召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十章 過去は今に絡まって

でこい

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「揺れた?」
「スカポディーロに、何かがぶつかっただなァ」

 最初は気楽な物だった。
 ところが揺れが何度も続くと、そうはいかない。

「キッ……キキッ」

 小さな揺れが断続的に続く中、とんがり帽子を被ったネズミが近づいていた。
 ネズミはゲオルニクスの身体によじ登り、彼の肩にのって耳元で鳴き続けた。

「どうかしたのか?」
「見てもらうのが早いだなァ」

 オレの質問に、ゲオルニクスは答えると同時に地面の指さしクルクルと回した。
 すると、フワリと大きな板が空中に出現した。
 白い板に、黒い模様があって、赤い円がまばらに描いてある板だ。
 いや、黒い模様も赤い円もゆっくりと動いている。

「これは、周辺の地図?」

 それを見てサムソンが言った。
 地図か。どことなくギリアの屋敷にあるものと似ている。

「よく分かっただなァ。中央の青い円がスカポディーロだ。赤は魔力反応だなァ。地中は光を通さないから、手がかりが魔力反応だけだよ」
「この黒い模様は?」
「それは、地下空洞だ。地下には、沢山の空洞があって、水脈で繋がっているだ」

 へぇ、この黒いのが空洞なのか……。
 ポツンポツンと黒い部分があるのではない。周辺の3分の1は黒い。

「地下って、空洞だらけなんだな」
「そうだなァ。でも、上下の差もあるから、空洞を避けながらでも、問題無く地中を進めるだよ」


 ゲオルニクスが言いながら、板に近づいて、小さな円を指さし言葉を続ける。

「それから、この赤いヤツ。これが、地竜だ」
「沢山あるって事は、これ……全部が地竜ということですか?」
「そうだなァ。こんなに沢山を一度に見るのは初めてだ。動きから見て、このでかいのから逃げてるようだァ」

 ゲオルニクスが指を滑らせた先に、巨大な赤い円がある。

「その赤い円は?」
「分からないだ。地竜と同じくらいの大きさだけど、魔力量は相当だなァ。しかも、魔力反応に揺らぎがない……これは、生き物じゃないだよ。一応、ノームが見に行ってるだ」

 生き物ではないか。
 それが地竜を追いかけ回して、逃げる地竜がぶつかったか……。
 地竜って、前にフェズルードで戦ったヤツだよな。
 パッと見、10体は軽くいる。

「地竜は大丈夫でしょうか? そのっ、このスカポディーロがやられるような事は……」
「カガミが心配する必要はないだ。地竜が束になっても、スカポディーロはびくともしないだ」

 そういえば、ゲオルニクスは地竜を倒して食べていたのだっけ。
 まるで魚を釣って食べているような感じで言っていた。
 多分、彼から見る地竜は雑魚なのだろう。
 地上で使った電撃も凄かったし、相当強いよな。

「てやんでぇ!」

 そこにポコリと地面からノームが頭をのぞかせた。
 すぐにゲオルニクスが近づき、しゃがみ込む。
 まるで何かを話し込むように、ゲオルニクスが頷く。

「緑色の巨石……形状からノイタイエルだなァ」

 しばらくして立ち上がったゲオルニクスが言った。
 ノイタイエル……飛行島を浮かせる魔導具か。
 緑色をした円柱だ。

「ノイタイエルがなんで地面を進んでるんスか?」
「モルススのゴミクズが張り付いてるだよ。あれは、そういう機能があるだよ」
「モルススの?」
「うーん。討源郷にいた奴に似てるってことらしいだ」

 討源郷っていえば、巨大ガーゴイルか。そこにいたメイド姿の人か。
 それにしても機能とか機械みたいだな。

「標的は……やはり、私達、ですよね?」

 カガミが嫌そうに言う。
 なんとなくは気がついていたけれど、やっぱり敵だよな。

「なになに、揺れの原因わかった?」

 そこに、茶釜に乗ったミズキが近づいてきた。
 相変わらず気楽なものだ。

「敵だって」
「やばいじゃん。ここって、地中だけどさ、どうやって戦うの?」
「大地ごと破壊するか、体当たりの勝負だなァ。スカポディーロは、電撃を纏うけど……」
「けど?」
「ノイタイエルが追ってきているとなると、体当たりが目的だろう」

 地図を睨んだままヒンヒトルテが断言した。

「体当たりっスか?」
「ファイナルアタック現象を利用するつもりだ。魔導具を暴走させ、超威力を発生させる。討源郷に使用していたノイタイエルであれば、相当な威力になるはずだ」
「地図に映る円の大きさからみて……あれが暴走するとなるとスカポディーロじゃ持たないだよ。地中にいるのが仇になっただァ」

 相手の狙いは体当たり。もし当たれば終わりって事か。
 鬼ごっこか。死の鬼ごっこ……嫌な鬼ごっこだな。

「ゲオルニクス氏。コイツ……スピードは上げられないのか?」
「これで精一杯だなァ」
「だったら、防御力を……」
「あれ? 方向が変わったスね」

 話をしている途中、直線で向かってきていた赤い円がフラフラと進む方向を変えた。
 標的を変えたのかと喜んだのも束の間、すぐに方向を修正して、再びこちらに接近する。

「チッ。諦めたのかと思ったのに」

 ミズキが、舌打ちして首をふる。

「別の赤い円……地竜っスよね。なんで地竜を狙ったんだろ」

 プレインの言う通りだ、なんで地竜を狙った?
 地中は光を通さないから、何か別の手段でオレ達の位置を探っている?

「潜水艦みたいに、音……でしょうか?」
「そういえば、地竜は振動を感じていたっぽいよ」
「俺達と一緒で魔力反応かもしれない……でも、どちらにしろ精度が高くないんだろう。だから、俺達を見失った」

 ずっとオレ達の位置を見失ってくれれば良かったんだけれどな。
 見失って、明後日の方向に進んでくれるのが理想だ。
 いや、まてよ。

「囮を作れないかな?」

 ちょっとした思いつきを口にする。
 カガミの潜水艦みたいな……というセリフで思いついたのだ。

「え? 囮って?」
「なるほど。ミズキ氏、リーダが言いたいのはデコイのことだと思うぞ」
「デコイって? ますますわからないけど……カガミわかる?」
「なんとなく、映画とかでありますよね。音を出す、ミサイルみたいなの」
「そうそう。魔法で、囮を作って、そっちに向かってもらえないかなって。ほら、潜水艦が出てくる映画とかであるやつ」

 相手が何を手がかりに、位置を探っているのかは断言できない。
 それでも、試す価値はあると思う。

「丁度良いものがあるぞ」

 サムソンが腰のポケットから何かを取り出した。
 取り出して、しばらくすると、その何かはゆっくりと大きくなる。

「サイリュームの魔導具……ですか?」
「そうだ。でも、これはバージョンアップ版なんだ。音楽が鳴る。それから……」

 そう言って、サムソンが再びポケットから何かを取り出す。
 さきほどと同じように、ゆっくりと大きくなった、それは箱だった。
 一辺30cm程度の正方形をした木製の箱。

「これは、スピーカーの魔導具だ。選挙活動のために、取り回しが簡単になるように、改良していて良かった」
「選挙……」
「屋外で使えるようにボリュームもかなり大きい。音の正体は振動だ。だから、この2つを使えば、それだけで音と振動のデコイが作れる」

 新しいスピーカーの魔導具は、からっぽの箱に入れたものが鳴らす音を大きくするらしい。
 サムソンが、説明しながら、準備する。

『ドンッ! ドド!』

 そしてサムソンが箱の扉を閉めた直後、大音量で太鼓を叩く音が鳴った。
 スピーカーの魔導具は扉が閉まると作動するらしい。サムソンが箱の扉を開けたら音が小さくなった。

「それは、一体?」
「これを囮に、追いかけてくるノイタイエルを釣るっスよ」

 大音量が鳴ったとことで、地図を凝視していたヒンヒトルテとゲオルニクスが、こちらに視線を移し近づいてきた。

「使えるのか?」

 ヒンヒトルテがまじまじと箱を眺めて、それからオレを見た。

「さぁ。だけど、相手が音か振動を頼りにオレ達を探っていると仮定して、試してみる」
「なるほど。失敗しても、囮が失われるだけか……考えたものだ。もしや貴方達は、地中の戦いを経験したことがあるのか?」
「さすがに無いよ」

 映画やアニメの知識と言っても説明しにくいしな。
 案外、異世界ではそういったアニメやら映画の知識が役に立つ気がする。
 もちろんマンガも。

「それでも、よく考えつくだよ。その箱をどっかやれば、ノイタイエルはそっちを追いかけるってわけか?」

 ゲオルニクスに首をふり肯定する。
 彼は、ニカリと笑うと箱を閉めた。
 再び大きな音量で、曲が鳴り始める。

「これをどっかにやればいいだな」
「そう言うこと。そういや……どうやって箱を動かすかな」
「それはノームに任せればいいだ。スカポディーロも、今はそうやって動いているだよ」

 そうゲオルニクスが言うと同時、ズブズブと箱が地中に潜っていく。
 地面から響く音楽は、次第に小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
 そして、計画が上手く言ったことも判明する。

「あっ、離れていく」

 地図を見ていたノアが声をあげる。
 同じように揃って地図をみていたオレ達も笑顔になる。
 確かにノアがいうように、ノイタイエルを示す赤い円が遠ざかっていく。
 魔力反応ではなくて、音か振動を頼りにオレ達の居場所を把握していたようだ。
 しばらく眺めていると、地図からノイタイエルを示す赤い円は遠くはなれ消えていった。
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