召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

ふたごとりでのモルトール

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 中央山脈から枝分かれした小山脈。
 その上に、モルトールはあった。
 森を北に抜け、街道にでてすぐに右手側に見えたモルトールは、円筒形の砦が目立つ町だった。
 大きな塔を思わせる石造りの砦が2つ。
 それとは別に、小さく同じような作りの砦がいくつもある。
 どれも、暗い灰色の石造りで、屋根は赤い円錐形の屋根だ。
 灰色で板状の石を積み上げて作られた壁に囲まれた町へと入る。
 通行料として海亀が銀貨1枚。ノアが銀貨2枚。そして、オレ達奴隷階級は一人小銅貨5枚。
 小銅貨?
 ヨラン王国で、貨幣の利用が盛んな場所では、銅貨以下の存在として小銅貨を使うそうだ。
 小銅貨は25枚で銅貨1枚。
 ギリアでは使っていなかった。
 いままで小さなお金を使ってこなかったから気がつかなかったのか。
 釣りはいらないと全員分で銀貨4枚払う。
 フェッカトールからもらった地図はここまでしか描いていない。
 つまりはここがヨラン王国の端になる。
 地図の書き込みを見ると、モルトールから東は緩衝地帯と書いてあった。

「とりあえず宿に泊まってから、宿の人に話を聞くか?」
「そうっスね。海亀の小屋も快適だけど、やっぱ宿で広々と過ごしたいっス」
「フェッカトール様に手紙を出す必要があると思います」
「そうだな。手紙出すついでに、商業ギルドにおすすめの宿でも聞いてみるか」

 とりあえず、やることをやってしまってから気軽な気分で宿を探すことにした。
 何処の町でも、同じような作りの商業ギルド。
 そこで手紙を書いていると、オレ達に1人の男が近づいてきた。

「んーふー。もうお着きになられていましたか」

 背の高いひょろっとした男。
 指の全部に、首にと、ジャラジャラと大量の宝石を身につけた商人風の男だ。

「どちら様でしょうか」
「名乗りが遅れました。わたくし、パラパランと申します。華やかなりし帝国の、美しき白薔薇ジャルミラ様より、あなた方を帝国までご案内する役目を仰せつかりました」

 道をどうしようかと考えていたが、すでに案内役が手配されていたのか。
 でも、何だろう。
 初めて会った気がしない。
 どこかで会ったことがあるのだろうか。
 だけど、こんな派手な人とは会った憶えはない。

「そうでしたか。では、パルパラン様、自らが私達を帝国まで?」
「左様でございます。帝国入り口となる町までの案内人としてお待ちしておりました。あと、しばらくの道のり。冬前には帝国に入り、新年を帝国で迎えていただきたいのでございますれば」
「そうなのですか。ここは国境沿いかなと思っていました」
「もちろん。このモルトールの町がヨラン王国の東の端。ですが、すぐには帝国領ではございません。ここからしばらく東は緩衝地帯。つまりは中立の土地でございます」

 そういえば地図にもそう書かれていたな。

「緩衝地帯ですか」
「帝国は、帝国の。ヨラン王国は王国の。長い間、互いの領土を広げ、我こそは世界の覇者なりと、戦っておりました。一時はキユウニまで侵攻を許した王国も死力を尽くし、反撃し、逆に帝国の奥深くまで攻め込むこともございました。一進一退の攻防は続き、やがてここから東を緩衝地帯として一時休戦としたのでございます」
「へぇ」
「故に、今の王国の領土はこのモルトールまで」
「帝国は逆にアウントホーエイから先を帝国領としてございます。故に、その空白地帯、緩衝地帯の案内役として、わたくしめが仰せつかったのでございます。では、早速、このような場所ではなく、わたくしめが用意した館にてしばしの滞在を」

 その申し出を受けて、とりあえずパルパランが用意したという館へと向かう。
 パルパランは神輿のような乗り物に乗り、海亀の前を進む。
 いままでも、同じような乗り物に乗った人を見たことがあるが、こんなに近くで見たのは初めてだ。神輿は4人の屈強な奴隷が担ぎ上げ、さらにその神輿の前に、1人の男が先導していた。
 海亀の背にある御者台。
 ピッキーが座る御者台の側に立つオレから見て右前。
 パルパランの乗る神輿がつかず離れず進む。
 オレから見てやや見下ろす位置にいるパルパランは、綺麗なガラス容器に入ったお酒を飲んでいる。
 優雅なものだ。
 そんなパルパランの派手で優雅な様相とは反対に、モルトールの町は地味だ。
 一言で言えば灰色の町。
 町に入る前も思ったが、中に入ってみても印象は変わらない。
 平たく暗い灰色の石を積み上げて作った家や砦が乱立している。
 砦と砦と間にはロープが張ってあり、たまに荷物がロープをつたい動いていた。
 他にも家の屋根と屋根の間に板が渡してあって、器用に板の上を駆け回る子供が見えた。
 立体的な作りをした町だ。
 ゆっくりと町を進みながら、目についた建物などをネタに皆で盛り上がる。
 お香のような香りが漂う店や、大きな百合に似た花を売る店などが目立った。
 パルパランによると、帝国から持ち込まれた物らしい。
 大きな百合に似た花は、食用だという。
 代表的な料理を1つ聞いたが、薄くスライスした後で塩を振り揉んでいくという工程を聞いて、キュウリの塩もみを連想した。
 そんな感じで、オレ達の会話に、酒を飲みつつパルパランは参加する。
 参加といっても、オレ達の疑問に淡々と答えるだけといった感じだった。
 彼が自分から振った話題は1つだけ。

「それにしても、道中大変だったでございましょう?」
「そうですね、色々なことがありました」
「いやいや、皆さんお強いようです」

 強い? 山賊のことか。
 ここから結構離れているけれど、ストリギから東にある街道の治安悪化は有名のようだ。
 パルパランは商人のようなので、もしかしたら街道の治安は気になるのかもしれない。

「でもまぁ。なんとかなりましたよ」
「なんとか……皆さん、誰も負傷されていないので?」
「負傷するほど大ごとにはなりませんでした」
「んふ。そうでございましたか」

 パルパランと道中の事を話しながら進んでいくと、やがて綺麗な町並みについた。
 灰色だが、綺麗な馬車がいきかい、道も綺麗だ。

「いきなり感じが変わりましたね」
「ここから先は貴族街でございます。もうじき着きますので、ご辛抱を」

 そう言ったパルパランは、綺麗なガラスの器を口に運ぶと、中の液体を一飲みし笑った。
 そんな彼の笑顔に、オレは再び既視感を抱いた。
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