召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十九章 理想郷と汚れた世界

れんせん

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 すぐ側には、崩れ、破片となって地上に落下する黄金の町。
 頭上には、まるでコンクリート製の灰色をした超巨大なガーゴイル。
 それは頭だけでオレ達の飛行島の倍はあって、海老反りになった巨体。
 そして巨体から伸びる両手両足で、巨大な円盤を支え飛んでいた。
 金属製の巨大な円盤には、沢山の歯車。まるでむき出しの機械式時計のように、歯車が沢山まわる円盤だ。

『ゴゴゴゴ……』

 低い音をたてて唸るように、ガーゴイルの口が開いた。
 そして、中から鉄製の舌が伸びる。
 舌の上にはメイド服を着た女性が乗っていた。
 強風に、銀色の髪と服がたなびいている。そんな中、静かにオレ達を見下ろす彼女は、ウ・ビのように、宝石を全身に纏っていた。
 ウ・ビの仲間か……。
 彼女は、両手をゆっくりと挙げた後、バッと一気に振り下ろす。
 次の瞬間、巨大ガーゴイルの持った歯車の付近に、光が瞬いた。
 続いて銀色の何かが、どこからともなく降ってくる。
 それは、飛行島の端にあたった。

『ドゴォン』

 けたたましい打撃音を響かせ、飛行島が揺れる。

「揺れる」
「待って、まだ来る!」

 上?
 顔を上げた瞬間、すぐ真上に大きな円柱が見えた。大量の銀色をした円柱。ドラム缶くらいの大きさの円柱だ。

「カボゥ!」

 カーバンクルの鳴く声がきこえた。
 続き、薄緑の結界が張られる。
 結界は、円柱をはじき飛ばした。

『ガン、ガン、ガン』

 金属の扉に何かが当たった時のような鈍い音が響く。
 同じような円柱が3本、結界にぶつかった音だ。
 直後、結界が破裂するように消えた。

「カボッ」

 すぐにカーバンクルは低く唸り、結界を張り直す。

『ガン……ガンガン』

 さらに、爆撃のような円柱の攻撃が続く。
 何度かに一回、カーバンクルの結界は壊れてしまう。
 すぐにカーバンクルが結界を張り直すので、助かってはいるが、いつまで持つかわからない。

「カガミ、壁を作る魔法で!」
「試したけど、一発も防げない!」
「サムソン、飛行島で逃げられないか?」
「無理だ。操縦席が壊されている。機動力が生かせない」

『ガガガ……ガンガン……』

 円柱の落下はさらに激しくなった。

『ドォン』

 大きな爆発音が鳴り、飛行島が大きくゆれる。
 ついに抑えきれなかった円柱が飛行島にぶつかったのだ。
 それは、飛行島の地面をゴロゴロと転がり、落下した。
 一瞬だけ見えたそれは、トーテムポールのように、顔がいくつも彫り込んである物だった。
 円柱は飛行島の一部を破壊して、その破片と共に落下する。

『ドォン!』

 そして、2本目が飛行島に突き刺さる。

「これ、落ちてない?」

 ミズキが叫ぶ。
 確かに、浮遊感がある。
 まるで、降りるエレベーターに乗っている時のように、ささやかな浮遊感だ。
 それに、側落ちる黄金の町が、ゆっくり落ちているように見える。
 つまり飛行島が……オレ達が落ちている。飛行島に異常が発生したのか。

「サムソン?」
「ノイタイエルは生きているが、着陸モードに入ってる」
「どうして?」
「ダメージを受けすぎたか……つぅか、分からん」

 浮遊感はさらに増し、感覚で落下速度があがっていることに気がつく。
 部屋に響き渡る風の音に、墜落という言葉が頭をよぎる。

「上! ヤバい!」

 危険な状況の中、ミズキが真上を見て叫んだ。
 巨大ガーゴイルが、円盤から両手を離して、握りこぶしを作っていた。
 ゆらりゆらりと、ゆっくりガーゴイルの腕が動く。
 あのポーズは、まさか……。

「ボク達を殴りつけるつもりっスよ」

 やっぱり、殴るための予備動作だよな。

「地上までは?」

 あと僅かだったら、飛び降りる選択肢がある。
 だけど、どうやって安全に飛び降りるか。それが問題だ。

「あと少し……だと思います。飛び降りますか?」
「俺に考えがある、全員、海亀に乗れ!」

 サムソンが、海亀を指さして大声をあげた。
 他にアイデアは無い。サムソンを信じて、皆が海亀に飛び乗る。茶釜も、ロバも、皆が。

「飛翔の魔導具を!」

 皆が飛び乗った事を確認したサムソンが、さらに指示を飛ばした。
 彼だけは、海亀の足下に立ったままだ。
 ミズキが、飛翔の魔導具であるシルクハットを海亀の頭に被せて固定する。

「次は?」
「後は任せろ!」
「時間が無い!」

 任せろと叫ぶサムソンに、ミズキが上を見上げて叫ぶ。
 速度をあげて、振り下ろされるガーゴイルの右手が見えた。
 ところが、突然、ガーゴイルの右手が……いや、ガーゴイルが遠く離れる。
 違う! 離れたのは、ガーゴイルじゃない。
 オレ達の方だ。飛行島が凄いスピードで離れていくのが見えた。
 当の飛行島は、いや飛行島にあるオレ達の家は、ガーゴイルが殴りつけた一撃で押しつぶされていた。

「何があった?」
「サムソン先輩が、ロケットみたいに」

 プレインが、海亀の甲羅に捕まっているサムソンを指さす。
 彼は、魔法の鎧で身を包んでいたが、その足が赤い。
 何をやったのかを見ていなかったが、サムソンが海亀を抱えて飛行島から飛んだのだ。
 ところが飛び続けることは出来ないようだ。
 海亀の甲羅に捕まっていたサムソンは、魔力がつきたようで、魔法を解除する。
 あわや、落下かと思った彼を引き上げたのはロバだった。
 甲羅の端へと駆け寄り、首をグッと伸ばしてサムソンの背中を噛んだ。
 それからグイッと引き上げてくれた。
 一方、海亀は高度を落としていく。
 さらに、ガーゴイルはこちらへと飛んできた。
 バラバラと、円柱をばらまきながら。

「伏せて! もうすぐ地上!」

 不味い!
 反射的に、墜落を想像し、皆が伏せた。
 ミズキがピッキー達に覆い被さるように動いた。

『ドォン、ドォン……』

 辺り一面に、爆発音に似た音、そして水音が鳴り響く。
 あちこちで砂煙と、水柱があがる。
 小屋の窓が割れて破片が散らばる。
 木にぶつかったようで、枝や葉が部屋に飛び込んでくる。
 そして、揺れは収まった。
 砂煙が酷いので、確かな状況はわからないが、窓からの景色で森から街道に出たようだ。


 円柱の攻撃も終わったようだ。
 だが、巨大なガーゴイルは真上にいる。正確な位置を把握できていないのか、広範囲に円柱がどんどんと連続して落ちている。
 直撃はしていないが、時間の問題だろう。

「ウ・ビは? ウ・ビはどこに?」

 ガーゴイルの舌に乗った女性が辺りを見回しながら、囁く声が聞こえた。
 あれだけ遠くにいるのに、まるで耳元で囁くように聞こえた。

「どうする?」

 カガミがオレに問いかけてきた。
 あのガーゴイルに、勝てる方法を思いつかない。
 タイマーネタをぶち込むか?
 簡単に倒せそうな気がしない。
 しかも、タイマーネタを撃っている間に、反撃で死にそうだ。

「逃げよう」
「海亀で……ですか?」
「あぁ。海亀に乗って逃げる。海亀は茶釜に引いてもらえばいい。逃げ切れないようだったら、誰かが囮になる」
「バウバウ」
「そうだな。ハロルドもいる……今のハロルドだったら、オレを乗せて走れそうだ。2人で別行動しつつ、タイマーネタで注意を引く」

 オレの提案に、巨大な狼となったハロルドは、上下に大きく首を振った。
 賛成してくれるようだ。

『シューシュー』

 オレ達が行動に移そうとしたとき、あたりから変な音が聞こえだした。
 ガスが漏れるような、不吉な音だ。

「あれ……トーテムポールが……」
「え? プレイ……ダメ、チッキー達はマスクを」
「カガミ?」
「ほら、前の金色をしたトーテムポール。あれと同じだ。毒をまき散らしてる」

 砂煙がはれて、地面の様子があらわになったことで気がつく。
 辺り一面に、大量の銀色をしたトーテムポールがあった。そして、それらが一斉に口から金に輝く粉を吐いていた。
 フェズルードで見た、金色のトーテムポールのように。

「ゴフッ……ゴフゥ」

 海亀に張った板の端に立っていたハロルドが咳き込み、血を吐く。

「ハロルド!」

 ノアがかけていき、背を撫でる。
 そして、ドサッという音がして、ピッキー達も倒れた。

「マスクが効いていない?」

 カガミが悲鳴に似た声をあげる。
 マスクで、防げない?
 それに、前回は平気だったハロルドまで?

「ヌネフ! 風で吹き飛ばせ」
「ダメです。数が多くて飛ばしきれないのです」

 ヌネフを呼ぶが、即座に不可能という答えが戻ってくる。
 そういえば、いつの間にか強風が吹き荒れている。
 精霊の力でもダメ。
 確かに、辺りを取り囲むトーテムポールの数は多い。
 不味い。不味い。

「とりあえず、水だ!」

 なんとか対策をひねりだす。
 先ほど、水音がした。
 ピッキー達に、エリクサーを飲ませて、水に飛び込みしのいでもらう。
 その隙に、あたりを取り囲む金の粉がない場所まで泳いで……。
 その先が思いつかないが、死ぬよりマシだ。

 ミズキが即座に、茶釜の背にピッキー達を乗せてオレの指さす方へ駆けて行く。
 ハロルドも、茶釜の後を追うように、ゆらゆらと歩く。
 ところが、理解が追いつかない状況は連鎖するようだ。

『ザバァン』

 突如、波打つ音が聞こえた。
 海岸で波が打ち付けたときのような音。場違いな音。
 それと同時、巨大な何かが地面から飛び出した。
 その何かは、目の前にいたピッキー達、そしてハロルド……それにミズキを飲み込み動きをとめた。

「あれって、モグラ……ゴーレムですよね?」

 困惑した表情でカガミが言った。
 言いたい事はわかる。

『ガゴォン』

 鉄扉が開くような音を立て、モグラ型ゴーレムの口が開く。
 思った通りだ。
 開いた口から姿を見せたのは、1人の男だった。
 もじゃもじゃ頭に、もじゃもじゃな髭。巨体をゆらしのっそり出てきた男。
 それは昔、フェズルードで出会った伝説の呪い子……ゲオルニクスだった。
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