召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
591 / 830
第二十八章 素敵な美談の裏側で

じゅうしゃ

しおりを挟む
「一人にしないでって、これから家に帰るところじゃないか」

 家に戻ればノアをはじめ、皆がいる。今日は久しぶりに全員が揃う日なのだ。

「違うんです。明日以降の話です」
「明日以降って?」
「学校についてきてほしいと思います」

 そういうことか。
 帰り道に、ミズキが言い出した話。
 サムソンが卒業したら、生徒会選挙まで何が起こるかわからない状況の中に、カガミが一人取り残されるという話だ。

「でもなぁ。約束でオレは大学構内に入れないからな」
「それは今日みたいに変装すればいいと思います」
「そうそう。リーダが助けてあげなよ」

 カガミの涙ながらの懇願に、ミズキも助け舟を出す。

「変装っていうなら、サムソンでいいじゃないか」
「いや、サムソンだったら火に油ってことがありますし……」
「カガミ氏は酷いな」

 酷いって……。
 まぁ、確かにカガミの言う通りだ。
 サムソンは、ファンクラブの事も団扇の事も黙っていたしな。

「分かったよ」

 しょうがないかとばかりに、カガミに同行することになった。
 翌日、ランダムにならないように調整をした変装の魔法を使う。
 そして、カガミの従者という立場で大学に行く。
 年齢は30代後半のカワリンドと言う男の設定にした。
 前回、ランダムで作った設定を固定化したのだ。
 変装後のオレは、人の良さそうな、小太りのおじさんになった。

「あはは。何度見ても、ダイエットに何回も失敗してそうな感じ」

 ミズキの奴、楽しそうにコメントしやがって。
 思いっきり他人事じゃないか。

「まぁ、がんばれ」

 クソっ、サムソンの奴め。元は言えば、お前が原因だろうが。
 同僚達の、酷い声援を受け、カガミの従者としての大学生活が始まった。

「もう従者……辞めたいです」
「まだ4日目だと思うんですが……」

 従者生活の4日目にして、やめたい気分が満載になってしまった。
 大学生徒の従者は朝が早い。
 いつもだったら寝ている時間に叩き起こされ、変装の魔法を使う。
 それからミズキの送迎で大学へと行く。
 大学に到着したら、早朝、デートレッド教授の研究室で、打ち合わせ。
 デートレッドというのはカガミの担当教授だ。
 明るい茶色の髪の小柄な人の良さそうなおばあさんだ。
 玉葱をのっけた風にした髪型が特徴だ。
 あの髪型はセットに時間かかかるだろうと思ったのが彼女についての第一印象。
 小さい塔のてっぺんに作られたドーム型の温室が、研究室。
 そんな静かな研究室で、彼女はのんびりと研究している。
 そこに、カガミと、マルグリットと言う貴族令嬢を加えた3人で、仲良く談笑しながら打ち合わせ。それが毎朝の日課だ。

「私は、もう一年……生徒会長を務めたほうが……」
「ですが、それでは、研究に集中するというマルグリット様の思いが、台無しになってしまうと思います」
「そうですよ。大丈夫、きっと上手くいきます。マルグリット様は肩の力を抜いてはいかがかしら」

 会話の内容はやや重め。
 だけど、和やかな雰囲気で、お菓子を食べながらの話は楽しそうだ。
 というか、あのお菓子……めちゃくちゃ美味そうだな。
 でも、それはカガミだけ。
 オレは従者という立場なので後ろに控えておくだけだ。
 マルグリットという人は身分が高い貴族なので、従者の数も多い。

「少しは従者としての稔侍を持って仕事したらどうかね。従者がたるんでいると、主の評価にも傷がつくぞ」

 君のためを思って言っているのだという態度で、彼女の従者にチクチクと言われてむかつく。

「図書塔には、写本奴隷が……」
「はい。主から木札をいただければ、貴方でも利用できましてよ」
「後で、カガミ様にお願いしてみようと思います」
「でも、カガミ様は王の月に生まれたのですね。後、少しですわ」

 だが、悪い人だけではなく良い人もいる。加えて、情報交換の場として、有益だ。
 ここでの話で、図書塔の地下書庫に読めない文字で書かれた絵巻物があること。
 そして、格安で依頼できる写本奴隷がいる事を知った。
 代わりに、カガミの誕生日を教えたが、この程度でいろいろ情報を得られたので良しとしよう。
 ちなみに、カガミの誕生日は8月3日。こちらの世界で言うところの王の月に生まれたという事になる。
 以前、蜂蜜の日に生まれたとか蘊蓄をカガミが語っていたのを、憶えていて良かった。
 一方的に情報を聞くわけにもいかないからな。

「はい。それにしても、木札……初めて使いました」

 楽しげなカガミから裏書きした木札を受け取る。
 大学の紋章が焼き印された小さく横長の木札だ。
 いくら削っても厚みが変わらない魔法の木札。
 従者としてのアレコレから解放され、軽い足取りで図書塔へと向かう。
 カガミは大学生活が楽しいようで、大量に講義を詰め込むので大変なのだ。
 特に、学生と違って従者は自由にしづらい空気がある。
 講義中、他の貴族達の従者は、インク壺を用意したり、ペンのインクを拭い取ったり、辞書のページを開いたりしている。
 オレはよく分からないからボーッとしているだけ。
 あいつ……従者のくせに、何をボンヤリしているんだって視線をヒシヒシと感じる。
 やってられるか。
 という事で、気楽なお使いは地味に嬉しい。
 スキップでもしようかなって勢いで、木札に通した紐を指にかけ、クルクルと回しながら図書塔へ向かう。
 図書塔の地下書庫は、書架がぎっしりと並んでヒンヤリとした薄暗い空間だった。

「こちらにございます」

 案内役の奴隷が、目当ての巻物が何処にあるのかを憶えていた。
 慣れた様子で背丈の3倍はありそうなほどの書架に梯子をかけて、てっぺんにある巻物を手に降りてくる。

「ありがとうございます。あと……これの写本をお願いしたのですが……」
「え……はい」

 とりあえず写本もお願いする。
 ちょっとリアクションがおかしかった事に、すぐに気がつき、言付けとして銀貨10枚を渡す。この世界は、奴隷や使用人に臨時のお願いをするときは、お金を渡す風習があることを思いだしたのだ。
 その考えは正しかったようで、すぐに写本奴隷を手配してくれた。
 装丁は、別途、出入りの商人へ依頼する必要があるらしいが、写本自体は無料らしい。
 明日には出来上がるという話だったので、また来る事を言い残し、カガミの元へと戻る。

「身分を考えよ」
「大学では、同位だ!」

 帰り道、ファンクラブ同士の諍いを目にした。
 熱狂的なファンは怖いな。
 そして、選挙運動は激しさを増しているらしい。
 オレも双方の主張と顔が描かれたうちわを受け取った。カガミに渡して欲しいらしい。
 戻ったら戻ったで、忙しい。
 植物学、魔法生物学基礎、気象学と魔法の関係性についての講義……講義のオンパレードだ。本当に、カガミは勉強大好きだよな。
 でも、講義はだるい。
 講義より、お使いの方が気楽だ。お使い仕事をカガミにおねだりしよう。

「どうだった」
「面白かったですよ。そうそう、明日はもう少し早く家を出たいと思います」

 帰り道、もっと早く家を出るという事をカガミが言い出した。

「勘弁してくれ。朝早いよ」
「早いって言っても、体感……7時起きくらいで、だいたい皆が起きる頃じゃん。むしろリーダは早起きしようよ」

 オレの抗議は、ミズキの気楽な言葉によって却下される。
 なんて事だ。
 このままでは、身が持たない。
 ロバが使えれば、午後から学校へ行くという手も使えたが、残念ながらできない。
 先日、ロバを大学に忘れたまま帰ってからアイツはご機嫌ななめなのだ。
 というわけで、オレはミズキと一緒に学校へ行かねばならない。
 両陣営から貰ったうちわを両手に持って、パタパタと扇ぎながら、馬車から空を見上げる。
 なんとかせねば……。
 オレは緊迫した状況を打開すべく思案した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...