召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
612 / 830
第二十九章 理想郷と汚れた世界

閑話 血塗られた聖女(レイネアンナ視点)

しおりを挟む
「なんたること! なんたることで!」

 私の前で女が叫んでいる

「頭がいかれている。狂っている。輝き、敬愛する、偉大な王の真似事まで! ラルトリッシに、ラルトリッシに囁くなんて! 不敬な!」

 叫び続けている。
 長く艶やかな銀の髪をした女が。
 見事に仕立てた深い青の服を来た女が。

「次、次、そう……次に、いや、早急にジ・マと一緒に討源郷を使うのがいいでしょう」

 叫び続ける彼女は私に気づいていない。
 そして私はそのまま背後から彼女の胸を一突きにした。

「え?」

 彼女は驚き振り向いた。

「誰……お前?」

 そして、呆然とした顔で彼女は私を見つめていた。

「わたくしが、何処の誰かなど、どうでもいいでしょう? ウ・ビとか言いましたね。貴方が居ると、リーダ様達にとって邪魔となります。故に、狩らせて……頂きました」
「どう……いう……こと?」
「狩る者であれば、狩られる覚悟はあっても当然では?」
「なぜ?」
「黄金郷を捨て、この地に舞い戻り、叫びましたよね? それで、場所がわかりました。迂闊な貴方のお陰です。ありがとう」

 自分でも驚くほど冷たい声で目の女ウ・ビに言い放った。
 続いて、小さく声にならないつぶやきを口にして、ほのかな光を放つ扉を作り出す。
 こうすれば、この地にて他者を殺せる。
 なぜだかわからない。それでも、こうすればいいと知っていた。
 闇夜の空間。床は格子状に淡く光る不思議な場所。
 ここがどこだかわからず、どうやって来たのかもわからない場所。
 ずっと前の事、私は錆びた鳥かごの中に閉じ込められていた。
 闇夜の空から垂れ下がる茨に絡まった鳥かごの中に……私はいた。
 ノアを見捨てた私に対する罰……そう、理解した。

「あぁ」

 嘆きの声をもらし、私は鳥かごの柵に背を委ねて目をつぶり息を吐いた。
 何も見たくないと、目を閉じた私に見せつけられたのは、暗い暗い現実だった。
 ノアはあの暗い地下室でずっと立っていた。
 魔法陣はキラキラと輝き、それを見つめるノアは静かに立っていた。

「ノア」

 私は思わず声を上げた。でも、その声は届かない。
 思わず目を開くと、そこはまた暗闇に浮かぶ鳥かごの中だった。
 しばらくして、目を閉じて見える光景は、誰かの目を通じて見ている風景だと気がついた。

「では、ノアサリーナ。その輝く魔法陣に手をついて、願いを口にしてみてはいかが?」

 その目の持ち主は、ノアにそう囁いていた。
 目に涙を貯めたノアが、言われるがまま魔法陣に両手をついた。

「ダメ!」

 私がそう叫ぶも、その声はノアには届かない。
 その先を見たくなくて、私は目を大きく見開き、そしてうずくまった。
 私は罰を受けているのだと思った。自分の……子殺しの罰を。
 一人残されたノアが辛い死を迎えるまで、見届けると言う罰を。
 もしかしたら……。
 これは罰なのだ。受けなくては。
 そう考えて私は再び目を閉じた。
 目を閉じた私が見たのは、見知らぬ男女が言い争う姿だった。
 何が起こったのか分からない。

「ノアは? ノアはどうしたの?」

 私はそう呟き首を振るが、視界は動かない。
 もし、ノアが、すでに死んでいたのなら……。
 私は罰からも逃げた事に恐怖する。
 それは、その時だった。
 リーダが現れたのはその時だった。
 彼は不思議な人だった。
 言い争っていた男女が、彼の言葉で楽しく笑い出した。
 続けて、部屋の片隅で座り込んでいたノアに彼は声をかけて微笑んだ。
 何が起こっているのかわからなかった。
 そしてその先の流れも……。
 奇跡は、止めどなく続いた。
 ノアはとても楽しそうに笑っていた。
 その姿だけで、目を開いたときに見える真っ暗な闇の空間すら、希望に満ちて見えた。
 やがて私の視界は、ロンロという不思議な存在を通して見ている光景だと分かった。
 加えて、リーダ達が、遠くの世界から来た人だったということがわかった。
 私とノアにとっての希望に満ちた世界は、彼らが歩むはずだった素晴らしい未来の犠牲があって成り立つものだと知った。
 奇跡はそれだけでなかった。
 彼らは私にも会いに来てくれた。
 リーダの声で、鳥かごから抜け出す勇気をもらった。
 ミズキ様は、鳥かごの鍵をカチャリと開けて外へと誘ってくれた。
 サムソン様は、何もないこの世界にも、法則があるのだと示唆してくれた。
 プレイン様は、暗闇にも希望があると教えてくれた。
 カガミ様は、私と一緒に泣いてくれた。
 彼らは、ただひたすらに優しかった。

 だから。

 だから。
 私は、ノアに姿を見せられなくても、心だけでも彼らと一緒に……。
 そう考えて動く。
 ノアや、皆の、邪魔になるものを消す。
 だから、今は、目の前のウ・ビを炎で包み確実に殺す。
 ノアやリーダ達の為に。
 あともう1人……彼女も始末しなくては。
 それは、ウ・ビの横に眠る女性に、視線を移した直後だった。

『ドシュ』

 私の胸元を貫く音がした。

「狩る者であれば、狩られる覚悟はあっても当然では……だったかな?」

 背後から、声が聞こえた。
 聞いたことのない、美しく澄んだ男の声。

 振り向いた私が見たのは、1人の男だった。
 水色の髪をした男。
 目は髪で隠れていたが、口元の形から微笑んでいる事がわかった。
 髪の間からチラリと見えた瞳は、私を見ていた。

「名乗っておこうか。私はセ・スという。王妃イ・アを殺害したのは、其方で間違いないようだ。犠牲は大きく、身は引き裂かれそうだが……始末できて、良かった」

 抑揚のない声に、あざ笑うような冷たさを感じる。

『カラン』

 それと同時、乾いた音がした。
 私の持っていた剣が地面に落ちた音だ。
 力が抜けていく感覚がないのに、力は抜けていく。
 そういえば、先ほど、胸を貫かれた時にも痛みはなかった。

「この地にて、王たる血脈の我らが許さぬ存在……かような其方が魔法を使い、他者を害したのは驚くべき事象だ」

 私を見つめる男……セ・スは静かに語る。
 声は抑揚のないままだが、僅か見える口元はずっと笑っていた。

「同胞……囮に?」

 頭に浮かんだ考えをセ・スに問いただす。
 彼は危険だ。そう私の心が叫ぶように訴える。
 だけれど、私には何も出来ない。
 力は抜け、床にひれ伏した私からは、とめどなく血が流れた。
 血はジワジワと広がり、円を描く。

「死の無い世界だ。理想郷を持ち出した、その罰としては釣り合う」

 違う。ウ・ビが死んでいる事を、彼は知っている。
 それなのに、知らない振りをしている。笑いながら、知らない振りを楽しんでいる。

「嘘……。貴方は知っている。笑っている」

 なんとかしなくては。
 力を振り絞り、私は片手を持ち上げる。

『パシャン』

 そして床を叩いた。
 血が掌に当たり、水音がした。
 何故かはしらないが、私は知っている。
 遠く離れた場所に逃げるすべを。
 だから、実行した。

「……」

 しばらく、何も起こらなかった。
 やがて、微かに声が聞こえるようになった。
 意識は薄れ、感覚も無い。
 だけど、声だけが聞こえた。
 私は逃げる事ができたのか、それすらわからない。

「……それは、血塗られた聖女……名はレイネアンナだ」

 やがて声の主はセ・スだと気がついた。

「そうですか。聖女……計画の道具ですか」

 それから、もう一人……知らない人の声。

「奇妙にして不気味な事だ。名もなき血塗られた聖女に、名が有り、この地にいた。その身体はアストラル体のごとく実体を感じさせなかった。加え、我らのごとく、この地を自由に動き、扉さえ作ってみせた」
「王はその事を……」
「どれ一つとして聞いたことがない。まず、血塗られた聖女は、不完全な世界にて踊る者だ。ここに在る必要はない。そこから奇妙でしかない、故に驚き取り逃がしてしまった」
「左様で。それでは、まずは……レイネアンナという大罪人を探しましょう」
「確かに、剣聖ク・トの言う通りだ。もっとも、神たる私が手をくだし……」

 セ・スと、誰かの話し声が聞こえる中、私の意識は消えていく。
 何も見えず、真っ暗な中で……やがて、話し声も聞こえなくなった。
 代わりに私を迎えたのは、とても心地良い静寂だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

処理中です...