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第二十六章 王都の演者
それは、せんじょうのきしのように
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「歪める気か……ヒィック……」
玉座に腰掛けオレをぼんやり見ていた王様は、静かに言った。
「そんな。歪めるだなんて、そのような事は考えておりません」
「いぃや。歪めておる。謁見の場において、お前達に向けられる言葉……それは王の意により許された物だ。すべからく王の言葉」
「誤解でございます。王の言葉には優先度があると心得ます。故に、王から直接頂いた言葉を第一に考えました」
サルバホーフ公爵から言われた、一人一人が立ち上がり名乗るという命令。
そして、王様からの、何故お前が名乗ったのかという問い。
トッキーの心理状態から、一人一人が立ち上がり名乗るという路線は、絶対に回避しなくてはならない。
だから、王様の質問に、オレは態度で答えたという方向に持っていく。
ノアの配下でオレが一番偉いから、皆の紹介を代表して行ったという方針で進める。
そのうえで、自己紹介は全部終わったので、次に進みましょうと言いたいのだ。
もっとも、相手は酔っ払い。
必要以上の議論はしたくない。絡み酒する手合いに、言い返して良いことなど1つも無い。少し逆らって、あとは下手に出てやりすごすのが、ベストだ。
「違うな。この場において正しいのはお前ではない」
「確かに……左様でございます。常に正しいのは王にございます。出過ぎた言葉……申し訳ありません」
「フン」
さっさと謝った事に、王様は意外そうに鼻を鳴らした。
「そして、この度は、私の脚本に目を留め、我が主にお言葉を賜る栄誉、そして場を与えて頂き、言葉に尽くせぬ感謝でこの心は満ちております」
さっさと次の段階に進めるべく、予定通りの言葉を口にする。
このまま進めば、立ち上がって自己紹介という案件はうやむやにしたいのだ。
「王よ。罰は必要でないかと」
その時だった。
サルバホーフ公爵の向かいに立つ男が、スッと一歩前に出て言った。
確か……カルサードと呼ばれていた男だ。
「ん?」
「先ほど、その者は、王の言葉を無視し、話を続けました。そして、王の言葉を歪めたる言動。言葉による謝罪はありましたが、王をないがしろにしたのは明白にございます」
ヤバい。カルサードの言葉で、一気に状況が不穏になる。
うやむやで進みそうだった流れが引き戻された感じだ。
「故に罰か」
「左様でございます。そこの者と、あと……あの獣人もですか」
そう言ってカルサードは、ちらりとピッキーを見た。
いまだ、尻餅をついた姿勢のまま、呆然とするピッキーを。
「お待ちください」
ここでピッキー達の言動を蒸し返されるのは不味い。
もう一度、オレに注目を集めるべく声をあげる。
だが、オレは焦っていた。声だけで良かったのに、体が動いてしまっていた。
王様へと一歩、また一歩と……近づくように進んだのだ。
そして、ノアの前に思わず体がでたオレは、次の瞬間、思いっきり体を地面に打ち付けられた。
いつの間にか、背後に回っていた黒い鎧姿……黒騎士に。
兜の奥からギラリと光る眼が見えた。殺気を含んだ目の光に機械的な冷たさを感じる。
そんなオレを、立ち上がった王様が見下ろしていた。とても、面白そうに。
「あぁ……」
トッキーの呻き声が聞こえる。こんなはずでは無かった。
どうする。
次の手だ。何か。
「恐れながら、偉大にして慈悲深いヨラン王よ」
その時、突然、ノアが大きな声を上げた。
一歩、ノアは大きく前にでる。
「ノア!」
ロンロが叫び声をあげる。
大きく前にでたノアの足が、絨毯の色が変わった部分を踏み越えていたのだ。
『ガァン』
直後、ノアへ飛びかかった黒騎士が、ミズキによって倒され、その音が静かな謁見の間に響き渡った。
さらに近づく黒い鎧姿にプレインとサムソンが睨みをきかせる。
「誰も動くな」
サルバホーフ公爵が、ノアへ対峙するように体の向きを変え、よく通る声を上げた。
「リーダと、ピッキーを罰するというのなら、それは、わたくしの役目でございます!」
だが、ノアはサルバホーフ公爵など目に入らないかのように、王様に向かって言う。
そして、さらにはっきりとしたノアの言葉は続く。
「加え、配下の責は、力足りぬ主である、わたくしの罪。故に、リーダを、ピッキーを許せぬというのなら、まずはわたくしを罰してください」
さらにノアが一歩前に進んだ。
対する王様は気圧されるように後ずさり、玉座に足をぶつける。
『ガツン』
あたりに靴音が響いた。
「止まれ。ノアサリーナ」
留まること無く前に進もうとしたノアに対し、サルバホーフ公爵が声をあげる。
どうする。
自問し、辺りの状況を確認しようと見回したとき、王様と目が合った。
王様は困惑していた。
困惑するなよ。そもそも、お前が、よっぱらっていちゃもんをつけるから……。
「あれ?」
違和感があった。
王様のモノクル越しに見える目を見たとき、違和感があった。
なんだ、この人……。違う。
この目、困惑ではない……いや、そもそも酔っ払いじゃ……ない?
「つまらぬ!」
違和感の正体に思いをはせていたとき、王様が視線を逸らし大声をあげた。
思考が中断する。
王様の言葉は続く。
「つまらぬ。つまらぬ。新年を迎え目出度い日というのに。お前達ときたら、まるで戦場に死地を悟る騎士のごとき目をしおって……つまらぬ」
そう言い残し、王様は玉座から離れるように、歩き始める。
歩く途中、頭から王冠がズレ落ちるが、王様はそれに気付かないように、フラフラと去って行く。
「王よ。まだ新年の祝賀は終わっておりませぬ」
そんな王様へ、サルバホーフ公爵が声をかけた。
「もうよい。後は……スティッセルト。いや、サルバホーフ、お前にまかせる」
王様は歩みを止めることなく、サルバホーフ公爵に答え、さらに言葉を続ける。
「スターリオ。スタァーリオ!」
「そう何度も呼ばれずとも聞こえております。王よ」
「ノアサリーナ達への褒美、お前に任せる。過不足なく、速やかに、そして安全に、お前がノアサリーナへ渡せ!」
「かしこまりました」
スターリオと呼ばれたプリネイシアが答える様子を、王様は虚ろな目で見ると、そのまま歩いて行き姿が見えなくなった。
玉座に腰掛けオレをぼんやり見ていた王様は、静かに言った。
「そんな。歪めるだなんて、そのような事は考えておりません」
「いぃや。歪めておる。謁見の場において、お前達に向けられる言葉……それは王の意により許された物だ。すべからく王の言葉」
「誤解でございます。王の言葉には優先度があると心得ます。故に、王から直接頂いた言葉を第一に考えました」
サルバホーフ公爵から言われた、一人一人が立ち上がり名乗るという命令。
そして、王様からの、何故お前が名乗ったのかという問い。
トッキーの心理状態から、一人一人が立ち上がり名乗るという路線は、絶対に回避しなくてはならない。
だから、王様の質問に、オレは態度で答えたという方向に持っていく。
ノアの配下でオレが一番偉いから、皆の紹介を代表して行ったという方針で進める。
そのうえで、自己紹介は全部終わったので、次に進みましょうと言いたいのだ。
もっとも、相手は酔っ払い。
必要以上の議論はしたくない。絡み酒する手合いに、言い返して良いことなど1つも無い。少し逆らって、あとは下手に出てやりすごすのが、ベストだ。
「違うな。この場において正しいのはお前ではない」
「確かに……左様でございます。常に正しいのは王にございます。出過ぎた言葉……申し訳ありません」
「フン」
さっさと謝った事に、王様は意外そうに鼻を鳴らした。
「そして、この度は、私の脚本に目を留め、我が主にお言葉を賜る栄誉、そして場を与えて頂き、言葉に尽くせぬ感謝でこの心は満ちております」
さっさと次の段階に進めるべく、予定通りの言葉を口にする。
このまま進めば、立ち上がって自己紹介という案件はうやむやにしたいのだ。
「王よ。罰は必要でないかと」
その時だった。
サルバホーフ公爵の向かいに立つ男が、スッと一歩前に出て言った。
確か……カルサードと呼ばれていた男だ。
「ん?」
「先ほど、その者は、王の言葉を無視し、話を続けました。そして、王の言葉を歪めたる言動。言葉による謝罪はありましたが、王をないがしろにしたのは明白にございます」
ヤバい。カルサードの言葉で、一気に状況が不穏になる。
うやむやで進みそうだった流れが引き戻された感じだ。
「故に罰か」
「左様でございます。そこの者と、あと……あの獣人もですか」
そう言ってカルサードは、ちらりとピッキーを見た。
いまだ、尻餅をついた姿勢のまま、呆然とするピッキーを。
「お待ちください」
ここでピッキー達の言動を蒸し返されるのは不味い。
もう一度、オレに注目を集めるべく声をあげる。
だが、オレは焦っていた。声だけで良かったのに、体が動いてしまっていた。
王様へと一歩、また一歩と……近づくように進んだのだ。
そして、ノアの前に思わず体がでたオレは、次の瞬間、思いっきり体を地面に打ち付けられた。
いつの間にか、背後に回っていた黒い鎧姿……黒騎士に。
兜の奥からギラリと光る眼が見えた。殺気を含んだ目の光に機械的な冷たさを感じる。
そんなオレを、立ち上がった王様が見下ろしていた。とても、面白そうに。
「あぁ……」
トッキーの呻き声が聞こえる。こんなはずでは無かった。
どうする。
次の手だ。何か。
「恐れながら、偉大にして慈悲深いヨラン王よ」
その時、突然、ノアが大きな声を上げた。
一歩、ノアは大きく前にでる。
「ノア!」
ロンロが叫び声をあげる。
大きく前にでたノアの足が、絨毯の色が変わった部分を踏み越えていたのだ。
『ガァン』
直後、ノアへ飛びかかった黒騎士が、ミズキによって倒され、その音が静かな謁見の間に響き渡った。
さらに近づく黒い鎧姿にプレインとサムソンが睨みをきかせる。
「誰も動くな」
サルバホーフ公爵が、ノアへ対峙するように体の向きを変え、よく通る声を上げた。
「リーダと、ピッキーを罰するというのなら、それは、わたくしの役目でございます!」
だが、ノアはサルバホーフ公爵など目に入らないかのように、王様に向かって言う。
そして、さらにはっきりとしたノアの言葉は続く。
「加え、配下の責は、力足りぬ主である、わたくしの罪。故に、リーダを、ピッキーを許せぬというのなら、まずはわたくしを罰してください」
さらにノアが一歩前に進んだ。
対する王様は気圧されるように後ずさり、玉座に足をぶつける。
『ガツン』
あたりに靴音が響いた。
「止まれ。ノアサリーナ」
留まること無く前に進もうとしたノアに対し、サルバホーフ公爵が声をあげる。
どうする。
自問し、辺りの状況を確認しようと見回したとき、王様と目が合った。
王様は困惑していた。
困惑するなよ。そもそも、お前が、よっぱらっていちゃもんをつけるから……。
「あれ?」
違和感があった。
王様のモノクル越しに見える目を見たとき、違和感があった。
なんだ、この人……。違う。
この目、困惑ではない……いや、そもそも酔っ払いじゃ……ない?
「つまらぬ!」
違和感の正体に思いをはせていたとき、王様が視線を逸らし大声をあげた。
思考が中断する。
王様の言葉は続く。
「つまらぬ。つまらぬ。新年を迎え目出度い日というのに。お前達ときたら、まるで戦場に死地を悟る騎士のごとき目をしおって……つまらぬ」
そう言い残し、王様は玉座から離れるように、歩き始める。
歩く途中、頭から王冠がズレ落ちるが、王様はそれに気付かないように、フラフラと去って行く。
「王よ。まだ新年の祝賀は終わっておりませぬ」
そんな王様へ、サルバホーフ公爵が声をかけた。
「もうよい。後は……スティッセルト。いや、サルバホーフ、お前にまかせる」
王様は歩みを止めることなく、サルバホーフ公爵に答え、さらに言葉を続ける。
「スターリオ。スタァーリオ!」
「そう何度も呼ばれずとも聞こえております。王よ」
「ノアサリーナ達への褒美、お前に任せる。過不足なく、速やかに、そして安全に、お前がノアサリーナへ渡せ!」
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