召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十三章 人の名、人の価値

せきにんあるしごと

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 本戦に向けて、どんなものを作ろうかとアイデアを出しながら帰路へとつく……はずだった。
 だが、コルヌートセルから出る直前。門の前で待つ1人の役人が、そんな予定を狂わせる。
 ニコニコと話す彼の言葉は、その態度とは裏腹に気が遠くなる話だった。

「ええっと。特別閲覧席にかかる打ち合わせですか?」

 それは衝撃的な内容だった。

「左様です。招待状の方にも記載させていただいていると、お思いますが?」

 慌てて招待状を見直す。
 外見の立派さに惑わされていて、しっかりと見ていなかった。
 本当だ。役人の言ったことが書いてあった。
 特別閲覧席というのは、ただお菓子を食べるだけの席ではなかった。
 料理人に向けて言葉をかける必要があるらしい。

「お菓子そのものの品評……ですか」
「左様です。一応の流れを確認する必要はりますので」

 何が左様です、だよ。
 ノアがお菓子を食べてうだうだうんちくを話す必要があるか……。
 しかも、アレだろ、ハロルドが言っているようなやつ。
 ハードルが高いというか、オレ達の中でそんなことができるのはハロルドぐらいだ。
 そもそも物の味がわかるかどうかすら、結構怪しい奴はばかりだぞ。

「あっ、もちろんですが、他の食事会における品評と同じように考えていただければ、結構でございます」
「他の食事会ですか?」
「えぇ」

 他の食事会という表現で、役人は全てを語ったという感じだが、オレにはさっぱりわからない。

「あれよねぇ。ノアがぁ、この人は料理について詳しいって人を指名してぇ、代わりに語らせるってことよぉ」

 困ったいたオレに、ロンロが即座に解説を入れてくれた。
 珍しい物、美味しい物を食べる品評会を貴族が開いた場合、知識がある者や表現に長けた者を同行させることがあるそうだ。
 本人が語ることが一番評価されることは間違いない。
 だが、代理の者がまわりを唸らせる対応をすれば、そのような配下を持つ主人もまた評価されるそうだ。
 今回は、ノアはまだ子供なので、代理を付けるというのは一般的なことらしい。
 ロンロがいて良かった。

「ノアサリーナ様が信頼する者を同行してもいい……ということですか?」
「えぇ」

 だったら、ハロルドに任せりゃいっか。
 頼まなくても延々と論評するしな。

「そういうことでしたら、かまいません。こちらこそよろしくお願いします」
「はい。ノアサリーナ様の名声は帝国中に響いております。であれば、お菓子の祭典ヘーテビアーナをより盛り上げるために、ぜひともお力をおかしいただきたいと存じます」

 お願いの形式をとっているが、これを受けなくては、本戦のお菓子が食べられない。
 ずっと、皆が同じテーブルでお菓子を食べられると思っていたが、領主側のテーブルには、ノアと従者1人と限定されていたのか。
 身の回りと万が一の代替者は、別室で控えるという。
 これもまた、招待状に書いてあった。
 もう少し招待状をしっかりと読めば良かった。

「はい。もちろんです。ヘーテビアーナを盛り上げましょう」

 ノアが矢面に立つわけでもないし、軽い気持ちで了承する。

「了解いたしました」

 それから、一通りの説明をうけて帰路へとつく。
 知っている事を前提にいろいろと説明をされる。
 側でロンロが解説してくれなくてはさっぱり分からなかった。
 一品ごとに、料理人がコメントし、領主が指定した者がコメントし、最後に主催者である領主が取りまとめる。
 領主の取りまとめ後は、休憩、そして次の品物を待つ。
 そういう流れだそうだ。

「お菓子にコメントなんかしなきゃいけないんスね」
「適当に食べてニコニコ笑ってればいいのかと思ってたよ」
「あのね、リーダ。頑張るよ」

 皆一様に、だらだらと喋りながら帰宅する。
 ノアの隣に座って、お菓子にコメントするのはハロルド。
 オレと同僚達はのんびり別室でお菓子を食べる。
 そのつもりだった。

「本戦が終わるまで……ハロルドは持つんスか?」

 飛行島に戻った直後、ふと思いついたようなプレインの一言。
 その言葉でハッとなる。

「ハロルドの呪いが……復活するということか」

 そうだった。
 時間制限。
 ハロルドの呪いは短時間しか解くことが出来ない。

「ハロルドは途中退場必至じゃないか。どうする?」
「食事中に、呪いが復活するのはまずいから、別の人間が座わったほうがいいぞ」

 困った。
 気楽に考えすぎていた。

「やっぱり、リーダがノアちゃんの隣に座るべきだと思います」
「だから、食レポ……」
「それだったら、対策あります」

 話が堂々巡りになるのかと口を開いたオレに対して、カガミが被せるように言う。

「対策?」
「えぇ。サートゥール大橋でノアちゃんが質問されたでしょ? 他の人ではなく、ノアちゃん自身が言えって」
「あぁ。オレが代わりに答えることを拒否されたな」

 いきなり、ノア本人が答えるように言われて焦った事を思い出す。
 あの時は、ノアが機転の利いた答えを即答してくれたおかげで、事なきを得るどころか、大きく話を進めることができた。

「もし、もう一度、同じ事があったらどうしようかと考えたんです」
「カガミ氏は、答えを見つけたのか?」
「そうです。腹話術の魔導具というのがあるんです」
「あの人形の?」
「その腹話術です……ちょっと取ってきます」

 そう言って部屋を出て行ったカガミは、2つの宝石を手に戻ってきた。
 木枠に嵌められた宝石で、手のひらより少し小さいサイズだ。片方は赤、片方は青く輝いている。

「これが、腹話術の魔導具?」
「えぇ。これを持っていてください」

 カガミに押しつけられるように、青い宝石のはまった板を受け取る。
 オレが手に取ったのを確認すると、カガミはもう一方を手に席を離れた。
 これから起動させるのかな。

「ホンジツハ、セイテンナリ。ホンジツハ、セイテンナリ」

 どうなるのかなと思っていたら、突然、オレの口が開き、意図せず声がでる。

「面白そう、貸して貸して」

 ミズキが跳ねるように席を立った。

「グヘヘヘ。ネーチャン、エエケツシトルノオ」

 またもや勝手に口が動く。しかも、言っていることは酷い内容だ。

「ちょっとやめてよ。リーダ。セクハラ発言」

 ロクでもない言葉を言わせたあと、犯人のミズキがケラケラと笑いながら席にもどる。
 くだらないことしやがって。

「でも、いいっスね」
「これを使って、ハロルドの呪いが解けている間はハロルドが解説して、それ以降は皆で協力してコメントを考えることができると思います。思いません?」

 悪戯っぽくニヤリと笑ったカガミに、同僚達が頷き肯定する。
 確かにアイデアとしては悪くない。
 なんだか、何かを見落としている気もするが、反論の意見もないしなぁ。

「じゃ、それでいこうか」
「なら、あとは任せたぞ。リーダ」
「オレ?」
「そうっスね。ノアちゃんもきっと先輩と一緒が嬉しいだろうし」
「そだね」
「聞くまでもないと思うぞ」

 しょうが無いか。
 ノアは出席確定だしな。

「了解」

 行くしか無いかと首を縦に振った。
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