召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

いちやづけ

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 明日はテスト。
 もう限界だ。

「面倒くさい」

 寄宿舎の一室で、一夜漬けに挑んだオレは愚痴る。
 どうにもやる気がでない。
 距離の単位、重さや体積の単位。意味は理解できる。
 確かに、教養と呼ぶべき内容だ。
 だが、やることは暗記。
 ひたすら暗記するだけの教養という科目。時間さえかければ誰でも満点がとれるらしい。でも辛い。暗記しろと言われると、途端にやる気が無くなるのだ。

「ちょっと休憩」

 誰にいうでも無く小さく呟き、食堂へと向かう。
 長い渡り廊下を歩いた先、巨大な塔の一階に、夜間も開いている食堂があるのだ。
 雨か……。
 寄宿舎から外にでて、雨が降っていることに気がついた。
 いつもだと静かな外は、ザアザアという雨の降る音と、独特な水の香りに、一風違って見えた。
 パシャパシャと、水音を立てながら進んでいく。

「思ったより……人がいるのかな」

 目的である食堂が見えたとき、そう思った。
 食堂の窓から光が漏れ、会話する声が聞こえてきたのだ。
 夜にしか出来ない実験などもあるらしから、人がいても不思議ではない。
 そもそも、そのための夜中も開いている食堂だしな。
 でも、思ったより沢山の人がいるらしい。
 人なんてほとんど居ないと思っていた。
 真夜中も開いている食堂は、質素な木製のテーブルが等間隔に並ぶ場所だ。
 ご自由にどうぞとばかりに、籠に盛ってあるパンと、壺に入った薄いワイン。
 それが、この食堂にある全てのメニューだ。
 質素な作りの、質素な場所。
 昼間に開いている食堂とは、雲泥の差。
 銅貨20枚を払ってパンを一切れと、薄めたワインを貰う。
 これって、あれだな……田舎の道ばたで見る、野菜のおいてある小屋。
 元の世界でもあった無人販売所を思い起こす施設だ。
 カロメーを持ってくれば良かったかな。値段の割に小さいパンを食べていてそう思った。
 そして、不満が顔に出ていたのかもしれない。

「こちらをどうぞ」

 そんな言葉と共に、オレの前へコトリと皿が置かれた。
 皿のうえには、サンドイッチが置いてあった。
 フランスパンに似た長細いパンを切ったものに、大きく切れ込みを入れ、そこに野菜と肉が挟んであるものだ。
 見上げると、静かに微笑む1人の女性の姿があった。

「これは?」
「レンケッタお嬢様からにございます」

 皿を持ってきた彼女に質問すると、サッと一人の女性を指し示す。
 そして、その言葉に呼応するかのように、部屋の奥に座る女性が立ち上がりお辞儀した。
 レンケッタ?
 どこかで聞いた気がする……思い出せないけど。

「差し入れ、ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして。勉強会のために用意した物のあまりにございます。夜遅くまで勉学に励む方に、少しばかりの応援を……と思った次第にございます」

 お礼くらい言っておこうと、近づいて礼を言ったオレに対して、レンケッタは微笑み応じた。
 青い髪をした貴族の女性。幼さの残る顔立ちと、短めな髪に、活発そうな印象を持った。
 そんな彼女は、忙しいようだ。
 オレのお礼に応じた直後、側に座る人から質問を受けていた。
 邪魔をするのは悪いと思い、軽く会釈し席に戻ることにした。
 漏れ聞こえる会話から、彼女達は、食堂の片隅で勉強をしていたらしい。
 熱心なことだ。
 それにしても、これ、ちょっと口がパサつくな。
 貰ったサンドイッチに文句をいうのはどうかと思うが、パサパサしている。
 そこで、ちょっとした思いつきからマヨネーズを塗ることにした。
 影からマヨネーズの小瓶を取り出す。
 そういえば、影の中から食べ物取り出せば良かった。今さら遅いけれど。

「美味い」

 うん。正解。思わず声がでる。
 やっぱりサンドイッチにはマヨネーズは必須だ。この点はプレインに感謝だ。少なくともオレ達はマヨネーズに不自由しない。
 モグモグと食っていると、頭に血が巡ったようだ。
 レンケッタという名前について、どこで聞いたのか思い出した。
 生徒会選挙で、シルフィーナと戦っている人だ。
 つまり、サムソンの敵。

「その小瓶……薬味ですか?」

 ようやくレンケッタという人について思い出した時、彼女がオレの側に来ていた。

「えぇ。マヨネーズと言います」
「少しだけ分けていただけませんか?」
「いいですよ。少しといわず、瓶ごと差し上げます。ただ、余り長持ちしないですし、冷たいところで保管してください」

 オレの回答に彼女は相好を崩し、サッと小瓶を手に取った。
 そして、自らの手の甲に少しだけ取り出し舐める。
 貴族というより、商人の仕草だな。

「不思議な味ですね。表現するとすれば、食べる油……といった感じでしょうか」

 レンケッタが、小瓶をまじまじと見つめ言った。
 食べる油……気の利いた表現だな。

「そうかもしれませんね。サンドイッチ……先ほど頂いた料理の、具材とパンのつなぎに使えるのではないかと思いまして、それで試してみました」
「確かに具合がよさそうです。これは何処かで売っているのですか?」
「ギリア、それから王都でも近く売りに出す予定です」

 彼女はマヨネーズに興味津々のようだ。
 オレの言葉をキラキラとした目で聞いている。

「あの、失礼ですが……リーダ様ですよね?」

 オレとレンケッタの会話に割り込むように、男が近づいてきた。
 ふと見ると、先ほどまでレンケッタと一緒にいた一団がこちらを見ていた。なぜか皆が責めるような視線をしていた。

「左様ですが……何か?」
「リーダ様は、シルフィーナ様の陣営だと聞いています」
「私も聞きました!」

 部屋の片隅にいた女性が、ガタリと椅子を揺らして立ち上がり声をあげる。
 そういうことか。
 サムソンの仲間だから、敵の陣営だってことか。
 情報早いな。
 でも、だからといって、いきなりそんな事を言われても困る。

「リーダ様とは、珍しい薬味についての話をしていただけです。いきなり責めるようにお声をかけても困るだけですよ」

 そんな責めるような声に、レンケッタが代わりに言い返してくれた。

「それは……」

 レンケッタの言葉に、オレに声をかけた男が叱られたように俯く。

「申し訳ありません。リーダ様。どうしても生徒会選挙の件となると皆が心配するので……」
「別に気にしていません。皆さん、生徒会選挙に真剣なのですね」
「えぇ。負けられないですもの」
「負けられない?」
「はい。スプリキト魔法大学は、家や身分の上下無く学べる場とされています。ですが、今は違います」
「入学できたとしても、富がなければ、練習用の触媒すら購入できない」
「家柄が良くないと、良い師に出会えません。それでは、何のための大学なのでしょう」
「だから、我々はレンケッタ様の掲げる改革に賛同し、皆で生徒会長へと考えたのです」

 レンケッタの言葉を皮切りに、次々と食堂にいた一団が立ち上がり発言した。
 正々堂々と戦うのなら、別に悪い話ではない。
 頑張って、切磋琢磨して、より良い学校を目指して欲しいと思う。

「なるほど。影ながら応援しています」
 
 ということで、当たり障りのない回答をすることにした。
 さて、頂いたサンドイッチを食べることにしよう。

「今日はノアサリーナ様の元へは戻られないですか?」

 食事再開と思ったそばから、再び声をかけられる。
 見ると、そこにいたのはヘレンニアだった。

「明日の試験に備えて勉強しようかと……ヘレンニア様は?」
「私は、ちょっとした調べ物。でも、明日の試験……リーダ様ほどの方だと勉強しなくても大丈夫ではなくて?」
「いや、少しばかり教養に手こずってまして……」
「教養? あれなら、2つのパターンを交互にやっているだけですから、手こずることは無いと思うのですが……」
「え?」

 そうなの?
 それなら、明日の問題もわかっちゃうの? 上手いことやれば、楽勝じゃないか。

「あら。知らなかったんですね。フフッ、リーダ様に教えられることがあって、少し嬉しいですわ」
「ヘレンニア様は、明日のテストにどのような出題があるのかご存じなのですか?」
「えぇ。もし良ければ、問題、差し上げましょうか?」
「お願いします」

 ラッキー。渡りに船とはこのことだ。
 問題まで持っているのか。
 そういえば、元の世界でも、使い回しのテスト問題を保管している先輩がいたな。
 こういう輩は何処の世界でも、いるものなのだな。

「その代わり……わたくしの調べ物を手伝ってくださることが、条件ですけど、ね?」

 幸運に喜ぶオレに、ヘレンニアは、そう言ってニコリと笑った。
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