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第二十八章 素敵な美談の裏側で
じゅうしゃ
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「一人にしないでって、これから家に帰るところじゃないか」
家に戻ればノアをはじめ、皆がいる。今日は久しぶりに全員が揃う日なのだ。
「違うんです。明日以降の話です」
「明日以降って?」
「学校についてきてほしいと思います」
そういうことか。
帰り道に、ミズキが言い出した話。
サムソンが卒業したら、生徒会選挙まで何が起こるかわからない状況の中に、カガミが一人取り残されるという話だ。
「でもなぁ。約束でオレは大学構内に入れないからな」
「それは今日みたいに変装すればいいと思います」
「そうそう。リーダが助けてあげなよ」
カガミの涙ながらの懇願に、ミズキも助け舟を出す。
「変装っていうなら、サムソンでいいじゃないか」
「いや、サムソンだったら火に油ってことがありますし……」
「カガミ氏は酷いな」
酷いって……。
まぁ、確かにカガミの言う通りだ。
サムソンは、ファンクラブの事も団扇の事も黙っていたしな。
「分かったよ」
しょうがないかとばかりに、カガミに同行することになった。
翌日、ランダムにならないように調整をした変装の魔法を使う。
そして、カガミの従者という立場で大学に行く。
年齢は30代後半のカワリンドと言う男の設定にした。
前回、ランダムで作った設定を固定化したのだ。
変装後のオレは、人の良さそうな、小太りのおじさんになった。
「あはは。何度見ても、ダイエットに何回も失敗してそうな感じ」
ミズキの奴、楽しそうにコメントしやがって。
思いっきり他人事じゃないか。
「まぁ、がんばれ」
クソっ、サムソンの奴め。元は言えば、お前が原因だろうが。
同僚達の、酷い声援を受け、カガミの従者としての大学生活が始まった。
「もう従者……辞めたいです」
「まだ4日目だと思うんですが……」
従者生活の4日目にして、やめたい気分が満載になってしまった。
大学生徒の従者は朝が早い。
いつもだったら寝ている時間に叩き起こされ、変装の魔法を使う。
それからミズキの送迎で大学へと行く。
大学に到着したら、早朝、デートレッド教授の研究室で、打ち合わせ。
デートレッドというのはカガミの担当教授だ。
明るい茶色の髪の小柄な人の良さそうなおばあさんだ。
玉葱をのっけた風にした髪型が特徴だ。
あの髪型はセットに時間かかかるだろうと思ったのが彼女についての第一印象。
小さい塔のてっぺんに作られたドーム型の温室が、研究室。
そんな静かな研究室で、彼女はのんびりと研究している。
そこに、カガミと、マルグリットと言う貴族令嬢を加えた3人で、仲良く談笑しながら打ち合わせ。それが毎朝の日課だ。
「私は、もう一年……生徒会長を務めたほうが……」
「ですが、それでは、研究に集中するというマルグリット様の思いが、台無しになってしまうと思います」
「そうですよ。大丈夫、きっと上手くいきます。マルグリット様は肩の力を抜いてはいかがかしら」
会話の内容はやや重め。
だけど、和やかな雰囲気で、お菓子を食べながらの話は楽しそうだ。
というか、あのお菓子……めちゃくちゃ美味そうだな。
でも、それはカガミだけ。
オレは従者という立場なので後ろに控えておくだけだ。
マルグリットという人は身分が高い貴族なので、従者の数も多い。
「少しは従者としての稔侍を持って仕事したらどうかね。従者がたるんでいると、主の評価にも傷がつくぞ」
君のためを思って言っているのだという態度で、彼女の従者にチクチクと言われてむかつく。
「図書塔には、写本奴隷が……」
「はい。主から木札をいただければ、貴方でも利用できましてよ」
「後で、カガミ様にお願いしてみようと思います」
「でも、カガミ様は王の月に生まれたのですね。後、少しですわ」
だが、悪い人だけではなく良い人もいる。加えて、情報交換の場として、有益だ。
ここでの話で、図書塔の地下書庫に読めない文字で書かれた絵巻物があること。
そして、格安で依頼できる写本奴隷がいる事を知った。
代わりに、カガミの誕生日を教えたが、この程度でいろいろ情報を得られたので良しとしよう。
ちなみに、カガミの誕生日は8月3日。こちらの世界で言うところの王の月に生まれたという事になる。
以前、蜂蜜の日に生まれたとか蘊蓄をカガミが語っていたのを、憶えていて良かった。
一方的に情報を聞くわけにもいかないからな。
「はい。それにしても、木札……初めて使いました」
楽しげなカガミから裏書きした木札を受け取る。
大学の紋章が焼き印された小さく横長の木札だ。
いくら削っても厚みが変わらない魔法の木札。
従者としてのアレコレから解放され、軽い足取りで図書塔へと向かう。
カガミは大学生活が楽しいようで、大量に講義を詰め込むので大変なのだ。
特に、学生と違って従者は自由にしづらい空気がある。
講義中、他の貴族達の従者は、インク壺を用意したり、ペンのインクを拭い取ったり、辞書のページを開いたりしている。
オレはよく分からないからボーッとしているだけ。
あいつ……従者のくせに、何をボンヤリしているんだって視線をヒシヒシと感じる。
やってられるか。
という事で、気楽なお使いは地味に嬉しい。
スキップでもしようかなって勢いで、木札に通した紐を指にかけ、クルクルと回しながら図書塔へ向かう。
図書塔の地下書庫は、書架がぎっしりと並んでヒンヤリとした薄暗い空間だった。
「こちらにございます」
案内役の奴隷が、目当ての巻物が何処にあるのかを憶えていた。
慣れた様子で背丈の3倍はありそうなほどの書架に梯子をかけて、てっぺんにある巻物を手に降りてくる。
「ありがとうございます。あと……これの写本をお願いしたのですが……」
「え……はい」
とりあえず写本もお願いする。
ちょっとリアクションがおかしかった事に、すぐに気がつき、言付けとして銀貨10枚を渡す。この世界は、奴隷や使用人に臨時のお願いをするときは、お金を渡す風習があることを思いだしたのだ。
その考えは正しかったようで、すぐに写本奴隷を手配してくれた。
装丁は、別途、出入りの商人へ依頼する必要があるらしいが、写本自体は無料らしい。
明日には出来上がるという話だったので、また来る事を言い残し、カガミの元へと戻る。
「身分を考えよ」
「大学では、同位だ!」
帰り道、ファンクラブ同士の諍いを目にした。
熱狂的なファンは怖いな。
そして、選挙運動は激しさを増しているらしい。
オレも双方の主張と顔が描かれたうちわを受け取った。カガミに渡して欲しいらしい。
戻ったら戻ったで、忙しい。
植物学、魔法生物学基礎、気象学と魔法の関係性についての講義……講義のオンパレードだ。本当に、カガミは勉強大好きだよな。
でも、講義はだるい。
講義より、お使いの方が気楽だ。お使い仕事をカガミにおねだりしよう。
「どうだった」
「面白かったですよ。そうそう、明日はもう少し早く家を出たいと思います」
帰り道、もっと早く家を出るという事をカガミが言い出した。
「勘弁してくれ。朝早いよ」
「早いって言っても、体感……7時起きくらいで、だいたい皆が起きる頃じゃん。むしろリーダは早起きしようよ」
オレの抗議は、ミズキの気楽な言葉によって却下される。
なんて事だ。
このままでは、身が持たない。
ロバが使えれば、午後から学校へ行くという手も使えたが、残念ながらできない。
先日、ロバを大学に忘れたまま帰ってからアイツはご機嫌ななめなのだ。
というわけで、オレはミズキと一緒に学校へ行かねばならない。
両陣営から貰ったうちわを両手に持って、パタパタと扇ぎながら、馬車から空を見上げる。
なんとかせねば……。
オレは緊迫した状況を打開すべく思案した。
家に戻ればノアをはじめ、皆がいる。今日は久しぶりに全員が揃う日なのだ。
「違うんです。明日以降の話です」
「明日以降って?」
「学校についてきてほしいと思います」
そういうことか。
帰り道に、ミズキが言い出した話。
サムソンが卒業したら、生徒会選挙まで何が起こるかわからない状況の中に、カガミが一人取り残されるという話だ。
「でもなぁ。約束でオレは大学構内に入れないからな」
「それは今日みたいに変装すればいいと思います」
「そうそう。リーダが助けてあげなよ」
カガミの涙ながらの懇願に、ミズキも助け舟を出す。
「変装っていうなら、サムソンでいいじゃないか」
「いや、サムソンだったら火に油ってことがありますし……」
「カガミ氏は酷いな」
酷いって……。
まぁ、確かにカガミの言う通りだ。
サムソンは、ファンクラブの事も団扇の事も黙っていたしな。
「分かったよ」
しょうがないかとばかりに、カガミに同行することになった。
翌日、ランダムにならないように調整をした変装の魔法を使う。
そして、カガミの従者という立場で大学に行く。
年齢は30代後半のカワリンドと言う男の設定にした。
前回、ランダムで作った設定を固定化したのだ。
変装後のオレは、人の良さそうな、小太りのおじさんになった。
「あはは。何度見ても、ダイエットに何回も失敗してそうな感じ」
ミズキの奴、楽しそうにコメントしやがって。
思いっきり他人事じゃないか。
「まぁ、がんばれ」
クソっ、サムソンの奴め。元は言えば、お前が原因だろうが。
同僚達の、酷い声援を受け、カガミの従者としての大学生活が始まった。
「もう従者……辞めたいです」
「まだ4日目だと思うんですが……」
従者生活の4日目にして、やめたい気分が満載になってしまった。
大学生徒の従者は朝が早い。
いつもだったら寝ている時間に叩き起こされ、変装の魔法を使う。
それからミズキの送迎で大学へと行く。
大学に到着したら、早朝、デートレッド教授の研究室で、打ち合わせ。
デートレッドというのはカガミの担当教授だ。
明るい茶色の髪の小柄な人の良さそうなおばあさんだ。
玉葱をのっけた風にした髪型が特徴だ。
あの髪型はセットに時間かかかるだろうと思ったのが彼女についての第一印象。
小さい塔のてっぺんに作られたドーム型の温室が、研究室。
そんな静かな研究室で、彼女はのんびりと研究している。
そこに、カガミと、マルグリットと言う貴族令嬢を加えた3人で、仲良く談笑しながら打ち合わせ。それが毎朝の日課だ。
「私は、もう一年……生徒会長を務めたほうが……」
「ですが、それでは、研究に集中するというマルグリット様の思いが、台無しになってしまうと思います」
「そうですよ。大丈夫、きっと上手くいきます。マルグリット様は肩の力を抜いてはいかがかしら」
会話の内容はやや重め。
だけど、和やかな雰囲気で、お菓子を食べながらの話は楽しそうだ。
というか、あのお菓子……めちゃくちゃ美味そうだな。
でも、それはカガミだけ。
オレは従者という立場なので後ろに控えておくだけだ。
マルグリットという人は身分が高い貴族なので、従者の数も多い。
「少しは従者としての稔侍を持って仕事したらどうかね。従者がたるんでいると、主の評価にも傷がつくぞ」
君のためを思って言っているのだという態度で、彼女の従者にチクチクと言われてむかつく。
「図書塔には、写本奴隷が……」
「はい。主から木札をいただければ、貴方でも利用できましてよ」
「後で、カガミ様にお願いしてみようと思います」
「でも、カガミ様は王の月に生まれたのですね。後、少しですわ」
だが、悪い人だけではなく良い人もいる。加えて、情報交換の場として、有益だ。
ここでの話で、図書塔の地下書庫に読めない文字で書かれた絵巻物があること。
そして、格安で依頼できる写本奴隷がいる事を知った。
代わりに、カガミの誕生日を教えたが、この程度でいろいろ情報を得られたので良しとしよう。
ちなみに、カガミの誕生日は8月3日。こちらの世界で言うところの王の月に生まれたという事になる。
以前、蜂蜜の日に生まれたとか蘊蓄をカガミが語っていたのを、憶えていて良かった。
一方的に情報を聞くわけにもいかないからな。
「はい。それにしても、木札……初めて使いました」
楽しげなカガミから裏書きした木札を受け取る。
大学の紋章が焼き印された小さく横長の木札だ。
いくら削っても厚みが変わらない魔法の木札。
従者としてのアレコレから解放され、軽い足取りで図書塔へと向かう。
カガミは大学生活が楽しいようで、大量に講義を詰め込むので大変なのだ。
特に、学生と違って従者は自由にしづらい空気がある。
講義中、他の貴族達の従者は、インク壺を用意したり、ペンのインクを拭い取ったり、辞書のページを開いたりしている。
オレはよく分からないからボーッとしているだけ。
あいつ……従者のくせに、何をボンヤリしているんだって視線をヒシヒシと感じる。
やってられるか。
という事で、気楽なお使いは地味に嬉しい。
スキップでもしようかなって勢いで、木札に通した紐を指にかけ、クルクルと回しながら図書塔へ向かう。
図書塔の地下書庫は、書架がぎっしりと並んでヒンヤリとした薄暗い空間だった。
「こちらにございます」
案内役の奴隷が、目当ての巻物が何処にあるのかを憶えていた。
慣れた様子で背丈の3倍はありそうなほどの書架に梯子をかけて、てっぺんにある巻物を手に降りてくる。
「ありがとうございます。あと……これの写本をお願いしたのですが……」
「え……はい」
とりあえず写本もお願いする。
ちょっとリアクションがおかしかった事に、すぐに気がつき、言付けとして銀貨10枚を渡す。この世界は、奴隷や使用人に臨時のお願いをするときは、お金を渡す風習があることを思いだしたのだ。
その考えは正しかったようで、すぐに写本奴隷を手配してくれた。
装丁は、別途、出入りの商人へ依頼する必要があるらしいが、写本自体は無料らしい。
明日には出来上がるという話だったので、また来る事を言い残し、カガミの元へと戻る。
「身分を考えよ」
「大学では、同位だ!」
帰り道、ファンクラブ同士の諍いを目にした。
熱狂的なファンは怖いな。
そして、選挙運動は激しさを増しているらしい。
オレも双方の主張と顔が描かれたうちわを受け取った。カガミに渡して欲しいらしい。
戻ったら戻ったで、忙しい。
植物学、魔法生物学基礎、気象学と魔法の関係性についての講義……講義のオンパレードだ。本当に、カガミは勉強大好きだよな。
でも、講義はだるい。
講義より、お使いの方が気楽だ。お使い仕事をカガミにおねだりしよう。
「どうだった」
「面白かったですよ。そうそう、明日はもう少し早く家を出たいと思います」
帰り道、もっと早く家を出るという事をカガミが言い出した。
「勘弁してくれ。朝早いよ」
「早いって言っても、体感……7時起きくらいで、だいたい皆が起きる頃じゃん。むしろリーダは早起きしようよ」
オレの抗議は、ミズキの気楽な言葉によって却下される。
なんて事だ。
このままでは、身が持たない。
ロバが使えれば、午後から学校へ行くという手も使えたが、残念ながらできない。
先日、ロバを大学に忘れたまま帰ってからアイツはご機嫌ななめなのだ。
というわけで、オレはミズキと一緒に学校へ行かねばならない。
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