召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十九章 理想郷と汚れた世界

閑話 脅威

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 ヨラン王国、王城パルテトーラにある庭の1つに、一隻の飛行船が泊まっていた。
 小さいながらも見事な船に、掲げられたのはイフェメト帝国の紋章。
 その船から地面へと伸びるランプウェイの端に、1人の老婆が姿を見せた。
 とても大柄で、白い髪をした老婆。銀の鎖で装飾のある騎士服を身に纏った老婆は、穏やかな顔とは裏腹に、そのたたずまいは歴戦の勇士であることを感じさせる。
 彼女はランプウェイの板をギシリと鳴らせつつ降りていく。

「ほれほれ、背筋がのばさんと」

 そして、陸地に下りながら、船の側にならぶ白い鎧姿の一団に向かって声をあげた。

「はっ」

 間髪入れず、白い鎧姿達が答える。

「鎧が重いかい? お前達は、魔法に頼りすぎだ。だから、助力がなければ鎧に着られる。鎧は着るものだ。ちがうかい?」
「はいっ」
「返事だけは立派だねぇ……おや」

 何かを言いかけた老婆は、城の方を見て軽く手をあげた。
 その視線の先には、船に近づく別の一団がいた。
 先頭を歩くのは、豪華でスソの長いローブを引きずって歩く少女。深緑の長髪をたなびかせ、年の頃10才にも満たない少女だった。

「けっ」

 少女は外見に似合わない鋭い目で老婆を睨み悪態をついた。

「驚いたかい?」

 少女の悪態を受けて、老婆が笑う。

「あーあー……驚いたよ。ルッカイア。隠居して、長く聞かなかったから死んだと思っていた」
「ホホホ。私だって驚いているよ。陛下からたっての願いで現役復帰さ。これからは、ファラハ様にお仕えする日々さ」

 ルッカイアと呼ばれた老婆は、少女に近づき頭を撫でた。そして、言葉を続ける。

「あんたと一緒にね」
「やめろ。で、そいつらは?」

 いらだった様子で少女は、頭に乗せられた手を払いつつ、質問する。

「あぁ、ついでだ。ひよっこ白薔薇共の教育って、おまけ付きなのさ。で、タハミネ……あんたの案配は?」
「順調だ。ファラハ様の望み通り、ギリアへの滞在は許された。他の要望も、全て通った。先行して進めている事案は、加速できよう」

 タハミネと呼ばれた少女は、老婆を見ること無く答えた。
 そして、ランプウェイを登り船へと入る。

「先行?」

 船に入るタハミネに、ルッカイアも続く。そして、横に並び歩き質問した。そのまま船内を歩きながら、会話は続く。

「連れていく者達の家だ。ギリアに、十分な数を手配した。下働き、出入りの商人。他にもいろいろ、移さなけりゃいけないものは多い。一時の滞在とはいえ姫様に恥を掻かせるわけにはいかぬ」
「それは上々、ファラハ様も喜ぶだろうね。そうそう。あんたに報告があるよ。菓子の都コルヌートセルが半壊の目にあった」
「南方の国々ではなく、コルヌートセル? 何があった?」
「コルヌートセルに黄金に輝く島が出現したそうだ。貴族街を破壊しつつ空を飛び、やがて見えなくなったとさ」
「被害は……酷いのか?」
「コルヌートセルの貴族街が全部。あとは職人街が、半分近くやられた。ついでに、黄金の呪いにかかった者が多数でたらしい」
「浮上した後は?」
「方角から見て、ヨラン王国に向かっていると。つまり、案外近くにあるかもしれないねぇ。黄金に輝く島」
「また、ヨラン王国か。南方の国を破壊した巨大なガーゴイルといい、なんでもかんでもヨラン王国だ」
「あと、陛下からあんたにお言葉だ。黄金に輝く島の生死は追えるってね。それにしても何かが……ヨラン王国にあるのかもしれんね」
「ちっ、気楽な。やはり落ち着くまで、姫様をヨラン王国に……いや、もしや、これも奴らが目的か」
「ノアサリーナ達かい? ホホホ、もしそうなら、とんでもないことだ。町を破壊どころか、国を滅ぼすようなものに好かれるなんて、おっそろしいね」

 そう言って笑うルッカイアを見上げたタハミネは舌打ちし、口を開く。

「だから、先ほどからの他人事の態度が気楽だというのだ。もし、姫様が巻き込まれでもしたら」
「心配性だね。あんたは、相変わらずだ」

 歩きながらの会話は、タハミネの自室についても続いた。
 それからルッカイアなど居ないかのように、ベッドへと飛び込んだ。

「ハン。姫様の身を思えば、脅威からは距離を置くべきだ。ただでさえ、姫様は無茶をなさるんだ。配下が神経質でなくてどうする」

 ゴロリと仰向けになったタハミネが、独り言のように言った。

「面倒ごとは、あんたにまかせるよ。あたしは、ファラハ様を抱えて、剣を振るって立ち向かうだけさ」

 そんなタハミネに、ルッカイアはケラケラと笑い答えた。
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