召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十九章 理想郷と汚れた世界

はちがつみっか

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 ノアとカガミが魔法を使う。
 蝶々の数が増える。
 だけれど、何百匹もいる犬たちをかいくぐれない。

「こっちっスよね?」

 プレインが一方を指さし、ミズキが頷いた。
 大量の蝶々は同じ方向へ飛ぶ。だから、方角くらいはわかる。
 しかし、誤差が大きい。

「手分けして突っ込む?」

 作り物のような金色の犬を蹴り飛ばしながら、ミズキが提案する。
 犬は数こそ多いが、強くは無い。

「もう少し絞り込まないと……」

 それに対し、カガミがダメだしした。
 これはカガミに同意だ。
 距離がわからない。
 起点が同じでも、進む方向が違えば、たどり着く場所はかわる。
 遠くへ進めば進むほど、その差は広がる。
 あと少し……もう少し、はっきりとした方角が分からないと、当てずっぽうも難しい。
 最悪、一か八かで、全員でバラバラになって突っ込むか。
 少しは確率が上がるだろう。

「蝶々が……」

 プレインが唖然とした声をあげる。
 何に驚いているのかオレにも分かる。
 ノアが呼び出す蝶々がブワッと急に増えたのだ。
 数え切れない数の蝶々が辺り一面に飛ぶ。
 ところが、そんな蝶々はまったくバラバラに飛ぶ。
 方角などお構いなしだ。
 コントロール出来ていない。

「ノアちゃん、落ち着いて」

 カガミが優しくノアに語りかける。

「でも、それだと……時間が無くて、サムソンお兄ちゃんに、ピッキーが……」

 その言葉に、地面に描いた魔法陣から目を離さずにノアは首を振る。
 地面に両手を突いたままノアがカガミに答える。

『ガリリ……』

 ノアの握った両手の指が、地面に擦れて血ににじむ。
 よく見ると、ノアの目は充血して真っ赤だ。
 酷く無理をしていることが見て取れた。

『ブブブ』

 羽音が聞こえる。
 蝶々の群れから、羽音が聞こえる。
 羽音?
 ノアが魔力を送り続ける魔法陣から、出現する蝶々。
 大量に生まれる蝶々から、違うものが飛び出る。

「急がないと。でも、私の蝶々は上手く飛ばなくて……だから、上手く飛ばなくても助けてくれて……」

 ノアが誰へとなく語る。

「蜂?」

 カガミが声をあげる。
 蜂。あの羽音は、蝶々の代わりに出現した蜂か。

「カガミお姉ちゃんの誕生日は、8月3日で……それはハチミツの日なんだ。それで、ピッキーが教えてくれだんだ。ハチミツは蜜蜂が花の蜜を集めて作るんだって」

 ノアが片手を滑らせ、体勢を崩した。
 それでも、まだ魔力を流しつつ、言葉を続ける。

「それで、カガミお姉ちゃんが言ったんだ。蜜蜂はダンスを踊るって……ダンスを踊って、花の場所を教えるって……。だから、だから、ダンスでノイタイエルの……」

 フラフラと体をフラつかせながら、ノアが一方を指さす。
 その方向におびただしい蜂が舞っていた。
 それぞれが、自分の役目を持っているように。
 同じ場所をクルクルと円を描くように舞っていた。
 幾重にも蜂が作る円が連なっている。

「あっちに、きっと……」

 そう言ってノアはパタリと倒れた。
 ノアが指さしたのは、クルクル回る蜂の群れがつくる円の中心。
 円の中心を通して、遙か遠くにある細い黄金の塔が見える。

「ノアちゃん!」
「ノアノア」

 ミズキが側に駆け寄る。そして、手を差し伸べようとして、サッと手を引っ込めた。
 ノアが辛そうでも、手を差し伸べられない。触れてしまうと、黄金となってしまう。

「どうしよう……リーダ」

 涙目のミズキがオレを見る。
 ノアが残したヒントだ。方向は間違い無いはずだ。

「ハロルド! ミズキ! 黄金の塔だ! 突っ込め!」

 だから、ミズキとハロルドに、そう言った。
 犬の群れは、引き受ける。
 それで、終わりだ。
 ノイタイエルは2人のどちらかが破壊して、飛行島に乗って逃げる。
 全速力で。
 そして、呪いが解ければ、エリクサーでサムソンの傷を癒やす。

「なんて卑怯な! なんて姑息な! 図々しく楽ばかり考えるなんてあんまりでございます」

 だが、ウ・ビはオレ達の行動が気にくわないらしい。
 甲高い声で、喚いた。何が、卑怯で姑息だ。それはお前だろう。

「あぁ。もういいです。すぐに……すぐに! 絶望してしまいなさぁい!」

 そう叫び、奴は手を叩いた。

『パァン』

 手を叩く音が、異常なほど大きな音となって響いた。
 一気に蒸し暑さが増す。
 暑さはどんどん酷くなり、汗が噴き出る。まるでサウナだ。

「兄ちゃん!」

 直後、トッキーの悲鳴が聞こえた。
 先ほどまで輝いていたピッキーの色がくすむ。
 腐っている?
 自分の手を見ると、急に腐り始めていた。
 どうして?
 いや。あいつか! ウ・ビだ。
 あいつが手を叩いて……叩いて。
 辺りが暑くなって、暑くなって……。
 暑く……そうか温度だ。
 腐る早さは、温度に影響されるのか。
 いや……今はどうでもいいか。
 大事なのは、時間がないということだ。
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