召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十二章 甘いお菓子と、甘い現実

ことばよりたべもの

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 ということで、こたつにこもったまま動かない海亀の説得を再開する。

「被るだけであったかくなるの」

 私が説得してみると、やる気のノアに任せて成り行きを見守る。
 ノア自身が、自ら兜を被って「ポカポカするよ」といって鋭いターンするというデモンストレーションした。
 兜はサイズが変わるけれど、2メートル近いモヒカンはサイズ変わらないんだな。
 大丈夫そうだけれど、ノアは重くないのかな。
 そして、海亀の周りをクルクル回って、飛び跳ねたり、海亀を包むように被さる布をポンポンと叩き、声をかけた。

「んー」

 反応が無いことにノアは考え込んだ後、兜を脱いで、少しだけ布をめくり中でこもる海亀に声をかける。

「お願い」

 ノアの説得は続く。
 だが、いくら説得を続けても、海亀は動く気配がない。

『ガラン、ガラン』

 続く説得の最中も、街道を馬車が通り過ぎていく。
 何台も、何台も。
 それは、そんな馬車のうち1台が通り過ぎた時だった。
 海亀が急に頭を出してキョロキョロと周りを見だした。
 危ない。
 急に首を伸ばしたので、ノアに頭が当たるかと思った。

「どうしたの?」

 サッと身をひるがえして、上手い具合に海亀の頭を避けたノアは、何事もなかったように質問する。

「あの馬車から、美味しそうな匂いがするらしいですよ」

 ノアの質問に答えたのは、側に居たヌネフだった。
 美味しそうな匂い?
 カロメーの時も思ったけれど、こいつ食い物の匂いには敏感だよな。

「ちょっと聞いてくる」

 ヌネフの言葉に、ミズキが即座に反応して馬車を追いかけていった。

「なにがあるんだろうね」
「うん。海亀さんが好きな物があるのかな」

 遠くの方で、茶釜に乗ったミズキは馬車を捕まえたようで、しばらく話し込んでいた。
 よく見ると何かを受け取ったようだ。

「ちょっと分けてもらっちゃった。これを運んでたんだって」

 そう言ったミズキが持っていたのは、一見ぼろ切れのような白い板だった。
 ただ、これで間違いなようだ。
 海亀が興味深そうに、そのぼろ切れを見ていた。

「何、これ?」
「海藻を干したものだって」

 ミズキが、海亀の口元に、真っ白いぼろ切れのような板を持っていく。
 海亀は、ミズキの手から小さく口を動かして、板を摘まむとパクリと口に入れた。

「美味しい。もっとよこせと言ってます」

 ヌネフが通訳してくれる。
 美味しいか。

「やっぱり。南方でとれる海藻なんだって。乾燥させてお菓子の材料に使えるらしいよ」
「へぇ。そういや、この海亀……ノレッチャ亀って、決まった海藻しか食べないとか言ってたな」

 結局はノアの、持っていたカロメーも食べるってことがわかったので、海藻をなんとかしようとは今まで思わなかった。
 毎日カロメーだと飽きるのかもしれない。

「でね、あの町に行けばもっとあるっていうからさ。あの町……コルヌートセルまで行ってくれれば、沢山買ってあげるよ」

 そう、ミズキが海亀に向かって言う。

「あのね。それに、この兜を被ると体がポカポカしてあったかくなるんだって」

 そこに、さらに追い打ちのようにノアが提案をした。

「しょうがないなと言ってますよ」

 何様のつもりだ。
 ヌネフの芝居がかった口調もあって、なんだかムカついてくる。

「やっぱコイツ、亀鍋にして、これからは小屋を浮かして茶釜に……」
「まったく、もう」

 呆れたようなカガミにたしなめられる。
 そんなくだらないことを言っているうちに、トッキーとピッキーが兜を海亀に被せる。
 兜は海亀の頭に乗った直後、パッと大きくなってすっぽりと海亀に被さった。

「上手くいきそうだな。じゃ、念力の魔法を使うぞ」

 サムソンが魔法の準備を始めると同時、海亀が湯気を立てながら、のっそりと歩き出した。
 やる気だ。
 食い物の力は偉大だな。
 なんて思っていたのは束の間、どんどんとスピードを上げていった。

「えっ、ちょっと待って」
「おいおい、マジか」

 いつもと同じくらいのスピードで動き出す。
 オレ達を置いて。

「もういい! 乗ってしまおう!」

 せっかくやる気になっているのだ、さっさと乗ることにする。
 トッキーとピッキーをミズキが抱えあげ、カガミはチッキー、オレがノア。
 走り続ける海亀に乗り込む。
 プレインが御者を買って出る。
 海亀が動かないまま昼を過ぎてしまった旅は、こうして再開する。
 砂煙を上げ進む海亀の勢いは止まらない。

「こいつ、こんなに早く走れるのか!」

 サムソンが感嘆の声を上げる。
 気合いの入る兜らしいが、こんなに気合いが入るとは思わなかった。
 やる気に満ちあふれているな。

「この調子だったら、すぐに着きそうだ」

 ところが話は、そんなに簡単に終わらなかった。

「止まんないっス! 門にぶつかる!」

 プレインが大きな声をあげる。

「えっ?」

 海亀は思った以上のスピードで走っていた。
 あっという間に、コルヌートセルへとたどり着き……そして、門を前にしても止まらない。

「ガルルルルル」

 表にでると、喉を鳴らし突っ走る海亀がいた。
 ミズキが併走する茶釜に飛び乗り、前に回り込もうとする。
 だが、間に合わない。
 門はすぐ目の前にあった。
 そして、異常事態にさっと横によける門番達。

「門を閉めろ!」

 口々に叫ぶ門番の声があたりに響く。
 よく見ると、ガラガラと大きな音を響かせ、門の上から鉄の柵が降りてきていた。

『ガァン』

 怯むことなく突進する海亀の頭と、鉄の柵がぶつかり、背にある小屋も大きくゆれる。
 中にいる皆の悲鳴が聞こえる。
 グラングランと大きく揺れた鉄の柵は大きく歪んだ。
 かぶとを被った海亀の頭の方が硬かったらしい。
 相当な石頭だ。
 海亀の背にある小屋は鉄の柵にひっかかる。
 だが、それでも海亀は留まらない。こたつの体を成していた布を脱ぎ捨て、海亀は町へと突進する。

「リーダ!」

 ミズキに呼ばれた、オレは鉄の柵にしがみつき、海亀を指さす。

「兜だ! 兜を取れ!」

 どうやら海亀は暴走している。
 原因は、多分あの神具だ。
 人間用の神具が、海亀に悪影響をもたらした可能性が高い。
 オレの声が届いたのか、ミズキは大きく頷くと町へと駆け込んでいく。
 町からは悲鳴が聞こえていた。
 爆発音のような物音も。

「リーダ! 終わった! 兜、はじき飛ばしたら止まった」

 槍の先に、兜を乗っけたミズキが戻ってくる。

「よかった」

 いきなりの暴走が解決したことに、ホッと安堵する。
 だが、良くはなかった。

「かような魔物を町へと放つとは! お前達! 何のつもりだ?」

 安心するオレ達は、兵士達に囲まれてしまっていたのだ。

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