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第十五章 おとぎ話にふれて
ほんとうのすがた
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オレ達が降りてきた坂道も、そしてトーテムポールがあった空間も、瞬く間に崩れ落ち、土砂に埋まった。
突然のことに頭がうまく働かない。
「カガミ! とりあえず壁でオレ達を囲んでくれ」
何とか絞り出し、カガミに呼びかける。
オレの声に反応し、電流が走ったようにビクリと動き、彼女は服の袖を震えるてで摘まむ。
あの辺りに壁を作る魔法陣が縫い込んであるのだろう、それからすぐに詠唱する。
だが、焦りは明らかだった。
震える声での詠唱は、突如止まり、頭を振る。
「もう一回初めから……」
カガミが呟いた。
もう間に合わない。
『ドォン』
ひときわ大きな音が響く、そして次の瞬間崩落は止まった。
「私じゃない……え?」
カガミが小さく呟いた後、驚きの様子でオレの背後を見た。
その視線の先を、振り返り、オレも見る。
降り注ぐ土砂を、体を張り、ヒューレイストが受け止めていた。
そう。ヒューレイスト。
だが、いつもの彼とは違う。
オレ達の何十倍もある巨体。
そう、その崩落を受け止めたのは巨大化したヒューレイストだったのだ。
見下ろした彼と視線が合う。
「皆……無事のようだ。よかった」
小さく呻いた後、絞り出すようにヒューレイストは言った。
降り注ぐ土砂をその体で受け止めている為か、それとも土砂の重さによるものか、酷く辛そうな声音だった。
「いけません! そのままではあなたが!」
アンクホルタが悲鳴のような声をあげる。
「お嬢。誰かがこうしなくては全滅したのです」
「だが、お前が……」
「誰がやっても良かっただろう? 老い先短い、わしがやるのが一番だった。今回は惜しかったのだ、あと、3ヶ月ある。大丈夫、きっと上手くいく」
「あ……あ……あぁ」
アンクホルタが声を詰まらせる。
「ところで皆さん。わしはこれを支えるので精一杯だ。なんとか脱出する方法を考えて欲しい」
「えぇ。お任せ下さい」
方法ならあてがある。魔導弓タイマーネタ。あれで天井を吹っ飛ばし穴を開ける。
ヒューレイストに当たらないように、気をつける必要はあるが問題ない。
すぐに魔導弓タイマーネタを取り出し、上に向ける。
サムソンに手伝ってもらい、位置を調整し、触媒をぶち込む。
落ち着いてやれば、問題なくできるはずだ。
「ゴホッ。ゴホッ」
ヒューレイストの咳き込む音が辺りに響く。
その後何かを飲み込むような音が響いた。
「もう、やめて、土砂を受け止めるなら、わたくしでもできます!」
アンクホルタが泣きながらヒューレイストに訴える。
「ひょっとして、苦しそうなのは土砂の重さなんかが理由じゃない?」
オレの独り言が聞こえたのだろうか、ヒューレイストが苦しげに笑う。
「そうだ、我ら巨人族がこの地で巨人になれば、モルススの毒にやられ、長くは持たない」
「でも、あれって昔話じゃなかったんスか?」
「人にとって、多くの獣人にとって、過去の話であっても……モルススの毒は、いまだ世界を覆っている。薄くなったとはいえ、我らには毒であることは変わりない」
「もういい。必要なら、私が他の者に話して聞かせる、お前は喋るな」
ウートカルデが苦しそうに話すヒューレイストを止める。
ヒューレイストの話を聞きながらも、オレはタイマーネタを上に持ち上げ、発射の準備を進めていく。
サムソンも、ゴーレムの手で発射位置の微調整を手伝ってくれた。
触媒も込めた。
あとは発射だけだ。
ひどく苦しそうなヒューレイストが気になる。
急がなくては。
ヒューレイストの顔は、すでに真っ青だ。
苦しいのを必死にこらえて、下にいるアンクホルタ達へ慰めているように声をかけている。
早く。早くしなくては。
「ラルトリッシに囁き……」
いつものようにキーワードを呟き、手を動かす。
勢いよく。
それで、フルパワーだ。大丈夫。貫けるはずだ。
そして、タイマーネタを発射する。
ただ、発射の瞬間。
「ダメ!」
ノアがタイマーネタの射線上に飛び上がった。
いや、射線上のさらに先へと身を乗り出し、その先にある何かを掴もうとしたのだ。
慌てて手の動きを止める。だが、完全には止められない。
フルパワーで発射されなかったが、巨大な魔法の矢が、ノアへと襲いかかる。
『ドォン』
爆裂音をたてて、砂埃がヒューレイストの体によって作られた空洞に舞う。
大量の血とともに、ノアが地面へと落下する。
ノア!
不味い。なんてことだ。
「ノア!」
大声で叫ぶ。
ノアは叫ぶオレの顔を見て、大きく口を開けて凍りついたように動きを止めた。
よかった無事だ。
でも、あんなに血が……。
「カガミ!」
「大丈夫。怪我はしていない……でも」
いち早く、ノアに駆けつけたカガミがノアをみて、声をあげる。
「怖かったよね。ノアちゃん?」
優しく声をかけるカガミをチラリとみて、ノアが泣き出した。
大きな泣き声が小さな空間に響き渡る。
でも、どうしてノアは飛び出したんだ?
何があったんだ?
「大丈夫だ。嬢ちゃん。わしは平気だし、それにほら」
巨人となったヒューレイスト震えながらも片手をゆっくり降ろし、手を開いた。
大量に流れた血は、ヒューレイストが手を怪我をして流した血だったようだ。
そして、ノアとヒューレイストが、必死になってかばったもの。
それはモグラだった。
先程、ゲオルニクスが連れていたモグラの1匹のようだ。
射線上にそいつはいたのだろう。
なんてことだ。
気がつかなかった。
「ごめんなざい。ヒック……ごべんなさい……ごめんなさい」
泣きながら、えづきながらノアが繰り返し謝る。
「気にすることはない。わしはかすり傷だ。ほれ、このとおり巨人だから、流す血もほんのすこし多めなだけ。だから泣くな。な?」
ヒューレイストが、ことさらにゆっくりと声を出した。
苦しいのを耐えながら、ノアを思いやって、ゆっくりと。
そうだ。ノアが謝ることはない。
そもそも、射線上の確認が不足していたオレのミスだ。
「もうわかっただろう。わしはもうすぐ死ぬ。モルススの毒、はたまた迷宮の瘴気、すでに手持ちの薬ではまにあわん。それに、わしは怪我をしても当然だ。死んでもしょうがないだけのことを、そなたたちに思っておった。いざとなれば、お前達を捨て石にするつもりでおったのだ」
「でも、そんな」
それは違う。思うのは自由だ。
オレだって、いざとなればノアや同僚を優先する。
そんなのは死んでもいい理由にならない。
「だから、これでお互い様。さて、先程のやつをもう一回ぶちかますんだろう?」
そうだった。
こんな話をしている間も、ヒューレイストの様子はどんどん悪くなっている。
急がなくては。
「サムソン、頼む」
「まかせろ」
もう一度、魔導弓タイマーネタを持ち上げる。
今度はきちんと、射線を確認して。
間違わないように狙いをつけて。
前もそうだった。
あれほどの大破壊力を持つ攻撃を放つというのに、オレは前方に何があるかどうかをロクに把握していなかった。
前回は油断から。そして今回は焦りから。
オレが射線上をきちんと把握しておけば、こんなことにはならなかったのだ。
「ノアのせいじゃないよ」
えぐっえぐっと、しゃっくりをあげるノアに声をかける。
ノアのせいではない。泣く必要なんてないよと、声をかける。
今度は何もないことを睨みつけ、もう一度タイマーネタを発射すべく触媒を込める。
その時だった。
「てやんでぇ」
その場にいた誰でもない声、甲高い声が聞こえた。
突然のことに頭がうまく働かない。
「カガミ! とりあえず壁でオレ達を囲んでくれ」
何とか絞り出し、カガミに呼びかける。
オレの声に反応し、電流が走ったようにビクリと動き、彼女は服の袖を震えるてで摘まむ。
あの辺りに壁を作る魔法陣が縫い込んであるのだろう、それからすぐに詠唱する。
だが、焦りは明らかだった。
震える声での詠唱は、突如止まり、頭を振る。
「もう一回初めから……」
カガミが呟いた。
もう間に合わない。
『ドォン』
ひときわ大きな音が響く、そして次の瞬間崩落は止まった。
「私じゃない……え?」
カガミが小さく呟いた後、驚きの様子でオレの背後を見た。
その視線の先を、振り返り、オレも見る。
降り注ぐ土砂を、体を張り、ヒューレイストが受け止めていた。
そう。ヒューレイスト。
だが、いつもの彼とは違う。
オレ達の何十倍もある巨体。
そう、その崩落を受け止めたのは巨大化したヒューレイストだったのだ。
見下ろした彼と視線が合う。
「皆……無事のようだ。よかった」
小さく呻いた後、絞り出すようにヒューレイストは言った。
降り注ぐ土砂をその体で受け止めている為か、それとも土砂の重さによるものか、酷く辛そうな声音だった。
「いけません! そのままではあなたが!」
アンクホルタが悲鳴のような声をあげる。
「お嬢。誰かがこうしなくては全滅したのです」
「だが、お前が……」
「誰がやっても良かっただろう? 老い先短い、わしがやるのが一番だった。今回は惜しかったのだ、あと、3ヶ月ある。大丈夫、きっと上手くいく」
「あ……あ……あぁ」
アンクホルタが声を詰まらせる。
「ところで皆さん。わしはこれを支えるので精一杯だ。なんとか脱出する方法を考えて欲しい」
「えぇ。お任せ下さい」
方法ならあてがある。魔導弓タイマーネタ。あれで天井を吹っ飛ばし穴を開ける。
ヒューレイストに当たらないように、気をつける必要はあるが問題ない。
すぐに魔導弓タイマーネタを取り出し、上に向ける。
サムソンに手伝ってもらい、位置を調整し、触媒をぶち込む。
落ち着いてやれば、問題なくできるはずだ。
「ゴホッ。ゴホッ」
ヒューレイストの咳き込む音が辺りに響く。
その後何かを飲み込むような音が響いた。
「もう、やめて、土砂を受け止めるなら、わたくしでもできます!」
アンクホルタが泣きながらヒューレイストに訴える。
「ひょっとして、苦しそうなのは土砂の重さなんかが理由じゃない?」
オレの独り言が聞こえたのだろうか、ヒューレイストが苦しげに笑う。
「そうだ、我ら巨人族がこの地で巨人になれば、モルススの毒にやられ、長くは持たない」
「でも、あれって昔話じゃなかったんスか?」
「人にとって、多くの獣人にとって、過去の話であっても……モルススの毒は、いまだ世界を覆っている。薄くなったとはいえ、我らには毒であることは変わりない」
「もういい。必要なら、私が他の者に話して聞かせる、お前は喋るな」
ウートカルデが苦しそうに話すヒューレイストを止める。
ヒューレイストの話を聞きながらも、オレはタイマーネタを上に持ち上げ、発射の準備を進めていく。
サムソンも、ゴーレムの手で発射位置の微調整を手伝ってくれた。
触媒も込めた。
あとは発射だけだ。
ひどく苦しそうなヒューレイストが気になる。
急がなくては。
ヒューレイストの顔は、すでに真っ青だ。
苦しいのを必死にこらえて、下にいるアンクホルタ達へ慰めているように声をかけている。
早く。早くしなくては。
「ラルトリッシに囁き……」
いつものようにキーワードを呟き、手を動かす。
勢いよく。
それで、フルパワーだ。大丈夫。貫けるはずだ。
そして、タイマーネタを発射する。
ただ、発射の瞬間。
「ダメ!」
ノアがタイマーネタの射線上に飛び上がった。
いや、射線上のさらに先へと身を乗り出し、その先にある何かを掴もうとしたのだ。
慌てて手の動きを止める。だが、完全には止められない。
フルパワーで発射されなかったが、巨大な魔法の矢が、ノアへと襲いかかる。
『ドォン』
爆裂音をたてて、砂埃がヒューレイストの体によって作られた空洞に舞う。
大量の血とともに、ノアが地面へと落下する。
ノア!
不味い。なんてことだ。
「ノア!」
大声で叫ぶ。
ノアは叫ぶオレの顔を見て、大きく口を開けて凍りついたように動きを止めた。
よかった無事だ。
でも、あんなに血が……。
「カガミ!」
「大丈夫。怪我はしていない……でも」
いち早く、ノアに駆けつけたカガミがノアをみて、声をあげる。
「怖かったよね。ノアちゃん?」
優しく声をかけるカガミをチラリとみて、ノアが泣き出した。
大きな泣き声が小さな空間に響き渡る。
でも、どうしてノアは飛び出したんだ?
何があったんだ?
「大丈夫だ。嬢ちゃん。わしは平気だし、それにほら」
巨人となったヒューレイスト震えながらも片手をゆっくり降ろし、手を開いた。
大量に流れた血は、ヒューレイストが手を怪我をして流した血だったようだ。
そして、ノアとヒューレイストが、必死になってかばったもの。
それはモグラだった。
先程、ゲオルニクスが連れていたモグラの1匹のようだ。
射線上にそいつはいたのだろう。
なんてことだ。
気がつかなかった。
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「気にすることはない。わしはかすり傷だ。ほれ、このとおり巨人だから、流す血もほんのすこし多めなだけ。だから泣くな。な?」
ヒューレイストが、ことさらにゆっくりと声を出した。
苦しいのを耐えながら、ノアを思いやって、ゆっくりと。
そうだ。ノアが謝ることはない。
そもそも、射線上の確認が不足していたオレのミスだ。
「もうわかっただろう。わしはもうすぐ死ぬ。モルススの毒、はたまた迷宮の瘴気、すでに手持ちの薬ではまにあわん。それに、わしは怪我をしても当然だ。死んでもしょうがないだけのことを、そなたたちに思っておった。いざとなれば、お前達を捨て石にするつもりでおったのだ」
「でも、そんな」
それは違う。思うのは自由だ。
オレだって、いざとなればノアや同僚を優先する。
そんなのは死んでもいい理由にならない。
「だから、これでお互い様。さて、先程のやつをもう一回ぶちかますんだろう?」
そうだった。
こんな話をしている間も、ヒューレイストの様子はどんどん悪くなっている。
急がなくては。
「サムソン、頼む」
「まかせろ」
もう一度、魔導弓タイマーネタを持ち上げる。
今度はきちんと、射線を確認して。
間違わないように狙いをつけて。
前もそうだった。
あれほどの大破壊力を持つ攻撃を放つというのに、オレは前方に何があるかどうかをロクに把握していなかった。
前回は油断から。そして今回は焦りから。
オレが射線上をきちんと把握しておけば、こんなことにはならなかったのだ。
「ノアのせいじゃないよ」
えぐっえぐっと、しゃっくりをあげるノアに声をかける。
ノアのせいではない。泣く必要なんてないよと、声をかける。
今度は何もないことを睨みつけ、もう一度タイマーネタを発射すべく触媒を込める。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
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アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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