召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者

こうしんのおわりに

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「一言?」
「世界平和! それは世界平和にございます!」

 オレの言葉に、静まりかえっていた周りがざわめき出す。
 質問が漠然としていたのだ、答えも漠然としていても大丈夫だろう。
 もう誠実な答えなどくそ食らえだ。

「世界……平和だと?」
「はい」
「えぇ」

 うろたえたよう反応する頭上の男に、オレは自信満々に頷き、ノアも落ち着いて頷き同意する。
 オレの答えは世界平和。
 平和が一番ですよねって答えは、さすがに否定はできないはずだ。
 細かいところでは齟齬がでるだろうが、総論としては問題ないはず。
 総論賛成、各論反対ならぬ、各論反対かもしれないけれど、総論は賛成ってやつだ。
 ん?
 ゴーレムの頭上に立つ人影。
 声から男だとわかるが、彼とは別に、もうひとり誰かがいるようだ。
 オレの世界平和が目的という回答に、うろたえた男が後ろにいる誰かに相談しているのがわかった。
 あたりは、いつの間にか真っ暗で、夜空には満天の星、そしてゴーレムの後ろに満月が見えた。
 月に照らされ、後ろにいる人物は空に浮いていることがわかる。

「世界平和とはどういうことだ? 細かく申せ!」

 質問は漠然としていたくせに、返答は細かく言えとは。
 でも、問題ない。

「リーダ」

 ノアが小さく頷きオレを見る。

「はい。お嬢様。世界平和とは、世の中全ての人が、幸せに暮らせる世ということになります」

 世界平和を知らないのか。
 それとも時間稼ぎなのか。
 よく分からないが、勢いで押し切る予定なのだ。考える隙など与えるつもりなどない。
 即答。即答で、いく。

「では、世界平和と、この行進はどうつながる?」
「アンデッド。そして、魔物。両方とも、世の中にいる人々の生活を脅かす存在にございます。聖なる力でなぎ払い、世の中をよくする為、多くの人の協力が必要でした」

 これも即答。
 何があっても世界平和で押し切る。
 回答が漠然としているので、こじつけやすい。
 オレの言葉に、またもやゴーレムの頭上にいる人は後ろを向いて誰かと相談する。

「ノアサリーナ! お前の口から聞きたい、お前の望みは何だ!」

 しばらくして、考えがまとまったのか、ゴーレムの頭上から大きな声でさらに問いかけがあった。
 心なしか焦っているようにも感じる。

「私が、代わりに……」

 ノアとは打ち合わせをしていない、世界平和なんてただの思いつきだ。

「ダメだ! ノアサリーナから直接聞かせて頂きたい」

 しまった。
 こじつけがバレたのかもしれない。
 オレではなくノアから回答してほしいとの申し出。

「それは! 皆がうれしくなるようにすることです!」

 だが、ノアはうろたえることなく即答する。

「うれしく?」

 しかも、その答えはオレの計画に上手く繋がる答えだ。
 ナイス! ノア!

「ここにリストがあります。世界をよくするためには、お嬢様の力だけでは足りません! そこで、帝国の方にも、今以上の協力をお願いしたいのです!」

 せっかくのチャンスだ。
 イブーリサウトからの質問に答えるため用意したリストを掲げ、声を張り上げる。

「協力とは何だ?」
「アンデッドを蹴散らし、魔物の暴走を潰しました。ですが、まだまだ世の平和には力が不足しています。行進することで対応するには世の中は広すぎるのです」
「それで?」
「帝国の方、多くの人を救ってくれる方の協力が必要なのです。行進に協力してくれた方々の希望が記されたリストです。まずは、皆さんにお礼も込めて希望を約束として叶え、その後、世の中をよくするために協力をしていただきたいのです」

 つまり、丸投げ。
 ミズキがオレに丸投げしたように、世界平和という名目で、引き継ぎという名の丸投げをするのだ。
 協力してくれた人達の希望を叶える役目を。
 もっとも、リストにある人の希望は、どこまで行きたいのか、いつ行きたいのかくらいしか聞いていない。
 だから、対応するにしても、前回と同じように、諸侯が提供してくれた騎士達に護衛をお願いするくらいだ。
 負担にはならないだろう。
 神官は勝手にするだろうしな。

「わかった。では、その願い、受け入れよう!」

 オレの言葉に反応して、またもや後ろにいる人と相談して、回答があった。
 詳細を聞かれるかと思ったが、何も聞かずに満額回答。

「ありがとうございます。では、その前に、誰が、この約束を保証してくれるのでしょうか? 是非とも名前を教えていただきたい」

 あまりにもあっさり受けてくれるという回答だったので、不安になった。
 約束するからには、どこの誰か、名前は名乗って欲しい。
 責任者が特定できれば、この人数だ、破るわけにはいかないだろう。
 オレの言葉に、再びゴーレムの頭上にいる人影が振り向く。
 さきほどから繰り返されていた協議をするのだろう……と、思った。
 だが、今回は違った。
 二体のゴーレムの間から、スッと人がでてきた。
 空飛ぶ絨毯に乗って腕を組み仁王立ちした男だ。
 暗くて顔はよくわからないが、月明かりに照らされたシルエットから男だとわかる。

「帝国臣民の希望を叶え、帝国を導き、なおかつ世の平和を担う役目! それは、この第一皇子クシュハヤートの名において約束しよう! ここにいる全ての者が証人だ!」

 第1皇子?
 こんなゴーレムで待ち構えていて、唐突に質問をしてきたのは第1皇子だったのか。
 第2皇子みたいに、事前に手紙が欲しかった。
 いきなり来るのは心臓に悪い。
 そう思っていたのはオレだけではなかった。この場にいる全員が、ここに第1皇子がいるのは意外だったようだ。
 シン……と、静まりかえった。
 風の音、そして地下を流れる水音が妙に響く。

「おおぉぉ!」

 次に起こったのは歓声だった。
 手を叩く音、金属を打ち鳴らす音も聞こえる。
 歓声は次第に大きくなり、地響きが起こる。

「聖女様と、皇子が約束された!」
「聖女様が我々に約束したことを引き継いで頂けるそうだ」
「帝国を導くとおっしゃられた」
「ノアサリーナ様は、やはり帝国の味方であった」
「よりよくするために」

 いろいろな人の声が聞こえる。

「皆様、お聞きのとおりです。お嬢様の願いを聞いて集まっていただき始まった行進ですが、一旦、ここで終わりとします。これより皇子様と共に、自らの希望する土地に戻り、皆様自身が幸せになる道を探してください。よりよくするために!」

 良い雰囲気のうちに、行進の終了を宣言する。
 正直なところ、目的のない行進だ。
 どこかで終了を宣言したほうがいい。
 それなら、今だ。
 協力してくれる人もいる。
 そして、オレの言葉は、今の盛り上がりもあって行進のフィナーレとして受け入れられた。
 サートゥール大橋。
 この巨大な橋にて、第1皇子クシュハヤートと聖女ノアサリーナは、世界平和を約束する。
 こうして、行進は終わった。
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