召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
355 / 830
第十九章 帝国への旅

チーズたいハロルド

しおりを挟む
「そちらの御仁は?」
「拙者はハロルドと申す。姫様にお仕えする騎士の1人である」
「そうでございましたか」

 到着した日の夜。食後に、キャンキャンとうるさいハロルドの呪いを解いてみると、ハロルドからしこたま非難された。
 チーズがよっぽど食いたかったらしい。
 というわけで、その日の早朝ハロルドの呪いを解いて、食事に同席することになった。
 まったく。

「うむ。これは口溶けの良いチーズ」

 目を閉じてじっくりと味わった後に、ハロルドはにっこりと笑い解説を始める。

「高地にある草原の香りを漂わせつつも、大海原のほのかな塩味。かと思えば、その清々しくもかぐわしい香り……これは、何かの葉で包み香り付けをしておるな」
「よくお気づきで、確かに」
「うむ。味わいも深くとろけるような舌触り……なるほど、牛だけではない、ヤギか! ヤギの乳も混ぜているのか。それが故に、芳醇にして繊細な風味と味わいをもたらし……」

 語るよなハロルド。
 なんだか途中までは聞いていたが、ついて行けなくなったので、食事を勝手にすすめる。
 ふと見るとノアは、一生懸命にハロルドの言葉に相づちを打っていた。
 そんなどうでも良い解説なんて聞かなくてもいいのだよと、心の中で思いながら食事を続ける。
 オレが食事を終えるまで続くのじゃないのかと思われたハロルドの感想というか解説は、ようやく終わった。

「このチーズには、辛口の酒が合うのではなかろうか」

 そんな言葉で。

「そうそう、あいそうだよね」

 前も思ったけれど、ハロルドはグルメだよな。
 それからもハロルドは一つ一つのチーズに解説を続けた。
 老人も、ハロルドのコメントに気を良くしたのか、次から次へとチーズを持ってくるように、給仕へと伝える。
 途中からは穏やかな朝食が、よくわからないチーズの品評会の様相を呈していた。

「さて、名残惜しいが、拙者そろそろ仕事に戻らねばならぬ故、退出いたす。今日は馳走になった」

 即席のチーズの品評会は、ハロルドがいそいそと退席するまで続いた。
 そろそろ呪いが解ける時刻か、大体感覚でわかるんだよな、あいつ。
 その日は朝から工房見学だ。

「チーズって色々作り方があるんですね」

 煮立った鍋のある部屋や、逆にひんやりとした洞窟。
 次々と案内される部屋は、それぞれ特色がある。

「さようですな、これがこれで……」

 老人や、そのおつきの人が、オレ達の質問に1つ1つ丁寧に解説してくれて、楽しい。
 工房はとても大きい。
 道具類も様々だ。
 それに色々なものが材料として使われているそうだ。塩に、木炭。
 香り付けなどに使う木片は、いろんな木の物が用意されていた。
 ノアが好きだったケーキのようなチーズは、作りたてのチーズを砕いてかき混ぜたものらしい。
 日持ちするものだったらいいなと思ったが、残念ながら鮮度が命だという。

「魔導具があれば、数日は保管ができますが、あれは身内だけで食べるものですな……今のところ」

 そっか。魔導具……影収納の魔法で、いけるか。
 あれは、中に入れた物が劣化しないからな。
 グルグルとチーズの保管について考えてみたが、結局は試してみなくては分からないという結論になった。
 でも、保管の問題を置いておいても、身内だけで食べるようなチーズを食べられただけでも、この地に来て良かったと思う。
 ギリアの街でも思ったが、こちらの世界のチーズは巨大なものが多い。
 そして例に漏れず、この工房においてあったチーズも、巨大な物があった。
 倉庫の一角、いっぱいに巨大なチーズが並ぶ様が壮観だ。

「こちらは、1年物……あの奥は3年熟成したものですな。よろしければいくらでもお持ちください」

 言葉に甘えて一つもらった。

「焼いたら、とろける!」

 カガミが、目を輝かせながら料理方法について聞いていた。

「こうやって見ると、いろんなチーズがあるんスね」

 ほんと看破の魔法があってよかった。
 魔法を使いながらチーズを見るだけで、名前がわかる。
 この工房では、いつも新作に取り組んでいるらしく、色々なところから情報を得て、新しいチーズの研究に余念がないという。
 そんなウンチク話も喜んで聞く。

「では、ここから先ちょっとだけ山を登ると保管庫があります」
「冷たく、丁度良い湿り気が、いいチーズを作るのです」

 次は、さらに山を登った先にある洞窟へと向かう。
 そして、山を登る途中、トッキーとピッキーがピタリと止まった。

「も……申し訳ありません」

 ついてこないので、どうしたのだろうと思って声をかけると、しばらく時間をおいてピッキーが答えた。
 どうかしたのだろうか?

「ふむ」

 老人が2人の元へ歩いて山から見える景色のことを話し出した。

「あの大きな湖が、マルカラ湖ですな」

 山から見える一面緑の綺麗な景色の中に、まん丸い湖が見えた。

「やっぱり」

 老人の言葉を聞いて、トッキーが小さく呟いた。

「トッキーは知ってるの?」
「はい、あそこの辺りに……」
「トッキー」

 トッキーが何かを喋ろうとした時に、ピッキーが言葉を遮った。
 どうしたのだろう……。

「いえ、何でもないです」

 ピッキーに言葉を遮られたトッキーは、首を振って何でもないと言い、走ってノア達の元へと行った。

「何があるんスかね?」
「そうですなぁ。あの辺の農村も、やっぱりチーズをいっぱい作っております」
「へぇ」
「村によって、自分の村にあるチーズが一番だと言ったりするのですよ」

 なるほど。それぞれ村によって小さな味が違うのか。
 それからも、洞窟の中の保管庫にあるチーズを食べさせてもらった。
 色とりどりのチーズ。緑に、赤、そしてオレンジ。
 チーズは薄い黄色のイメージがあったが、こんなにカラフルなのかと驚く。

「これは?」
「それはこうやって……」

 小さな林檎に似た形のチーズがいっぱい並んでいたので、気になったので聞いてみるとそれは新作らしい。
 りんごのヘタに見えたのは、爪楊枝。
 チーズを一口大に丸めて、そこに爪楊枝を刺して熟成させるのだという。
 赤いまん丸に、茶色いヘタ。
 見た目も楽しいチーズだったが、甘そうな見た目とは裏腹に、ちょっとだけ辛かった。
 その日の夜、トッキーもピッキーも元気がなかった。

「疲れちゃった?」

 カガミも気になった様子で、心配そうな声で二人に尋ねる。

「いえ、大丈夫です」
「全然平気です」

 2人はそんなことを言っていたが、そうは見えない。
 そんな時、1人いつも通りのチッキーがふと思い出したように口を開いた。

「このチーズは、あたちの村でも作ってるらしいでち」
「へー、そうなんだ」
「この山降りたところにあるらしいでちよ」
「らしいの?」
「チッキーは小さかったから、場所までは覚えてないでち。でも、兄ちゃんがそう言ってました」

 他人事のようにチッキーがそう言った。
 そっか。憶えていないのか。
 チッキーは小さい頃に奴隷として売られたのか。
 それで、憶えていないか……。

「じゃ、せっかくだ行ってみようか?」
「え?」

 トッキーが嬉しそうに顔をあげる。

「せっかく近くによったんだ。故郷によって、元気だよって言うくらいの時間はあるさ」

 冬になっても防寒対策もできているし、なんとかなるだろう。
 特に皆から反論はない。
 ノアも嬉しそうに頷いている。
 こうして、寄り道の、さらに寄り道先としてピッキー達の故郷へ行くことが決まった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...