召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十一章 行進の終焉、微笑む勝者

3つのしつもん

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 かってギリアの領主ラングゲレイグは、オレ達が納品したゴーレムをシンプルな姿だと言った。
 目の前にいるゴーレムを見ると、確かにそうだなと納得する。
 2体のゴーレムは、同じように鎧を着た上にマントを羽織っているような姿に彫刻されている。
 元の世界であった大理石の彫像のように。
 風でたなびく服でも着ているかのように、布の皺も彫刻されている。
 そして足を動かすごとに、青い光の線が腕と足に走り、大地を踏みしめる度にゴーレムの体から光が飛び散った。
 一歩、ゴーレムが踏み込むと、ディテールの細かさがより見て取れた。

「お前に聞きたいことがある」

 ゴーレムの頭に乗った人物が立ち上がりよく通る声で言った。

「何を、お答えすればいいでしょうか?」

 ノアは落ち着いた様子で、声を返す。

「質問は3つだ。この行進は何のためにある。この行進の主はお前か。お前の望みは何だ」

 ゴーレムの頭上から、手に持った巻物を広げ、男の声が響いた。

「いきなりの質問」

 というか、今まで影も形もなかったゴーレムと、その乗り手が現れて質問する状況。
 不意打ちだ。
 どうする?
 というか何者なんだ?
 イブーリサウトは、死んだという。
 他の皇子?
 未だ詳細のつかめない皇子の使いなのか?

「ノアァ、ちょっとだけ待っててぇ。皆と相談するわぁ」

 ロンロがふわりとノアの側にいき耳打ちし、ノアは小さく頷く。
 こういうとき、他の人には見えないロンロはとても頼りになる。
 頷くノアに満足し、ロンロは小屋の中に入っていった。
 小屋の中にはサムソンがいる。
 ノアの側で動けないオレの代わりに、対応を協議するのだろう。
 となれば、オレの役割は時間稼ぎだ。

「失礼ではございますが、名前を教えていただけないでしょうか?」

 微笑むノアの横に進み声をあげる。
 ノアはオレをチラリと見てホッとしたように頷く。
 今までの作り笑顔が少し崩れる。
 まずは、向こうの素性を確認するついでに時間を稼ぐ作戦だ。

「我らは、さる方の使いである。身元は、このゴーレムこそが保証するだろう」
「お前の主ノアサリーナは、相手によって返答を変えるのか?」

 だが、そんなもくろみは相手の即答により潰えてしまった。
 確かにただ者ではないのはわかる。
 でも、オレ達はあのゴーレムを知らない。

「相手により答えを変えるかといわれても、相手を誰か知りたいと思うのは当然かと考えます」
「重ねて問う、相手により答えを変えるのか?」

 どうする?
 困った。
 時間稼ぎすら許してくれない。
 何も思いつかない。

「この行進は……私のお願いにより始まりました。ですから、主は私です」

 ノアが意を決したように頷き一歩前に出ると同時に、大きな声で答えた。
 御者台に座っていたピッキーが慌てて立ち上がり、場所を空けようとして、躓いて転げる。

「あっ……」

 失敗にピッキーが焦っている。
 上手く立ち上がれず、まごついていた。
 足がもつれて、上手く立てないようだ。
 特に光るゴーレムの目に照らされ、焦りが焦りを呼んでいる。

「大丈夫ですか、ピッキー? リーダ、少し手を貸して小屋で休ませて」

 ピッキーを、ゴーレムの光から隠すようにノアが歩みをすすめ、ゆっくりとした声で、オレに命令する。
 だが当のノアも唇が青い。
 一杯一杯なのが見て取れて、このままにしておけない。

「ですが」
「リーダ。どうしよう……あのね……皆と相談して……助けて」

 小声で声をかけようとしたオレを遮ってノアが言った。
 震える声で。
 ノアも必死なのだ。

「了解。もし、ダメになったらお腹が痛いとか……寒いとか言って、時間を」

 上手い返答ができず、場当たり的なことを言って、ピッキーと一緒に小屋へと戻る。
 時間がない。
 小屋には、カガミとサムソン、ロンロとチッキーにトッキーがいた。

「あれ、バウーワブの対巨像と呼ばれる皇帝を守るゴーレムらしいぞ」

 入ってすぐに、サムソンが言った。

「ついきょぞう? 皇帝を守る?」
「ロンロがミズキを通じて側にいた人に聞いてもらったら、そう言ってたらしいです。だから、あれは皇帝の使いで間違いないと」
「1体で一軍に匹敵する力があって、手を出すこと自体が皇帝に弓を引く行為だと」
「予想以上に大事になったな」
「まぁ、第2皇子が来るってなった時点で大事だがな」
「ノアちゃんは?」
「時間を稼ぐって言ってたが、一人にしておけない」

 焦りから、酷く早口になったオレの言葉に皆が頷く。

「何のため行進しているのか? この行進の主は誰か? それから、望み……だったよな」

 サムソンがメモ書きを見ながら言う。
 質問は3つだった。
 うち一つ、行進の主については、ノアが自分であると先ほど回答した。
 だから、後答える必要ある回答は2つ。
 何のための行進か?
 ノアの望みか?

「もう少し詳しく聞いた方がいいと思います。思いません?」
「詳しくっていうと?」
「漠然としすぎていると思うんです」

 確かに漠然としているな。
 これならイブーリサウトの質問の方がまだわかりやすい。
 あれはあれで、答えにくい質問だけど。

「だが、質問を詳細に聞いたとして回答できるか?」
「確かに……即答を求められているな」
「なんとか時間稼ぎをするのが先決だと思うぞ」

 確かにサムソンの言うとおりだ。
 今必要なのは時間だ。

「返答はいかに!」

 小屋の外ではノアが問い詰められている。
 時間がない。

「ミズキ姉さんから伝言です」

 プレインが息を切らせて駆け込んできた。
 ミズキから伝言?
 息を切らせて駆け込んでくるくらいだ、期待できる。
 一発逆転の秘策?

「ミズキは、なんだって?」

 何かあったのか? 追加の情報?

「リーダに任せる。チャチャっとそれっぽい答えをよろしくって」

 丸投げ。
 大体分かってたけどさ。
 というかプレイン、お前もそんなに急いで言いに来る必要ないだろう。
 なにか素晴らしいアイデアがあったのかと、期待したじゃないか。
 丸投げって、いつものことじゃないか。
 なにが、チャチャっとそれっぽい答えだ。
 適当な事言いやがって。
 まったく。
 いや、待てよ。
 適当……か。

「全員分のリスト、用意できる?」
「さすがに全員は……」
「なら、一部だけでいい。今用意できるものを全部」
「何か思いついたのか?」
「大丈夫だ。乗り越えることができる……はずだ。少なくても時間をかせげる」

 ミズキの言葉でピンときたのだ。
 答えは適当でいいのだと。
 ただし、適当であっても否定の難しい答えが必要だ。
 だが、それも同時に思いついた。

「さすがリーダ様!」
「大丈夫なんだろうな?」
「あぁ。どちらにしろとノアをこのままにしておけない」
「そうですね。お願いします」

 カガミから紙の束を受け取る。
 大きく深呼吸した後、背筋を伸ばし勢いよく小屋をでる。
 勢いが大事だ。
 細かい事は気にされないように、一気に進めなくてはいけない。

「お待たせしました、お嬢様。ピッキーは大事無いようです。それから、言い付けの物を持ってまいりました」
「イイツケノモノ?」
「えぇ。よろしければ、私から説明いたしましょうか?」
「そうですね」

 オレのいきなりのフリにノアが大きく頷く。
 そして、ゴーレムの頭上をゆっくりと見上げて声をあげた。

「お待たせいたしました。これより先は、こちらにいるリーダが説明します。リーダの言葉こそ、わたくしの思いでございます。では、リーダ、説明を」
「畏まりました。では、さきほどの問いについて、回答させていただきます。まず質問は3つありました。うち一つは、お嬢様がすでに答えたとおりです」
「ノアサリーナが、この行進の主ということだな」
「左様です。そして残り二つ。この行進が何を目的としているのか? そして、お嬢様の望み」
「そうだ。その答えはいかに?」

 ゴーレムの頭上から聞こえる問いを受けて、オレは大きく深呼吸する。

「はい。残り二つは、たった一言にてお答えできます」

 そして、できる限り自信があるように、ゆっくりと、はっきりと言葉を発した。
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