召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

しんりのま

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 部屋で、お茶を飲みつつカロメーを食べる。
 3人の大教授が席を外したけれど、何かあったのかな。
 それとも、尋問はあれで終わりにして、今後の事を協議でもするのかな。
 案外、オレのやる気に溢れる言葉を聞いて、感激してくれたのかもしれない。
 ところが、待てども待てども、3人は戻ってこない。
 しょうがないので、本を取り出して読みつつ待つことにした。
 そういえば、テストを特別に受けさせてくれないかな。
 反省室に居る間に、進級試験は終わったからなぁ。
 もっとも、今すぐ再試験といわれても、勉強不足だ。
 再試験しても無駄になる可能性が高い。10日後に……再試験。
 戻ってきたらダメ元で聞いてみよう。
 さらにしばらく待った後、ビントルトンとアットウトが戻ってきた。
 コウオルは居ない。帰ったらしい。
 良かった。あのキンキン声を聞いていると、こちらまで焦って苛つくのだ。
 それから、彼ら2人との会話。
 持ち出された提案は、予想外に意外で、不思議な提案だった。
 悪い話ではなかったので、了承し、さっさとスプリキト魔法大学を後にした。
 飛行島の家へと戻り、さっそく皆に報告する。

「卒業……ですか?」
「そうそう。条件付きなんだけどね」

 大教授達からの提案。
 それは、条件付きの卒業だった。
 聞いたときは一瞬判断に困った。

「いやいや。リーダ君ならば、黒本エニエルを一読するだけで、大きく前進すること間違いないと思うんじゃよ」
「そうです。こんな小さな学校に留まるにはもったいない」

 だけど、大教授2人のお墨付きを頂いて、これは一足飛びに卒業するしかないと思った。
 テスト勉強が面倒くさいしな。
 そういうわけで、了承した。

「外部に宣伝しない。地下室の一件は忘れ、決して他言しない。大学構内には2度と足を踏み入れない……か。悪くないと思うぞ」

 オレの説明を聞いたサムソンが、提案された3つの条件を思い出すように呟く。

「だろ? 不満は……無くはないけどね。それでも、悪くは無い。一も二も無く了承したよ」
「口約束か?」
「いや。他言できないように魔法で契約を結ぶことになった。ノアとノアの奴隷以外には言えないはずだよ。それから卒業後、オレが構内に入ろうとすると門番に捕まるんだとさ」
「あの、それで魔法で契約って……大丈夫なんでしょうか? 心配だと思います」
「結構すごかったよ。これぞ、魔法の契約って感じで……」

 契約の場面を思い出し、皆に説明する。
 巻物を読んだら、空中にリンゴが出現したこと。それを囓ると舌が痛くなったこと。
 アットウトが舌の痛みは1日くらいで治まると言い出して焦った事。
 でも、エリクサー飲んだらすぐに治ったこと。

「いやいやいや。私もうダメ。アウト」
「それは舌禍の契約ねぇ。とても強力な契約魔法よぅ」

 ロンロはオレが交わした契約魔法を知っているのか。
 ミズキが酷く嫌そうな反応するのを見ると不安になってくる。
 契約を交わしたときは、喋らないから大丈夫だろって思っていたが、怖くなってきたな。

「ロンロ。人に言っちゃったらどうなるの?教えて」
「リーダが喋ろうとしたら、舌が動かなくなるのぉ。それから、例外……ノア達が、リーダから聞いたことを話たら罰が発動するわぁ」
「罰?」
「リーダの全身に激痛が……」
「それって大丈夫なんですか?」
「人によっては発狂するって聞いたけどぉ」

 ロンロがさらりと酷い事を言いやがった。
 契約結ぶ時に、詳しく聞かなかったオレも悪いけど。

「解呪はできないんですか?」
「契約の魔法だから、証文を破壊すれば大丈夫よぉ」
「応じてはくれないだろうな」
「あと、そうそう。舌禍の契約だから、舌を切り落とす方法もあるわぁ」

 聞くだけで痛い。

「エリクサーありますよね。ところで、舌ってどのくらい切り落とせばいいんですか?」
「ちょっと待って、カガミお姉ちゃん。僕の舌を切り落とす前提の話は止めて」
「舌禍の契約は、舌に刻印がされるから、その部分全部を切り落とせば大丈夫よぉ。でも、それをすると、術者にはバレちゃうわぁ」

 オレの訴えはカガミに届かない。
 彼女は、ロンロと具体的な話を詰めていく。

「それじゃ、リーダ、舌を見せてもらえますか?」
「嫌に決まっているだろ」
「念のためです。切り落とすのは最後の手段です。最悪、激痛が起きた場合の対処を知っておきたいと思います。思いません?」

 なんか微妙だけど、カガミの言う事にも一理ある。
 しょうがないかと舌を出したところ、皆が首を傾げた。

「何にもないっスね」
「おかしいわぁ。舌の先から指二本分の幅に、猿の手を模した刻印がされるはずだけどぉ」
「あのね。エリクサー飲んだから治ったのかも」
「そういや、痛みが引いたって言っていたな。もしかして、契約は失敗したんじゃないのか?」

 確かにサムソンが言う通り、魔法の契約が失敗したのかもしれない。
 それなら気が楽だ。
 契約しなきゃ卒業させない……なんて言われていないしな。逃げ切りたい。

「試して見れば?」

 そこに、ミズキが何でも無いように提案する。

「激痛走ったらどうするんだよ」
「いや。リーダがさ、他の人に話してみるんだよ。酒場とかで。契約が働くなら、しゃべれないんでしょ?」

 なるほど。オレが約束を破れるかどうか試せばいいのか。

「そうだな。近いうちに試してみるよ」
「えっとね。皆は、喋っちゃダメだよ」
「そうだね。ノアノア」

 こうして、オレは半月足らずで、スプリキト魔法大学を卒業となった。
 過去の記録を大きく塗り替える、最速の卒業。裏取引有りのインチキだけど。

「でも、やっぱり、リーダはミランダに騙されたんだね」

 加えて、オレがミランダに騙されたことを説明したところ、ノアは一緒に怒ってくれた。

「そうなんだよ。あいつ、オレを置いて逃げやがった」
「もう。ミランダは悪い奴なんだから」
「そういえば、家賃の事を言いそびれたよ」
「次にやって来たら、ちゃんと言わなきゃね」
「そうだね。ノア」
「がんばろうね、リーダ!」

 これからお金は沢山必要になる。ミランダへの家賃請求もなんとかしなくてはならない。
 だが、まずはスプリキト魔法大学の卒業と、黒本エニエルだ。
 翌日、卒業の儀式を受ける。

「一応……説明しておきます。そのっ……スプリキト魔法大学では、年2回。卒業試験を受けることができます。卒業試験は、我ら教授達の前で発表を行うこと。発表の場ですが、1つは青の月初日に行われる定例会。そして……学生が志願することで開かれる臨時会。そのっ……いずれかです」

 卒業の儀式直前、唐突にアットウトが説明を始めた。
 そういや、カガミが卒業試験の事を言っていたな。
 スプリキト魔法大学は、論文を発表し、それが認められれば卒業だって。

「はい」

 とりあえず、卒業は確約されているので、適当に頷く。

「なので、リーダ君……今回、君は進級試験に合格し、その後すぐに卒業試験を志願したということにしました」

 なるほど、なんで急にこんな話をするのだろうと思っていたが、口裏合わせということか。
 試験に合格し1級になったその足で卒業試験を受ける……か。凄いな、設定上のオレ。

「かしこまりました」

 もちろん、口裏くらい簡単に合わせるつもりだ。
 そして卒業の儀式が始まった。
 儀式は、3人の大教授がボソボソと喋り、それから巻物を受け取るだけだった。
 巻物は卒業証書らしい。
 最後に、目的の場所に連れて行かれる。
 黒本エニエルのおいてある場所。
 真理の間と呼ばれる場所らしい。
 スプリキト魔法大学を象徴する3つの巨大な塔。そのうちもっとも高い塔の一番上のフロアに真理の間はあった。
 3人の大教授が、1つずつ鍵を持っているようだ。真っ平らな壁にポツンとある鍵穴へと順番に指していった。
 ピシリとひび割れる音がした。続いて、壁が中央で2つに裂けて開いた。まるで石壁がカーテンの様に蛇腹になる光景は、迫力があった。
 その先には円筒形の一室……真理の間だ。
 壁面には棚がある。そこには過去の卒業生が、スプリキト魔法大学の卒業試験に提出した論文が置いてあるらしい。
 そして、部屋の中央。小さな丸テーブルの上に、ポツンと黒い本が置いてあった。

「あれが、黒本エニエル……ですか?」
「そうです。これより、日没まで閲覧を許します」
「はい」
「なお、この部屋では魔法を使ってはなりません。よって監視させていただきます」

 え?
 それは予想外の一言だった。もうすでに昼過ぎだ。日没まで半日。
 オレは元々、ブラウニーを呼び出し、転記をお願いするつもりだった。難しければ、スライフに頼んでもいいかと考えていた。
 だが、監視付きということになると、不味い。
 魔法を無理に使うわけにもいかないし、スライフを呼ぶのもはばかられる。
 不味いな。さて……どうしよう。
 オレは内心の動揺しつつも、平静を装い、黒本エニエルの前に立った。
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