召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十四章 怒れる奴隷、東の大帝国を揺るがす

閑話 舞踏会場の前で(ノア視点)

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 音もなく馬車は進む。
 帝都の中心、ひときわ大きな建物にたどり着いた後も、馬車から降りることがなかった。

「少しだけ揺れますので、ご注意を」

 案内をしてくれるハマンドフ様が、私に断りを入れた後、一度止まった馬車が再び進む。
 四角い塔の中には、さらに塔が建っていた。
 それを取り囲むように作られたスロープを馬車は駆け上る。

「すぐに、舞踏会場のあるフロア近くまでたどり着きます。しばらくのご辛抱を」

 ハマンドフ様の声が静かに響く。

「お嬢様?」

 返事をしなかった私を、心配する、隣に座るリーダの声が聞こえた。

「少し驚いただけです」
「そうですね。近くでみると、本当に迫力がありますね」

 私は心配させたくなくて、カガミお姉ちゃんの姿をしたリーダに、驚いただけだと答えた。
 リーダは、私の言葉を、外を飛んでいる炎に包まれた大きな鳥の事だと思ったようだ。

「あれは聖獣レイライブでございます。帝国建国の時より我らに寄り添い、そして帝都の全てを見守る聖獣でございます」
「そうなのですね」
「それに多くの飛竜が、飛んでいます」

 カガミお姉ちゃんの声なのに、のんびりとした声。
 リーダの話を聞いたら、私は少しだけ気が楽になった。
 今日の私は無敵なのだ。リーダが一緒なのだから。無敵なのだ。
 そう自分に言い聞かせ、ニコリと無理矢理に笑う。
 ふと横を見ると、窓ごしに巨大な瞳が見えた。空を飛ぶ、大きく燃え盛る鳥の黒い瞳。とっても大きな鳥だ。
 帝都の白く高くそびえる塔のような宮殿。その宮殿を取り巻く長い長い坂道を馬車は進む。馬車から見える外の風景は、不思議な景色だ。
 炎に包まれている鳥だけではない。
 加えて沢山の飛竜に乗った騎士様達は、規則正しく並んで飛んでいた。

「飛竜に乗った騎士の皆様は、いつも飛んでいるのですか?」
「はい。ノアサリーナ様。いつ、いかなる時も、この帝都を、皇帝をお守りするために、皆が昼も夜もなく、飛んでおります」
「警戒厳重ねぇ」

 ずっと震えていたロンロが、元気を取り戻して、のんびり呟く。
 この場所に来てわかった。
 私は、ナセルディオが怖いのだ。
 何度も、何度も、帝国になんて来なければ良かったと思った。
 カガミお姉ちゃんが酷い目に遭うこともなかったし、ロンロだってあんなに怯えることはなかった。ハロルドだって大怪我しなかった。
 私があの手紙を見て、帝国に行きたいと言わなければ、ずっとギリアで楽しく過ごしていたはずなんだ。
 私は、お金が欲しかったし、ママの事も聞きたかった。
 手紙にないお母さんの名前。どうして、お母さんが助けを求めたのに、返事が無かったのか。知りたい事は多かった。
 お金があれば、ずっとリーダ達と一緒にいられかもしれないと思った。
 リーダが使いたがらなかった筒に入ったお金。
 あのお金を帝国に行けば使っていいと思った。
 お金は大事だ。
 ピッキー達が言っていたのだ。お金がなかったから、売られてしまったと。両親と別れることになったのだと。トッキーが言っていた。借金が返せないと売られてしまうと。
 だから、お金は大事だと思った。
 でも、全部、失敗した。
 また、失敗したらどうしよう。
 少し悲しくなって私は俯く、そしてチラリと横を見た。
 リーダを……そっと横に座るカガミお姉ちゃんに変装したリーダを見た。
 いつものように、のんびりと外を見ていた。
 いつものように、優しそうに。
 私の視線に気がつくと、ニッコリと笑う。
 そうだ。大丈夫だ。リーダと一緒なのだ。
 いつだって、どんな時だって、リーダはすごいんだ。
 私の呪いだって……。
 さっきも小さな動物は、私の呪いによって殺されてしまうと言われた時。
 呪い子であることを、忘れていた自分を恥ずかしく思った。
 私が気をつけていなかったばかりに、殺してしまうところだったと。
 だが、その後すぐに、リーダが大丈夫ですと言った。
 大丈夫なんだ。
 私の心には勇気が湧いてきた。
 そうだ、大丈夫。
 ナセルディオに言ってやるんだ。お前なんかパパじゃないと。
 お前なんか嫌いだと。
 グッと私が手を握りしめた時、馬車が止まった。

「これよりあと少しは歩いていただくことになります」

 ハマンドフ様は、そう伝えると扉をサッと開けて、ひと足先に降りた。
 カガミお姉ちゃんの姿をしたリーダが、次に降りて私の手を取って降ろしてくれる。
 小さい音だったが、厳かで立派な音楽が聞こえた。
 ずっと先に、そびえるように大きな扉が見えて、まるで襲いかかってきそうだ。
 道は、ひときわ明るくなり、赤い絨毯が伸びる、その扉の先で、舞踏会が行われているのだろう。

「では、こちらにございます」

 扉の前で、ハマンドフ様が側に立つ人に合図をする。

『ガタン』

 扉が音をたて、ゆっくりと開いた。

「ハハッ。ハハハ」

 扉が少し開いた時、一際大きく奏でられる音楽と、笑い声が聞こえた。
 ナセルディオの笑い声。
 その声は酷く残酷に聞こえる。
 途端に私は身体が震えだした。
 どうしよう。
 ここまで来て、私は動けなくなってしまった。
 あと1歩。
 あと1歩、踏み入れることができなくなってしまった。

「ノアサリーナ様?」

 ピクリとも動かない私に、ハマンドフ様が声をかけてきた。

「ノアサリーナ様」

 カガミお姉ちゃんの……いや、リーダの声が聞こえた。
 フッと横を見ると、しゃがみこみ、私に視線を合わせていたカガミお姉ちゃんの姿をしたリーダがいた。

「大丈夫?」

 とても小さな声でリーダが言った。
 私は小さく頷く。
 リーダは、私の手を取って、静かにもう一方の手を、私の手の上に置いた。

「どうする? 気分が悪くなったと言って少し休む? その間にさっさと要件済ませるけど」

 リーダはそう囁いた。
 その言葉を聞いて、首を振る。
 少しだけ目を閉じて、大丈夫と自分に言い聞かせる。
 私が行きたいって言ったのだ。
 それに大丈夫。リーダがいる。

「私も行く」

 目を開いて大きく懐く。
 思いっきり頷いたせいで、リーダの額に私の額がコツンと当たってしまった。

「よし、じゃあ行こうか」

 リーダはニコリと笑って、すっと立ち上がる。
 私もリーダに続き、立ち上がる。胸を張って、立ち上がる。
 横に立つリーダの手を握り、ゆっくりと1歩を踏み出す。
 リーダは私の後に立とうしたが、手を離そうとしない私に微笑むと、小さく頷き横に立ってくれた。
 そして私は舞踏会場に入った。
 リーダと手を繋いで、舞踏会場に入った。
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