召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十三章 人の名、人の価値

おきぞくさま

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 えっ、なんでいきなり殴られたんだ?
 まるで物を見るような目で見下ろされる。

「何をなされるのです!」

 ノアが非難する声をあげる。
 だが、ナセルディオからは何の返答もない。

「ナセルディオ様、それはノアサリーナの奴隷でリーダという男です。そこの者とは関係無いかと」

 少しだけ間があって、彼と一緒に現れた侍女が、囁くようにナセルディオに声をかけた。

「あぁ。そうだったのか。すまない」

 そこで初めて、ナセルディオは、謝罪を口にした。
 オレではなく、ノアに対して。

「大丈夫ですか? リーダ」

 ノアは、オレに声をかけた後、ナセルディオの態度に少しムッとしたような顔で睨む。

「そんな風に目上の者を睨みつけるものではないよ。それからお前、いつまでもそうしているつもりだね。みっともない。早く立ちたまえ」

 ところがナセルディオは、ノアの視線を気にもせず、逆にノアを窘めるように答えた後、オレに対しても偉そうに命令する。
 自分で殴ったくせしやがって。
 オレを殴った手を、侍女に拭きながら、見下ろす様子に反省や謝罪の態度など微塵もない。

「リーダ、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない」

 小声で聞いてきたサムソンに、何でもないと軽く手を振り答え、静かに立ち上がった。

「さて、少し問題があったが、私が、其方の父、ナセルディオだ」
「はじめまして、ナセルディオ様」

 ナセルディオはオレには興味が無いようだ。
 先ほどまでとは少し違い、優しげな声でナセルディオは、ノアへと名乗る。
 対してノアは他人行儀に挨拶した。
 初めての親子の対面として、オレがイメージしていたのとは少し違うな。
 まぁ自称父親だからしょうが無いか。
 それに出会いも、今のところロクでもない状況だし。
 加えて、ナセルディオの後に控える2人の侍女が無表情というのもある。
 良い雰囲気というものとは縁遠い、ただただ事務的な感じだ。

「あぁ。遠いところ来てくれて嬉しいよ。本当は、帝都から動けない状況ではあるのだが、お前に会いたくてね。居ても立ってもいられず、来てしまった」

 だが、ナセルディオは場違いなほど、リラックスしていた。
 酷く事務的なノアの挨拶に、ナセルディオは小さく微笑み、おどけたように答えた。
 そして、しばらくノアを見た後、言葉を続ける。

「それにしても、それは帝国の服装ではないな。これからのことを考えると、お前には帝国の装いをしてもらいたい。まずはそこからだ」

 ノアの服装か。
 髪の色に合わせた薄紫のドレス。
 確かにギリアで仕立てたよそいきの服だ。
 高級感もあり、ノアに似合ってはいるが、帝国の服装とは違う。
 これからは皇子の娘として外部に紹介されるということになれば、異国の服装はまずいのかもしれない。

「では、手配致しましょう。急げば明日の朝には準備可能かと」

 ナセルディオの言葉に対し、侍女が提案した。
 これからすぐに服を作るということか。
 さすがだな。
 やはり、なんだかんだと言っても、皇子様が命令すればすぐ動くってわけか。

「そういことだ。ノアサリーナ。これから我が屋敷にて、服を仕立てよう」
「今からでございますか?」
「そうだよ。正しいことは早めに準備をすべきだ」
「リーダ……」

 いきなりのことにうろたえたのか、ノアがオレの名前を言い、チラリと見る。

「そうですね、お嬢……」

 服を作るというのは問題無い。向こうの立場っていうのもあるからな。
 だが、ラテイフ達と合流もしていない状況だ。
 そんなに急がなくてもいいだろう。
 今日は疲れたとか言って、服を作るのは明日に延ばして貰いたいな。 

「ノアサリーナ、主はお前だろう? いちいち奴隷の顔色を窺うものではない。それともお前は名ばかりの主で、自分の事すら決められないのかね?」

 だが、ナセルディオはオレが言葉を挟む隙すら作らせないように、ノアへと語りかける。

「急な事です。今後の予定もあります」

 ノアはナセルディオの言葉に早口で言い返す。

「予定? ふむ。だが、それは主の希望に従って、配下が調整するものだ。まぁ、使えぬ奴隷の中にあっては、お前が動かなくてはダメなのかもしれんが……」

 ナセルディオは、ノアの反論が意外だったようだ。
 片方の目がピクリと動き、先ほどのおどけた態度から一変し、馬鹿にしたような口調でノアへと語りかけた。

「大丈夫です。分かりました」

 ノアは、ナセルディオをいらだちがわかる表情を、しばらくジッと見ていたが、了承した。

「よろしい。では、誰か1人、付き添いを許そう。服の仕立てを手伝ってもらわなくてはならないから、女性にしなさい」

 ノアの回答に、満足そうに頷くと、今度は一人だけ同行を許すと言い出した。
 本当にこちらの都合などお構いなしに、次々と決めていく。
 偉い人特有の態度というか、オレ達の意見など聞く必要がないという意思をひしひしと感じる。
 相手のペースだ。

「では、私がノアサリーナ様と一緒に参ります」

 なんとかして、こちらのペースで物事を進められないかと思案していると、ミズキがノアに同行すると言い出した。
 できれば全員が同行できるように話を進めたいってのに、ミズキのやつめ。

「いえいえ、私が参ります」

 そう思っていたら、カガミも立候補する。
 ノアの事が心配だから、2人が立候補して、2人ともって流れにするつもりなのかな。
 悪い手段ではない。いや、むしろナイス判断。
 そう思っていたら違った。
 カガミもミズキも、キラキラとした目でナセルディオを見ていた。
 イケメン目当てか。
 まったく、なんて奴らだ。
 結局、ノアの付き添いはカガミがすることになった。
 そこから先は、追い返されるかのように領主の屋敷を後にする。ラテイフ達への連絡もナセルディオがすでにしたという。
 加えて、オレ達を町の外まで運ぶための馬車まで用意済み。手際がいい。
 こちらの言うことも聞かず、準備してやったといわんばかりの態度で馬車に押し込められた。
 そして、乗ったのを確認した途端、町の外へと向かって馬車はかけだした。
 やれやれだ。
 ラテイフ達には、明日にでもノアを迎えに行くついでに会いにいくしかなさそうだ。

「まったく、ミズキもカガミも、顔がそんなに大事かよ」
「え? なになに、妬いてんの? うける」
「それにしても、ロンロはどこに行ったんスかね」

 プレインの言葉に頷く。ノアの後を追ってもらおうかと、ロンロを探したけれど、姿が見えなかった。
 子犬になったハロルドが跡をつけているが、あいつは今日すでに呪いを解いている。
 いざとなったときには動けない。
 こんなことなら、モペアも一緒に来てもらえばよかった。
 なんだか、いろいろな事が思うようにいかない。

「ここで本当によろしいので?」
「えぇ。もう少し、森に入ったところに、海亀を待たせていますので」

 やたらと色っぽいお姉さんの御者に別れをつげ、飛行島へと戻る。
 とりあげず、落ち着いたら今後のことを相談しよう。

「どうでした?」

 飛行島へと戻ると、その端に腰掛けてぼんやり外をみていたシューヌピアが出迎えてくれた。

「優勝できなかったっス。でも、ノアちゃんのお父さんには会えたっスよ」
「お父様に……それは良かったです。それで、ノアサリーナ様は?」
「お父さんと一緒。なんだかさ、ノアノアの服を作る事になっちゃって。夜には戻るはずだよ」

 加えて決勝のお菓子という、お土産があること。
 ナセルディオが、ハンサムだという話をしつつ、飛行島の館へと戻る。

「痛っ!」

 家の広間へと入る直前、ミズキがいきなり呻いた。

「大丈夫か?」
「ちょっと頭痛がしただけ」
「二日酔い?」
「飲んでないし」
「風邪っスかね」
「かもね、寒いし。ちょっとエリクサー飲んどくよ」

 この世界にエリクサーがあって良かった。とりあえず体調不良は気にしなくて済む。
 それに、なんだかんだといって、皆疲れているようだ。
 ノアの父親に関する話は明日以降かな。
 当事者のノアも戻っていないし、急がなくてもいいだろう。

「ふむ。これは其方らの言うところのミルフィーユと似ておるな」
「そうっスね。でも、さすがプロの力作。こちらの方が美味しいっス」
「私は、この白いのが気に入りました」
「うん。これ、お酒に合いそうなのもね」
「おいらは、この果物たっぷりのお菓子が好きです」
「あぁ、フルーツのタルトか。俺もそれが一番だった。甘い物はどうもな」

 最近はお菓子作りなどで、バタバタしていたから、のんびりした状況もいいものだ。
 ダラダラとお菓子の品評をしながら、ノア達が戻ってくるのを待つ。

「さすがに遅すぎるよね。泊まりかな」

 干し肉を囓りながら扉を見る。
 夜も更け、すでに深夜。
 お菓子の品評会は既に終わり、晩酌タイムだ。
 リスティネルと同僚達だけで、のんびりとノアを待つ。

「ノアが戻ってきた! なんだか変だ!」

 泊まりなら連絡くらい欲しいな。
 丁度、そんなことを考えていた時、モペアが部屋へと駆け込んできた。

「変?」

 焦った様子のモペアを見て、ただ事ではないと感じ、外へと向かいながらモペアに聞き返す。

「ブラウニー達と一緒に戻ってきた。カガミがブラウニーに抱え上げられてる」

 どういう状況だ?

「ちょっと、どうしたのカガミ!」

 一足先に表にでたミズキの非難するような声が聞こえる。
 酔っているのか、顔を赤らめて足取りのおぼつかないカガミが、ノアに手を引っ張られるように家へと向かってきていた。

「だいじょ~ぶ。少しだけ……飲み過ぎただけ。ナセルディオ様も、酒をたしなむ其方は美しいって言われたんだよお」
「だからって、ノアノアほっぽって飲むって」
「んふふ。ノアちゃんなら~大丈夫、しっかりしてるんだからあ。それより、ナセルディオ様の所にもどらないと、ノアちゃんが邪魔するからあ」

 何度もカガミはノアの手を振りほどこうとするが、その度に、ノアはカガミの手を掴みなおしていた。よく見るとノアは目に涙を浮かべて、泣くのを我慢するように口をつぐんでいる。

「妙じゃ、妙じゃ」
「いつものカガミ様じゃないわい」

 ブラウニー共も異常事態をそろって口にする。
 皆が心配そうに、カガミを見上げていた。

「プレイン、水!」

 肩を抱くようにカガミを担いだミズキが大声をあげ、一緒に家へと入る。
 それは、そうやってカガミが広間へと入ったときのことだった。

「もう、おおげ……」
「えっ? どうしたの……カガミ?」
「あああぁぁぁ!」

 突如、カガミが叫び声をあげた。
 頭を押さえ、目を見開き、絶叫したカガミは、糸が切れるようにバタリと倒れた。
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