召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十七章 立ちはだかる現実

こおりのじょおう

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 いきなり耳元で、ささやかれた声に驚き、あわてて前にかけ後ろを振り返る。
 青い髪、青い目、青い唇。
 そして肩が露出した青いドレス。
 どれもが水色に近い青。
 青に身を包まれた1人の女性がそこに立っていた。
 小さく微笑み、オレを見ていた。

「ふーん。とりあえず、お前がリーダね。思ったより、いい男じゃない」
「それは、ありがとうございます」

 なんだろ。
 思っていたようなキャラじゃないな。
 もっと、残酷なイメージだったんだが、楽しそうに微笑む彼女に違和感がある。
 残酷というより、人なつっこい、そんな感じだ。
 だが油断はできない。
 彼女は、つい今し方ロンロを凍らせたのだ。
 とは言え、すこし調子が狂う。

「あの、ミランダ様でしょうか?」

 カガミが、おずおずといった様子で声をかける。
 声音といい、少し首を傾げて聞く様子に、警戒ながらも、不快感を与えないように気をつけているのがわかる。

「そうだよ。看破で見れば分かるだろ? あぁ、そういえば名乗るのが礼儀だったか。悪いね。人に名を聞かれたり、名乗ることが少なくてね。確かに、私がミランダだ」
「左様でしたか。ところで今日はなぜこちらへ?」
「んー。ノアサリーナに会いに来たの。せっかく訪ねて来たらいないじゃない。探して回ろうかと思ったけれども、面倒くさくなったんでね。だから、ここでしばらく時間をさせてもらったというわけ」
「屋敷を氷漬けにして?」
「暑いのは苦手でねぇ」

 体をゆらゆらと揺らしながら、まるで雑談をするかのように、ミランダ楽しそうに言った。
 氷の女王って言われるぐらいだから、寒いのが好きなのか。
 そしてノアをみて、言葉を続ける。

「で、そこにいる小娘がノアサリーナね」
「ええ、ノアサリーナお嬢様です。ところで、ロンロをなぜ攻撃したのですか?」

 とりあえずミランダは友好的なようだ。
 だが、ロンロを攻撃した理由は把握しておきたい。
 理由によっては、オレ達も無事ではいられない可能性がある。

「ロンロ?」
「あそこに居る」
「へぇ!」

 オレが氷漬けになったロンロへと視線をやると、ミランダは驚きの表情をうかべ、大きな声をあげた。

「そうです、あそこに居る。ロンロをです」
「リーダ。お前にはあれが見えるの?」
「えぇ。見えます」
「ウフフ、ウフフフフ」

 その言葉を聞いて、ミランダが可笑しそうに笑った。そして、言葉を続ける。

「そう。こいつは本来、呪い子にしか見えない。自らを呪い子の侍従と呼ぶ存在」
「侍従?」

 そういえば、誰かがそんなことを言っていたな。
 あれは、確か……ケルワテ。
 そうだ。
 ケルワテで出会ったロンロにそっくりな女。

「呪い子にささやくの。こいつらはね。そうして、呪い子を思うままに操って、そして過ちを犯させる。お前は不思議に思ったことがないの?」
「何の事でしょうか?」
「異常な魔力をもっているとはいえ、世の中の人々、その全てから疎まれる呪い子が、満足に生きていけると? 呪い子とはいえ、人には違いない。生まれ、1人で暮らせるようになるまで、時間がかかる。生まれて、すぐに呪われてることが分かるような子供が、大きくなれると? 誰の援助もなく、大きくなれると思って?」

 それが確かに不思議に思っていた。
 ノアには、母親がいた。だから、母親がノアを育てていた。
 では、他の呪い子は、どうなのだろうかと。
 親は当然いるだろう。だが、全ての親が、育てきることができるのだろうか。
 呪い子を育てるというのは、大きな重荷を背負うことでもある。
 この世界は、オレ達がいた元の世界よりも過酷だ。
 ただ生きるだけでも過酷だ。
 耐えきれなくなり、呪い子をそうそうに捨てるかもしれない。
 呪われると分かっていても、それでもだ。

「つまり、子供の呪い子に、ロンロのようなものが生きるための助言をしていると?」
「助言……そうねぇ。それだけはないけどねぇ。最初は……姿を見せない。呪い子の呪いを隠し、大人に育てさせ、頃合いを見て呪いを発現させる」
「呪いを隠す? その、ロンロみたいなのが、侍従とかいうのが、呪いを操るというのか?」

 言われて思い出す。
 確か、ケルワテで出会った呪い子も、急に呪い子の気配をまといだした。
 同じように、赤ん坊の頃は、呪いを隠して、大きくなったら呪いを発現する……ということか。

「物心がついた後、呪いを発現させる。孤独になった時点で、呪い子の前に姿を現し、それから先は助言を与える。頼るべき者がいない呪い子は、いいなりになるほかない」
「呪いというわりには、やたらと……なんというか、こう、手間をかけるという印象だな」
「そう。呪い子には役割がある。少なくても、侍従はそう思っている。そして、彼女達は、呪い子を育て、自らの目的のために使う」

 ミランダの言っていることは、ケルワテで出会ったエッレエレの境遇に合致する。
 でも、ロンロにはそんなそぶりがなかった。

「ところで、その侍従の目的というのは?」
「さて、そこまでは分からないねぇ」
「言っていることは理解しました。ですが、ロンロからはそんな印象を受けません」

 ロンロは、間抜けなところはあるが、いつもオレ達の味方をしてくれていた。
 ノアの事を本当に思っていた。

「ふぅん。似て非なる者かもね。じゃぁ、私からも質問。なぜ、お前は、アレが見える? 他にも見える者がいるの? 他にも同じようなのを見たことあるの?」

 ミランダは、オレ達の知らないことを知っている。
 できれば、今後のためにも、情報交換ができる状況にもっていきたい。
 そうであれば、こちらもできる限り情報を提供することにする。
 少なくとも、ミランダは争う様子はなさそうだしな。

「見える理由はわかりません。そこのカガミも、プレインとサムソンも、ミズキも見ることができます。あとは……同じようなのには会ったことがあります。殺されかけました」

 隠し事しつつ、有益な情報交換なんてできない……というか、オレにはそんな器用な真似できない。相手は、恐れられているミランダだ。
 嘘を言う必要はないだろうと、正直に答える。

「あぁ、そうなのね」
「ところで、ロンロは見逃してもらえませんか?」
「見逃す? ただ、凍らせただけ。私は、私の言葉をこいつに聞いて欲しくはない」

 そういって、ロンロの側までミランダは歩く。
 そして、握った手で、コンコンと軽くロンロをたたいて、言葉を続ける。

「殺してはいないわ」

 その言葉に引っかかりを覚える。
 殺すことができるのか?
 こいつを、ロンロを。
 今まで、誰も触れることもできなかった。
 だがミランダはそれができるという。
 実際に氷漬けにしてみせている。
 どうやって、それを可能にしているのかわからない。
 オレ達を遙かに超える魔力を持つノア。
 そのノアを超える魔力を持つ呪い子ミランダ。
 さらに彼女は、その強大な魔力に加え、支配者たる王の権限を持つ。
 世界最強の呪い子と名高い、氷の女王ミランダというのは伊達ではないようだ。

「では、ミランダ様。あとでかまいません。助けて欲しいと思います」

 カガミが、ミランダへと声をかけた。
 その言葉を聞いて、ミランダが小さく、そして悪戯っぽく笑う。

「どうしようか」

 そういうとミランダはオレの方へと近づいてきた。
 すぐオレの側まで近づき、下から見上げるようにこちらを見て、オレの額へと手も伸ばしてきた。

「ダメ! ダメなの!」

 そんな時に、ノアがオレとミランダの間に割り込んで両手を広げた。
 まるで通せんぼするように。
 ノアは、ミランダを見上げながら睨みつける。
 一瞬、ノアが危ないとミランダの顔を見たが、すぐに大丈夫だと思った。
 ミランダは笑いをこらえるように、顔をこわばらせていた。
 両手を軽く上にあげて、指をヒラヒラと動かしている。

「いいじゃない」
「ダメなの!」
「そんなにいっぱいいるんだから、1人ぐらい私にちょうだいよ」

 ミランダが、思わず笑みがもれた様子でニマニマ笑い、ノアを見下ろす。
 対してノアは真剣そのものだ。

「ダメ!」

 どうにも、見る限り、年上のお姉さんが子供をからかっているような感じだ。
 だが、ノアは自分がからかわれているとは考えてもいない。

「じゃぁ、あっちの背の高いお兄さん……いや、やっぱりリーダがいいな」
「ダメ! ハロルド早くこいつをやっつけて!」

 ノアが必死な声をあげた。

「ハロルド?」

 その言葉を聞いて、ミランダが怪訝そうな声を上げた。

「久しぶりでござるな」

 そこで初めてハロルドはこちらに近づいてくる。

「げぇ! ハロルド!」

 ミランダが心底驚いた声を上げて、後ろに大きく下がった。
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