召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

閑話 立派な友達 前編(ピッキーの友達、モービー視点)

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 オラは、モービー。
 今日は久しぶりに森の奥へと入っていく。

「蜂の巣が見つかればいいんだけど」

 幼なじみで友達のピッキーが空を見上げながら、心配そうに呟く。
 ピッキーは、何年も何年も帰ってこなかったが、突然ふらりと帰ってきたのだ。
 すっごく大きな亀の御者として。
 そのうえお貴族様のように立派な服を着て戻ってきたのだ。
 ただし、お貴族様の奴隷ではない。
 呪い子の奴隷として。

「身なりは良くても、所詮は呪い子の奴隷だ。可哀想にな」

 父ちゃんは、そうピッキーの境遇について言った。
 呪い子は人族の間に生まれる、魔神に呪いをかけられた子供らしい。

「なんでも、呪い子がいるだけで、収穫がためになってしまうらしいぞ。迷惑なこった」

 村長が父ちゃんにそういったという。
 だから、早く帰ってもらわなくてはならないと。
 結局、ピッキー達は2週間ほど村にいるそうだ。
 5日が2回。たったの2週間。
 でも、オラは友達のピッキーが元気で戻ってきて、とっても嬉しかった。
 何年も何年も前、ずーっと昔。
 村には作物が採れない時期が続いた。
 オラ達の村はどんどん貧しくなって、もう食うことも難しくなった。

「満足に働けないものは売りに出すしかねーな」

 大人達はそう口々に言っていた。
 働けないもん。結局のところ、それはオラ達のような子供だった。
 オラはとっても仕事をしていて、父ちゃん達の役に立ってると思っていたが、そうは見てもらえなかったらしい。
 ちょっとだけ悲しくなった。
 一番貧しいピッキーのおうちは下から3人、ピッキーとその弟、それに妹が一緒に売られることになっていた。
 ピッキーの弟のトッキーは売られる時、ワンワンと泣いていたのを思い出す。
 泣き虫のピッキーよりも、ずっとずっと泣いていた。
 奴隷になってしまえば、父ちゃんや母ちゃんと二度と会えないかもしれない。
 村に戻れないかもしれない。

「ピッキーの家は一番貧しい。だから買い戻すことも、難しいだろうな」

 父ちゃんは言っていた。
 オラも含めて何人もの子供が売られて行った。
 檻に入れられて、馬車で町まで進む間、ガタゴト揺れる馬車から見る森は、暗くて冷たくて、怖かった。

「おいらは父ちゃんと約束したんだ。トッキーとチッキーを守るって約束したんだ」

 ピッキーは、冷たく暗い檻の中で、そう言っていた。
 次々と町で、オラ達は売られていった。
 働くのなら、近くの町がいい。
 近くの町ならきっと父ちゃんがすぐに迎えにきてくれる。
 オラは、最初の町で一生懸命自分が仕事ができると宣伝した。
 だからオラは一番最初に売れた。
 ご主人様は優しいおじいちゃんとおばあちゃんだった。
 すっごく……すっごく一生懸命働いて、1年くらいして、父ちゃんが迎えに来てくれた。
 最初に村に戻ったのがオラで、それから向かいのお家のビッタ。
 それから、それから……次々、皆が戻ってきた。
 オラは運が良くて優しいご主人様だったけれども、ひどいご主人様にぶたれて目が悪くなった者もいた。
 そうして、皆が……ピッキー達以外は帰ってきた。
 戻ってきた誰かが言った。
 ピッキーはわがままを言ってるから売れないんだと。

「3人一緒じゃなきゃ駄目だと言ってるらしいな」

 父ちゃんがそういった。

「おいらは父ちゃんと約束したんだ。トッキーとチッキーを守るって約束したんだ」

 ピッキーのその言葉を思い出した。

「バカな父親だ。そんなことを言わなければ、ピッキーだけでも戻ってこれただろうに」

 父ちゃんが、呆れたように言っていた。

「おいらが……ピッキーにあんなことを言わなければ……」

 ピッキーの父ちゃんが、牛に向かってそう言っていたのを聞いたことがある。
 それから更に何年も過ぎたが、ピッキーは帰ってこなかった。
 そんなピッキーが帰ってきて、オラと一緒に森の中を進んでいる。
 それも、とっても立派になって。
 まだ自由の身ではないけれども、ピッキーがとっても幸せそうだったのが嬉しい。

「ご主人様達は、すごい大魔法使いなんだ」

 話は大抵ピッキーのご主人様についてだった。
 全員とってもお優しくて、すごく立派な人達らしい。
 でも、話を聞くにつれて、オラはピッキーがとても可哀想になってきた。
 大工の仕事をして、それからご主人様の身の回りの世話。
 さらには商人さんみたいに数の勉強に、傭兵のように武術の稽古。
 ピッキーは全然休んでいなかった。
 しかも、悪い人や魔物に追いかけられて、酷い目にあったりしたという話も聞いた。

「どんなに美味しいものを食ったって、呪い子の奴隷っていうのは、それだけ悲惨な目に遭うんだろうよ」

 父ちゃんがそう言っていたのを思い出す。

「あいつは嘘つきだ」

 村長の息子、あいつもピッキーの話を聞いて、悪く言っていた。
 ピッキーの話には、さすがにオラも信じられないものも多い。
 山よりも大きな竜を見たとか、山より大きなイカを見たとか。
 にわかには信じられない話だ。
 いろんな場所を旅したらしい。

「雲よりも高い塔で、美味しい果物をいっぱい食べたんだ」

 そうピッキーは言った。

「そんなに言うなら見せてみろよ」

 村長の息子が、ピッキーに言った。

「いいよ。ご主人様にいいって言われたら」

 ピッキーと、ピッキーの弟はそう答えていた。
 なんでも空に踊る蕾というのが使えるようになったと言ったそうだ。
 空飛ぶ籠らしい。
 領主様の飛行船のようなものだろうか。

「あっ、見つけた」
「見つかったそうですよ。坊ちゃん」

 物思いにふけっていると、蜂の巣を見つけたという声が聞こえた。

「やった。すごい立派な蜂の巣だ。レネレネ蜂の巣だ!」

 ピッキーもオラをみて、声を小さくするのも忘れて大喜びだ。
 とっても珍しいレネレネ蜂の巣。
 蜜は金貨のようにキラキラと輝き、巣はサクサクしてとっても美味しい。
 しかも長持ち。
 オラは、すっごく昔に一欠片食べたけれど、今でも憶えている美味しい蜂の巣。
 呪い子の奴隷は不幸になるなんて父ちゃんは言っていたけれど、大丈夫。
 ピッキーがあんなに頑張っているんだ。
 奇跡だっておこるんだ。
 ぐっと腕まくりして、オラはピッキーと一緒に、あの立派な蜂の巣へと挑むことにした。
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