召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十三章 人の名、人の価値

ぎしき

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「……お願いがあります」

 ノアの声が聞こえる。

「ふーむぅ。お答えにーなーれたラん?」

 誰かと話をしているのか。

「その、お願いとやらによるな?」

 ナセルディオの声だ……、ここは何処だ。体が動かない。頭もグワングワンとして働かない。困ったな。

「私の母の名前をお答えください」
「お前の母親?」
「私の母は言っていました。お父さんにお手紙を送ったから、助けてくれるって。何度も、何度も。でも、手紙には名前が……ありませんでした。手紙を受け取られなかったのですか? 母の事を、名前すら忘れたのですか?」
「あぁ、もちろん憶えているとも、ほら、あー」
「チェルリーナ……」
「そうそう。チェルリーナだ。もちろん憶えている」

『パシャ』

 急な冷たさと、水音で完全に目が覚め、意識がはっきりとする。
 気を失っている間に、後ろ手に縛られていたようだ。蔑むようにオレを見下ろしている女性に水をかけられ目を覚ましたことに気がつく。
 今いる赤い絨毯の敷かれた部屋には、ノアとナセルディオ、それに数人の男女がいた。

「あらン。お目覚めですーかア?」

 ナセルディオの後にいる、黒く丸い鼻をしたピエロ姿の男がニヤニヤしつつオレに声をかけてきた。

「リーダ……どうして?」

 ピエロ姿の声で初めてオレに気がついたのか、ノアが振り返ってこちらを見た。

「いや。なかなか良いタイミングでこの場に来たものだ」
「そぉーですねエ。はぁい丁度、儀式を見てもらえるタイミングですからア」

 儀式?
 何をしようというのだ。
 それから続いて、何かを担いだ女性が入ってきた。あれは、前に会ったことがあるな。ジャルミラだっけかな。ギリアで会った女性だ。
 彼女が担いでいたものを、ノアの足下へと投げ落とした。

「うっ」

 ノアが小さく悲鳴を上げて後ずさる。
 それは、女性だった。殴られたようで、血とあざだらけの顔は腫れ上がり、足は変な方向に曲がっていた。
 よく見ると、ノアの足下には魔法陣が描かれている。

「なんで……私、1人じゃないとダメなのに、カガミお姉ちゃんを助けられないのに」

 ノアが誰に言うとも無く声をあげる。

「ん? どういうことだ?」
「あーあー。ナセルディオ様。最初はカガミという娘にノアサリーナを連れてくるように命じた手紙をこさえたのですガ。あらラン大変。連絡が取れなくてございましてね。どうせ、監禁されているのでしょうかいなぁーと、ノアサリーナに、1人で来るような手紙をーですねエ」
「あぁ。そういう内容の手紙を書いたのか」

 カガミが監禁?
 そうか、カガミを助けるというのは、オレ達がカガミを監禁していると思っての内容だったのか。つまり、寝たままのカガミを目覚めさせる方法ではない。そもそも、カガミが寝たままということすら把握していないということだ。
 しかも、その上、ナセルディオ、コイツは手紙すら自分で書いていなかった。
 手紙を人任せにしたのは、今回だけか?
 最初からなのかは分からないが、無性に腹が立つ。

「それでは……手紙の内容は嘘?」
「いいえン。儀式がー成功すれば、助かりーます。完成品がきっと本当の意味で助けてくれますーですよオ」
「そうだよ。私は、お前のことを大事に思っているからね」

 ナセルディオがノアに対しヘラヘラと笑いながら答える。子供を馬鹿にするような大人の態度で。

「母の名前は、レイネアンナです」

 そんなナセルディオに、ノアは、俯きがちに見つめ言った。
 何かを糾弾するように。

「は?」
「チェルリーナは、お人形の名前。母の名前すら……憶えていなかったのに、私が大事なのですか」
「あーららぁ」

 ピエロ姿が、面白そうにノアとナセルディオを交互に見ながら言った。
 茶化すような態度に、イライラがさらにつのる。

『パァン』

 次の瞬間、ナセルディオがノアを思いっきりはたいた。
 地面に叩きつけられるように倒れたノアは、何もいわずナセルディオを睨みつける。

「子供のくせに! 親を試すな! 母親の名前? 知るわけがないだろう。全ては予言のためだ。相手をしてやっただけだ。聖女の部品を作るために!」

 激高してノアを罵るナセルディオに対して、怒りで頭が真っ白になる。

『バシッ』

 思わず立ち上がりナセルディオに詰め寄ろうとしたオレを、何かの攻撃がはじき飛ばした。
 板で叩かれたような感触があり、オレは壁際まで吹き飛ばされ、痛みでのたうち回る。
 まったく見えなかったが、攻撃は現実だった。顔がジンジンと痛んだ。

「お元気ーでーすーね」
「せっかく儀式を見せてやろうというのに、死にたいのか」
「儀式?」
「あぁ、転生の儀式だよ」
「クスクス、この者は、ナセルディオ様のお考えがわからないのでは?」

 見当もつかないオレの表情をみて、ジャルミラが馬鹿にしたように笑う。それに会わせるかのように、部屋の全員が笑った。蔑むように、クスクスと。

「血塗られた聖女は、本来ならノアサリーナとその母親により、作られる筈だった」

 ナセルディオがしょうがないといった調子で語り出す。

「作られる筈……」

 そう呟いたノアは苦悶の表情を浮かべていた。

「だが、さすが呪い子というべきか、ノアサリーナは母親を見捨てた。結果、世を救う聖女たる血塗られた聖女は顕現せず、我らは苦難の時を迎えることになった」
「そぉーいうーことですー。予言、ブチ壊している貴方ならーおわかりでしょオ。魔神に勇者は勝てませン。ナセルディオ様は未来のために、道を正そうとしているのですウ。はいっ。拍手」

 ピエロ姿が、軽くタップを踏んで手を上げる。

『パチパチ』

 それを合図として、部屋にいるやつらが拍手をした。

「ノアサリーナの足下にある魔法陣、ギリアにもあっただろう? 転生の魔法陣。呪い子と生贄、2人の魂を1人の姿に」
「1人の姿……そうしたら、ノアは」

 上機嫌のナセルディオが言ったとおりなら、ノアは儀式の結果、いなくなる。死んでしまうということになる。

「まぁ、いいじゃないか。どうせ生きていても呪いを振りまくだけだ。大人にでもなられては、草木が枯れて、せっかくの庭園が台無しになってしまう」

 ふざけやがって。
 ナセルディオの一言一言に怒りが沸き立つ。
 結局のところ、ノアの父親を名乗りながら、徹頭徹尾、コイツはノアの事を考えていいない。

「ナセルディオ!」

 我ながら学習能力が無いなと思いつつも、オレは再びナセルディオに詰め寄ろうと動いてしまった。
 そんなオレをみて、ナセルディオはニヤリと笑い、そして踏み込みオレの顔面を殴りつけた。だが、オレは怯まない。殴られても奴を睨みつける。

「なんだ、その目は」
「お前は絶対に許さない」

 にやつくナセルディオに怒りが収まらない。
 思わず出た言葉は、オレの本心だ。

「お前のような奴隷風情に、私がやられるとでも? 前評判とは違い、愚か者だな。まぁ、呪い子にお似合いというべきか」

 そして、再び何か強力な力に、殴りつけられるようにはじき飛ばされた。
 痛みは感じない。ただただ、ムカつくだけだ。
 クソッ。

『ゴッ』

 立ち上がり動こうとすれば透明な存在に殴られる。
 手は後ろ手に縛られている。
 頭が多少動くだけ。
 思った以上に強く、額を打ち付けたようだ、ポタポタと血が床に落ちた。

「そろーそろオ。始めませんかネ?」
「そうだな。やってくれ」

 オレのいらだつ様子をナセルディオは楽しそうに眺めていた。
 だが、ピエロ姿に促され、ナセルディオが笑いながら魔法陣の外へと出て行く。
 それと同時に、部屋の女性とピエロ姿が何かの魔法を詠唱し始めた。ノアの足下に広がる魔法陣が淡く輝きだした。あれが、転生の魔法か。
 でも、これはギリアにあった魔法陣とは違うものだ。こんなに簡単な魔法陣ではなかった。この魔法陣には読める部分も多い。
 そんなことより。

「ノア、逃げろ!」
「ケアルテト。ノアサリーナを逃がすな!」

 オレの声に反応して動こうとしたノアが倒れる。
 先ほど連れてこられた女性がナセルディオの声を受けて、ノアの足に抱きついたのだ。

「あぁ……うぅ」

 女性が呻き声をあげる。

「あぁ、有り難う。愛しているよケアルテト」

 ナセルディオが女性に向かって優しくお礼を言った。見下すような冷めた顔で。
 つづけて、起き上がろうとしたノアが、ガクンと再び倒れ込む。
 何かに押さえつけられているように、足をばた尽かせるが、魔法陣からでることが出来ない。

「リーダだけでも逃げて!」

 倒れたままのノアが叫ぶ。それと同時に、ノアの胸元から何かが飛び出してきて、オレを縛っていたロープを切り落とした。
 ガーゴイル!
 ノアが持っているギリアの屋敷のマスターキー、それに宿るガーゴイルか。

「めんどくさいな。もういい。殺せ、殺してしまえ」

 ナセルディオの言葉に反応してジャルミラがオレに襲いかかってくる。

『ガギィ』

 ジャルミラの振るった剣を小型のガーゴイルの手が受け止めた。それから何度もガーゴイルとジャルミラの打ち合いが続く。
 さらに数人がオレに襲いかかってくる。全員が、真っ白い鎧を着た女性。そして1人1人がオレより強い。防戦だけでも、どんどんと壁際に追い詰められていく。

「転生は……やはり抵抗されると時間がかかるか。騙してさっさと終えたほうが良かったかな」

 追い詰められるオレやノアとは逆に、ナセルディオは余裕だった。
 クソ。どうする。

『ドゴン』

 そんなとき、突如、遠く離れた床が崩れた。崩れた床にはまる魔物の足が、一瞬だけ点滅するように見えた。
 そして、崩れた床から飛び出した子犬が、魔物の足を駆け上がってノアの元へと駆けつける。

『バシッ!』

 聞き慣れた、空気の弾ける音がした。

「なんだと!」

 ガーゴイルと戦っていたジャルミラが驚きの声をあげる。
 ノアの元に行った子犬が姿を変えたのを見て、驚いたのだ。

「阿呆が!」

 子犬からオークの大男に姿を変えたハロルドが剣を振るい、ピエロ姿を切りつける。
 ピエロ姿はヒラリと身をかわしたが、それとは別の場所、何も無い所から血が吹き出た。

「お前ーはア?」
「拙者は、ハロルド! 外道を滅し、姫様を守る騎士でござる!」

 ニヤリと笑ったハロルドは、剣を持っていない方の手でゆっくりとノアを抱え上げた。
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