召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

ヴァンパイア

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「うんん……。左様。私はズウタロスだが。何カネ?」

 ミランダの問いかけに、目の前の男は頷き肯定する。
 フレッシュゴーレムが一瞬で凍ったというのに余裕だ。

「良かった。マハーベハム……帝国のマハーベハムが、お前から転生の魔法陣について、いろいろ教えて貰ったというからね」
「マハー……あぁ、元皇帝の、カネ? 教えたというより、実験結果を提供したというところカネ……。ふむふむ。通路があったか。これは、あれカネ。魔法が使えぬ状況での逃げ道確保の為の通路といったところカネェ」

 若い外見に腰の曲がったズウタロスは、ミランダの質問に愛想よく答えつつ、フレッシュゴーレムの側をヒョイと通り抜ける。
 そして瓦礫によって埋まった通路を見て、独り言を呟いた。
 ブツブツと何を言っているのかわからないが、楽しそうだ。

「良かったわ。そんなお前に質問なのだけれど、天の蓋と呪い子について調べていたのよね?」
「それで?」
「マハーベハムとお前は、互い知識を提供しあった。そこには天の蓋についての事柄もあった」
「それで……何カネ?」
「天の蓋を作ったのは統一王朝だと考えているのだけれど、それは正しいのかしら?」
「当たらずとも遠からず……といったところカネェ」

 ズウタロスはオレ達に目を合わせることなかった。
 通路の瓦礫、そして凍ったフレッシュゴーレムを調べながらミランダと会話する。
 天の蓋は統一王朝が作った? よく分からないが、ミランダの目的はコイツなのかな。

「そう。では、本当は誰が作ったと……」
「待ちたまえ。君とやりとりするメリットが私には無いのだガネ」
「情報のやり取りは有意義ではなくて?」
「私は自ら調べるのが……んん? 君は……」

 ズウタロスはオレに目をとめた。奴の額に、青い目の形をした模様が浮き上がる。

「何だ?」

 オレの言葉に、奴はニヤリと笑い、視線をミランダに移した。

「うんん。では、こうしようカネ。そこの男を差し出してくれれば、情報のやり取りには応じても良い」
「リーダを?」
「左様。何、悪いようにはしない。きちんと死体は余すこと使うし、得られた情報は全て提供しよう。大丈夫だ。闇の鳥のような話にはならない。あそこまで苦しむことは無いと約束しよう。よかろう?」
 
 ダメに決まっているだろ。
 当たり前のようにオレを殺した後の話をするな。
 あと苦しむこと前提かよ。

「それは飲めないわ。別に私の知っている知識と交換でもいいじゃない? マハーベハムとも交換でやってきたのでしょう?」
「マハーベハムと、君は違う。あれは、長く生きすぎたが故、自らが何処の誰かも忘れてしまってはいたが、帝国の全てを持っていた。だから、協力できたのだ。貴重な触媒、生き物、それと交換だった。わかるカネ。君達の知識など、殺してからきちんと処理すれば、いくらでも得られる。会話するのがもったいない。わかるカネ?」

 そう言ってズウタロスは後ろ手のままピョンと大きく後方へ飛んだ。その先には扉があった。

「あら、お話はおしまい?」

 急に距離をとった奴に対して、ミランダが大きな声で呼びかける。

「左様。ピーノ! 目を覚ましたまえ。そいつらを殺せ」

 ズウタロスが叫ぶと、凍っていたフレッシュゴーレムが動き出す。
 ジュウという氷が溶ける音と共に。
 ピーノというのは、このフレッシュゴーレムの事か。

「こいつ……」
「ピーノには、サラマンダーのエピタフを縫い付けてある。故に凍らず戦う」

 怪訝な顔をしたミランダに、ズウタロスは得意気な声をあげた。

「サラマンダーのエピタフ?」
「エピタフというのは、自我を奪った精霊だ。古い昔、精霊の力を手軽に使う為、精霊に術をかけ自我を奪いエピタフに加工したのだ。こう……目を塞ぎ」

 スライフが自分の両目を隠すように手をかざす。
 目隠し……ギリアの屋敷で最初に見た目隠しをされた精霊の事か。
 あれは……。

「それなら、自我を奪う魔法陣があるんだろ?」
「間違いなく存在する……奴が持っているようだな」

 そう言ってスライフがズウタロスを指さす。

「面白い。そういう事もわかるのか。それにしても、どうやって、どうやって黄昏の者を、特に上位個体を手懐けた? うんんん。興味が尽きない」
「ところで、ヴァンパイア。このフレッシュゴーレムに我が輩達を任せつもりか?」

 興奮して声を震わせるズウタロスに、スライフが静かに問いかける。
 ズウタロスって、ヴァンパイアなのか。ヴァンパイアって、アレだったよな、吸血鬼。

「問題ない。ピーノには、強者の肉を数限りなくつぎ込んだ。かって勇名を馳せたヨラン王国の騎士団に……そう八葉! 帝国における最強の戦士達の肉もだ! 加えトロールの肉により無限の回復力も得て、他にも憶えきれない位の肉をつぎ込んだ! すばらしかろう、その強さ憧れないカネ?」

 相変わらずよく分からないことをまくし立てる。
 でも、トロール? あのタフな魔物じゃないか。
 フレッシュゴーレムは、起き上がると、自分の両目をガッと掴み、両目のまぶたを縫い付けていた紐を引きちぎった。
 紐を引きちぎったことによる傷は瞬く間に癒え、大きく見開いた目がオレ達を捕らえる。

「強そうだ……どうしようかな」
「そうねぇ。どうしようかしら」

 そうミランダが緊張感の無い返事をした直後、フレッシュゴーレムの全身は再び氷漬けになった。
 だが、それは気休めだ。
 凍ったそばからジュウジュウと音を立てて氷は溶けていく。

「なかなかのものだ。すでに自らの体が凍った場合の対処に慣れてきている」

 そんなフレッシュゴーレムを、スライフが感心した様子で褒めた。

「皆、緊張感がないよな」
「リーダもね」
「ミランダが何とかするんじゃないのか?」
「そうしたいんだけどねぇ……。そういえば、リーダ」
「何か良いアイデアでも?」
「いや、まぁ……いいわ」

『ガッ』

 ところが余裕はここまでだった。
 いきなりの事だった。フレッシュゴーレムが一足飛びに近づいてきた。
 サッとスライフが前に飛び出て、オレとミランダ庇うようにして、応戦する。
 フレッシュゴーレムは、曲芸師のようにバク転や側転しながら、体のバネを使い攻撃を繰り出した。対するスライフは少しだけ空中に浮いて手足を使いその攻撃をさばく。
 二人とも、この部屋が窮屈な巨体にもかかわらず、器用に攻防を続ける。
 だが、軍配はフレッシュゴーレムにあがった。
 奴が横薙ぎに繰り出した手刀がスライフを捕らえたのだ。

『バシュッ』

 肉が切り裂かれる音がした。
 鋭く振られた手刀、それを受け止めようとしたスライフの右手が切り裂かれ吹き飛ぶ。
 まるで手刀が刃物のようだ。
 すぐさまスライフはフレッシュゴーレムを蹴り飛ばし距離をとった。
 加えて、ミランダがスライフに蹴飛ばされてよろめいた奴を氷漬けにする。

「大丈夫か?」
「問題無い。多少は時間がかかるが修復可能だ」
「ミランダ、なんとか出来ないのか?」
「押さえるだけで精一杯ねぇ。夜に来たのは失敗だったかも」
「このままだと、その凍らせる術では押さえられないだろう」

 確かに、解ける側からミランダが凍らせてはいるが、復活するスピードが目に見えて速くなっている。この調子だと、凍らせて動きを封じることは不可能になるだろう。

「ピーノ! 本気を出したまえ」

 すぐに動き出しそうなフレッシュゴーレムに困っていたとき、ズウタロスが苛ついた様子で大声をあげた。

 あれ?

 あいつを倒したほうが早くないか。
 ヴァンパイアって、確か……聖水とニンニクが弱点だったよな。あと、十字架。こちらの世界ではどうだか分からないが、試す価値はある。
 思い立ったら善は急げだ。
 すぐに影から樽と、水鉄砲を取り出す。

「その怪しい液体は何?」

 ミランダが、汚物でも見るような目で魔改造聖水を見ていた。
 確かに、初見だと怪しい液体にしか見えないよな。

「聖水。援護を頼む」

 オレは言葉少なめにミランダに言うと、ヴァンパイアであるズウタロスへ向かって大きく一歩を踏み出し、水鉄砲を発射した。
 ズウタロスは大きく水鉄砲の攻撃を避けるべく、身を翻した。
 だが、完全には避けることは出来なかった。

『パァン』

 炸裂音が、部屋にこだまする。
 ほんのすこし水しぶきが当たったズウタロスは、大きく体が弾け、大量の黒い破片となって部屋中に飛び散った。
 やったか?
 一瞬そう思ったが、違ったようだ。
 黒い破片はバサバサと音を立てて、一斉に動き出した。
 そして、この部屋にひとつだけあった扉の隙間へなだれ込み、部屋から出て行く。

『ドォン』

 直後、壁にスライフが激突する。
 オレを狙い撃ちにしたフレッシュゴーレムの一撃を、スライフが身を挺して庇ってくれたのだ。

「ヴァンパイアは、コウモリに姿を変えることができる。奴は無数のコウモリになって部屋から出て行ったようだ」

 大丈夫かと聞くより前に、いつもの調子でスライフはそう言った。
 フレッシュゴーレムはというと、スライフの反撃を受けたようで、地面にうつぶせになっていた。
 追撃とばかりに、うつ伏せになったフレッシュゴーレムをミランダが氷漬けにする。

『ピシィ……』

 さらに、ミランダは、オレ達とフレッシュゴーレムの間に氷の壁を作り出した。

「時間稼ぎにしかならないねぇ。スピードも技術も相当なものよ。どうしよう、リーダ」

 聞かれるまでもない。

「フレッシュゴーレムからは逃げる。ズウタロス……あのヴァンパイアを倒して、エピタフを解放しよう。そうすれば、あのフレッシュゴーレムを解けない氷で覆えるんだろ?」

 オレの提案に、ミランダは相変わらず緊張感の無い笑みで頷いた。
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