召還社畜と魔法の豪邸

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第二十六章 王都の演者

ピッキーだけのほうび

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 王様が去った後、サルバホーフ公爵がゆっくりと首を振った。
 それを合図に、オレを押さえつけていた黒騎士は音も無く離れる。

「謁見は以上である。王はお前達との時間に満足された。下がれ」

 続けて、サルバホーフ公爵は予定通りのセリフを言った。
 謁見は終わったのだ。
 迎えにきたトロラベリアに案内され、謁見の間から立ち去る。

「後ほど、ギリア領主ラングゲレイグ様が迎えにくるそうです。それまで、この部屋でお待ちください」

 トロラベリアはそう言って、控えの間までオレ達を案内すると去って行った。
 来たときと同じ部屋で、再び時間を潰す。
 エレクは帰ったようで、そこは無人の部屋だった。
 赤い絨毯と木製のテーブル……それから、赤いソファー。パチパチと音を立てる暖炉。どれもが来たときと同じなのに、もの悲しい。

「ピッキー……」

 カガミがピッキーに声をかけるが、小さく頷くだけだった。

「ごべぇんなさい」

 トッキーが涙声で謝罪する。

「しょうがないよ。だいたい、何よアレ。偉ければ何言ってもいいわけ?」
「そうだな。アレは酷かったぞ」
「予想外の環境で、私も怖かったです。トッキー君は悪くないと思います」

 トッキーに皆が同情的だった。
 大人数に見つめられる中で、王様と相対したのだ。
 緊張で声が出なくても、責められることじゃない。

『ガチャリ』

 そんな時のことだ。扉が開いてラングゲレイグとお付きの人が入ってきた。お付きの人は車輪付きのテーブルを押している。
 テーブルには、装飾された短剣をはじめとした小物が乗っていた。

「静かだな」

 沈んだ雰囲気のオレ達を見て、ラングゲレイグが言った。

「あの……ラングゲレイグ様、おいら……いや、私はどうなるのでしょうか?」
「なんだ、ピッキー?」
「罰が……」
「あれは、王の戯れから来た言葉だ。ピッキー、お前が気にする必要は無い」
「でも、私は……失敗……」
「いいか。ピッキー、そしてトッキーよ」
「はい」
「大国ヨラン王の前にあって、平民や奴隷が満足に話す事など普通はできぬのだ」

 ラングゲレイグの言う通りだよな。大会社の社長を前にして、平社員が話すのと同じようなものだ。緊張するのはしょうがない。

「できない……」
「そうだ。トッキー。逆に、王の前で、あのようなへりくつを即興で口にできるリーダの格が……いや、異常なのだ。私にも……真似はできぬ。お前達は、リーダという人間を見ているから分からぬだろうが、十分な働きをしたことを理解せよ」
「はい」
「いや、違うか……特に、ピッキー、お前は誇るべきだ」

 ニカリと笑ったラングゲレイグが、テーブルの上にあった短剣を手にとった。
 それを、ヒラヒラと見せびらかすようにして言葉を続ける。

「あの場において、お前の弟を思う態度、言葉は、見事だった。その結果がコレだ」

 よく見ると、見覚えのある短剣だ

「もしかしてサルバホーフ公爵閣下の?」

 その短剣をみて、カガミが声をあげる。

「うむ。サルバホーフ公爵閣下から、ピッキーへ渡される褒美だ。そして……この首飾りは、第4騎士団長ディングフレ様から。これは第5騎士団スピネー。後、第2騎士団のメロフィン様より、ピッキー達兄妹の服を褒美として仕立てる……そうだ」
「すごいや。兄ちゃん」

 自分の兄であるピッキーが褒められる姿を見て、トッキーは元気を取り戻したようだ。彼は、尊敬の眼差しでピッキーを見ていた。
 雰囲気が一気に明るくなる。

「だから胸を張れ、自分は王と言葉を交わしたことがあると。それからノアサリーナも見事だった。あとは……まぁ、経緯はどうであれ、其方達は王の言葉によって助けられたわけだ。王が悪い酒にあわれて、少々予想外な出来事があったとしてもだ」

 喜ぶピッキーを始め、オレ達全員を見渡しラングゲレイグが言った。

「王の言葉……ですか?」
「まるで戦場に死地を悟る騎士のごとき目……という言葉だ。あれで、我らは其方達の立ち位置を思い直し、ピッキーをはじめとする全員の評価に繋がった。そして……」

『コンコン』

 ラングゲレイグが何かを言いかけたとき扉をノックする音が響く。

「おじゃまするよ」

 それから、扉が開き、見知った老婆が部屋へと入ってきた。
 プリネイシア……いや、スターリオだっけかな。
 続いて、トロラベリアも入ってくる。

「これは、星読みスターリオ様」

 バッと、ラングゲレイグが跪く。

「久しいね、ラングゲレイグ。少し、席を外してくれないかね」
「もちろんです」

 柔やかに頷くと、ラングゲレイグは出て行った。
 結局、最後……何を言おうとしていたのだろう。後で聞いてみるかな。

「お久しぶりでございます。プリ……いえ、スターリオ様」

 部屋に入ってきたスターリオにノアが挨拶する。

「あぁ、久しいね。ノアサリーナ。元気にしていたかい」
「はい」
「それじゃぁ、少しだけお話ししようかね」

 スターリオは、優しい声で言うと、静かに腰掛けた。
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