召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
632 / 830
第三十章 過去は今に絡まって

おひめさまのべっそう

しおりを挟む
 屋敷から出ると、めざとくオレを見つけたロンロが飛んでくる。

「やっと出てきた。リーダ、すごいのよぉ」
「ロンロ、言っちゃダメ!」

 両手をブンブンと振り回し、ロンロに対しノアが口止めする。
 ノアは凄いものとやらを後少しだけ内緒にしておきたいようだ。
 外に何かあるのか。
 そのまま屋敷から外へとしばらく歩くと、それはあった。

「あっ、リーダ。これ、凄いと思います。思いません?」

 カガミに頷き巨大な建物を見上げる。
 それは建築途中の建物だった。
 オレ達の屋敷より豪華だ。それに、ギリアではあまり見ない作りをしている。黄土色の壁……帝国っぽいな。
 そこではまだ朝方だというのに、沢山の職人が働いている。
 ところが音がしない。魔法で騒音対策をしているようだ。こういう魔法の使い方もあるのだな。魔法が存在する世界というのは、これだから面白い。
 静かだからこそ、帰ってきたばかりの時には気がつかなかったのだろう。
 無音で作業がすすむ風景を、皆で見上げていると、向こうのオレ達に気がついたようで1人の男が近づいてきた。

「これは、これは。戻られたのですね。こちらから挨拶すべきところ、申し訳ありません」

 そして男はノアに跪き言葉を続ける。

「わたくし、フェズルード帝国臣民ハシャルと申します。こちら、帝国皇女ファラハ様の別荘にかかる全権を任されている者です」
「ファラハ様……ですか?」
「はい。こちらが完成し次第、お越しになる予定です。また、改めてご挨拶をさせて頂くことになるでしょう」

 柔やかに軽い挨拶を交わした後、彼は去って行った。
 できるだけ早く作りあげたいようだ。仕事に戻るなり、すぐに指示を飛ばす様子が見て取れた。

「凄かったね」

 確かに、テンション高めのノアに同意だ。
 見ている間にも、壁にスルスルと模様が浮き上がり、庭の木が整えられる様子は圧巻だった。

「あれで別荘とはね」
「ファラハ様って人はどうしてここに別荘を建てるんでしょう? さすがに何の理由もなしに……もしかして温泉?」

 バッと振り向いたカガミが、一点を見つめた。
 何を見ているのかと思ったら、ロープウェイが増設されていた。
 キンダッタに続いて、3つめか。確かに、ロープウェイを考えると立地的に良い場所にあるよな。
 それにしても、どいつもこいつも我が物顔でロープウェイを使う。

「温泉かもね」

 いちいち、こんな所に別荘を建ててまで温泉に入らなくてもいいのに。そう思いカガミに同意する。温泉も、ロープウェイも、混むような状況は避けたいのだ。

「あのね、お姫様ってキラキラしてるんだよ」

 ところがノアは嬉しそうだ。
 お姫様という言葉に憧れでもあるのかな。
 どんな人かは分からないが、そのお姫様といかいう人がノアと仲良くしてくれる人だったらいいな。
 それにしても、出かけて戻ってくる度に家が建っている。
 とは言っても、その後は平和なものだった。
 荷物整理などをしているとあっという間に夕方になった。
 それまで、ピッキー達は働いていて、プレインは新しい魔導具を試していた。
 サムソンは、部屋にこもって研究。
 ちなみにプレインの魔導具は、銀色に輝く機械仕掛けの隼の模型。
 銀色に輝く手っ甲と対になっているそうで、念じたら自由に飛ばせる物だ。
 彼は模型が作る影に潜り込み、高速移動を考えているらしい。
 凄い物をつくったものだ。
 飛んでいる様はラジコン飛行機を彷彿とさせ面白そうだ。
 広間に残ったヒンヒトルテはというと、丸一日ぶっつづけで資料を読みふけっていたようだ。
 それから夕食はカガミがメインで作る事になった。
 手持ち無沙汰になったので、広間で再び資料に目を通す。
 ノアはオレの隣で算数の勉強。ロンロと何やら話ながらウンウンと唸り考え込んでいる。
 本当に何にでも一生懸命だ。

「どうしても、分からない事があったら教えてね」
「うん」
「すまない。一つ頼みがあるのだが……」

 悩むノアに声をかけた丁度その時、ヒンヒトルテが声をあげた。

「何でしょうか?」
「この……遺跡を調査している人達へ、紹介状をしたためてもらえないだろうか?」

 資料を指さしヒンヒトルテが言う。

「それはかまいません。やはり歴史が気になりますか?」

 あの資料には、魔法の事はほとんど書いていなかった。
 あるのは歴史の事ばかりだった。
 読んでいて印象的な事は、世界中に蔓延する奇病はモルススが引き起こしたこと。
 それを問いただすため、代表ウルクフラとモルススの王が会談をしたこと。
 会談は物別れに終わり、戦争が始まったこと。
 そのくらいだ。

「確かに、歴史も気になる……だが、私はこれを調べたい」

 オレの問いにヒンヒトルテが頷き答え、一つの資料をテーブルに置いた。
 中央に人型のイラストが描いてある。ゴーレムかな……。

「エンノルメ計画?」

 題名には、そう書いてあった。3期計画とある。

「あぁ。どうやら私が眠りについた後で立案された計画のようだ。人造神デイアブロイが盗まれた後、それに対応するために立案された計画」
「盗まれた?」
「詳細は、こちらの資料にある。共和国内のクタが迫害を恐れ、デイアブロイの研究を盗み、モルススに投降したそうだ。結果、共和国はデイアブロイに対抗する必要に迫られた。それが、エンノルメ計画。天にも届く巨体を持ったゴーレムを作る計画だ」

 天にも届くって……相当な大きさだよな。
 超巨大ゴーレムか。
 話を聞くだけでもワクワクしてくる。

「おっきなゴーレム」

 顔をあげ、ヒンヒトルテの言葉に反応したノアが呟く。
 そして、驚くノアとオレに、小さく頷きヒンヒトルテが言葉を続ける。

「私はエンノルメ計画を……何があったのか調べたい。彼らは少し、見当違いの場所を調べているように思う。当時の、ティンクスペインホルを私は知っている。協力したいのだ」

 紹介状くらいお安いものだ。
 すぐに紹介状を書くことにした。
 とりあえず、ヒンヒトルテは旅の学者で、彼の研究とテンホイル遺跡に関連がある事という設定にした。
 旅の学者としたのは、彼がヨラン王国で使われる文字を読めないからだ。
 言葉については、ヌネフが他のシルフを紹介してくれることになった。
 ノアの署名付きの紹介状に、言葉もバッチリ。これで大丈夫だろう。
 ダメ押しに、お金も渡す。無いよりあったほうが絶対にいい。

「世話になりっぱなしだ。すまない」

 ヒンヒトルテは深く頭をさげて、紹介状とお金を受け取った。
 彼にはできる限りの協力をしたい。
 オレは、彼の境遇が他人事には思えない。
 気がついたら、途方もない月日が過ぎて居て、自分の事を知る者が居ない状況。
 それが、なんとなくオレ達に被って見える。
 同僚達、そしてノアが居ない状況で、この世界に来たらと思うと、彼の境遇が他人事には思えないのだ。
 そうこうしているうちに、晩ご飯も準備ができていた。

「今日は、グラタンです」
「ほえー。カガミは沢山の料理を作れるだなァ」

 一仕事を終えて、ピッキー達と汗を流してきたゲオルニクスも合流する。
 それから、サムソンにプレイン。それからミズキも加わり晩ご飯だ。

「あのね。カガミお姉ちゃんは、白いお料理が得意なの。それで、リーダは茶色い料理。プレインお兄ちゃんはマヨネーズが得意で、ミズキお姉ちゃんは、おつまみを沢山つくるんだよ」

 食べたことが無い料理がいっぱいあると、大喜びのゲオルニクスに、ノアが楽しげに説明する。
 オレの作る料理は茶色か。カレーに、煮物、キノコ料理……確かに茶色が多いかも。

「そうだ! 温泉に入りましょう」

 食事中にあったカガミの提案により、食後は温泉に行く。

「さっき、身体を洗っただ。もういいだよ」

 そういうゲオルニクスも一緒にだ。
 途中、ロープウェイの設備が立派なものになっている事に気がついた。
 ロープは金属製になっていて、それを支える柱は装飾が施されたものになっていた。

「どいつもこいつも、好き勝手にしやがって」
「まぁまぁ、立派になったからいいじゃん」

 それをやったのは帝国の人らしい。
 出迎えてくれたバルカンの親戚が教えてくれた。
 温泉は変わりが無かった。
 久しぶりに入る温泉は気持ちがよかった。
 景色も凄くいい。
 しばらく温泉を楽しみ、それから屋敷にもどってまったりと過ごす。
 ノアは、とてもはしゃいでいた。
 そうして何事もなく、平穏無事に一日が終わる。
 一足先に広間で眠ってしまったノアをベッドに運び「お休み」と扉を閉める。
 やっぱり屋敷は落ち着くな。
 広々として静かな屋敷の廊下を歩きつつ、そう思った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚
ファンタジー
調理師・宇堂優也。 彼は、交通事故に巻き込まれて異世界へと旅立った。 彼が異世界に向かった理由、それは『運命の女神の干渉外で起きた事故』に巻き込まれたから。 神々でも判らない事故に巻き込まれ、死亡したという事で、優也は『異世界で第二の人生』を送ることが許された。 そして、仕事にまつわるいくつかのチート能力を得た優也は、異世界でも天職である料理に身をやつすことになるのだが。 始めてみる食材、初めて味わう異世界の味。 そこは、優也にとっては、まさに天国ともいえる世界であった。 そして様々な食材や人々と出会い、この異世界でのライフスタイルを謳歌し始めるのであった。 ※【隠れ居酒屋・越境庵】は隔週更新です。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...