召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十章 過去は今に絡まって

たべられて、そして

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 フル回転している魔導具を、敵にぶつけて壊し、その時の衝撃で魔導具を暴走させてしまう。
 そんなミズキのアイデア。
 それは盲点とも言える、ちょっとした思いつきだった。

「そう言われれば……」
「それだったら、どの魔導具でもいけるだなァ」
「ミズキお姉ちゃんすごい」
「んなら、これをつかうだ」

 次に暴走させる魔導具も、ゲオルニクスが提供してくれた。
 どこからかノームが持ってきたのは、金属でできた鳥の模型だ。
 模型の首をゲオルニクスがひねると、ゴキリと音を立てて淡く輝きはじめた。

「フクロウ……っスか?」
「そうだよ。クロボイヤスの鉄フクロウだ。んー、もう一個入るだな」

 それから、また別のノームが持ってきた鳩の模型をスピーカーの魔導具へ投げ込む。

「これ以上は入らないぞ。これで準備完了……と」
「念には念を入れて、もう一セット作った方がいいと思います」
「そうだな」
「ノームに、早く戻ってきて欲しいよね」

 方針が決まっているからか、皆がリラックスして饒舌になった。
 だから、しばらくは不安なく過ごせていた。

「あっ。また大きな円がでた」

 ところが、いつまでものんびりムードではいられない。
 地図に再び出現した赤い円。
 ノームの報告を待つことなく、ノイタイエルを破壊できなかったと判明したのだ。

「爆発する餌作戦が効かなかった?」
「どうだろう……。俺はノームの報告を待つべきだと思うぞ」

 サムソンの言葉に頷く。
 デコイが上手くいったので、当然のように機雷も上手くいくかと思っていた。
 それはある意味正しく、機雷は当たったかに見えた。
 ところが無傷って事になると、事情が変わってくる。

「さっきの魔導具と、次のヤツだったらどっちが破壊力が上なんスか?」
「今から、こっちの方を上にするだ」

 プレインの質問に、そう言いながらゲオルニクスが地面に魔法陣を描いていく。
 凄いスピードでよどみなく魔法陣を描いていく。

「早っ」
「自動手記の鉄筆を使っている」

 驚くミズキにヒンヒトルテが言う。
 よく見ると、ゲオルニクスは小さな金属製の棒を持っていた。
 なるほど。魔導具を使って描いているのか。
 それから、ノームが数匹、金属製の輪っかがついた箱を抱えて近づいてきた。
 あれは、前にゲオルニクスが背負っていたヤツだ。

「背負い玉座を使われるのか?」
「今ある中で一番強い魔導具だからなぁ。こいつを縮小する」

 そして、ゲオルニクスは、小さくなった魔導具をグッと握った後、スピーカーの魔導具に投げ込んだ。
 一方、再び出現した赤い円はゆっくりとではあるが動き始めた。しかし、随分と円は小さい。先ほどの10分の1ほどの大きさだ。
 地竜よりもやや大きいくらい。
 もしかしたらダメージを受けているのかもしれない。
 それであれば、体当たりされてもなんとかなりそうだ。
 地図に映った赤い円は、ゆっくりとこちらに近づいていた。
 気がつけば、地竜はほどんどいない。
 沢山いた地竜は、いつの間にか姿を消したようだ。
 赤い円がほとんどない大きな地図。
 そんな中で、ジワジワと近づいてくる赤い円が不気味だ。

「場所がわかるんスかね?」
「今までの動き……もしかしたら音で分かるんじゃ……」

 カガミが困惑したように呟いた。
 デコイへの反応などから、音か振動で探知していたのは疑いようが無い。
 だけど、それなら今の動きは不可解だ。
 確かに近づいては来ているが、だからといってオレ達の場所がわかるような動きでもない。
 フラフラと動いた結果、偶然にも近くにいたといった感じだ。

「スピードが上がっていない、俺達の場所は分かっていないと思うぞ」
「どうするべきであろうか?」
「もう一発いっとく?」
「そうしよう」

 とりあえずミズキに頷き、準備済みの次弾を投入することにした。

「今度は、少し大きな赤い円が見えるね」
「ホントだ。ノアノアの言う通り……結構大きい円だね」
「背負い玉座には、魔力を込めただよ。そうじゃないと、暴走しないだ」

 先ほどとは違い、地図にやや大きめの赤い円が表示され、ゆっくりと相手の赤い円に近づいていく。今度は、自分から当たりにいくわけだから、機雷ではなくて魚雷かな。

「てやんでぇ」
「うん。分かってるだよ」

 そして、一足違いで偵察に行ったノームが戻ってきた。
 ノームの声に、ゲオルニクスが頷いている。

「あっ、止まった」

 ゲオルニクスを除く全員で地図を眺めていると、トッキーが相手の赤い円を指さした。

「どうする?」

 相手が止まったのを見て、サムソンが質問をなげかける。
 先ほどから、こちらの意図を外すような動きが不気味だ。
 魚雷代わりの魔導具は、相手をすり抜け進む。
 爆発しないのかと一瞬だけ気になったが、高低差があるのだろうと納得する。

「どうする?」

 今度は、カガミがオレに質問してきた。
 周りを見渡すと、皆がオレを見ていた。
 地図はというと、動かない赤い円と遠ざかる赤い円。それとあと2……いや3つの赤い円。これは地竜だろう。
 地竜と思われる円は3つとも違う方向へと進行方向を変えたので、気にしなくてもよさそうだ。

「ぶつけてしまおう」

 少しだけ悩んだが、予定通りぶつけることにした。
 ゲオルニクスからノームに頼んでもらう。
 動かない的に当てるのは簡単だったらしい。
 ほどなくして巨大な赤い円が出現して、消えた。
 成功したようだ。
 そう思った。

「てやんでぇ」

 だが、聞き慣れた鳴き声と共に現れたノームの報告で、状況が一変した。

「当たる瞬間……ノイタイエルが地竜に変わって、逆に飲み込んじまったらしいだ」

 困ったような表情で、ゲオルニクスが言う。

「地竜に変わった? ノイタイエルが?」
「そうらしいだ」
「それで魚雷を……飲みこんだ?」

 どういうことだ。いきなり妙な展開になった。
 嫌な予感がしてくる。

「もしや、幻術で偽装したのでは?」

 そこに解答を出したのは、ヒンヒトルテだった。
 幻術で、偽装……。つまり、オレ達とは違うタイプの囮。
 しくじった!
 思い違いをしていた。

「ミツケマシタ……」

 オレが自分の失敗に気がついたと同時、静かな声が辺りに響いた。
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