召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十四章 異質なるモノ、人心を惑わす

閑話 一難去って、また一難(イアメスこと金獅子キンダッタ視点)

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 私は命からがら逃げ出した。
 彼らが遊牧民との出会いに浮き足立った、その一瞬の隙をついて、気配を消し姿を消す。
 もうあんな奴らには構っていられない。
 私は必死に馬を走らせた。
 そして、港町へとたどり着く。とりあえず他の金獅子達に合流する予定だ。
 どうせ、誰も彼らの場所を把握できていないに違いない。少なくとも、呪い子一行には、あらゆる面で勝ち目がない。それに奴らの思考が読めないため、対策すら立てることができない。関わるだけ損だ。
 今回のことは無かったことにしようと思う。
 ところがそんなに話は甘くなかった。

「なんですと?」
「二度も言わせるな。キンダッタ。貴様が、何処に行っていたのかを問わない。だが奴らを見つけたのだ」

 何と! 戻るのが一足遅かった。
 追跡を恐れ、遠回りして逃げたのが失策だったのだ。
 続く説明で、遊牧民達を通して場所が判明したことを知る。

「して、王はこのことをご存じなのか?」

 さすがの王も、大平原の、それも世界樹の側に奴らがいるとは思わないだろう。ワタクシも、予想外の出来事だった。あれは予想できないはず。
 聡明な王であれば、事の異様さに警戒し、一度撤退するやもしれぬ。王は慎重なお方だ。

「王はたいそうお怒りだ。特に南方諸国の王達に、我らの事を伝えた直後ゆえ。誰も王の怒りを止めることはできぬ。我らはケルワテにて足跡を失ったという失態。さらには遊牧民の王を通じて、奴らの居場所を知ったという失態を取り戻さねばならぬ」

 そんな。
 王は怒りに震え、細々とした事に目がいっていないのか。

「して、ここにいる者だけで行動を起こすと?」
「そうだ。故に、其方もアレイアチを捕らえていたな。悠長なことはできぬ。王がこの場に来られるまえに、何らかの成果を得なくてはならぬ」

 ここにいる金獅子達の様子から、今にも飛び出しそうな様子が見て取れた。
 ワタクシが、この場所を出るときはもっと緩んだ空気だった。
 それが今無い。
 王の怒りを知り、前のめりになっているのだ。
 ワタクシが、偶然にも奴らと遭遇し、功を焦ったように。
 だが、このように殺気だった集団に何ができようというのだ。
 計略にしろ、取り入るにしろ、むき出しの殺気は不要だ。
 あちらにはハロルドがいる。
 このままでは、得るものなく、最悪全滅。
 ワタクシは仲間がやられるのを良しとしない。必死に止めた。

「奴らの元にはあのハロルドがいるのですゾ」
「想像を絶する強力な魔法使いなのですゾ」
「ハロルドが言うには、呪い子は単独にて星降りという魔法を使い、星降りの姫という二つ名を持っているそうですゾ」
「アレイアチが、魔法と魔導具により始末されたのですゾ」

 あらゆる脅威を伝える警告の言葉も、皆には通じなかった。
 臆病者と罵られ、拘束され、王の元へと突き出された。
 怒りに身を震わせた王の前に。
 船が小さく揺れる。
 誰も言葉を発しない。静寂の空間。あるのは波の音と、港の住人が遠くで会話する声音のみ。

「敵わないと、言っていたそうだな」

 私は一生懸命に、奴らのことを話した。
 王は無言で椅子に深く腰掛けワタクシの言葉を聞かれた。
 無言にもかかわらず王の怒りを感じ、口は渇き、声がなかなか出ない。だが、奴らのことをありのまま説明する。

「ハロルドが生きていたと?」
「左様です」
「そして、呪い子の従者は、強力な魔導具をつかいアレイアチを瞬殺したと?」
「左様です。大地はえぐれ、天が裂けるほどの一撃だったのです」
「ノアサリーナは星降りを使えると?」
「ハロルドがそう申しておりました」

 しばらくのやり取りを終え、王は無言になった。
 椅子に座り、冷ややかにワタクシを見下ろす時間がすぎた。
 王の視線に耐えきれず、俯く。

「彼らとどうして会えたのだ?」
「偶然なのです。偶然、遭遇したのです。王よ」
「奴らはどうして世界樹まで行ったのだ?」
「方法も、目的も、分かりません」
「話にならんな。ハロルドの名前を出せば何とかなると思ったのか?」

 信用していただけない。
 他の金獅子達もそうだった。
 ワタクシの言葉が荒唐無稽であるからだ。
 それは重々承知だ。
 だがワタクシは仲間をむざむざと殺させるわけにはいかないのだ。
 味方を思いやるのも、無駄死にさせないのも本物の金獅子が進むべき道なのだ。
 奴らが何を考えているのかわからない。
 ノアサリーナは年相応の子供に見えた。
 だが油断はできない。

「拙者達は、敵を見逃す性分はない。敵がどんなに逃げようとも……そう例え金獅子であろうとも、星降りの姫、ノアサリーナ姫様の振るう大魔法星降りからは逃げられぬ。粉々になるであろうな」

 ハロルドはそう言った。
 にこやかに笑いながら、しかし真に迫ったハロルドの顔が忘れられない。

「星降り」

 ふと漏らした一言。
 ずっと無言だった王は、ワタクシの誰に聞かせるでもない小さな呟きに答えるように、声を出した。

「星降りというのはだな」
「はい」
「ヨラン王国の宮廷魔術師団が3つの夜をまたぎ準備し、詠唱し使う魔法だ。大国の力を象徴するとまで言える大魔法だ」

 それほどの大魔法だったとは。では、ハロルドは冗談を言ったのか?
 だが、あの時の顔は冗談とは思えなかった。
 無言のワタクシに、王は吐き捨てるように言葉を続けた。

「子供が使えるわけなかろう」

 そして立ち上がり、ワタクシの耳を軽く手ではじいた。

「金獅子に、お前のようなつまらぬ者がいたとはな」

 続く王の言葉から、ワタクシのいかなる言葉も、偽りだと判断されたことに気がついた。
 処刑。
 最悪の言葉が脳裏に浮かぶ。
 ワタクシは真実を告げるべきではなかったのか。
 自分の行動に後悔し始めた時、それは起こった。

「あれは?」

 側にいた金獅子の1人が窓の外を見る。
 王は金獅子の指さす方向を一瞥し、目を見開いた。

「あれは白孔雀。なぜ、この場に?」

 白孔雀。
 幻の鳥と言われる巨大な白い鳥だ。
 吉報を運び、進軍の方向が白孔雀と同じ方向であれば、戦場においては生還が約束されるという。
 優雅に体をひねり、白孔雀はワタクシの前に舞い降りた。
 こんなに近くでみるのは初めてだ。これほどまでに、見事で美しい鳥だったとは。

「イアメス殿はまだまだ伸びしろがあるでござる。毎日の鍛錬を積むべきでござる。拙者ならそんな」

 そして、王の眼前で、白孔雀は言葉を話す。
 ハロルドの声音だ。

「この声は……」
「うがぐぐ」

 続けて、白孔雀は、口から袋を吐き出した。
 それから大きく体を伸ばしたかと思うと、ビキビキと音をたてで姿を変える。

「白孔雀が、トーク鳥に?」
「足の魔道具を再生させろ」

 王の言葉に、ワタクシのすぐ目の前にトーク鳥が運ばれる。
 言われるがまま、足につけられた魔導具に手を触れ、定められた手順で魔導具を再生する。

「肉が食いたいだけ。小細工をせずに素直に案内すればよろしい。オーホホホ」

 以前に聞いたのと同じ、不気味な女の声が響きわたる。この声の主は、とうとう最後まで誰かわからなかった。

「キンダッタ。この袋は其方の物か?」

 金獅子の言葉にワタクシは小さく首を振る。何が入っているのか、見当もつかない。紙製の袋? 紙でわざわざ袋を作った?

「袋を開けよ」
「なんでしょうか?」

 あれはドーナツと言われる菓子だ。なぜ、白孔雀は、これを運んできたのだ?

「これは先ほど、キンダッタが申していた菓子だと思われます。王よ」
「食べよ」

 私の眼前にドーナツが1つ投げられる。毒味をせよとの仰せだ。
 とても甘く、香ばしくサクサクとした食感が楽しい。まるで作りたてのようだ。

「……問題なさそうですな」
「よこせ」
「は!」

 金獅子の1人が、小袋をうやうやしく王へと渡す。
 王は無造作に一つを掴みあげると一飲みにした。
 少し頷き。それから長い沈黙があった。
 最初と同じ、波の音と、遠く港の者達が動く音がした。

「ハッハッハッハッハッ!」

 そして、あたりに響くように、王は笑い、言葉を続けた。

「許せ。キンダッタ。其方の話はすべて本当だったようだ」
「はっ。勿体ないお言葉」
「トーク鳥を白孔雀へと変化し、そして使役するか。確かに、其方の話は本当だと信じさせるに足りるだけの力を持っているようだ。この揚げ菓子も見たことがなく、とても美味であった」
「では、さきほどの声は……ハロルド、ということでしょうか?」
「うむ。まごうことなきハロルドの声であった」

 一転して上機嫌になった王に、周りの緊張も和らいだのが分かる。

「なんと! キンダッタの言葉が全て本当だったというのか」
「我らが、あのままやつらと敵対していれば皆殺しにされていたと……」
「そのような事が」

 周りに控えていた金獅子が次々に驚きの言葉を口にする。

「キンダッタを放せ」

 すぐさまはワタクシに欠けられた首輪は外され、自由の身になった。
 助かったのだ。
 放たれ安堵したワタクシを前に王が言葉を発する。

「浅慮であったようだ。まだまだ、我の知らぬことが多いと気付かされた」

 さすがは王だ。常に謙虚に、貪欲に成長なされようとする。ワタクシも見習わなければ。

「いえ、王よ。ワタクシも言葉が足りず……金獅子として未熟でありました」
「いえ、王よ。キンダッタだけではございませぬ。我らも、裏を取るという基礎さえできておりませんでした」

 周りの金獅子が次々と自らの不足を恥じる。

「それにしても、キンダッタよ。其方こそ、金獅子と名乗るに相応しい男よ」
「とんでもございませぬ」
「武力で敵わないと知るや否や、懐柔に全力を傾け、これほどまでの信頼を短期間に得るとはな。其方のトーク鳥を返すためだけに、これほどの大魔法を使わせるとは、信頼の証し、そのものではないか」

 あまりの絶賛に、こそばゆい。
 先ほどまで、死の可能性があっただけに、余計にそう感じるのかもしれない。

「ハハッ」
「うむ。キンダッタよ」
「はい」
「再度、奴らの元に行き、奴らの目的、力量、あらゆることをできるだけ詳しく調べるのだ」

 んな!

 なんですと?
 ワタクシは彼らが怖い。目の前でアレイアチを軽く倒すような奴らだ。
 おまけに何を考えているのかさっぱりわからない。
 あれほどの力をもって、観光の旅ですと言われても、理解ができないのだ。
 ワタクシがあれほどの力があれば、かの麗しきエスメラーニャ殿と同等の家格を要求するなり、勇者の軍に志願するなりするだろう。
 しかも、敵だと疑われるような状況だった。ワタクシの機転がなければ、すぐさま奴らにバレていたはず。
 少なくともリーダという男は、ワタクシを金獅子だと疑い、ハロルドの言葉が真実であれば、バレた瞬間殺される可能性が高いのだ。
 命からがら逃げてきたのだ。
 情報を得られるどころではない。下手をすれば、奴らの情報ではなく、ワタクシ達の情報が引き出され終わるやもしれない。捕まって拷問にかけられたらどうするというのだ。

「王よ。奴らは得体の知れない存在でございます。これ以上の接触は、致命的な失策に繋がるやもしれません」

 ワタクシの言葉に、王はニヤリと笑う。

「分かっている。だからこそ、其方なのだ」

 話が変な方向に動いていく。

「王から、指名され、直々の任にあたるとは」
「だが、キンダッタの働きは見事だ。応援するほかあるまい」

 背後から、本当に小さな声で言葉が交わされている。

「今一度、遊牧民達の元へ行き、足跡を追うのだ。キンダッタよ!」

 逆らいようのない非情な命令を前に、ワタクシは目の前が真っ暗になった。
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