召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第十九章 帝国への旅

ぎわくとたいさく

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 翌日の朝食が終わり、皆で小屋に向かう。

「どちらに行かれるので?」

 ぞろぞろと外に出ようとするオレ達を見て、館の使用人が慌てて立ち塞がり声をかけてきた。
 何でも無いように笑顔で答えることにする。

「あぁ、海亀の背にある小屋をちょっと整備しようかと思いまして」
「左様でございますか。何かあれは命じて下さい」
「えぇ。何かあれば、その時はお願いいたします」

 適当な言い訳で、皆揃って海亀の背にある小屋へと入る。

「で、何の相談ですか?」
「昨日、一つ思ったことがあるんだが……」
「私もちょっと言いたいことがあってさ」
「んじゃ、ミズキさんからどうぞ」
「あのさ、ここ出ていかない?」
「どうしてですか?」
「なんか息苦しくて、監視されてるような感じがするんだよね。カガミはそう思わない?」
「多少は……」
「それはボクも思ったっス」
「ほら、リーダが昨日聞いてたじゃん、屋根が燃えてる建物のこと。宿って話だったでしょ?」
「そうだな」
「でね。せっかくだから観光がてらに見に行って、問題がなければ、そっちに泊まってしまおうかなと思ったわけ」
「なるほどな。ここは立派過ぎて逆に気を使ってしまうからな。ミズキ氏の考えは良いと思うぞ」

 他の同僚たちも、ミズキの意見に賛成のようだ。
 オレも異論はない。

「で、リーダは?」
「この館の人間に聞かれるのは不味いから、ちょっと大きな声では言えないんだが……」
「大丈夫ですよ。大きな声でも」

 オレが声音を小さく語りだそうとすると、カガミが言葉を遮るように言った。
 自信満々だ。

「いや、あんまり聞かれたくないんだけど……大丈夫って?」
「遮音の壁で覆ってるんです」
「魔法?」
「作ったんです。静かな環境で本を読みたいから。音が通らない壁を作ることができる魔法です」

 本当にカガミは壁作る魔法が好きだな。
 次から次へと、壁を作る魔法が増えていく。

「その音の通らない壁で覆ってるから、盗み聞きができないと?」
「えぇ。そういうことです。リーダの今朝の態度から、大事な話だとは思っていましたから。すぐに壁でこの部屋を覆いました」

 なるほどな。
 盗み聞き対策はばっちりできているいうことか。

「カガミの考え通りだ。今からする話はこの館の人には聞かれたくはない」
「で、リーダは何をいいたいん?」
「パルパランは、ロンロが見えている可能性が高い」
「えっ? 呪い子って事っスか?」

 オレの一言に、同僚達は一様に驚いた表情を浮かべた。
 ほんの些細な事だったからな。
 いままで、ロンロを把握できたのは、呪い子とそれに付き従う侍従という存在だけ。
 だから、パルパランが呪い子だという可能性はある。
 しかし、オレは他の可能性も考えている。
 この世界とは別の世界。
 イ・アと名乗る女性が言っていた……王に仕える者達。
 オレ達を殺すと公言していた彼女が放った刺客。
 どちらにしろ、敵である可能性は高い。

「ロンロが見えてるって、なぜそう思ったんですか?」
「ここに来る間のやり取りだよ。さっきミズキが言った屋根が燃えてる宿のことだ」
「あの屋根が……どうしたんスか?」
「屋根は、そこまで大事じゃない。大事なのはあの話を聞いたときのことだ。オレは屋根が燃えているなんて一言も言っていない。ロンロが指差してあの屋根が燃えている建物だと言っただけだ」
「あぁ。そういうことか」

 サムソンが小さく頷く。
 多分、他の皆も気がついたとは思うが、オレは説明を続ける。

「にもかかわらず、パルパランはオレ達の方を見ることもなく、屋根が燃えている建物について答えた。つまりは、ロンロの声を聞いてないと、そんな回答はできないということだ」
「声が聞こえているということは、姿も見えていると?」
「あぁ。声だけを聞くことができた……ってのは考えにくい」
「確かにそうっスね」
「リーダはぁ、よく気がついたわねぇ」
「さらに、オレはパルパランは敵だと考えている」
「悪意はそれほど感じなかったのですが……うーん」

 オレの言葉に、部屋の隅にいたヌネフが首を傾げる。

「悪意は感じないか……でも、それでもオレはパルパランに対する不信感を拭うことができない」
「どうしてですか?」
「オレは、こことは別の世界でイ・アという存在に会ったと言っただろう?」
「うん」
「あの時、あいつは言ったんだ。指示は送った。あいつの仲間がオレ達を殺すって」
「その仲間だと言いたいのか」
「そういうことだ。顔も声もまったく違うのに、何処か似てるんだよ。イ・アと」

 そう。
 オレはパルパランと初めて会った時、妙な既視感を抱いた。
 会ったことがないのに……だ。
 でも、今ならわかる、あの異世界であった存在イ・ア。
 あいつと似ているのだ。
 オレを見るときの目。
 まるで物を見るような視線。
 加えてパルパランはロンロを見ることが出来る。

「リーダの言う通りだと、全部を疑ってかかる必要があると思います。思いません?」
「だから、とりあえず今日はそのための行動をしようと思う」
「つまりは出ていくってことだよね?」
「あぁ。オレ達の情報を与えたくないからな。そして、パルパランの同行無しに帝国へと向かいたい。そのために、あいつの用意した館を出て行く」
「でも、いきなり海亀で出ると、怪しまれると思います。思いません?」
「そうだな」
「別に、怪しまれてもいいじゃん」
「いや、あやふやな状態にしておいた方がいいと思うぞ」
「そうなの?」
「だって、対策取られちゃうだろ」
「そうですね。限りなく怪しいとはいえ、まだ敵だと確定したわけではないですし……でも、ここ出て行きましょう」

 とりあえず、皆にも理解は得られた。
 こうしてオレ達は、パルパランの用意した館から出て行くことを決めた。
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