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第十九章 帝国への旅
チーズこうぼうへいこう
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慌ただしくキユウニの町を出ようと、オレの背丈より大きな石で組み上げられた門をくぐろうとした時のことだ。
「お待ちください」
呼び止められて、声のした方を見ると、ストリギを出て最初に出会った老夫婦がオレ達を呼んでいた。
「これから東に行かれるので?」
「えぇ。そのつもりです」
「では一緒に行きませんか?」
旅の間に、何度か話をした老夫婦だ。
ノアの為に人形を作ってくれたりしたな。
幌付きの小さな馬車に、乗っていて、ちょうどこれから出発といった様子だ。
「構いませんよ。こちらこそよろしくお願いします」
せっかくの縁だ。
一緒に進むことにする。
「これから東というとモルトールの町へと行かれるので?」
日が高く、夏の日差しを感じつつ舗装された道を行く途中、老人がふと何かを思い出したように質問をなげかけてきた。
モルトール……そうそう、地図にある町だ。
砦のある町だっけかな。
「えぇ。とりあえずモルトールまで」
「それは、それは。モルトールの町にはしばらく滞在を? もし、そうであれば、あそこには知人がおりますれば、宿の手配などをお世話できるのですが?」
「モルトールがお二人の地元ですか?」
「あぁ、いや……わしらの家は、ほらあのあたり」
先ほどから自分を扇いでいた扇子で、オレ達からみて右手側にある山を指して、老人は言葉を続ける。
「ちょうどあの辺り、あの山にある工房でチーズ作りをして過ごしております」
示された先には、あたりでは一番大きな山が見える。
「キユウニにもチーズあったね。すっごく美味しかった」
チーズという言葉に反応したのか、先ほどから自由気ままに茶釜を走らせていたミズキが近寄ってきた。
「チーズがお好きですか? もしよろしければ、よっていかれません? 滞在していただけるのであれば、是非とも自慢のチーズを食べて頂けるのですが」
ミズキの言葉に、老婆が相好を崩し、提案を投げかけてくる。
「自慢のチーズ!」
その提案に反応し、ミズキがバッとオレをみた。
目が、オレに寄っていこうと訴えかけている。
そういえば、キユウニの宿でも、チーズばくばく食っていたな、こいつ。
「ふむ。そうですな。ですが、少しルートから外れてしまいます。街道から外れてしまいますが……わしとしても、是非にめしあがって頂きたい。よければ工房も案内しますぞ」
老人も、老婆の提案にそれは良い考えだとばかりに、同調する。
「チーズ作りの見学まで! 行ってみようよ、リーダ」
「とりあえず皆にも聞いてみるよ」
ルートから外れる事になる、相談しなきゃと思い小屋へと戻ると、ミズキの声が聞こえていたのか、すでに話がまとまっていた。
「チーズですね。いいと思います。思いません?」
「いいっスよね。作りたてのチーズ。1回食べてみたいと思ってたっス」
「ノアちゃんも、チーズ作っているとこと見たいらしいぞ」
「お嬢様についていくでち」
皆乗り気だ。
ということで、寄り道することが決まった。
そこから先は老夫婦の案内だ。
老夫婦と2人がやとった大柄な女性の傭兵。
3人と一緒に街道から南にそれる。
夏の日差しが暑いくらいで、後は快適だ。
傭兵の人も気さくな人で、馬車を走らせながら、器用に森の木々になっている木の実をとって分けてくれた。
山を登る道は、整備されていた。
商品を運ぶためには、道が大事らしい。
言われてみるとそうだ。
「あの中腹あたりに、工房があります」
「へぇ」
「ペンツェ親方の工房は、この辺りで一番大きく有名だ。特に雪のように白いチーズは、お貴族様が保管庫を用意して受け取りに来るくらいの出来だ」
傭兵の人が、モグモグと木の実を食べながら補足説明してくれる。
そんなに有名なのか。
白いチーズ……そんなことを言われると食べたくなる。
それからも、雑談をしながら山を登る。
昼も過ぎ、空の色が変わり始めるころになって、ようやく開けた場所にある工房へとたどり着いた。
「牛がいっぱい」
頭上から、カガミが嬉しそうな声をあげる。
ゆっくりとオレ達の海亀と、老夫婦の馬車が進む。
広々とした台地に、白い巨石が転がった草原が続く。
草原には、大きな牛がたくさん放牧されているのが見えた。
巨大な角があるもの。
体そのものが巨大なもの。
毛むくじゃらなもの。
牛といっても様々な種類が居るようだ。
いきなり開けた場所にでて、開放感にひたりつつ進んでいくと、数人の男女が駆け寄ってきた。
「あんた達は……」
「わしらの恩人だよ。お誘いしたのさ」
最初に駆けつけた男が何かを言いかけた時に、老夫婦が駆け寄った人へ向けて声をあげた。
オレ達の海亀の影になっていて、気がつかなかったようで、老夫婦の声を聞いて皆が大きく目を見開き、馬車へと駆け寄っていく。
「親方! よくご無事で!」
「皆さんに、助けていただいたんですよ」
親方と呼ばれた老人は大きく頷き、横にいた老婆が笑顔でそう答えた。
「ほれ、客人の間を案内しなさい」
さらに進んでいくと、山の斜面に隠れていた巨大な工房が見えてきた。
大部分が木造だが、予想を超えた巨大な建物。
あそこでチーズを作っているのか。
入り口近くでも、何10人という従業員が働いているのが見える。
そして、別の倉庫を思わせる巨大な建物の1室に、オレ達の部屋が用意された。
外見は倉庫に見たが、中はとても立派な作りの部屋だ。
キユウニの宿と優とも劣らないような立派な部屋があてがわれた。
来る途中は、チーズの匂いが立ちこめ、少々気になったが、この部屋はそうではない。
フカフカのベッドに、窓から見えるのは見晴らしのいい景色。
夕日に照らされて、眼下には広大な森や点在する湖が見える。
着いた早々、食事をすることになった。
「今日は若い方が沢山いらっしゃる。足りるかどうか……」
老人は、テーブル一杯に置かれた料理を前に謙遜したが、とんでもない。
食べきれないくらいの料理だ。
「今回は、本当にたすかりました」
老夫婦は最近栄え出したギリアに、ここのチーズを納品にできるかどうかの商談に向かったそうだ。
大量のチーズを乗せた馬車が、山賊に襲われたという。
護衛は20人以上いたが、1人やられ2人やられ、最終的に荷物も全て奪われ、残った護衛ともはぐれ途方に暮れていたそうだ。
そんな時にオレ達と出会って、助かったとばかりに同行を申し出たという。
「思っていた以上に、厳しい状況だったのですね」
「えぇ。本当に……あれだけあの道の治安が悪化しているとは、思いもしませんでした」
着替えて身なりを整えた老人はとても立派だった。
確かに、この巨大工房の主にふさわしい。
そして振る舞われた料理も立派だった。
チーズづくしの料理に舌鼓をうつ。
「このケーキ、美味しいです」
「それも、チーズですよ」
「これも全部?」
「チーズケーキのように思えた食後のデザートも、ただのチーズだった」
こんな甘いチーズがあるのかと驚く。
ノアはいたく気にいったようで、おかわりしていた。
そんなノアにならって、オレもおかわりした。
「お待ちください」
呼び止められて、声のした方を見ると、ストリギを出て最初に出会った老夫婦がオレ達を呼んでいた。
「これから東に行かれるので?」
「えぇ。そのつもりです」
「では一緒に行きませんか?」
旅の間に、何度か話をした老夫婦だ。
ノアの為に人形を作ってくれたりしたな。
幌付きの小さな馬車に、乗っていて、ちょうどこれから出発といった様子だ。
「構いませんよ。こちらこそよろしくお願いします」
せっかくの縁だ。
一緒に進むことにする。
「これから東というとモルトールの町へと行かれるので?」
日が高く、夏の日差しを感じつつ舗装された道を行く途中、老人がふと何かを思い出したように質問をなげかけてきた。
モルトール……そうそう、地図にある町だ。
砦のある町だっけかな。
「えぇ。とりあえずモルトールまで」
「それは、それは。モルトールの町にはしばらく滞在を? もし、そうであれば、あそこには知人がおりますれば、宿の手配などをお世話できるのですが?」
「モルトールがお二人の地元ですか?」
「あぁ、いや……わしらの家は、ほらあのあたり」
先ほどから自分を扇いでいた扇子で、オレ達からみて右手側にある山を指して、老人は言葉を続ける。
「ちょうどあの辺り、あの山にある工房でチーズ作りをして過ごしております」
示された先には、あたりでは一番大きな山が見える。
「キユウニにもチーズあったね。すっごく美味しかった」
チーズという言葉に反応したのか、先ほどから自由気ままに茶釜を走らせていたミズキが近寄ってきた。
「チーズがお好きですか? もしよろしければ、よっていかれません? 滞在していただけるのであれば、是非とも自慢のチーズを食べて頂けるのですが」
ミズキの言葉に、老婆が相好を崩し、提案を投げかけてくる。
「自慢のチーズ!」
その提案に反応し、ミズキがバッとオレをみた。
目が、オレに寄っていこうと訴えかけている。
そういえば、キユウニの宿でも、チーズばくばく食っていたな、こいつ。
「ふむ。そうですな。ですが、少しルートから外れてしまいます。街道から外れてしまいますが……わしとしても、是非にめしあがって頂きたい。よければ工房も案内しますぞ」
老人も、老婆の提案にそれは良い考えだとばかりに、同調する。
「チーズ作りの見学まで! 行ってみようよ、リーダ」
「とりあえず皆にも聞いてみるよ」
ルートから外れる事になる、相談しなきゃと思い小屋へと戻ると、ミズキの声が聞こえていたのか、すでに話がまとまっていた。
「チーズですね。いいと思います。思いません?」
「いいっスよね。作りたてのチーズ。1回食べてみたいと思ってたっス」
「ノアちゃんも、チーズ作っているとこと見たいらしいぞ」
「お嬢様についていくでち」
皆乗り気だ。
ということで、寄り道することが決まった。
そこから先は老夫婦の案内だ。
老夫婦と2人がやとった大柄な女性の傭兵。
3人と一緒に街道から南にそれる。
夏の日差しが暑いくらいで、後は快適だ。
傭兵の人も気さくな人で、馬車を走らせながら、器用に森の木々になっている木の実をとって分けてくれた。
山を登る道は、整備されていた。
商品を運ぶためには、道が大事らしい。
言われてみるとそうだ。
「あの中腹あたりに、工房があります」
「へぇ」
「ペンツェ親方の工房は、この辺りで一番大きく有名だ。特に雪のように白いチーズは、お貴族様が保管庫を用意して受け取りに来るくらいの出来だ」
傭兵の人が、モグモグと木の実を食べながら補足説明してくれる。
そんなに有名なのか。
白いチーズ……そんなことを言われると食べたくなる。
それからも、雑談をしながら山を登る。
昼も過ぎ、空の色が変わり始めるころになって、ようやく開けた場所にある工房へとたどり着いた。
「牛がいっぱい」
頭上から、カガミが嬉しそうな声をあげる。
ゆっくりとオレ達の海亀と、老夫婦の馬車が進む。
広々とした台地に、白い巨石が転がった草原が続く。
草原には、大きな牛がたくさん放牧されているのが見えた。
巨大な角があるもの。
体そのものが巨大なもの。
毛むくじゃらなもの。
牛といっても様々な種類が居るようだ。
いきなり開けた場所にでて、開放感にひたりつつ進んでいくと、数人の男女が駆け寄ってきた。
「あんた達は……」
「わしらの恩人だよ。お誘いしたのさ」
最初に駆けつけた男が何かを言いかけた時に、老夫婦が駆け寄った人へ向けて声をあげた。
オレ達の海亀の影になっていて、気がつかなかったようで、老夫婦の声を聞いて皆が大きく目を見開き、馬車へと駆け寄っていく。
「親方! よくご無事で!」
「皆さんに、助けていただいたんですよ」
親方と呼ばれた老人は大きく頷き、横にいた老婆が笑顔でそう答えた。
「ほれ、客人の間を案内しなさい」
さらに進んでいくと、山の斜面に隠れていた巨大な工房が見えてきた。
大部分が木造だが、予想を超えた巨大な建物。
あそこでチーズを作っているのか。
入り口近くでも、何10人という従業員が働いているのが見える。
そして、別の倉庫を思わせる巨大な建物の1室に、オレ達の部屋が用意された。
外見は倉庫に見たが、中はとても立派な作りの部屋だ。
キユウニの宿と優とも劣らないような立派な部屋があてがわれた。
来る途中は、チーズの匂いが立ちこめ、少々気になったが、この部屋はそうではない。
フカフカのベッドに、窓から見えるのは見晴らしのいい景色。
夕日に照らされて、眼下には広大な森や点在する湖が見える。
着いた早々、食事をすることになった。
「今日は若い方が沢山いらっしゃる。足りるかどうか……」
老人は、テーブル一杯に置かれた料理を前に謙遜したが、とんでもない。
食べきれないくらいの料理だ。
「今回は、本当にたすかりました」
老夫婦は最近栄え出したギリアに、ここのチーズを納品にできるかどうかの商談に向かったそうだ。
大量のチーズを乗せた馬車が、山賊に襲われたという。
護衛は20人以上いたが、1人やられ2人やられ、最終的に荷物も全て奪われ、残った護衛ともはぐれ途方に暮れていたそうだ。
そんな時にオレ達と出会って、助かったとばかりに同行を申し出たという。
「思っていた以上に、厳しい状況だったのですね」
「えぇ。本当に……あれだけあの道の治安が悪化しているとは、思いもしませんでした」
着替えて身なりを整えた老人はとても立派だった。
確かに、この巨大工房の主にふさわしい。
そして振る舞われた料理も立派だった。
チーズづくしの料理に舌鼓をうつ。
「このケーキ、美味しいです」
「それも、チーズですよ」
「これも全部?」
「チーズケーキのように思えた食後のデザートも、ただのチーズだった」
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