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第十九章 帝国への旅
じしょうかっこいいひと
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緩やかな斜面を上り下りし、右へ左へと道を曲がり、穏やかな気候の中、オレ達は進む。
地図で見ればまっすぐな一本道だが、街道沿いは右へ左へと緩やかにカーブが続く。
「次の分かれ道は右だな」
「はい」
同僚達と交代で地図を見ながらナビをして、ピッキーやトッキーの御者で海亀は進む。
道はとても整備されているので、進むのに苦労はない。
「順調。順調」
「はい」
「次はさらに右だ」
「あの山を登るんですね」
「そうだな」
フェッカトールの用意してくれた地図はとても立派なものだった。
そして正確だ。
おかげで道に迷うということがない。
書いてある通りに進めば、書いてある場所に着く。
それに海亀を引っ張る茶釜達もとても優秀だ。
茶釜達エルフ馬に引っ張ってもらえば、普通の馬よりも速く走れる。
おかげで、おそらく当初の予定よりもずっと早く進んでいると思う。
「もう少し先に行ったら休憩にしたほうがいいと思います。思いません?」
旅も3日が過ぎ、すでに4日目。
太陽の位置が頭上近くに来たので、そろそろお昼にしようということになった。
そして、それは森の木陰に入り、食事の支度を進めていた時のことだ。
「悲鳴が聞こえます」
「戦いの音かも」
トッキーとピッキーが警戒した声を上げる。
確かに耳をすませると声が聞こえる。叫び声だ。
一応、確認した方がいいな。
「ロンロ」
「はいはい」
とりあえず、ロンロに見てきてもらうことにした。
こういう時、偵察役としてロンロは最強だ。
「山賊とぉ、戦ってる人がいるわぁ」
「ちょっと行ってみる」
ロンロの言葉を聞いた直後、ミズキが茶釜に乗って駆けていく。
「おい、ミズキ」
「危なくなったら逃げるって」
茶釜にヒラリと飛び乗ったミズキはそのまま、すごいスピードで進んでいった。
最近は、海亀の背に上手い具合に乗りっぱなしのロバを降ろし、オレも後を追う準備をしていたが、それは杞憂に終わった。
楽しげな笑い声と共に、ミズキが戻ってきた。
「大丈夫だったか?」
「私が行ってた時は終わっていたよ」
「独断専行するなよ」
「ごめんごめん。でさ」
そう言って、ミズキは後ろを振り返る。
彼女の視線の先には2台の馬車と、馬に乗った1人の男がついてきていた。
「麗しき女性に助けていただけるなんて、もう感謝感激です」
「いやいや、助けてないじゃん」
パタパタと笑顔のミズキが手を振る。
「いえいえ。とんでもございません、あの時、ミズキ様の軽やかにして可憐な姿が目に映らなければ、おれっちの運命も終わっていたでしょう」
そんなことを言いながらヒラリと馬から下りて、男はミズキの方に駆け寄った。
装飾華美な服装。
腰につけた剣にも装飾が施されていて、身なりはとても立派だ。
一目でわかる貴族の優男だ。
「ぐぇ」
ササッと動き、ミズキの手を取ろうと動いたとき、優男がいきなり呻き声をあげた。
見ると髪を誰かに後から引っ張られたようだ。
「もうダメですよ。前も変な女の人に声をかけて怒られたばかりですよね」
彼の後には1人の女性が立っていた。
ゆったりとしたローブ姿の女性だ。
「痛いよ。キャシテ。従者なのに、イケメンの主に手をあげちゃいけないだろう? おれっちでなければ、首飛んでたよ。首」
「はいはい。お姉様からも度が過ぎたら始末するようにって言われてますから、大丈夫ですよ」
「始末って」
言葉使いからはそうは思えないが、2人は主と従者の関係らしい。
確かに、キャシテと呼ばれた女性の服装は、主である男にくらべ質素だ。
「イオタイト様」
追いかけてきていた馬車の御者が、優男へと駆け寄り声をかけた。
イオタイトと呼ばれた貴族の男は、御者へと向き直り話を始めた。
先ほどのキャシテに対する対応とは違い、本当に主と従者の様子で、命令するかのように話をしていた。
「大丈夫ですよ。でも確かにミズキ様と、そのとても素敵なうさぎちゃんのおかげで、山賊も逃げたわけですし、助かりました」
そんなイオタイトと御者を無視して、キャシテはミズキへと声をかけた。
「それほどでも。やっぱり、茶釜、可愛いでしょ?」
ミズキも茶釜の頭を撫でながら応じる。
「えぇ。あの、不躾ですが……もし、よろしければ、ちょっとだけ、その、触らせてもらえないでしょうか?」
「いいよ。ね、茶釜」
それから、2人は茶釜を通じて盛り上がりはじめた。
かわいいかわいいと言い出した。
まあどうでもいいや、放置だ。放置。
イオタイトと呼ばれた、優男は彼に駆け寄ってきた御者としばらく話していたかと思うと、話が終わったようで、ささっとこちらの方へ走ってきた。
「なんと。これは素敵なお嬢様!」
今度はカガミに目をつけたようだ。
見境がないな。
『バキィ』
と思ったら、頭を叩かれていた。
凄い音があたりに響いて痛そうだ。
「もう辺り構わず声をかけるのはだめですよ。ごめんなさい、ちょっとこの人、頭がおかしいんです」
「いえ、お気になさらず」
『カチャリ』
カガミが、突如現れた2人の対応に苦笑しつつ応じていた時のことだ。
海亀の背にある小屋の扉が小さな音を立てた。
外が賑やかになってきたからか、ノアがチラリと小屋から顔を出した。
「ヒィ」
そんなノアを見て、先程優男に話しかけていた従者が小さな声を上げた。
ノアはびっくりしたのか、パタンと小さな音をたてて扉を閉めてしまった。
御者は、失敗したとばかりにキョロキョロとオレ達を見回して、肩を落としていた。
旅先でもたまにみる。意図せず呪い子と接した人が見せる反応だ。
「あれ、気づかなかったんですか? この海亀の家、吟遊詩人の歌で有名じゃないですか。ノアサリーナ様一行ですよ」
「えっ、そうなのかい」
そんな御者に、キャシテはおどけた調子で言った。
キャシテの言葉に、御者も、そしてイオタイトもひどく驚いた顔をしていた。
「まったく、もぅ」
驚く2人を見て、キャシテは芝居がかったため息をつき、それから言葉を続けた。
「ミズキ様が来て、山賊は援軍がきたと考えて逃げたわけです。いうなれば、助けられたのは本当のことですし……そうだ」
そこまで言って、キャシテはパチンと手を叩いた。
「どうしたんだ? キャシテ」
「進む方向は一緒ですよね。しばらく一緒に旅をしませんか? ノアサリーナ様」
そう言って、海亀の背にある小屋、その扉を見て声をかける。
しばらくして、ノアがゆっくりと扉から姿を現した。
「彼に任せています」
それから、小さくノアはそう言って、オレをチラリと見ると扉の中へと引っ込んだ。
いつもより気弱な態度に、先ほどの御者の態度で傷ついているのかもしれない。
さて、どうしようか。
ノアへの態度も、悪意があるようではなかった。
申し訳なさそうにしている御者の態度からも、それは見て取れた。
そんなに悪い人だと思えない。
なんとなくだが、キャシテの同行を希望する理由も、ウサギ……茶釜が目当てな気がする。
つまりは、カガミやミズキと同類。
「いいじゃん。一緒に行こう」
ミズキは乗り気のようだ。
「イオタイト様? よろしいのですか?」
オレが少し考え込んでいるとキャシテの後ろの方から、別の従者がイオタイトに話しかける声が聞こえた。
「ああ、問題ないよ。山賊に遭遇した。先ほどは追い払えたが、次も上手くいくかはわからない。となれば、味方が多い方がいいだろうよ」
「そうですよ。イオタイト様の言う通り。それにほら」
そこでキャシテはオレ達を見て大きく手を広げ、言葉を続ける。
「ノアサリーナ様一行との旅ですよ。山賊など恐れるに足らず。なにせあの白魔ピデドモを、灼熱業火発破乱撃の魔法によって焼き尽くしたのですよ」
そう、力説する。
御者はそれを聞いて、小さく頷き、馬車へと戻っていった。
「一緒に行きましょう。こちらこそよろしくお願いします」
結局、断る理由もないので、一緒に進むことにした。
でも。
白魔ピデドモ?
灼熱業火発破乱撃の魔法?
なにそれ。
地図で見ればまっすぐな一本道だが、街道沿いは右へ左へと緩やかにカーブが続く。
「次の分かれ道は右だな」
「はい」
同僚達と交代で地図を見ながらナビをして、ピッキーやトッキーの御者で海亀は進む。
道はとても整備されているので、進むのに苦労はない。
「順調。順調」
「はい」
「次はさらに右だ」
「あの山を登るんですね」
「そうだな」
フェッカトールの用意してくれた地図はとても立派なものだった。
そして正確だ。
おかげで道に迷うということがない。
書いてある通りに進めば、書いてある場所に着く。
それに海亀を引っ張る茶釜達もとても優秀だ。
茶釜達エルフ馬に引っ張ってもらえば、普通の馬よりも速く走れる。
おかげで、おそらく当初の予定よりもずっと早く進んでいると思う。
「もう少し先に行ったら休憩にしたほうがいいと思います。思いません?」
旅も3日が過ぎ、すでに4日目。
太陽の位置が頭上近くに来たので、そろそろお昼にしようということになった。
そして、それは森の木陰に入り、食事の支度を進めていた時のことだ。
「悲鳴が聞こえます」
「戦いの音かも」
トッキーとピッキーが警戒した声を上げる。
確かに耳をすませると声が聞こえる。叫び声だ。
一応、確認した方がいいな。
「ロンロ」
「はいはい」
とりあえず、ロンロに見てきてもらうことにした。
こういう時、偵察役としてロンロは最強だ。
「山賊とぉ、戦ってる人がいるわぁ」
「ちょっと行ってみる」
ロンロの言葉を聞いた直後、ミズキが茶釜に乗って駆けていく。
「おい、ミズキ」
「危なくなったら逃げるって」
茶釜にヒラリと飛び乗ったミズキはそのまま、すごいスピードで進んでいった。
最近は、海亀の背に上手い具合に乗りっぱなしのロバを降ろし、オレも後を追う準備をしていたが、それは杞憂に終わった。
楽しげな笑い声と共に、ミズキが戻ってきた。
「大丈夫だったか?」
「私が行ってた時は終わっていたよ」
「独断専行するなよ」
「ごめんごめん。でさ」
そう言って、ミズキは後ろを振り返る。
彼女の視線の先には2台の馬車と、馬に乗った1人の男がついてきていた。
「麗しき女性に助けていただけるなんて、もう感謝感激です」
「いやいや、助けてないじゃん」
パタパタと笑顔のミズキが手を振る。
「いえいえ。とんでもございません、あの時、ミズキ様の軽やかにして可憐な姿が目に映らなければ、おれっちの運命も終わっていたでしょう」
そんなことを言いながらヒラリと馬から下りて、男はミズキの方に駆け寄った。
装飾華美な服装。
腰につけた剣にも装飾が施されていて、身なりはとても立派だ。
一目でわかる貴族の優男だ。
「ぐぇ」
ササッと動き、ミズキの手を取ろうと動いたとき、優男がいきなり呻き声をあげた。
見ると髪を誰かに後から引っ張られたようだ。
「もうダメですよ。前も変な女の人に声をかけて怒られたばかりですよね」
彼の後には1人の女性が立っていた。
ゆったりとしたローブ姿の女性だ。
「痛いよ。キャシテ。従者なのに、イケメンの主に手をあげちゃいけないだろう? おれっちでなければ、首飛んでたよ。首」
「はいはい。お姉様からも度が過ぎたら始末するようにって言われてますから、大丈夫ですよ」
「始末って」
言葉使いからはそうは思えないが、2人は主と従者の関係らしい。
確かに、キャシテと呼ばれた女性の服装は、主である男にくらべ質素だ。
「イオタイト様」
追いかけてきていた馬車の御者が、優男へと駆け寄り声をかけた。
イオタイトと呼ばれた貴族の男は、御者へと向き直り話を始めた。
先ほどのキャシテに対する対応とは違い、本当に主と従者の様子で、命令するかのように話をしていた。
「大丈夫ですよ。でも確かにミズキ様と、そのとても素敵なうさぎちゃんのおかげで、山賊も逃げたわけですし、助かりました」
そんなイオタイトと御者を無視して、キャシテはミズキへと声をかけた。
「それほどでも。やっぱり、茶釜、可愛いでしょ?」
ミズキも茶釜の頭を撫でながら応じる。
「えぇ。あの、不躾ですが……もし、よろしければ、ちょっとだけ、その、触らせてもらえないでしょうか?」
「いいよ。ね、茶釜」
それから、2人は茶釜を通じて盛り上がりはじめた。
かわいいかわいいと言い出した。
まあどうでもいいや、放置だ。放置。
イオタイトと呼ばれた、優男は彼に駆け寄ってきた御者としばらく話していたかと思うと、話が終わったようで、ささっとこちらの方へ走ってきた。
「なんと。これは素敵なお嬢様!」
今度はカガミに目をつけたようだ。
見境がないな。
『バキィ』
と思ったら、頭を叩かれていた。
凄い音があたりに響いて痛そうだ。
「もう辺り構わず声をかけるのはだめですよ。ごめんなさい、ちょっとこの人、頭がおかしいんです」
「いえ、お気になさらず」
『カチャリ』
カガミが、突如現れた2人の対応に苦笑しつつ応じていた時のことだ。
海亀の背にある小屋の扉が小さな音を立てた。
外が賑やかになってきたからか、ノアがチラリと小屋から顔を出した。
「ヒィ」
そんなノアを見て、先程優男に話しかけていた従者が小さな声を上げた。
ノアはびっくりしたのか、パタンと小さな音をたてて扉を閉めてしまった。
御者は、失敗したとばかりにキョロキョロとオレ達を見回して、肩を落としていた。
旅先でもたまにみる。意図せず呪い子と接した人が見せる反応だ。
「あれ、気づかなかったんですか? この海亀の家、吟遊詩人の歌で有名じゃないですか。ノアサリーナ様一行ですよ」
「えっ、そうなのかい」
そんな御者に、キャシテはおどけた調子で言った。
キャシテの言葉に、御者も、そしてイオタイトもひどく驚いた顔をしていた。
「まったく、もぅ」
驚く2人を見て、キャシテは芝居がかったため息をつき、それから言葉を続けた。
「ミズキ様が来て、山賊は援軍がきたと考えて逃げたわけです。いうなれば、助けられたのは本当のことですし……そうだ」
そこまで言って、キャシテはパチンと手を叩いた。
「どうしたんだ? キャシテ」
「進む方向は一緒ですよね。しばらく一緒に旅をしませんか? ノアサリーナ様」
そう言って、海亀の背にある小屋、その扉を見て声をかける。
しばらくして、ノアがゆっくりと扉から姿を現した。
「彼に任せています」
それから、小さくノアはそう言って、オレをチラリと見ると扉の中へと引っ込んだ。
いつもより気弱な態度に、先ほどの御者の態度で傷ついているのかもしれない。
さて、どうしようか。
ノアへの態度も、悪意があるようではなかった。
申し訳なさそうにしている御者の態度からも、それは見て取れた。
そんなに悪い人だと思えない。
なんとなくだが、キャシテの同行を希望する理由も、ウサギ……茶釜が目当てな気がする。
つまりは、カガミやミズキと同類。
「いいじゃん。一緒に行こう」
ミズキは乗り気のようだ。
「イオタイト様? よろしいのですか?」
オレが少し考え込んでいるとキャシテの後ろの方から、別の従者がイオタイトに話しかける声が聞こえた。
「ああ、問題ないよ。山賊に遭遇した。先ほどは追い払えたが、次も上手くいくかはわからない。となれば、味方が多い方がいいだろうよ」
「そうですよ。イオタイト様の言う通り。それにほら」
そこでキャシテはオレ達を見て大きく手を広げ、言葉を続ける。
「ノアサリーナ様一行との旅ですよ。山賊など恐れるに足らず。なにせあの白魔ピデドモを、灼熱業火発破乱撃の魔法によって焼き尽くしたのですよ」
そう、力説する。
御者はそれを聞いて、小さく頷き、馬車へと戻っていった。
「一緒に行きましょう。こちらこそよろしくお願いします」
結局、断る理由もないので、一緒に進むことにした。
でも。
白魔ピデドモ?
灼熱業火発破乱撃の魔法?
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