召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十五章 待ちわびる人達

きょうこうぐん

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「なんだこれは?」

 翌日、館の前に用意した魔法陣を目にしてラングゲレイグが言った。

「これは銀ガラスの面という魔法に使う魔法陣です。そしてこちらが騎馬超強化の魔法陣。一番端が、地ならしの魔法陣です」
「知らない魔法ばかりだ」
「えぇ」

 ラングゲレイグの言葉に頷く。
 これらは、昨日、皆で相談し準備した魔法陣だ。
 昨日の晩。
 ランゲレイグとの話を伝え、皆に今回協力すべきだという提案をした。

「権力争いか」

 夜、オレの説明を一通り聞いた後、サムソンが納得したように呟いた。

「それで領主様、急いでたんですね」
「飛行島……使いますか?」
「いや、飛行島は切り札にとっておこう」

 確かに飛行島を使えば間違いなく王都には間に合う。
 ただし、リスティネルの別れ際に言った言葉……飛行島の存在がバレると王様に取り上げられるリスクが、それにはのしかかる。
 なので、飛行島は切り札。
 一応、トゥンヘルにお願いし、連絡したら、オレ達のいる場所まで来てもらえるようにと、白孔雀を飛ばす。

「そうだな。飛行島は切り札がいい。代わりに馬を強化しよう。俺は目録を当たってみよう」
「そだね……馬の強化。みんなでやろうよ」

 それから同僚達と目録をあたり、いくつか使えそうな魔法をピックアップする。
 結果、使い勝手が良さそうな魔法として、3つの魔法を見つけた。
 それを、今朝、地面に書き記したのだ。

「この銀ガラスの面という魔法のは何だ?」
「これは馬の頭を覆い隠す仮面を作り出す魔法です。この魔法により、馬は、外部の邪魔な音などを遮られ、集中して走ることができます」
「そうか。馬は確かに臆病な部分もある。そこを補うわけか」
「左様でございます。騎馬超強化は、以前に使われた魔法と同じかと」
「あれは、騎馬強化だ。それより強力な魔法か。このような魔法があるとはな。だが、昨日は騎馬強化に加えて凶暴化も使った」

 あれは凶暴化だったのか。言われて見ると、確かに凶暴になっていたな。

「そして、こちらが地ならしという魔法です」
「地ならし?」
「馬の蹄、これが地面を叩く度に、蹄の付近一帯が、馬にとって走りやすい環境に変化する魔法です。ぬかるんだ大地は乾いた大地に、凸凹な道はなだらかな道にと」
「それは凄いな」
「ですので、この3つの魔法を使えば、領主様の馬も、今よりもより早く駆けることができると考えます」
「うむ。試す価値はありそうだ。任せる」

 ラングゲレイグの許可を得て、順に3つの魔法を詠唱する。
 どの魔法も、触媒が簡単に用意できるのがいい。
 干し草、砂糖。藁束。どれも、館の人に相談してみると、快く用意してくれた。
 無事、魔法の詠唱が終わり、ラングゲレイグが出発する。

「順調だぞ。もう少し左右の反動については調整したほうがいいかもな」

 サムソンが御者台に座りあたりを見回す。

「そうですね。突貫工事にしてはなかなかうまく動いていると思います」

 昨日使った念力の魔法と、衝撃を遮るための壁を作る魔法に、少しだけ手を加えたのだ。
 よりスムーズに、風防としての役割を強化するために。
 具体的には、念力の魔法は浮かせた後、馬が曲がると発生する慣性に対し、自動的に逆の力を加えるようにした。昨日は、その都度、自分達で考えて念力の魔法を動かしていた。だが、この工夫で、考えることなく揺れが少なくなるので、とても便利だ。
 壁を作る魔法は、強い風圧を後ろに受け流すように形を変えた。
 形は新幹線をイメージしたものだが、思った以上に上手くいった。
 その甲斐あって、今日は何も考えずに、魔法を起動させ続けるだけで快適に進める。

「ふむ。地ならしは、いい魔法だな。馬も機嫌が良い」

 工夫の甲斐があって、馬の速度も速く、順調に進む。
 ラングゲレイグは、あらかじめ泊まる場所の手配を整えているので、王都への旅路は順調に進んだ。

「想定より、順調だ。この調子で行くと、王都へ着いた後も余裕がありそうだ」

 ランゲレイグも上機嫌だ。
 初日にあった、ピリピリとした雰囲気も消えていた。
 しかし、それは唐突に終わった。
 館が……泊まるはずだった館が、燃えていたのだ。

「力及ばず、申し訳ありません」
「いや、其方の責任ではない。無理を言ったのは私だ……埋め合わせは必ず」

 オレ達の到着を待っていた老人が、ラングゲレイグに頭を下げていた。
 妨害なのか、詳細はわからない。

「仕方がない。今日は野宿するしかないな」

 全焼し、殆ど原型を止めていない館の跡地を眺め、溜め息交じりにラングゲレイグが言った。
 だが、野宿については問題ない。
 海亀の背にある小屋は、快適に過ごせるようになっている。
 ということで、ランゲレイグには、海亀の小屋を一部屋空けて、そこで休んでもらうことにした。
 オレ達と違って、彼は馬に乗って一日中走っていたのだ。

「おいら達がお世話します」

 お世話係はピッキー達が、かって出てくれた。
 最初は領主様なんて恐れ多いという態度だったが、ここ数日ですっかり打ち解けていた。
 ラングゲレイグが、気さくな態度でオレ達に接していたのが功を奏したのだと思う。

「あの小さな小屋の中は、このようになっていたのか」
「其方らは、このような良い物を食べていたのか」
「其方らは、毎日、湯浴みをしていたのか」
「其方らは、これほどに良い環境で寝ていたのか」

 そんなラングゲレイグは、オレ達の生活環境にいちいち驚いていた。
 あまりにも絶賛しすぎるので、何とも言えない気分になってしまう。

「昨日は、よく眠れた。それにしても、あの布団、相当高級ではないのか?」

 そうでしょう。そうでしょうとも、ハイエルフの里でもらった膨らむ布団。最高ですよね。

「確かに素晴らしいものです。貰い物なので、価値は、判断できないのですが……」
「うむ。とても気に入った。後で献上せよ」

 当然のように、献上の言葉がラングゲレイグから出る。

「偉そうに」

 いや、実際に領主だから、偉いのか。

「あんまり大声で言わないでね。聞かれちゃうから」

 小声でついた悪態を、耳ざとくミズキが聞いていて、小声で注意を受ける。
 この調子だと飛行島も、簡単に持っていかれそうだ。
 隠し通さねば。

「もちろんでございます。領主ラングゲレイグ様」

 一応、布団についてはにこやかに了承する。
 またハイエルフの皆さんにお願いしよう。

「では、今日からは街道から外れた森を通る。すでに、我らの通る道が割れてる可能性が高い。しかも、其方等の用意した環境であれば、野宿も問題にならない。これを利用しない手はない」

 ラングゲレイグの一言。
 その日からは、綺麗に舗装されている道ではなく、なんとか通れるような山道を進むことになった。
 といっても、問題はない。
 海亀は浮いているので、道がどうでも問題はない。
 馬も地ならしの魔法によって、山道とは思えないほど軽やかに進む。

「これで、常夜の森がなければ、もっと近道ができるのだが……」

 ラングゲレイグは悔しそうだが、それでも順調だと思う。

「あの村ですか?」

 数日が過ぎ、山道の中にぽっかり空いた空間があり、そこに村が見えてきた。

「貴族が秘密の狩猟を楽しむために作った村だ。さすがに、ここを焼き討ちしてでもすれば大問題になる」
「左様ですか」
「想像以上に妨害が酷い。応援を頼むことにした。ここで何日かすごすことになる。だが村の外に出るな。出たら首をはねる」

 村に入ってから、決め台詞のように殺すとラングゲレイグが言い残し、一件の館へと入って行った。
 狩猟のため作られた村という言葉のとおり、広い敷地には数件の館と厩舎、そしてこぢんまりとした畑くらいだ。村の広さのわりに、人が少ない。

「馬。馬。わぁ、真っ白い馬がいる」

 さっそく、ミズキが楽しそうに柵へと走って行く。
 その先には数頭の馬が見えた。

「ミズキお姉ちゃん楽しそうだね」

 ノアもニコニコ顔で、馬と戯れるミズキを見ている。

「羊もいるんだな」

 この村は人より動物の方が多いようだ。すぐ側を、羊がトコトコと歩いていた。
 犬もキャンキャンと楽しそうに走り回っている。
 なかなか、良い環境だ。ラングゲレイグはここで何日か過ごすと言っていたな。
 せっかくだ、のんびりしよう。
 そんな時のことだ。

「ノアサリーナ様!」

 突然、どこからかノアを呼ぶ声が聞こえた。
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