召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十三章 人の名、人の価値

いじょうじたい

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「ちょっと、カガミ! カガミったら!」

 ミズキが涙声でカガミの名前を呼ぶ。
 何が起こった?
 先ほどから立て続けに起こる異常事態に頭が回らない。

「まずは寝かせるがよかろう」

 リスティネルの声で我に返る。

「そうだな。まず、寝かせよう。それから、エリクサーを」
「わ、わかった」

 ミズキがさっとカガミを抱え上げ、広間からでてカガミの部屋へと向かう。
 歯をカチカチと小さく鳴らしていたノアと目が合った。
 そうだな。しっかりしなくては。
 これ以上ノアを不安にさせるような態度は良くない。

「大丈夫だよ」

 なんとか振り絞るようにしてノアへと微笑み、声をかえす。

「うん。カガミお姉ちゃんのところいく」

 小さく呟くとノアは部屋から出て行った。
 そうだな。まずはカガミだ。
 同じように、オレ達もノアの後を追いカガミの元へと進んだ。

「それにしても、何が起こったんだ?」
「ただ事じゃなかったっス」
「この家に備わっている魔法の力だろうの」

 リスティネルが、カガミの居る方向を見て断言した。

「魔法の力ですか?」
「あぁ。先ほど、強い魔法の発動を感じた。そして……それは精神に作用する魔法を剥ぎ取るものだったのだろう。だから、心の在りようを定める頭を押さえ倒れたのよな」

 そうか。この家にも、ギリアの屋敷と同じように沢山の魔法が仕掛けられているのか。
 あの屋敷がらみであれば、納得できる話だ。

「つまりは、剥ぎ取ったときのショックで、カガミ氏は倒れたということ……でしょうか?」
「そういうことだ。それにしても、なんとも過激なことだ。この魔法は、魔法をかけられた者が死んでもかまわないという心づもりで作られているようじゃな」

 リスティネルの言葉にドキリとする。
 カガミは大丈夫なのか?
 いや、大丈夫なはずだ。エリクサーがある。あらゆる傷や病を即座に治す万能薬。

「どうしよう。リーダ……カガミが目を覚まさない」
「エリクサーは?」
「飲ませた! 飲んでくれたのに! カガミが! カガミが!」

 すぐに気がつくだろうと考えていたが、部屋の様子を見てそれが間違いだったと気がついた。
 取り乱したミズキがオレを見つめて訴える。
 エリクサーを飲ませたのに、目が覚めない。
 急ぎ、カガミの側へと近づいた。
 一瞬、死という言葉が頭をよぎったが、見たところ、カガミは寝ているようにしか見えなかった。まるで熟睡しているように、小さく吐息を立てていた。
 エリクサーを飲ませたのに、目が覚めない。
 こんな状況は初めてだ。
 どうすればいい……どうすれば……。
 いや、そうではない。よくよく考えれば、過去にもあった。
 オレ自身がそうだった。
 目覚めるまで時間がかかるのかもしれない。

「先輩」

 プレインが弱々しい声でオレを呼ぶ。

「様子を見よう。すぐに目が覚めないことだってあるさ。ちょっと疲れてたんだよ。カガミ」

 そう言って、ミズキとプレインを見て、オレが部屋に来てから、ずっとオレの服を掴んでいたノアの頭をなでた。

「あぁ。そういや、リーダ、お前もそうだったな」
「そういうことだ」
「リスティネル様は、どう思われますか?」

 念の為、リスティネルにも聞いてみることにした。
 人知を超えた存在であるリスティネルであれば、何か分かるかもしれない。

「死んではおらぬな。さて、私にもわからん。ところで、ノアサリーナ、何があった?」

 そう言ってリスティネルは、ノアを静かに見つめる。

「あいつが、食事にしようって言って……酒はたしなまないのかねって」
「あいつって、ナセルディオ?」

 リスティネルに問われたノアは、オレの服をギュッと握って、ぽつりぽつりと語り出した。
 食事の中で、カガミはお酒を飲もうとしなかったらしい。
 主であるノアがいるからと。
 だが、食事が進むなかでカガミの態度が変わっていったそうだ。
 そして自分からお酒を飲むようになって、酷く酔ったという。

「無理矢理じゃなくて、自分から?」

 ノアがコクリと頷く。
 自分から、あんなになるまで飲むか。

「夜も遅いから今日はこちらに泊まっていかれたら……って」
「そうか」
「それで……あいつがカガミお姉ちゃんに何か言って……で、ノアちゃんを着替えさせて寝させないとって……。あいつは、別の者に任せようって言ったけど、断ったの」
「カガミが?」

 ブルブルと首を振ったノアは、カガミを見て、それからオレを見る。

「ノアサリーナ。其方が、断ったのだな」

 辛そうなノアを見て、これ以上は聞かなくてもいいかと考えていたが、そんなオレの思考は関係ないとばかりにリスティネルが追求する。

「お姉ちゃんは……カガミお姉ちゃんは、そうですねって言ったけど、私がカガミお姉ちゃんじゃなきゃ嫌だって」
「そうか」
「でも、カガミお姉ちゃんは酔って手が上手く動かせないから、ブラウニーに任せて、あいつのところに戻ろうとして」

 カガミがノアを置いていこうとした?
 いつものカガミではあり得ない判断だ。いや、最初はアルコールだって控えようとしていた。
 何があった?
 いや、今はノアの話を聞くべきだ。考えるのは後にしよう。
 小さく頷き、ノアの話を促す。

「ジラランドルがね。何かがおかしい、この場にいるのは危険だから、すぐに連れだそうって」

 結構な距離がある。何時間かかったのか、ふと見るとノアの足下は土に汚れ、スカートの至る所が、破れていた。

「わかった。教えてくれてありがとう」

 そう言ってノアの頭を撫でる。
 どうしてカガミが態度を変えたのかははっきりとしない。
 だが、はっきりとしたことはある。
 ナセルディオは警戒すべき人物。言い直せば敵だってことだ。
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