召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

あっとう

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 逃げていったヴァンパイアのズウタロスを追う。
 オレは両手持ちの水鉄砲。
 ミランダは魔改造聖水を棒状に凍らせた物。
 スライフに至っては、魔改造聖水をソフトボール位の大きさにした球体。
 しかも、それを何個か作って浮かせている。
 見てくれは悪いが聖水の効果は抜群。ぶつけてしまえばイチコロだ。
 あんな弱点なさげなフレッシュゴーレムより、よほど優位に戦える。
 ズウタロスが逃げた先、部屋から伸びる通路は一本道だが延々と続く。
 とにかく急ぎ追いかける。
 というのも……。

「あいつ泳いでないか?」
「そうねぇ」

 オレ達の背後は、進みつつミランダが通路を氷で塞いでいる。
 本来ならば、足止めには十分な分厚い氷の壁。
 だが、そんな氷の壁に、赤く色を変えたフレッシュゴーレムは飛び込んだ。
 そして、スピードこそ遅いが、まるでクロールするように氷を溶かしつつ追ってくる。
 走るスピードを落とすとすぐに追いつかれるだろう。

「あと、あいつ体が燃えてないか? チラチラと炎が見えるけど……トロールって火によわいんだよな」
「体に高熱を纏い氷を溶かしている。自らの回復能力と、エピタフの発火能力を上手く制御し、バランスをとっている。応用力もあり、知性を感じる」

 スライフが感心した様子で、追ってくるフレッシュゴーレムを評価する。
 あぐらを組み、宙に浮いて後を向いたスライフは、感心したように頷いている。
 本当に緊迫感がないな。こいつら。
 それに、この一本道な廊下も結構長々と続く。
 追ってくるフレッシュゴーレムが、少しでもスピードアップしようものなら追いつかれる可能性が、大だ。
 そうしたら、どう対応したものか……。
 迎撃するなら、回復能力を超える一撃が必要になる。
 火柱は……ダメだ。サラマンダーのエピタフとやらが火柱を操る可能性がある。
 となると、タイマーネタくらいか。
 魔導弓タイマーネタの大火力なら、肉片残らず吹き飛ばせそうだ。
 でも、タイマーネタをぶっ放すスペースが無いな。どこか広い場所に出た後なら試す価値はあるだろう。

「何か良い方法うかんだ?」

 オレが考えていると、ミランダがのんびりと質問を投げてきた。
 相変わらず、彼女は困った様子を微塵も見せていない。
 まるでスケートするように、地面を滑る足取りも軽やかだ。

「考え中、ミランダは?」
「無いわねぇ……昼間だったら、あるにはあるけど、夜明けにはまだ時間あるから」
「トロールが火を操れるとはな……弱点が無い。我が輩には対処不能だ」
「でも、大丈夫よ。さっき、リーダが言ったとおりズウタロスを始末しましょう」
「それが賢明だろう。幸い、あと少しだ。あのヴァンパイアは動いていない」

 そのスライフの言葉を聞いた直後、ドーム状の場所へ出た。
 やや広めなその部屋には、雑多にいくつかの机が置かれていた。
 それから中央には巨大な円柱が置いてある。淡く赤く輝く円柱だ。

「困ったものよね。もう一体いる」

 ミランダが部屋の片隅を見て声をあげる。
 フレッシュゴーレムがもう一体いた。

「目の前の方は、エピタフが異なる。ウンディーネか」
「ズウタロスがいない」
「やつなら上だ」

 上?
 赤い光が沢山見える。よく目をこらすとそれは大量のコウモリだった。

「あのコウモリ?」
「分割して存在している」

 水鉄砲で一撃だと思っていたのに、あんなに沢山いるのか。

「あれの本体ってどれ?」
「どれも何も、全て本体だ」

 チッ。
 どれか一体が本体で、それを倒せばおしまいというのを期待したのに。

「全部倒すしかないわね。どうしましょ」

 そう言いながらミランダが両手を振るう。
 待ち構えていたフレッシュゴーレムが氷に包まれるが、やはり凍らせたそばから解けていく。

「その氷で動きを封じる術……いつまで持つカネ。さぁ! ジョゼ、ピーノ! 殺してしまえ」

 合唱するように揃った声が、部屋中に響く。

「ズウタロス、死ぬ前に、せっかくだから教えて欲しいのだけれど」
「何カネ?」
「あれ、あの柱……巨大な遺物に呪い子の死体を捧げているの?」
「呪い子だけではない。他にも多くを捧げた。命をくべて、この地を魔力で満たす。それによって、ようやく動かすことに成功したのだ」

 何か考えがあるのか、それとも好奇心からか、ミランダは突然ズウタロスと会話を始めた。だが、襲いかかる2体のフレッシュゴーレムへの対処も、彼女は忘れていない。
 氷で何度も動きを止める。
 一度凍らせると、10秒ちょっとは動きが止まるようだ。
 巨大な氷に覆い、その分フレッシュゴーレムが自由になるまでの時間を稼ぐつもりらしい。この部屋が、大きめな事を最大限に利用しているという感じだ。

「スライフ、あの天井にいるコウモリ全部に、聖水ぶつけられる?」

 氷で動きを封じきれず襲いかかるフレッシュゴーレムは、かろうじて避けることができた。避けながら上を眺め、余裕そうなスライフに声をかける。

「不可能だ。数が多く、動きも速い。我が輩でも、そこまで自由に水を操れない」
「そっか。ウンディーネ……いるかな」
「すでに、ウンディーネの力を感じる。エピタフを抑えている。助力が無ければ、我が輩の水玉はすでに破壊されているだろう」

 残念だ。
 ウンディーネもすでに力を貸してくれているのか。
 さて、オレにも自力では無理だよな。
 グッと押し込むとピュっと水が飛び出す……この水鉄砲はオモチャみたいなものだ。
 仕方が無い、とりあえずフレッシュゴーレムを倒そう。
 念の為、いろいろ考えていて良かったよ。
 こいつらと来たらお気楽すぎるからな。
 特に、ミランダの奴は楽しくお話しながら戦っているし。頼りになるのは自分だけのようだ。

「魔導弓タイマーネタか!」
「そうそう。こいつで、フレッシュゴーレムを吹っ飛ばしたいんだけど、これ動かせる?」
「我が輩には起動の資格が無い」
「いや、発射はオレがやる。狙いをつけて欲しい」
「了解した」
「ちなみに、学生とかいないよね? 間違えて貫いたりしたら不味いんだけど」
「学生は上だ。上層部分に数名いる」

 良かった。隣の部屋にいるよ……なんて言われたら怖くてぶっ放せない。

「あと、ここでコイツを使っても、部屋が倒壊とかしない?」
「問題無い。もし崩れるような事があっても、我が輩が地上まで送ってやる」
「それから……」
「まだ何か?」
「ウンディーネを助ける方法はない?」
「エピタフの……か? どうせこの世でウンディーネを破壊しても、水の元素界へと帰還するだけだ。気に病む意味もない」

 そうなのか。ウンディーネごと殺すことが嫌だったが、それなら多少は気が楽だ。

 巨大な弓であるバリスタを模した石像……魔導弓タイマーネタを、スライフは軽々と抱え上げて断言してくれる。心強い。
 次にミランダが、フレッシュゴーレムを凍らせたタイミングで撃ち抜けそうだ……と思った直後にチャンス到来。
 ピシリという音と共に、フレッシュゴーレムが凍り付く。

「ラルトリッシに囁き……」

 即座にキーワードを呟き、水鉄砲を腋に抱えて手を動かした。

『ゴォォォ……ン』

 タイマーネタの先端から、巨大な光線が轟音を響かせた。
 超強力な一撃が、フレッシュゴーレムの一体を軽々と消し去る。あと、残り一体。
 それにしても、やっぱり凄いなタイマーネタ。
 後に残ったのは大きくえぐられた部屋の壁だけだ。

「な、何事カネ、それは何カネ」
「さぁ。でも、お前は、気にする必要はないわ。準備は終わった。これでおしまい」

 驚きの声をあげたズウタロスに対し、ミランダが今までとは違う声音で言い放つ。
 次の瞬間、辺りが白くかすみ寒くなる。

「吹雪か!」
「ご名答。吹雪の雪に聖水をからませた。この部屋中に、吹き荒れる小さな吹雪を相手にして、どこまで耐えられるかしら」

 コウモリがボトリと音をたてて落ちた。
 何匹も、何匹も、雨のように落ちてくる。落ちたコウモリは黒い霧となってすぐに消える。

『ガラン』

 そんな時、部屋の片隅にあった木箱が音を立てて動いた。
 見ると、ズウタロスが這いながら木箱に身を隠す姿が見えた。

「なるほど。体が大きければ、吹雪にある聖水は耐えられるか……」

 スライフがフワリと逆さになった木箱に近づき言い、そして中に浮かせた聖水を剣の形に変え突き刺した。

「倒した?」
「手応えがあった。終わりだ」
「あっちも終わりね。私が手を下すまでも無かったみたい」

 スライフが断言し、ミランダは残るもう一体のフレッシュゴーレムを見て笑う。
 もう一体は、炎に包まれていた。
 火だるまになったフレッシュゴーレムから、何かが飛び出してくる。
 サラマンダーだ。

「ガルルガル」

 サラマンダーは、吠えながらスライフの周りを駆け回った。
 終わってみれば、楽勝だった。
 なんだかんだと言って、ミランダにスライフ、二人とも強くて心強いな。
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