召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十六章 王都の演者

みんなでへんそう

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「さて、そろそろ準備を始めようか」

 敷地の入り口そばに建っている家へと戻るパッターナを見送り、すぐに準備を開始する。
 王都は、少し面倒そうなので、特に外出準備が必要なのだ。

「悪意?」

 それは、王都に来た当日の夜のことだ。

「そうです。王都は、リーダ達に対する悪意に溢れているのです」

 これからの計画を立てていた時、ヌネフがフワリと現れていった。
 スッと動かしていたヌネフの指は、オレと同僚達、そしてノアを指した。

「オレ達へ?」
「領主が去った後から、この館を取り囲むように、様々な悪意が注がれているのです」
「そっか」

 王都って治安が悪いのかな。

「襲われそうなんスか?」
「今すぐというように、強い悪意ではないですが……」
「隙あらば襲ってやろうというところか」
「そうですね。そんな感じがするのです」

 サムソンが思いつき発言した言葉をヌネフが肯定する。
 何かの理由があって、オレ達が狙われているということか。
 いや違うな。元々ここに来るまでにも妨害があったわけだ。王都に来たからといって妨害がなくなるとは考えにくい。
 イ・アの案件も含めて、どんどこ敵が増えていくな。

「館から出る時は今まで以上の警戒が必要だな」
「そうですね。少なくてもチッキー達がまた誘拐されないように、気をつけないといけないと思います」
「留守番してもらうか?」
「そうだな。海亀やエルフ馬もいるしな。チッキー達には世話をお願いしつつ留守番ってところか」
「フェズルードの時と同じような感じっスね」

 確かにあの時と同じだ。二手にわかれる。

「ノアちゃんはなんだかんだと言って強いっスからね」

 確かにハロルドから色々習っているし、元々の魔力の強さもある。
 しかもオレ達がプレゼントしたドレスには、多くの仕掛けがしてある。グリフォンのフィグトリカにも対処できていた。
 それに比べればチッキー達は、それほど強いわけではない。

「周りの状況がわかるまではチッキー達には、館から出ないようにお願いするしかないか」
「私達が狙われてるっていう事はさ、私達じゃないって思わせればいいんじゃない?」

 留守番を考えていた時にミズキが妙な事を言い出した。
 私達じゃないと思わせる?

「変装っスか?」
「そうそう。皆で変装しちゃってさ、出かけるって訳」
「念の為、試しましょうか」
「試しか……少し歩いてみてオッケーだったら。ダメだったら戻ってくる……」

 館に残す海亀は偽装の魔法で、山と積まれた草にまぎれさせればいい。茶釜は、館でお留守番できるだろう。単体でも強いしな。
 うん。考えれば考えるほど、いい手だ。試す価値はある。

「じゃあ、明日ちょっとだけ散歩って形でテストしてみようか」

 そんな話をした。
 結局のところ、翌日から数日は、謁見の練習だったので変装することはなかった。
 ということで、王都到着して初めての変装だ。

「皆で変装してお出かけって、ワクワクするよね」

 ミズキが見るからに上機嫌で準備を進める。
 変装の魔法も、何度も使っているうちに随分と慣れてきた。
 ポイポイと投げるように魔法陣へ触媒を置いて、変装の魔法を使う。

「じゃあ、次はトッキー君で最後っスね」

 ややあって、皆の変装が終わる。

「プッ」

 相変わらずミズキは失礼な奴だ。オレを見て吹き出しやがった。
 鏡ごしに自分を見ると、オレの姿はお腹がちょっぴり出たおじさんになっていた。
 ノアは見るからにおてんばと言った町娘。
 カガミは家庭教師っぽいお姉さん。
 ミズキはノアよりもやや年上といった感じのお姉さん。
 プレインはガタイのいいお爺さん。
 サムソンは特徴のないおじさん。
 ピッキーをはじめとする獣人達3人は、何かよくわからないが職人風の3人組になっていた。
 いつもと違う、皆の様子は面白い。
 ノアは変装した姿が気に入ったようで、とってもはしゃいでいる。

「ある程度ランダムにしてるからな」

 皆が自分の変装姿を鏡ごしに見て、思い思いの態度をとる。
 変装はやってみるとなかなか楽しい。

「二つ名はいらなかったと思います。思いません?」

 カガミが自分の二つ名を確認してぼやく。

「二つ名も設定するようにしたんだ」
「ランダムでつける様にしてみた。面白そうじゃん」

 満面の笑みで、ミズキが反応する。

「へぇ」
「実際のところランダムじゃないんだが……まぁ、ミズキ氏の悪乗りだな」

 看破を使って同僚を見ると、確かにランダムっぽく脈絡のない二つ名だ。

「サムソンは……二つ名が、さすらいのパン職人なんだな」

 カガミは……鎧マニアって。
 どいつもこいつも脈絡のない二つ名がついて楽しい。

「いや、リーダ。お前の二つ名、美の化身の方がヤバイぞ」

 サムソンの二つ名をバカにしていたら、オレの二つ名はもっと酷かった。

「……二つ名は消しておこう」

 わいわいと盛り上がった後、町へと繰り出す。

「誰かに狙われてる感じある?」

 船乗りっぽい服装の男に変装しているハロルドへ聞いてみる。

「ないでござるな」
「そうですね。このヌネフも、悪意を感じません」

 ハロルド、そしてヌネフも安全だと答えてくれた。
 そうなると、王都の治安が悪いわけではなくて、オレ達が狙われていたというのは間違いないわけか。困ったもんだな。
 安全だという言葉にホッとして町を歩いて行くが、なかなか王都の人は冷たい。
 けんか腰というわけでもないが、明らかに顔をしかめる人、ぺっとすれ違いざまにつばを吐く人と、ロクなものではない。
 物を買った時も、押し付けるように渡されてすぐに追い払われる。

「なんかさ、みんな酷くない?」

 出発したときは、ニコニコ顔だったミズキもすぐにイラついた様子で不満を口にする。
 中にはいい人もいるが、そこまで愛想がいいというわけでもない。
 最初はウキウキ気分だったノアも沈んでいて、獣人達3人も困惑した様子だった。

『パシャ』

 悪い時には、悪い事が重なる。道行くノアのスカートに水がかかってしまったのだ。
 ノアの服がべっとりと泥水に汚れてしまう。

「あぁ。すまんすまん」

 ニヤニヤ笑いながら謝罪する男にムカつく。
 即座にミズキが男に詰め寄ろうとしたが、すぐに家の中へと逃げてしまった。

「何、あれ」
「謝るならしっかり謝って欲しいっスよね」
「……戻るか」

 ノアの服が濡れた事もあって館へ帰ることにした。
 最低限、気になるものがあれば、少し買って帰る。その程度の帰り道。
 王都だけあって、色々な物がある。物売りも沢山いる。
 もっともオレ達に近寄ってくる人達はいない。
 だがそんな中、一人の男と目が合った。
 ドラム缶に似た金属製の箱を一輪車に載せてひいていた。
 一輪車に描いてある絵は、焼き芋にそっくりだった。
 彼と目が合ったことや、売っている物に興味が出てきたので買う事にした。

「1つ……小銅貨9枚、10個なら銅貨3枚だ、器は銅貨2枚だ」
「じゃ、10個。それから器も」

 小さく頷くと、彼は湯気が立つお芋を箱から取り出し、草を編み込んで作った籠に入れてくれた。

「ほい。熱いからな気をつけなよ」

 焼き芋だな。まんま。皮が少し焼けていて香ばしい匂いがする。

「ありがとう。美味しそうですね」
「そりゃな。だが、次回は別の人から買って欲しい」

 愛想良く答えたにもかかわらず、嫌な物言い。
 オレの表情をチラリと見た後、男が慌てたように付け加える。

「いや、悪いが……あの嬢ちゃん、あれだろ……呪い子」
「……えぇ」
「そりゃ、王都だ。呪い子がいることもあるだろう。でも、あれは不味い。めちゃくちゃ危ない呪い子だ……怖ぇんだよ。あんなのがお得意さんにいるとなると、商売あがったりなんだ」

 そういうことか。王都の人間が冷たかったのは、ノア……呪い子が居たからか。
 今まで、ここまで酷い扱いを受けたことはなかった。
 でも、本来は……皆がこんな態度になるのか。
 そうなると、愛想良く商品を渡してくれて、なおかつ忠告してくれた彼は人が良いのだろう。

「忠告ありがとう」

 そう言って、多めにお金を渡す。

「どうしたの?」

 ほかほかのお芋を手に取って、戻ってきたオレにノアが尋ねてくる。
 不安そうに。

「いや、お芋が美味しそうだなって……それに、王都の人って、田舎者に冷たいなってね」

 さて、どうしようかなと思いつつも、可能な限り軽い調子でオレは答えた。
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