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第十九章 帝国への旅
さるのぐんだん
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「なんスか? それ?」
「猿の置物だけど」
オレが取り出したのは、猿がガッツポーズしている木彫りの人形だ。
随分と前にギリアの市場で買った物。
よくよく見るとにっこり笑った猿の表情が凄くいい。
「どうするんスか?」
「魔術師ギルドの奴らへの報復にこれを使う」
以前に、ジョークグッズになる魔導具をいっぱい作ったことがあった。
そのうち一つが、この猿の木彫り人形を使った魔道具だ。
カガミが見るだけで怯え、誰からも好評価をえることのない不遇の人形。
箱の中にこの猿の木彫り人形を入れ、特殊な魔法を使い、一時的に魔導具化する。
効果は蓋を開けて最初にこの像を見た者に対し発揮される。
生き物のように、この木彫りの人形がうごき、追いかけ回すのだ。
以前に実験したときは、効果は1日はもたないまでも、わりと長時間続いた。
これをやつらに仕掛ける。
だが、1匹だけではない。
木彫り人形を複製して増やしたのだ。
適当に増やしたので、何十体いるかよく分からないけれども、思いっきり頑張って増やした。おかげで少しばかり魔力が不足し疲労感がある。
だが、それくらいの労力はかけねばならないだろう。
「沢山あるって……同じ人を追いかけるんスか?」
「うーん。どうなんだろうね。よく分かんないや」
「適当……」
「ただ、今回は、前回と違ってパワーアップさせてる」
「前回は知らないんだけど、パワーアップ?」
「叫び声を上げながら追いかけるんだ」
「叫び声?」
「そうそう」
「あんまり怖いのは嫌だなと思います。思いません?」
「まぁな。ちょっとしたイタズラだし、そうだなここは可愛らしくノアの声を採用しようか」
「ちょっとノアちゃんを変なことに巻き込まないで」
「これは戦いだよ、カガミくん」
「何が戦いなんだか」
ということで、大きめの箱に、この木彫りの猿の人形を適当に投げ込む。
他の奴らは、海亀の背にとりつけるこたつ……じゃなくて、暖房の魔導具であるお裾分けローブの予備を作っている。
そんな中、オレ一人が、この報復用魔導具をせっせせっせと準備しているのだ。
「あっ。腕が取れた……まぁ、いっか」
無造作に詰め込んで蓋を閉める。
そして魔法陣を広げ箱を置き、触媒をそばに置く。
安物の宝石に、魚の骨、インクに石炭、その他もろもろ。
「結構大掛かりなんスね」
「そうだな、元ネタがあってさ、改造して作ったんだけど、触媒を減らすことができなかったよ」
木箱の中にある人形の数が多い。
だから、触媒もケチらずつぎ込むことにした。
触媒が足らずに失敗というのは避けたい。
なんといっても、なかなか呪文が長いのだ。
「本当にそういうことにだけ必死なんだから」
呆れるカガミの言葉を聞きながら、魔法を唱える。
木箱がほんのりと輝きだしたのを見届け、成功を確信する。
あとは、一言、木彫り人形が話す言葉を吹き込むだけだ。
「ノア、魔術師ギルドの無法者をギャフンと言わせる一言をお願い」
「ギャフンって言ってほしいの?」
「そうそう」
急な申し出だったが、ノアはコクリと頷くと、ほんのり光る木箱に向かって歩み寄る。
「箱に向かって声かけてね」
「うん」
しばらくノアは考えていたが、意を決した表情で大きく息を吸い込み、言葉を発した。
「ギャフンといいなさい!」
ストレートな物言いだが、それがいい。完璧。
ノアの声を受けて、ひときわ木箱は輝いたあと、普段の木箱へと戻った。
質素で、大きな木箱だ。
これで問題はない。
前回の通りだったら、これでこの箱の中身は魔道具化しているはずだ。
箱を開ければ、箱の中にある木彫りの人形は動き出し、追跡するのだ。「ギャフンと言いなさい」と言いながら。
「さてと、これで完成だな」
「で、後どうするんスか?」
「後って?」
「魔術師ギルドの人に、箱を開けさせるんスよね?」
「あっ」
どうやって開けさせるかは考えていなかった。
何かアイデア……。
「ひょっとしてリーダ、考えてなかった?」
「お前、そこまで考えてから実行しろよ」
「ごめんごめん」
「ところで、あと3日。あと3日だけ、ここに居たいんだが……もう少し、集中して作業したいんだ」
オレが魔術師ギルドの奴らにどうやって箱を開けさせるのかを考えていると、サムソンがさらに3日の宿泊延長を申し出た。
3日で金貨15枚。なかなかの痛手だ。
かといって生活レベルを落とす気にはなれなかった。
1度、あの快適な宿生活を味わってしまうと、この町では他の宿を使う気にはなれなかったのだ。
みんなも同意見。
あと10日ぐらいだからいいじゃんっていう言葉で、10泊ほど延長したが、さらに追加となるとちょっと決心が鈍る。ずるずると長居しそうな予感がしてくるのだ。
ほんの数日前に、騎士団のパレードを堪能して満足しているというのもある。
「まぁ。そうだな、ギリギリまで様子を見てダメだったら3日ほど延長しようか」
「悪いな」
「それより、どうやって箱を開けさせようか?」
完成した猿の木彫り軍団の魔導具を背に、そんな会話をしていた時のことだ。
工房の管理人が息を切らせて駆け寄ってきた。
「大変失礼ながら、お願いが……ちょっとまた、魔術師ギルドの皆様が……」
「明け渡せと?」
「はい」
申し訳なさそうにオレ達をみる工房の管理人は悪く無い。
彼もまた魔術師ギルドの無茶な要求の被害者なのだ。
「了解っス」
何度も、このような嫌がらせを受けているので、対応も慣れたもんだ。
とはいっても、こんなに急に場所を明け渡せと言われたことは初めてなので、少々慌ただしく片付けをして場所を後にした。
宿に戻り、一息つく。
「魔術師ギルドの奴らって、やっぱり調子に乗っるよね」
「そうっスね。反撃しないから……多分」
「環境はいいんですけどね。魔術師ギルドの皆さんがいなければいいなと思います。思いません?」
皆でグチグチ愚痴を言い合っていると、叫び声が聞こえた。
なにかあったのだろうか?
「見てくるわぁ」
ロンロが、フワリと身を翻し外へと飛んでいく。
「なんだろうね」
「大事じゃなければいいんだけどな」
「騎士も沢山いるわけだし、大丈夫だよ。きっと」
ほどなくしてロンロが戻ってくる。
特に焦った様子はなく、いつも通りだ。
「リーダが作った魔導具のお猿さん」
「あぁ、あれ?」
「あの猿が原因みたい。悲鳴を上げながら、ローブ姿の人が走り回っているわぁ」
そっか。
箱置いたままだった。
問題ないか。魔術師ギルドの奴らに開けさせるつもりだったんだ。
手間が省けたというものだ。
さらにしばらくすると、宿の窓からも、追いかけられる魔術師ギルドの皆さんが見えてきた。
「思ったより、猿の人形、数が多いっスね」
「あんなに沢山箱に入ってたんだ」
優雅にお茶を飲みながら、追いかけられている魔術師ギルドの皆さんを見て、スカッとする。
思った以上に効果テキメンだ。
ここからでもよくわかる。
魔法で視力を強化できるようになっていて良かった。
魔術師ギルドの皆さんは、必死になって猿から逃げ回っている。
「あれって、追いつかれたら、どうなるんスか?」
「止まるよ。それに攻撃はしない。一定以上の距離に近づくと止まるんだ」
ジョークグッズなのだ。
攻撃力はない。危害も与えない。
ただただ、叫びながら追いかけるだけだ。
「ちょっと、不味くないか?」
にこやかに見られたのは最初の方だけだった。
途中から、どんどんと状況が変わってきた。
過剰反応しすぎているのだ。
衛兵が集まり、魔術師ギルドの建物へ逃げ込んだ奴らは、何を思ったのか、魔法を使って迎撃しようとしたらしい。
『ドォン』
爆発音と共に魔術師ギルドから煙が上がったのが見えた。
「やばいな」
「あぁ」
「リーダ」
「なんだい、サムソン」
「俺、やっぱり、連泊しなくていいぞ」
「了解」
緊急事態ということもあって、慌ただしく出発する。
工房の人に、お礼を言って、宿の方にもお別れを言う。
さぁ、東への旅の再開だ。
「猿の置物だけど」
オレが取り出したのは、猿がガッツポーズしている木彫りの人形だ。
随分と前にギリアの市場で買った物。
よくよく見るとにっこり笑った猿の表情が凄くいい。
「どうするんスか?」
「魔術師ギルドの奴らへの報復にこれを使う」
以前に、ジョークグッズになる魔導具をいっぱい作ったことがあった。
そのうち一つが、この猿の木彫り人形を使った魔道具だ。
カガミが見るだけで怯え、誰からも好評価をえることのない不遇の人形。
箱の中にこの猿の木彫り人形を入れ、特殊な魔法を使い、一時的に魔導具化する。
効果は蓋を開けて最初にこの像を見た者に対し発揮される。
生き物のように、この木彫りの人形がうごき、追いかけ回すのだ。
以前に実験したときは、効果は1日はもたないまでも、わりと長時間続いた。
これをやつらに仕掛ける。
だが、1匹だけではない。
木彫り人形を複製して増やしたのだ。
適当に増やしたので、何十体いるかよく分からないけれども、思いっきり頑張って増やした。おかげで少しばかり魔力が不足し疲労感がある。
だが、それくらいの労力はかけねばならないだろう。
「沢山あるって……同じ人を追いかけるんスか?」
「うーん。どうなんだろうね。よく分かんないや」
「適当……」
「ただ、今回は、前回と違ってパワーアップさせてる」
「前回は知らないんだけど、パワーアップ?」
「叫び声を上げながら追いかけるんだ」
「叫び声?」
「そうそう」
「あんまり怖いのは嫌だなと思います。思いません?」
「まぁな。ちょっとしたイタズラだし、そうだなここは可愛らしくノアの声を採用しようか」
「ちょっとノアちゃんを変なことに巻き込まないで」
「これは戦いだよ、カガミくん」
「何が戦いなんだか」
ということで、大きめの箱に、この木彫りの猿の人形を適当に投げ込む。
他の奴らは、海亀の背にとりつけるこたつ……じゃなくて、暖房の魔導具であるお裾分けローブの予備を作っている。
そんな中、オレ一人が、この報復用魔導具をせっせせっせと準備しているのだ。
「あっ。腕が取れた……まぁ、いっか」
無造作に詰め込んで蓋を閉める。
そして魔法陣を広げ箱を置き、触媒をそばに置く。
安物の宝石に、魚の骨、インクに石炭、その他もろもろ。
「結構大掛かりなんスね」
「そうだな、元ネタがあってさ、改造して作ったんだけど、触媒を減らすことができなかったよ」
木箱の中にある人形の数が多い。
だから、触媒もケチらずつぎ込むことにした。
触媒が足らずに失敗というのは避けたい。
なんといっても、なかなか呪文が長いのだ。
「本当にそういうことにだけ必死なんだから」
呆れるカガミの言葉を聞きながら、魔法を唱える。
木箱がほんのりと輝きだしたのを見届け、成功を確信する。
あとは、一言、木彫り人形が話す言葉を吹き込むだけだ。
「ノア、魔術師ギルドの無法者をギャフンと言わせる一言をお願い」
「ギャフンって言ってほしいの?」
「そうそう」
急な申し出だったが、ノアはコクリと頷くと、ほんのり光る木箱に向かって歩み寄る。
「箱に向かって声かけてね」
「うん」
しばらくノアは考えていたが、意を決した表情で大きく息を吸い込み、言葉を発した。
「ギャフンといいなさい!」
ストレートな物言いだが、それがいい。完璧。
ノアの声を受けて、ひときわ木箱は輝いたあと、普段の木箱へと戻った。
質素で、大きな木箱だ。
これで問題はない。
前回の通りだったら、これでこの箱の中身は魔道具化しているはずだ。
箱を開ければ、箱の中にある木彫りの人形は動き出し、追跡するのだ。「ギャフンと言いなさい」と言いながら。
「さてと、これで完成だな」
「で、後どうするんスか?」
「後って?」
「魔術師ギルドの人に、箱を開けさせるんスよね?」
「あっ」
どうやって開けさせるかは考えていなかった。
何かアイデア……。
「ひょっとしてリーダ、考えてなかった?」
「お前、そこまで考えてから実行しろよ」
「ごめんごめん」
「ところで、あと3日。あと3日だけ、ここに居たいんだが……もう少し、集中して作業したいんだ」
オレが魔術師ギルドの奴らにどうやって箱を開けさせるのかを考えていると、サムソンがさらに3日の宿泊延長を申し出た。
3日で金貨15枚。なかなかの痛手だ。
かといって生活レベルを落とす気にはなれなかった。
1度、あの快適な宿生活を味わってしまうと、この町では他の宿を使う気にはなれなかったのだ。
みんなも同意見。
あと10日ぐらいだからいいじゃんっていう言葉で、10泊ほど延長したが、さらに追加となるとちょっと決心が鈍る。ずるずると長居しそうな予感がしてくるのだ。
ほんの数日前に、騎士団のパレードを堪能して満足しているというのもある。
「まぁ。そうだな、ギリギリまで様子を見てダメだったら3日ほど延長しようか」
「悪いな」
「それより、どうやって箱を開けさせようか?」
完成した猿の木彫り軍団の魔導具を背に、そんな会話をしていた時のことだ。
工房の管理人が息を切らせて駆け寄ってきた。
「大変失礼ながら、お願いが……ちょっとまた、魔術師ギルドの皆様が……」
「明け渡せと?」
「はい」
申し訳なさそうにオレ達をみる工房の管理人は悪く無い。
彼もまた魔術師ギルドの無茶な要求の被害者なのだ。
「了解っス」
何度も、このような嫌がらせを受けているので、対応も慣れたもんだ。
とはいっても、こんなに急に場所を明け渡せと言われたことは初めてなので、少々慌ただしく片付けをして場所を後にした。
宿に戻り、一息つく。
「魔術師ギルドの奴らって、やっぱり調子に乗っるよね」
「そうっスね。反撃しないから……多分」
「環境はいいんですけどね。魔術師ギルドの皆さんがいなければいいなと思います。思いません?」
皆でグチグチ愚痴を言い合っていると、叫び声が聞こえた。
なにかあったのだろうか?
「見てくるわぁ」
ロンロが、フワリと身を翻し外へと飛んでいく。
「なんだろうね」
「大事じゃなければいいんだけどな」
「騎士も沢山いるわけだし、大丈夫だよ。きっと」
ほどなくしてロンロが戻ってくる。
特に焦った様子はなく、いつも通りだ。
「リーダが作った魔導具のお猿さん」
「あぁ、あれ?」
「あの猿が原因みたい。悲鳴を上げながら、ローブ姿の人が走り回っているわぁ」
そっか。
箱置いたままだった。
問題ないか。魔術師ギルドの奴らに開けさせるつもりだったんだ。
手間が省けたというものだ。
さらにしばらくすると、宿の窓からも、追いかけられる魔術師ギルドの皆さんが見えてきた。
「思ったより、猿の人形、数が多いっスね」
「あんなに沢山箱に入ってたんだ」
優雅にお茶を飲みながら、追いかけられている魔術師ギルドの皆さんを見て、スカッとする。
思った以上に効果テキメンだ。
ここからでもよくわかる。
魔法で視力を強化できるようになっていて良かった。
魔術師ギルドの皆さんは、必死になって猿から逃げ回っている。
「あれって、追いつかれたら、どうなるんスか?」
「止まるよ。それに攻撃はしない。一定以上の距離に近づくと止まるんだ」
ジョークグッズなのだ。
攻撃力はない。危害も与えない。
ただただ、叫びながら追いかけるだけだ。
「ちょっと、不味くないか?」
にこやかに見られたのは最初の方だけだった。
途中から、どんどんと状況が変わってきた。
過剰反応しすぎているのだ。
衛兵が集まり、魔術師ギルドの建物へ逃げ込んだ奴らは、何を思ったのか、魔法を使って迎撃しようとしたらしい。
『ドォン』
爆発音と共に魔術師ギルドから煙が上がったのが見えた。
「やばいな」
「あぁ」
「リーダ」
「なんだい、サムソン」
「俺、やっぱり、連泊しなくていいぞ」
「了解」
緊急事態ということもあって、慌ただしく出発する。
工房の人に、お礼を言って、宿の方にもお別れを言う。
さぁ、東への旅の再開だ。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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