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第二十七章 伝説の、真相
まじんきょう
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「ギャッハッハ。これで役者が揃ったわけだ。ギャーッハッハ」
魔法によって、誰でもロンロが見えるようになった。
その確認が出来たとき、椅子に座る男が笑い声混じりに言った。
陽気な笑い声に、どう反応すればいいのか困る。
「リーダ。少し、しくじったかもしれん」
考えあぐねるオレに、ハロルドが小声で言った。
声音に、緊張感がこもっている。
「どうかしたのか?」
「まんまとおびき出されたやもしれん」
「そうかもな」
「ここにいるのは手練れ揃いだ。戦えば勝ち目は無い。いや……拙者では姫様を守ることもできぬ」
これほどまでハロルドがはっきり言うとは……それほど強い奴らなのか。
「警戒は不要だ。俺はお前達を無傷で帰すつもりだ」
椅子に座る男が、そんなオレ達に言った。
「セイセリウスの英傑宝剣、黒豹を模した魔導生物、他にもただならぬ品々。極めつけはアダマンタイトの全身鎧。加えて武具に負けぬ精鋭に囲まれているのだ。この状況で警戒しないわけにはいかぬ」
「ほぅ。この鎧がアダマンタイトと見抜くとは。流石だのぉ」
「この目で見てもなお、世にかような物が存在するとは信じられぬ」
黒い鎧姿が返す言葉に、唖然とした調子でハロルドが言う。
アダマンタイトって聞いたことあるな。
ゲームなんかで見るなんだか凄い金属ってやつだ。それの全身鎧か。ハロルドの様子から、アダマンタイトの全身鎧っていうのは、凄い物だとわかる。
それに、黒豹の魔導生物とか居るのか。
「とりあえず、怒らせないようにしよう。一応、無傷で帰すって言っているし……大丈夫だよ」
こぶしをグッと握りしめ、緊張した面持ちのハロルドに笑顔で返す。
納得したのかはわからないが、オレの態度にハロルドが小さく頷いた。
しばらく沈黙した時間が過ぎた。
ようやく声をあげたのは、椅子に座る男だった。
「まずは約束を果たそう。黒本エニエルを」
その声に反応したように、暗がりから猿が棚が2段ある台車を押しながら近寄ってきた。
上の段には、スプリキト魔法大学で見た黒本エニエルそっくりの本があった。下の段には、数冊の本が重ねて置いてある。
オレの前で台車は止まり、猿は去って行く。
本の作りも黒本エニエルにそっくりだ。
周りを縁取っている金属が、真新しく金に光っているくらいしか違いが無い。
魔法作用の分解から見る究極化についての観察と考察……表紙をめくってみると、スプリキト魔法大学で見たのと同じ題名が書いてあった。
なんとなくだが、これで魔法の究極……願いを叶える魔法へ一気に近づいた気がする。
「どうだ?」
「しっかりとした写本……だと思う」
小声で聞いてきたサムソンにそう答える。
「ギャッハッハッハ。内容は全て写し取ってある。お前達を騙しても、俺に利点は無いからな」
「えぇ。では、写本を頂いても?」
「約束どおりくれてやる。あと、下の段にあるのもまた、黒本の写しだ」
「3冊?」
「世に知られた黒本の写本だ。黒本が、黒本と呼ばれるゆえんたる、黒の表紙にて飾られ……世に知られた本達だ。それもくれてやろう」
なんだか簡単にいろいろくれるな。まぁ、くれるというなら貰っておこう。
「ありがとうございます」
「1つ教えてくれるか? どうやって、黒の滴を廃した?」
黒の滴を倒したことも把握済みか。そんなにペラペラしゃべった憶えはないけれど、何処で知ったのだろう。帝国かな。
「神々の力を1つの聖水に束ね、それを黒の滴本体に使いました」
「聖水を……ギャッハッハッハ、そうか、そうだったか。聖水、魔力のこもる血……彷徨う賢者が残したという言葉は、正しかったか。で、あれの正体は何だ?」
「正体ですか?」
「あぁ、そうだ。俺は、モルススの遺産ではないかと思っている」
「モルスス……」
「統一王朝と言うべきか」
思い出した。統一王朝のなんとか省のイ・アだ!
なんとか省までは思い出せないが、統一王朝とは確かに言っていた。
「言われるとおり、統一王朝だと名乗っていました」
「ギャーッハッハッハ。やはり、そうだ! 何が神罰だ! 第一、神罰のくせに聖水が弱点とか可笑しいだろうが! どいつもこいつも馬鹿ばかりだ! ギャッハッハッハ!」
オレの回答がよほど気に入ったのか、椅子に座る男が馬鹿笑いしながら、足をバタつかせて大喜びといった調子だ。
そのまま立ち上がり、椅子の上でジタバタと足をバタつかせ笑う。
さらには、足を滑らせて後頭部を椅子の背もたれにぶつけていた。
そんな状況に、オレ達はドン引きだ。
だが、周りの人達は落ち着いていて、よけいに状況のシュールさを際立たせていた。
声をかける気にもなれない。とりあえず、適当に本を影へと投げ込んでいく。
「こちらも1つ、教えて貰えませんか?」
オレが影にポイポイと本を投げ込んでいると、サムソンが声をあげた。
「なんだ?」
「その……フラスコ。デイアブロイ生成まで728日というのは?」
サムソンが階段途中にあるフラスコを指して言う。底が丸いフラスコで、中に入った青い液体がユラユラと揺れている。そして、表面にチラチラと映る文字……25が、25個と25に……あれ、全部足すと728なのか。
デイアブロイ……何処かで聞いたことあるな。そうそう、フェズルードで拾った本にあった。
「ギャッハッハ。デイアブロイと呼ぶか。それは、魔神復活までの日を記すものだ」
デイアブロイではなくて、魔神?
「魔神復活までの日を正確に知ることが……もしや、其方は魔神教徒……いや、連れから推測するに魔神教王か?」
椅子に座る男の言葉に対して、ハロルドが反応する。
そういや、そうだな。魔神の復活が近いことはわかっても、何時なのかは正確には分からないとしか聞いたことが無い。
それを知ることができる立場として、魔神教徒をハロルドは連想したのか。魔神教王……魔神教の王様ってことかな。
「ギャッーッハッハッハ。魔神教……それも魔神教王か。それもいいやも知れぬ」
「違うと?」
「あぁ。違うな。そもそも、ハロルド、お前は勘違いしている。魔神教に王など居ない」
「ベインビオスに王が現れたでござらぬか」
「あれは、ただの詐欺師だ。魔神教というのは、人生が破綻し、希望を失った人の頭に思い浮かぶ祝詞。人が生まれながらに持っている罪の祝詞。それを呟く者だ」
「思い浮かぶ……?」
「世に絶望し、世の中が滅茶苦茶になれば良い……そのような者の心に浮かぶ言葉。それを呟く者が魔神教徒だ。確かに人が集まれば組織としての姿を見せるだろう。だが、それはただの集まりだ。よくあるギルドにすぎん。故に、王などと言い張ってもたかが知れている」
ハロルドは無言だ。
そんなリアクションの無いハロルドを言い含めるように、椅子に座る男の声は続く。
「納得がいかぬか? お前の理解とは始まりが違うのだ。世の不条理を嘆きはしても、自ら行動を起こさない。誰かが腐った世を痛快にひっくり返さないか……そのような事を望む、他力本願な奴らなのだ魔神教徒はな」
「あの……それでは、魔神教徒というのは誰かが布教しているのでは無いという事でしょうか?」
ハロルドは無言のままだったが、代わりとばかりにカガミが質問する。
「多少は布教している者もいるが、上手くいったという事例は無い」
「では、その液体の入った器はどういうことでござるか?」
「これは、ただの魔導具だ。壊したところで魔神の復活には影響ない。どれだけ魔力が貯まったのかを示す物だ」
「魔力を貯めるというのは?」
「魔神教徒が祈れば、その者の魔力は歪み、魔神の柱に流れ込む。流れ込んだ歪んだ魔力が一定を超えれば、魔神が復活する……そういうカラクリだ」
ハロルドとカガミがする矢継ぎ早の質問に、椅子に座った男は言いよどむことなく答えていく。なんとなくの印象だが、嘘は言っていない気がする。
それにしても、いろいろと物知りだよな。
そして、なんか初対面な気がしない。妙な既視感がある。
うーん。
「主様……」
ハロルド達の会話を聞きながら、主様とかいう人の正体を考えていた時のことだ。
階段の根元に立つヴェールで顔を隠した女性が、椅子に座る男へ声をかけた。
「ギャッハッハ。少し、話に熱中したか。では……」
「あの、私からも、1つ質問してよろしいでしょうか?」
椅子に座る男が何かを言いかけたとき、ノアが声をあげた。
「なんだ?」
「その……魔神教徒が祈れば魔神が蘇るというのは……、もし魔神教徒がいなければ、魔神は蘇らないという事でしょうか?」
「お前が考えている通りだ。魔神教徒がいなくても、魔神は蘇る」
先ほどの説明とは異なる回答。
魔神教徒が祈ることで、魔力が貯まり、魔神が蘇るという説明だったはずだ。しかし、魔神教徒がいなくても、魔神が蘇る? ノアが考えているとおり?
「やっぱり……」
ノアは男の言葉を聞いて、悲しそうに俯き呟く。
「呪い子がまき散らす歪みきった魔力もまた、魔神復活の糧となる」
そういうことか。そういえば、以前ロンロが言っていたな。魔神の呪いで、呪い子は歪んだ魔力をまき散らすと……。歪んだ魔力で連想したのか。
「私が……」
「お前が自死したところで流れは変わらん。月への道が破損し、行き場を失った魔力……他にもいくつか魔神の糧はある。手を尽くしたところで魔神の復活を早めることはできても、止めることはできん」
早めることはできる?
魔神の復活を早めることでも考えているのかな。
何気ない一言だったが、妙に引っかかる。
「その、復活までの日付は確定しているのではないのですか?」
「違うな。目安にすぎん。魔神といえば……そうだな。ギャッハッハ。良いことを思いついた。カーバンクルを試せ! ついでに始末しろ! ギャーッハッハ!」
椅子に座った男は狂ったような笑い声をあげる。
それから、椅子越しに何かを放り投げた。
投げられた白い物を、階段の根元に立つ黒い鎧姿が受け止める。
そして、そのままノアへと投げつけた。
ノアはいきなりの事だったが、とっさに後へと飛び避けようとした。
『ドォォン』
爆発音にも似た音が響く。
それは、黒い鎧姿はそんなノアを追いかけるように踏み込んだ音だった。
奴は、ノアに狙いを定めて、大きく拳を振り上げた。
魔法によって、誰でもロンロが見えるようになった。
その確認が出来たとき、椅子に座る男が笑い声混じりに言った。
陽気な笑い声に、どう反応すればいいのか困る。
「リーダ。少し、しくじったかもしれん」
考えあぐねるオレに、ハロルドが小声で言った。
声音に、緊張感がこもっている。
「どうかしたのか?」
「まんまとおびき出されたやもしれん」
「そうかもな」
「ここにいるのは手練れ揃いだ。戦えば勝ち目は無い。いや……拙者では姫様を守ることもできぬ」
これほどまでハロルドがはっきり言うとは……それほど強い奴らなのか。
「警戒は不要だ。俺はお前達を無傷で帰すつもりだ」
椅子に座る男が、そんなオレ達に言った。
「セイセリウスの英傑宝剣、黒豹を模した魔導生物、他にもただならぬ品々。極めつけはアダマンタイトの全身鎧。加えて武具に負けぬ精鋭に囲まれているのだ。この状況で警戒しないわけにはいかぬ」
「ほぅ。この鎧がアダマンタイトと見抜くとは。流石だのぉ」
「この目で見てもなお、世にかような物が存在するとは信じられぬ」
黒い鎧姿が返す言葉に、唖然とした調子でハロルドが言う。
アダマンタイトって聞いたことあるな。
ゲームなんかで見るなんだか凄い金属ってやつだ。それの全身鎧か。ハロルドの様子から、アダマンタイトの全身鎧っていうのは、凄い物だとわかる。
それに、黒豹の魔導生物とか居るのか。
「とりあえず、怒らせないようにしよう。一応、無傷で帰すって言っているし……大丈夫だよ」
こぶしをグッと握りしめ、緊張した面持ちのハロルドに笑顔で返す。
納得したのかはわからないが、オレの態度にハロルドが小さく頷いた。
しばらく沈黙した時間が過ぎた。
ようやく声をあげたのは、椅子に座る男だった。
「まずは約束を果たそう。黒本エニエルを」
その声に反応したように、暗がりから猿が棚が2段ある台車を押しながら近寄ってきた。
上の段には、スプリキト魔法大学で見た黒本エニエルそっくりの本があった。下の段には、数冊の本が重ねて置いてある。
オレの前で台車は止まり、猿は去って行く。
本の作りも黒本エニエルにそっくりだ。
周りを縁取っている金属が、真新しく金に光っているくらいしか違いが無い。
魔法作用の分解から見る究極化についての観察と考察……表紙をめくってみると、スプリキト魔法大学で見たのと同じ題名が書いてあった。
なんとなくだが、これで魔法の究極……願いを叶える魔法へ一気に近づいた気がする。
「どうだ?」
「しっかりとした写本……だと思う」
小声で聞いてきたサムソンにそう答える。
「ギャッハッハッハ。内容は全て写し取ってある。お前達を騙しても、俺に利点は無いからな」
「えぇ。では、写本を頂いても?」
「約束どおりくれてやる。あと、下の段にあるのもまた、黒本の写しだ」
「3冊?」
「世に知られた黒本の写本だ。黒本が、黒本と呼ばれるゆえんたる、黒の表紙にて飾られ……世に知られた本達だ。それもくれてやろう」
なんだか簡単にいろいろくれるな。まぁ、くれるというなら貰っておこう。
「ありがとうございます」
「1つ教えてくれるか? どうやって、黒の滴を廃した?」
黒の滴を倒したことも把握済みか。そんなにペラペラしゃべった憶えはないけれど、何処で知ったのだろう。帝国かな。
「神々の力を1つの聖水に束ね、それを黒の滴本体に使いました」
「聖水を……ギャッハッハッハ、そうか、そうだったか。聖水、魔力のこもる血……彷徨う賢者が残したという言葉は、正しかったか。で、あれの正体は何だ?」
「正体ですか?」
「あぁ、そうだ。俺は、モルススの遺産ではないかと思っている」
「モルスス……」
「統一王朝と言うべきか」
思い出した。統一王朝のなんとか省のイ・アだ!
なんとか省までは思い出せないが、統一王朝とは確かに言っていた。
「言われるとおり、統一王朝だと名乗っていました」
「ギャーッハッハッハ。やはり、そうだ! 何が神罰だ! 第一、神罰のくせに聖水が弱点とか可笑しいだろうが! どいつもこいつも馬鹿ばかりだ! ギャッハッハッハ!」
オレの回答がよほど気に入ったのか、椅子に座る男が馬鹿笑いしながら、足をバタつかせて大喜びといった調子だ。
そのまま立ち上がり、椅子の上でジタバタと足をバタつかせ笑う。
さらには、足を滑らせて後頭部を椅子の背もたれにぶつけていた。
そんな状況に、オレ達はドン引きだ。
だが、周りの人達は落ち着いていて、よけいに状況のシュールさを際立たせていた。
声をかける気にもなれない。とりあえず、適当に本を影へと投げ込んでいく。
「こちらも1つ、教えて貰えませんか?」
オレが影にポイポイと本を投げ込んでいると、サムソンが声をあげた。
「なんだ?」
「その……フラスコ。デイアブロイ生成まで728日というのは?」
サムソンが階段途中にあるフラスコを指して言う。底が丸いフラスコで、中に入った青い液体がユラユラと揺れている。そして、表面にチラチラと映る文字……25が、25個と25に……あれ、全部足すと728なのか。
デイアブロイ……何処かで聞いたことあるな。そうそう、フェズルードで拾った本にあった。
「ギャッハッハ。デイアブロイと呼ぶか。それは、魔神復活までの日を記すものだ」
デイアブロイではなくて、魔神?
「魔神復活までの日を正確に知ることが……もしや、其方は魔神教徒……いや、連れから推測するに魔神教王か?」
椅子に座る男の言葉に対して、ハロルドが反応する。
そういや、そうだな。魔神の復活が近いことはわかっても、何時なのかは正確には分からないとしか聞いたことが無い。
それを知ることができる立場として、魔神教徒をハロルドは連想したのか。魔神教王……魔神教の王様ってことかな。
「ギャッーッハッハッハ。魔神教……それも魔神教王か。それもいいやも知れぬ」
「違うと?」
「あぁ。違うな。そもそも、ハロルド、お前は勘違いしている。魔神教に王など居ない」
「ベインビオスに王が現れたでござらぬか」
「あれは、ただの詐欺師だ。魔神教というのは、人生が破綻し、希望を失った人の頭に思い浮かぶ祝詞。人が生まれながらに持っている罪の祝詞。それを呟く者だ」
「思い浮かぶ……?」
「世に絶望し、世の中が滅茶苦茶になれば良い……そのような者の心に浮かぶ言葉。それを呟く者が魔神教徒だ。確かに人が集まれば組織としての姿を見せるだろう。だが、それはただの集まりだ。よくあるギルドにすぎん。故に、王などと言い張ってもたかが知れている」
ハロルドは無言だ。
そんなリアクションの無いハロルドを言い含めるように、椅子に座る男の声は続く。
「納得がいかぬか? お前の理解とは始まりが違うのだ。世の不条理を嘆きはしても、自ら行動を起こさない。誰かが腐った世を痛快にひっくり返さないか……そのような事を望む、他力本願な奴らなのだ魔神教徒はな」
「あの……それでは、魔神教徒というのは誰かが布教しているのでは無いという事でしょうか?」
ハロルドは無言のままだったが、代わりとばかりにカガミが質問する。
「多少は布教している者もいるが、上手くいったという事例は無い」
「では、その液体の入った器はどういうことでござるか?」
「これは、ただの魔導具だ。壊したところで魔神の復活には影響ない。どれだけ魔力が貯まったのかを示す物だ」
「魔力を貯めるというのは?」
「魔神教徒が祈れば、その者の魔力は歪み、魔神の柱に流れ込む。流れ込んだ歪んだ魔力が一定を超えれば、魔神が復活する……そういうカラクリだ」
ハロルドとカガミがする矢継ぎ早の質問に、椅子に座った男は言いよどむことなく答えていく。なんとなくの印象だが、嘘は言っていない気がする。
それにしても、いろいろと物知りだよな。
そして、なんか初対面な気がしない。妙な既視感がある。
うーん。
「主様……」
ハロルド達の会話を聞きながら、主様とかいう人の正体を考えていた時のことだ。
階段の根元に立つヴェールで顔を隠した女性が、椅子に座る男へ声をかけた。
「ギャッハッハ。少し、話に熱中したか。では……」
「あの、私からも、1つ質問してよろしいでしょうか?」
椅子に座る男が何かを言いかけたとき、ノアが声をあげた。
「なんだ?」
「その……魔神教徒が祈れば魔神が蘇るというのは……、もし魔神教徒がいなければ、魔神は蘇らないという事でしょうか?」
「お前が考えている通りだ。魔神教徒がいなくても、魔神は蘇る」
先ほどの説明とは異なる回答。
魔神教徒が祈ることで、魔力が貯まり、魔神が蘇るという説明だったはずだ。しかし、魔神教徒がいなくても、魔神が蘇る? ノアが考えているとおり?
「やっぱり……」
ノアは男の言葉を聞いて、悲しそうに俯き呟く。
「呪い子がまき散らす歪みきった魔力もまた、魔神復活の糧となる」
そういうことか。そういえば、以前ロンロが言っていたな。魔神の呪いで、呪い子は歪んだ魔力をまき散らすと……。歪んだ魔力で連想したのか。
「私が……」
「お前が自死したところで流れは変わらん。月への道が破損し、行き場を失った魔力……他にもいくつか魔神の糧はある。手を尽くしたところで魔神の復活を早めることはできても、止めることはできん」
早めることはできる?
魔神の復活を早めることでも考えているのかな。
何気ない一言だったが、妙に引っかかる。
「その、復活までの日付は確定しているのではないのですか?」
「違うな。目安にすぎん。魔神といえば……そうだな。ギャッハッハ。良いことを思いついた。カーバンクルを試せ! ついでに始末しろ! ギャーッハッハ!」
椅子に座った男は狂ったような笑い声をあげる。
それから、椅子越しに何かを放り投げた。
投げられた白い物を、階段の根元に立つ黒い鎧姿が受け止める。
そして、そのままノアへと投げつけた。
ノアはいきなりの事だったが、とっさに後へと飛び避けようとした。
『ドォォン』
爆発音にも似た音が響く。
それは、黒い鎧姿はそんなノアを追いかけるように踏み込んだ音だった。
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