召還社畜と魔法の豪邸

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第二十七章 伝説の、真相

閑話 静かな日(二フレイン視点)

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 スプリキト魔法大学で出会ってから、ずっと友達のピサリテリア様は元気です。

「ニフレインの歳で、スプリキト魔法大学への入学が許されたのは名誉な事だ。励みなさい」

 父上から檄を飛ばされるも、心細く思っていた大学生活は、同じ歳のピサリテリア様と出会えた事で救われました。
 そして、ピサリテリア様は、最近さらに元気になりました。周りから大人しいと言われる私は、少し羨ましく思います。

「リーダ様は、歴史学が苦手なのよね。だから、まとめてあげたの」

 沢山書き込んだ紙束を見せてくれました。
 とっても張り切っています。ピサリテリア様は、前にモルトールの町でリーダ様達……ノアサリーナ様一行に助けられたそうです。見たこともない魔法を行使し、沢山の悪い人をまたたく間に倒したお話を何度も聞きました。
 そんなリーダ様に恩を返せると、ピサリテリア様は張り切っているのです。

「今日は、歴史学と……」
「それから魔導具基礎よ。窓際の席に座りましょう」

 大教室には早めにつきます。ピサリテリア様はせっかちだから何時だって教室に入った時はガラガラです。
 大学生活は、2人で講義が始まるまで静かに待つのが日課でした。
 でも、最近はそうではありません。

「やぁ。ピサリテリア様、それからニフレイン様」
「こんにちは、セルベテ様」

 セルベテ様はグラムバウム魔法王国から勉強の為に特例でやってきた人です。ヨラン王国は暑いと言っていただけあって、すごく薄着で、寒がりな私には少し羨ましく感じます。
 そして、私達とあまり年は変わらないのに、魔法使いとしての実力は凄い人でもあります。それでも満足せず、異国で違う魔法を学びたいと申し出て、この学校へやってきたと聞きました。
 そんなセルベテ様と最近よくお話をするようになりました。
 ヘレンニア様、トートリオン様、クロムカートン様。
 ほんの少し前まで、2人で過ごす事が多かった授業開始までの時間。リーダ様が来てから一気に人が増えました。

「今日は、お休みかしら……」
「確かに、来ないな」
「こんにちは、ニフレイン様……ヘレンニア様はいないのだな」
「えぇ。リーダ様も、ヘレンニア様も、今日は見ませんね」
「まぁ。曲がりなりにもノアサリーナ様の従者だ。忙しいのだろう。この隙に私はより一層自分を高めることにするよ」

 リーダ様は不思議な人です。
 いつもニコニコと話を聞くので、皆がついつい長話をしてしまうのです。
 身分を感じさせない態度で、商人にも、役人にも見えなません。
 そんなリーダ様の魔法使いとしての力量は桁違い。
 実技の試験で見た魔法の矢が忘れられません。あれほど大量の矢を空中で静止させ、数を数えたことに驚きを隠せませんでした。
 私だったら、魔法の矢を空中で止めるなんてできないし、あんなに沢山の矢を作ることも出来ません。
 加えて威力も凄かったのです。
 宮廷魔術士である父上だって、あれほどの上手く魔法の矢を使えないでしょう。
 最初は張り合おうとしたセルベテ様も、すぐに実力の差を認めてしまわれました。
 私も追いつける気がしません。それに言語学を始め数多くの事に精通しています。

「ニフレインお嬢様と、あのリーダ様は年が離れておりますもの。敵わないとしても、仕方ありません」

 従者のルントルテはそう言うけれど、何年かかってもリーダ様に敵いそうにありません。
 結局、リーダ様が来ない日はそれからずっと続きました。

「ふむ。リーダは居ないのか」

 数日ぶりの魔法戦闘学の講義の場。
 銀に輝く分厚いマントを着込んで、汗だくのクルズヤンク様もがっかりしていました。
 不在の日が続く中、ピサリテリア様が作った資料は山のようになったので、読むのが大変かもねと皆で笑う日々です。

「あぁ。リーダ君であれば、卒業したからね」

 ところが、その魔法戦闘学の講義で、ハインハイグ先生がビックリする事を言いました。
 皆がザワつきます。

「ハインハイグ先生! リーダ様が卒業したというのは?」

 ピサリテリア様が手をまっすぐに上げて先生に問いかけました。
 そこで聞いたのは、すぐには信じられない話でした。
 リーダ様は、昇級試験を受けて合格を得た直後、卒業試験を志願したそうです。
 そして夜通しの討論の末、合格したのだとか。
 入学して一月もしない間に卒業……先生の口から聞いても、なお信じられない話でした。

「やっぱり凄い人だったね」
「うん」

 先生の話を聞いて、授業も上の空で終わった後、大教室へと行きました。

「なんだか静かだね……」
「うん」

 寂しそうにピサリテリア様が頷きました。
 いつもと同じように早く着きすぎてガランとした大教室。
 でも、なんだかいつもよりも静かに感じました。

「ピサリテリア様」

 静かな大教室、そこで声をかけてきたのは知らない人でした。

「あっ、ノアサリーナ様の……」

 ピサリテリア様がパッと顔を上げ、声を上げます。
 リーダ様と同じノアサリーナ様の従者のようです。

「憶えていただいていたとは嬉しく存じます。カガミと申します。主であるノアサリーナ様から、手紙をお預かりしてきました」

 カガミ様……そういえば、ルントルテが言っていた事を思い出しました。
 3人、ノアサリーナ様の従者はスプリキト魔法大学に入学することになったが、リーダ様以外は入学試験で1級になったと。
 もしかしたらリーダ様は何か目的があって、担当教授のいない3級に留まった可能性があると、ルントルテが言っていた事をいまさらながらに思い出しました。
 この方が、そのうちの1人のようです。
 リーダ様と同じように黒い髪に、黒い瞳。微笑み話す様子から、優しそうですが、真面目な印象を受けます。

「ノアサリーナ様が……私に?」
「左様でございます。自らの僕であるリーダが親切にしてもらったお礼をしたためたとの事です」

 ピサリテリア様が受け取った物は、封蝋された紙で作られた小箱でした。
 イレクーメ神殿で取り扱っている文入れる小箱という物だそうです。ピサリテリア様が従者から説明をうけ、ナイフでパチンと封をあけます。
 それから、折りたたまれた紙の手紙を、ゆっくりと広げ読みました。

「うーん。どうやらノアサリーナ様は使い魔に興味があるみたいね。お手紙かかなきゃ」

 手紙から顔を上げたピサリテリア様は、いつもの元気な笑顔に戻っていました。

「ふむ。何やら楽しそうだが、何かあったのかい?」
「えぇ。セルベテ様。いま、ノアサリーナ様からの手紙を読んだところなのです」
「ほぅ」

 それから授業が始まるまで、お手紙の事、そして使い魔の話をしました。
 そのうち、セルベテ様以外にも、トートリオン様……そしてヘレンニア様も話に加わりました。
 ヘレンニア様はお家の事情で、しばらくお休みされていたそうです。
 リーダ様はいなくなりましたが、それでも賑やかなのは変わらないようです。
 セルベテ様は、グラムバウム魔法王国で使われる白い小熊の使い魔について教えてくれました。

「沢山、使い魔の事を教えてあげられそうね」

 講義の始まりを知らせる鐘がなった直後、ピサリテリア様はニコリと私に笑いました。
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