召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

くろすかうんたー

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 オレはこの日の事を一生忘れないだろう。
 心の底から忘れたい。
 あの舞踏会での……トラウマとなる出来事を。
 建物の中も馬車で進むのか。
 だが、近い未来に起こる悪夢のような状況を前にして、何も知らないオレは、外の景色をぼんやり眺めていた。
 遠くから、まるでビルのように見えた建物は、近くに来ると様相がかなり違った。
 建物自体は円柱形だ。
 大きな円柱の上に一回り小さな円柱が乗っかっている形。
 そしてその外周にはスロープのように道が添え付けられていた。
 まるでネジを逆さにしたような建物の周りを、四角い何本もの柱が囲むように立っていた。
 ゆっくりと続く道を馬車は走り登っていく。
 建物のある方とは逆方向に、時たま巨大な火の鳥が見えた。

「もうしばらくのご辛抱を」

 ハマンドフは苦笑し、弁明するように言った。
 そんなに、焦っているように見えるのかな。
 ノアを見ると、顔をこわばらせて俯いたままだ。
 もしかしたら、ハマンドフはノアの態度を見て、不快にさせていると判断したのかもしれない。
 見ると、ノアは小さく震えていた。緊張だろうか。

「お嬢様?」

 少し心配になり、できるだけ穏やかな声で呼びかける。
 ノアは、その言葉ではっと我に返ったようにオレを見た。

「少し驚いただけです」

 そう言ったノアの瞳に、巨大な鳥が映る。
 ふと、後を振り向くと、燃え盛る体を持った火の鳥が見えた。
 こんなに近くを飛んでいたのか。

「そうですね。近くでみると、本当に迫力がありますね」

 思わず、そんな言葉が口をついて出る。
 今までも大きな聖獣を見たことあるが、それとは比べ物にならないほど桁違いに巨大な聖獣だ。
 確か、聖獣レイライブだっけかな。
 巨大な帝国の首都にふさわしい巨大な体と、神秘的な姿だ。

「飛竜に乗った騎士の皆様は、いつも飛んでいるのですか?」

 オレが優雅に飛び、チラチラと火の粉をまき散らす聖獣に見とれていると、ノアが外の様子をハマンドフに聞いていた。

「その通りでございます、ノアサリーナ様。いつ、いかなる時も、この帝都を、皇帝をお守りするために、皆が昼も夜もなく、飛んでおります」
「警戒厳重ねぇ」

 続くロンロの言葉通りだ。
 おびただしい数の飛竜に乗った騎士達。警戒厳重だ。
 こりゃ、空中から忍び込むのは到底無理だったな。
 今日が舞踏会だから、警戒は厳重というわけでもなさそうだ。先ほどのハマンドフの言葉通りなら、毎日毎日、常に警戒しているということになる。
 それからほどなくして馬車は止まる。

「これよりあと少しは歩いていただくことになります」

 そこから先は馬車から降りて、ハマンドフの案内で道なりに進む。
 しばらくすると小さく音楽が聞こえだした。
 舞踏会を盛り上げるための音楽なのだろうか。
 クラシック風味で小さく響く音楽に、本格的だなと気合いが入る。
 そして、ついに到着する。
 赤い絨毯の先に見えるのは、一際大きく、一際綺麗な両開きの扉。
 扉の前には、4人のゴテゴテと飾りだらけの鎧を着た騎士が直立不動で立っていた。

「招待客です」

 ハマンドフは、足早に扉の前に近づき、騎士に声をかける。
 それを聞き、騎士は軽く礼をした後、扉から離れる。

『ガタン』

 小さく音を響かせ、扉が自動的に、ゆっくりと開きだした。

「ハハッ。ハハハ」

 そして、扉の向こう側から笑い声が聞こえる。
 ナセルディオの笑い声だ。
 ハハハと馬鹿っぽい笑い声。
 待ってろよ、ナセルディオ。今日がお前の命日だ。
 殺す気はないが、反撃の狼煙を上げるのだ。
 まずは、あいつの力を封じてやる。
 体が震える。武者震いってやつだ。

「リーダ……」

 ロンロが心配そうに声をかけてきた。
 ヤバい。殺気がみなぎっていたかな。
 そうだった。そうだった。今のオレはカガミの姿をしているんだった。おしとやかにいかなきゃな。
 あれ?
 さて、いざ尋常に勝負と、勢い任せて乗り込もうと思ったのだが、ノアはいっこうに動かない。
 ふと見ると、ノアは顔面蒼白になっていた。
 ガクガクと震えているのがわかった。
 今まで気丈にやってきたが、ノアは不安なのだ。
 いろいろと責任を感じて、それでもがんばらなきゃと気合いを入れて。
 ここまで来ただけでも上出来だ。
 本当に辛いなら、この場で待っていてもらい、後はオレだけで対処しよう。

「大丈夫?」

 しゃがんでノアに声をかける。
 オレと目の合ったノアは力なく笑った。
 震えるノアの手を取り、その上にそっともう一方の手を重ねる。
 そしてノアに尋ねる。

「どうする? 気分が悪くなったと言って少し休む? その間にさっさと要件済ませるけど」

 ジッとオレの目を見つめたノアは、小さく首を振った。

「私も行く」

 そして、ノアは大きく頷いた。
 頷いたせノアの額にオレがコツンと当たる。
 笑みがこぼれた。

「よし、じゃあ行こうか」

 オレは、スッと立ち上がりノア背中を軽く押す。
 そんなオレの手を、ノアは少しだけ振り向いて握った。握ったあと1歩を踏み出す。
 さらにもう一歩。オレの横に立とうとしているのか、歩幅を調整するように小さくノアは進む。
 そっか。

「よし。手を繋いで入ろうか」

 オレは、ノアに微笑み小さく呟き、ノアと並ぶ。
 さらに一歩。
 オレとノアは手を繋いで、扉を2人で潜り抜けた。
 その先は、ひときわ明るく煌びやかな部屋だった。
 音楽は鳴り響き、多くの着飾った人達が笑顔で踊っていた。
 左手側は、階段状になっていて、その上には1人のでっぷりとした男が座っていた。
 回りに立つ強そうな人達、偉そうに辺りを見下ろす様子、あれが皇帝なのだろう。
 彼はオレ達に気づいていないようだ。
 他に、第1皇子であるクシュハヤートもいた。
 クシュハヤートはオレ達に気づいたようで、少し目を細めてこちらを見たが、それっきりだ。
 さらに数歩、ノアとオレは進む。
 ノアが急に立ち止まり、オレの手を握る力が強くなる。
 ナセルディオ!
 はるか先に、ナセルディオがいた。
 目が合う。
 奴は一瞬目を大きく見開き、オレ達を見たがすぐに表情を元に戻し、こちらへと歩いてきた。

「あぁ。ノアサリーナ。そしてカガミか」

 おいすがろうとする女性に軽く口づけをして、引き剥がすと、ナセルディオは1人、コツコツと近づいてくる。
 その視線は、ノアではなく、オレを見ていた。
 ちょうどいい。
 奴は、カガミの魅了が解けている事は知らないはずだ。
 よし。
 ここは惚れている設定で、ナセルディオに、ゆっくりと近づこう。

「ナセルディオ様」

 そう言ってノアから手を離し、大きく1歩踏み出す。
 これから、てめえの力を封じてやる。
 その内心を反映して、笑みがこぼれ、歩みが早くなる。
 奴に跪き、手を取り、挨拶がてら取った手の甲にそっと口付けをする。
 ロンロの提案した、下人が貴人に挨拶する時の手順を利用した作戦だ。
 その後の、顛末を考えるとにやにや笑いが止められない。
 あいつがかけまくった魅了が解けるのだ。
 最強の武器を奪われたナセルディオがどう取り繕うのか楽しみだ。
 だが、焦りすぎた。
 オレは、いつもと違う。
 ドレス姿。不慣れな格好なのだ。
 そう、オレは焦りすぎていた。
 それが、取り返しのつかない過ちを、生み出すことになるとは知らず。
 焦ったオレは、スカートの端に足をひっかけ、よろけてしまう。

「おっと」

 おどけたように言ったナセルディオは、倒れ込むオレの手を取りぐっと引き寄せ……。
 引き寄せ……。
 キスを。
 あっ……あぁぁ!
 ディープに。
 こいつ!
 あばばばば。
 あまりの出来事に目を見開いたオレと、ナセルディオの目が合う。
 同じように目を見開いた、ナセルディオと目が合う。
 いきなりオレを突き飛ばすと「おのれ!」と大きく叫び、奴は腰の剣を手に取った。
 そして、大きく振りかぶり、オレに突き立てる。
 とっさの事だった。
 オレの体は、自分でも驚くぐらい滑らかに動いた。
 それは反射的だった。
 左足を1歩前に進め、大きく踏み込んだ。
 それから、右手を大きく振りかぶり、右足で踏み込むと同時、奴の顔面にパンチを叩き込む。
 奴の剣先はオレの頬をかすめ、オレのパンチは奴の顔面にぶち当たる。
 クロスカウンターってやつだ。

『バキィ』

 奏でられる音楽を吹き飛ばすほどの大きな音がして、顔面を殴られたナセルディオが吹っ飛ぶ。
 そのままゴロゴロと音を立て転がったナセルディオは、1人の女性の足元に当たり、止まった。
 ほぼ同時、音楽がぴたりと止まる。
 一瞬にして辺りが静かになった。
 しくじった。
 殴ってしまった。
 ジンジンと手が痛む。
 舞踏会場は、しんと静まり返り、皆の視線がオレに集まっていた。
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