召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十七章 伝説の、真相

てがみをかく

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 帰りも来たときと同じように、イオタイトの先導で進む。

「イオタイト様は、あの黒い鎧の人がノアサリーナお嬢様を襲うということを、知っていたのですか?」
「知らなかったよ」

 オレの問いかけにあっけらかんとイオタイトは答えた。
 そしてゆっくりと言葉を続ける。

「主様の命令で臨機応変に動くのが我らだ。あの場で、主の言葉と声音から全てを察し動いた。ただし、ノアサリーナ様を始め、他の誰も怪我をさせるなとも事前に命令されていたよ」
「あの状況で……怪我をさせない? それは、どうやって?」
「おっさんは寸止めするつもりだったはずだ。何か問題があれば姉貴がノアサリーナ様の身代わりなっただろう。もっとも、カーバンクルが防いだわけだけどね」

 おっさんっていうのは、あの黒い鎧の人か。

「姉貴ってのは?」
「ほら、黒いヴェールつけてハロルド様の相手をした人だよ」
「ハロルドの相手をしていたのに?」
「あの者であれば、可能であろうな。あれほどの達人がこの世にいたとは」

 ハロルドが感心した様子で言った。
 あの女の人は、そんなに強いのか。ハロルドの相手をしつつ最悪の場合は身代わりとして動けるか……。少し想像できない。

「ハロルド様の剣を折ってしまったのは……失敗だったけどね。さて、ロンロ様も、馬車に乗って貰えるかな」

 そして、馬車までたどり着き、イオタイトは入り口の扉をあけながら言った。
 帰りの馬車では、イオタイトは同席しなかった。

「黒い霧……目くらましのぉ魔法ねぇ。馬車を追いかけるだけで精一杯だったのぉ」

 外から馬車を追いかけていたロンロは、オレ達が連れてこられた場所が何処なのか分からなかったらしい。

「でもぉ、外にいた人。目くらましの魔法を使った人はぁ、図書ギルドで会った人だったわぁ」

 ただし、まったく収穫がなかったわけではない。

「図書ギルドで会った人というと、ブルッカさんっスか?」
「違うわぁ。最初に会った人」
「お猿さんが使い魔の人?」
「そうなのぉ」

 思い出した。お金は貸さないとか言われていた人か。
 そういや、外のゴリラとかも猿といえば猿か。
 そうこうしているうちに、馬車は飛行島へとたどり着いた。

「またお会いできる日まで、さようなら」

 軽い調子でそう言ってイオタイト達は去って行く。
 結局、彼らの正体については分からず仕舞いだった。
 それにしても、得体が知れなさすぎて怖い。あまり深入りしないほうが良さそうだ。
 帰ってみると辺りは真っ暗になっていた。

「うわっ。良い香りがする」
「ご飯を作ったでち」
「ピラフじゃん。久しぶりのお米、お米」

 ピッキー達が用意してくれていたピラフを食べながら、先ほどの出来事について話をする。

「魔導具大工!」

 中でも魔導具大工にピッキー達は興味津々だった。

「そうだな。せっかくの機会だ。俺の従者って事で、一緒に講義をうけてみるか?」
「受けたいです」
「おいらも!」
「じゃぁ、決まりだな」

 サムソンの提案に、トッキーとピッキーが身を乗り出すように頷く。
 本当に、ピッキー達はやる気があって頼もしい。

「あのね」

 魔導具大工についての話をしていたときに、ノアが声をあげた。

「なんだい、ノア」
「ピサリテリア様にお手紙を書こうと思うの」
「手紙を?」
「うん。リーダが急に居なくなったら寂しいよ。だから、ありがとうって」

 言われてみると、何も言わずに居なくなるのは不味いか。
 10日程度の学校生活であったけれど、いろいろ面倒を見て貰ったしな。彼女がいなければ、次の講義を何処で受ければいいのかも分からなかった。

「そうだね。オレも書こうかな」
「リーダはぁ、やめておいた方が良いと思うのぉ」

 ロンロが、理由を説明してくれる。
 大学内では特例で学生同士は対等だが、卒業してしまえば身分差が出てくる。それが理由らしい。
 つまりは、奴隷が相手貴族からの許しも得ずに、手紙を送ることは不遜だということだ。

「私がね、いっぱい書くよ」
「そっか。それならお願いするね、ノア」
「うん」

 やる気になっているノアに手紙を書いて貰う事になった。
 それにしても、オレは自分の事だけでそこまで考えが至らなかった。ノアは相手を思いやることができて立派だ。

「それじゃ、俺はとりあえず黒本エニエルを読ませて貰う」

 そして、当面は今日手に入れた本を始め、情報収集に集中することに決まった。

「お金が必要だと思います」
「そうっスね。もっと凄い魔導具を作るためにも」
「資料集めにもな、お金が必要だぞ」

 それからお金が必要な事も再確認し、各々が資金稼ぎのアイデアを出し合うことになった。
 賞金だけで何とかなると思っていたが、そう上手くはいかない。
 お金ができると、視野が広がるせいか、いろいろと必要な物を思いついてしまう。
 魔導具を作るための触媒や材料、古い資料を手にいれるための費用……お金が入り用になる。
 もっとも、黒本エニエルに魔法の究極について十分な内容が書いてあれば問題は一気に解決する。
 今まさに、黒本エニエルを読んでいるサムソンに期待しよう。
 時間が許す限り、焦らずじっくりやればいい。急がば回れだ。
 それに……。
 オレは自室で、スプリキト魔法大学の地下で手に入れた本を、そっと開く。

「魂の解体と無痛消費について……か」

 人の魂は、玉葱の皮を剥ぐように消費される。
 外から内へと、ゆっくりと。その価値は葉野菜のように中心に向かえば向かうほど増していく……か。
 少しだけ興味があったが、後回しだ。
 ページをどんどん捲っていき、目当ての項目まで進める。
 あった。
 命約奴隷……そして命約の追加方法。
 ゆっくりと確実に読み進んでいく。難しい内容だったが、あせらず1つずつ噛みしめるように。

「どういうことだ……」

 夜通し読み、外が白み始めた頃。命約奴隷について書かれた部分を読んだオレの口からは、疑問の言葉しか出なかった。
 この本によると命約奴隷とは、永劫服従の魔法という名前の魔法……他者を強制的に奴隷化する魔法の犠牲者らしい。
 奴隷化してしまえば、苦痛を与える事をはじめとして、他者を支配できる。それを相手が拒否したとしても一方的に行うことが可能というのが、この永劫服従の魔法についての記述だ。
 永劫服従の魔法というのは、かなり特殊な魔法のようだ。
 必要な触媒は、自分の魂……その一部。
 魔法を唱えると、攻撃魔法のように光の輪を放つことができる。
 その輪が相手に当たると、しばらくの間、対象者は光るという。
 そして対象者が光っている間に、その対象が持つ望みを叶えることで、魔法は作動し命約奴隷となるという。
 もし望みを叶える前に、相手がその望みを捨てれば、魔法は失敗する。
 つまり、望みは術者が叶える事になる。

「あらかじめ、相手の望みを知った上で、望みを叶えるか」

 背もたれに体をあずけ、一番解せない部分を口にする。
 オレ達がこの世界に来たと同時に身に起こった事。例えば、若返りや寝不足をはじめとした健康の回復。
 それが、自身の望みが叶った結果だとしたら、それはノアが叶えたということになる。
 ノアがオレ達の望みを叶えたから、命約奴隷の所有者がノアになった。
 でも、ノアにはそんなことは出来ない。
 加えて、命約は魂を砕きその残滓でつなぎ止めるため、一人の人間が生涯使える命約は5つが限界と考えるとあった。
 それ以上は、急激な加齢、記憶の欠損、四肢の麻痺や破損もしくは死が術者にもたらされるという。
 つまり、オレだけで100を超える命約を結ぶなんて、ノア一人では不可能ということだ。

「しかも命約の追加も無理そうだ……」

 そして、僅かな希望も、無理そうだった。
 本には、命約の追加方法も書いてはあった。
 だが、側にある書き込み……あのヴァンパイアであるズウタロスの実験では上手くいっていなかった。
 実験の結果として、何人もの人が死んだ事が書き込んであった。
 ダメ元で試すわけにもいかない。

「一気に、理想へ近づいたと思ったんだがなぁ……」

 間も無く朝を迎える空を見て、一人愚痴る。

「まっ、上手くいかない事もあるさ。あとは……黒本エニエルに期待しようかな」

 まだまだやる事は沢山ある。
 オレは、自分を勇気づけるように気楽な調子で呟いた。
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