過ごそうな魔法だ。

「試してみたっスか?」

 プレインの言葉に、ノアが大きく頷く。

「長老様が、練習用に沢山の触媒を用意してくれて練習したよ。魔法陣がすっごく難しいの」
「確かに、魔法陣が特殊であるからの、よく頑張ったものよ」

 ノアの言葉に、リスティネルが賞賛の声を送る。シューヌピアさんも、驚いている様子から、魔法陣は相当複雑なようだ。

「長老様が用意した触媒ってのは? 世界樹の樹液か、何か、でしょうか?」
「星落としの触媒は、星ときまっておる」

 カガミの質問に、リスティネルが星だと答えたが……星?

「え?」
「極光魔法陣じゃよ。練習のため、簡単な極光魔法陣をこさえてな。それを触媒にしたんじゃよ」
「ノアサリーナには、星落としに必要な知識の全てを伝えた。あとで聞くがよかろ。私は、小難しい話を夜通ししたくはない」

 そういって、リスティネルは話題を打ち切る。
 長老も、リスティネルも、事も無げに言うが、いろいろととんでもないことを言っていた気がする。
 その後、リスティネルから話題の転換を迫られたシューヌピアさんが、少し可愛そうだった。
 他にも、獣人達3人は音楽を習ったことを聴いた。
 気球に乗っていたときに、ロック鳥に襲われた話をしたら、何人かのハイエルフが対策を教えてくれたそうだ。
 それが、音楽。
 音楽で鳥が操れるらしい。
 それで、そのための音楽を練習したのだとか。
 一足先に聞いたノアも絶賛していた。
 是非とも3人の音楽を聴いてみたい……というのは、少し前のお話。
 小さなギターに似た楽器。卵の様な外見をした木製のオカリナ。そして、タンバリン。
 鳴り響く音楽に合わせるように舞う小鳥。
 音楽の練習する3人を眺めるのは、早く帰ったときの日課になりつつある。
 今の仕事を受けたとき、大量の飛行島をまのあたりにして、泣きたい気分になったものだ。
 だが、ゴールが見えてくると名残惜しくなる。
 最近はもう少しのんびりしていても良いかなと思っていた。
 ところが、予想外の事態が進行していた。

「ずいぶんのんびりしておるが、時間がないのではないかえ?」

 のんびりムードだったオレ達に、リスティネルが怪訝な調子で聞いてくる。
 時間がない?
 魔神復活が近いということか?
 カスピタータは、別にそんなに急がせる様子ではなかった。
 どういうことだろうか。

「魔神復活が近いということでしょうか?」
「ん? いや、それは先だが……其方ら、大平原で肉を食いたいのであろう?」
「そうですけど」
「王の月に訪れた其方らは、姫、冠と過ごし、眠りまであとわずか……ほれ、冬も間近であろう。大平原にも雪が降る。肉の美味しい季節は終わり、保存肉を用意する頃合いとなる」
「本当だ。おいら達が、お嬢様と出会ってから1年になります」

 え? そうなの?
 月日の経過なんて殆ど考えていなかった。

「そうねぇ。リーダ達が来てから1年過ぎちゃったものねぇ」
「いつ?」

 オレの側で軽い調子で呟くロンロに思わず聞き返す。

「クイットパースを出たあたりで1年よぉ」

 結構前の話ではないか。なんてことだ、あっという間に1年過ぎていたのか。どうでもいいけれど。

「え? 何々? 大平原に降りても美味しいお肉は食べられないってこと?」

 なんてことだ。意外すぎる伏兵がいた。
 リスティネルの言葉通りであれば、残り1ヶ月もないのか。
 確か、去年の雪は……やばいな。
 納期なし美味しいご飯に快適生活、そんなダラダラ余裕のプロジェクトのはずが、一気に納期に追われることになる。

「どうするんスか?」
「あの、一回降りるってのは?」
「さすがに、理由が理由ですし……多分、私達の会議を冒涜したと怒る者も多数でるかと」

 世界樹を降りて肉を食って戻るのは無理か。
 うーん。

「雪解けっていつ頃になるんですか?」
「ともかく狩りの再開は、緑か、紫よの……もっとも、雪解けすぐは肉は上手くはない。冬眠明けは肉が細い。それに来年はどうなることやら」

 先ほどから、王だの眠りだのわかりにくい。たまに聞くから睦月、如月、弥生といったような月の数え方というのは分かるが、どれがどれだかわからない。

「リーダ達の呼び方だとぉ。4月か5月ってことねぇ。今が10月の終わりになるのかしらぁ」

 絶妙なタイミングでロンロの解説が入る。
 つまり、今が10月で12月には雪が降るということか。
 半年まてば狩りの再開は目前だが、肉が旨くない……。美味しい肉を食べるには、今を逃すと来年ということになる……か。
 来年まで待つことも考えたが、年があけても肉の美味しい季節まではまだまだ先だ。リスティネルの言葉からも、来年の状況が読めないことがわかる。
 魔神が復活なんてした日には、肉なんてぼやく暇などないだろう。

「どうしようリーダ」

 ミズキが潤んだ目で見つめてくる。すごいな、意識して涙目になれるんだ。
 だが、外見がどうであれ心の声は聞こえる。
 肉が食いたい。できるだけ、可及的、すみやかに。
 今後の作業を考える。

「命をすり減らす覚悟が必要だな……」

 オレの言葉に、同僚達は無言で目をそらし、ノア達は神妙に頷いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...