召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第三十章 過去は今に絡まって

おまえのことはわすれない

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 ゲオルニクスが姿を消したあと、あたりが真っ暗になった。
 ほんの少し前まで、煌々と照りつけていた作り物の太陽は消え、暗闇だけが広がっていた。
 暗闇の中で、誰かが地面をひっかく音と呻き声だけが聞こえる。
 さらに時間がすぎて、じわりと辺りが明るくなった。
 だが、スカポディーロが作る太陽ではない。
 ウィルオーウィスプが明かりを作ったようだ。
 それから、さらに時間が過ぎて、ようやく動けるようになった。

「ゲオルニクスは?」

 最初に動けるようになったミズキがヨロヨロと立ち上がり呟く。

「とりあえず外に出てみよう」

 ミズキの問いに、オレはかろうじて答えた。
 それ以上の事を、誰も答えられない。
 だから、確かめるため外にでることにした。
 外は明るかった。
 上を見上げると視線の遙か先に巨大な穴が開いていて、空が見えた。
 天気は良いようで、日差しが強い。
 どこからか水が流れ込んでいるようで、ドドドという水音が響いていた。
 モグラ型ゴーレムのスカポディーロは、地底湖のなかにある島に乗っかっていた。

「ゲオルニクスは?」

 オレの後をついて出てきたミズキが再び呟いた。

「わからない」

 オレがそう答えた直後だった。
 遠くの方から声が聞こえた。

「しぬー! しぬー!」

 声が聞こえた。
 力が抜けた。
 少し離れた場所で、ゲオルニクスは溺れていた。
 見た感じ、無事だ。死ぬ死ぬと喚いている。

「ゲオルニクスは?」

 そろそろと近づいてきたサムソンに、ゲオルニクスを指さす。

「ゲオルニクスは?」

 後から後から出てきて、同じセリフをいうカガミ達にも、同様に指さす。
 1人で特攻して、その結果がこれか。
 助かった事は助かったけれど……。
 なんだか腹が立ってきた。

「ゲオルニクス。お前のことは忘れない」

 自然と、そんな言葉が口から出た。

「いや。ちょっと助けようよ」

 茶釜にのったミズキが、敬礼するオレに言うと水に飛び込んだ。

「ちょっと、普通に歩けるじゃん」

 すぐにミズキがUターンして戻ってくる。
 前のめりでユラユラ歩くゲオルニクスを後につれて。

「びっくりして気がつかなかった。怖かっただ」

 戻ってきたゲオルニクスはそんなことを言っていた。
 ヘラヘラと笑いながら。
 まったく、無茶しやがって。
 その日は地底湖の島から動かないまま、夜を過ごした。
 地底湖に魚が沢山いたのだ。
 しかも、気絶してプカプカ浮いている魚が沢山。
 ノイタイエルがまき散らした破壊のエネルギーによるショックらしい。
 というわけで、久しぶりのお魚。
 島の端で、ポッカリ空いた穴から見える星空を見上げ、たき火をする。

「良い匂いがしてきたよ」

 たき火の熱で、ジリジリと焼かれた魚を見てノアが言った。
 確かに、串焼きにした魚からの匂いはとてもいい。

「そうだね、ノアノア。でも、まだダメなのです」

 オレが手を伸ばしかけた直後、ミズキが言う。
 早いのか。もう随分焼けたように見えるけれど。

「もうちょい、焼いた方がいいっスね」

 サッとオレが手を引っ込めると同時、プレインもミズキに同調した。

「そうそう遠火でじっくりと。あと少しだと思います」

 皆が口を揃えて早いというなら、早いのだろう。
 シンプルな塩焼きの魚。
 ようやくゴーサインがでて、ありついた魚は格別の美味しさだった。
 ヒンヒトルテが調理魔法で、内臓と骨を取り去ってくれたのが大きい。
 別の料理にしてしまうほかに、下ごしらえだけを魔法ですることも可能だという。
 野菜の皮むきとか、出来ることを一通り教えてもらう。
 食べやすいお魚。
 それから、ちょっとしたお酒。
 静かな空間。辺りに広がる地底湖には、空の星空が反射している。

「洞窟の中で、星空を見上げて魚食べるっていいよね」

 上をボンヤリと眺め、魚を食べる。
 それから、魚に加え、チーズも焼くことにした。
 ノアやチッキーが歌い、トッキーとピッキーが踊る。
 それから、プレインやヒンヒトルテが楽器を演奏し、思いもかけず賑やかな夜になった。
 まるで宴会のような夜は過ぎ、スカポディーロの中で眠る。
 それにしても、今日は、久々に時間に追われた感覚があったな。
 そう思いながら寝たのが悪かったのかもしれない。
 酷い夢を見た。
 出勤すると、納期が3日前に前倒しになったと聞かされる夢だ。

「ユクリンに熱愛報道があったんだ。もうどうしていいか……とても辛いので納期を前倒しにした」

 なぜか、発注者サイドになっていたサムソンからのふざけた一言。

「あぁ、報道の余波だ。大地も怒りに震えている」

 続けて言ったサムソンの言葉。
 それを効いた直後に目が覚めた。地面が微かに揺れていた。

「夢か……」

 ガバリと起き上がり、キョロキョロと辺りをみて夢だと確信し、ホッとする。
 それにしても、何の揺れだろう。
 少し離れた場所に、微かに白い輝きを伴う灰色の立方体があるのを見つけた。
 立方体の手前には人が立っていた。

「起こしてしまったか。すまない」

 近づいて見ると、立っていた人……ヒンヒトルテが振り向いて頭を下げた。
 どうやら昼間にオレ達の作った魔法を試して見たようだ。
 ノイタイエルの自爆からオレ達を守ってくれた魔法だ。

「酷い夢にうなされかけていたところだったので、むしろ助かりました」
「そうか。確かに昼間の件は……夢に見てもしょうがない」
「ところで、魔法が気になりましたか?」
「あぁ。モルススは大型のノイタイエルを作る術に長けていた。討源郷に使っていたのは、一つの完成形といってもいいものだ。それが、自爆して、我々が無傷という事がひどく気になった」

 確かに、あの地下空洞は岩肌に苔の1つも無く、出来たばかりといった印象だった。爆発前はもっと小さい空洞だったのだろう。
 一瞬で、あれだけ巨大な空洞を作り出したノイタイエルの自爆は、すごい破壊力だったに違いない。
 考えてみると、よく急ごしらえの魔法でしのげたものだ。
 もちろんサムソンが作っていたベースがあっての事だが……。

「本当に上手くいって良かったです」
「そう……だな。ところでゲオルニクス様が、あの時、外で何をしたのか知っているのか?」
「外で? 魔法を使ったのでは?」

 反射的に答えた後、疑問が頭に浮かぶ。
 なぜわかりきった事を聞くのだろうか……と。
 魔法を使って、スカポディーロを壁で覆い、ノイタイエルの自爆をしのいだ。そのはずだ。

「確かに魔法を使った。だが、使った魔法の性質上、信じられない魔力を必要としたはずだ。それは1人の人間が賄うには、あまりにも多い」

 なるほど。
 消費する魔力が多いから疑問に思ったのか。
 それならば、答えは簡単だ。

「ゲオルニクスが呪い子だからですよ。天の蓋による呪いで……結果的に、膨大な魔力を持つことになったらしいです。えっと、ゲオルニクスの他に一緒に居るノアも、凄い魔力をもっているんですよ」
「呪い子……あぁ、因子持ちを、そう呼ぶのだったな。なるほど、そうなのか。それで……いいのか」

 オレの回答を聞いて、ヒンヒトルテはふと上を見上げて言った。
 因子持ち?
 なんだろうな。ヒンヒトルテは、とても昔に生きていた人で延々と気を失っていたらしいからなぁ。生きていた時代の違いというか、うまく話が噛み合わない。

「いや、つまらない話に付き合わせてしまった。もう夜も遅い……起こしてしまいすまなかった」

 そう言ったヒンヒトルテは、しばらくすると魔法を解除しオレから離れるように歩いていった。
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